24 夢の仲良し騎士団
私は騎士団の皆様に夢の中での戦い方をレクチャーした後、眠りにつくために巨木の下に寝そべりました。
泣き顔のリフルお姉様と、避難のために宮廷に来た両親と、王子様が心配すぎて狼狽するクリフさんとサラさんと……現実世界で待機する、大切な方々におやすみのご挨拶をして。
王の間にいらしたはずのエヴァン王太子殿下までが私のもとにいらして、戦いのアドバイスをくださいました。そして「アンディを頼みます」と。エヴァン王太子殿下は物理の襲撃に備えて必須の戦力のため、悪魔退治に参加できないもどかしさを滲ませていました。待つ者の苦しさはよくわかります。私は「夢使いにお任せください!」と大袈裟に胸を叩きました。
夜の芝生はひんやりとしていますが、気持ちがいいです。
空には大きなお月様。隣には大好きな王子様。さらに周りには、沢山の頼もしい「夢の仲良し騎士」たちが。私は不思議なほどに冷静でした。
右には王子様がいらっしゃいますが、左にはパジャマ姿のオリビア様がいらっしゃいます。爛々とした薔薇色の瞳で、私を見つめています。
「はあ、ワクワクするな。ルナと一緒に夢で暴れるなんて」
オリビア様の発言に、王子様は無愛想に突っ込みました。
「緊急事態に不謹慎だぞ。どこまで頭がゴリラなんだ」
「はあ? 私はゴリラではないぞ」
私を挟んで喧嘩はやめてほしいです。
そもそも、私の隣に誰が寝るべきかは、だいぶ揉めたのです。クロードさんが「兄として自分が」と名乗り出たので王子様がお怒りになって、「ここは私が!」と女性のオリビア様に決まったのですが、王子様は誰が隣になっても不機嫌そうです。
私は全員が巨木の下に寝転んだのを確認して、合図を送りました。
「それでは皆さん、出発です。3、2、1……」
「ふごっ……」
こんな時でも寝入りが早いのは、私の特技でございます。
夢の中は広々とした平地です。見渡す限りの芝生と、青い空。
私は芝生に降り立つと、後ろを振り返りました。
王子様、オリビア様、ノアさんにクロードさん、ギディオン騎士団長とハンター一家。総勢八名の騎士団です。全員が騎士の装備を装着していますが、それぞれ手に持っているのは剣ではなく、バカでかハンマーです。
「げえ、なにこのダサい武器。バカみたい」
悪口は案の定、ノアさんです。
クロードさんは得意げに鼻で笑いました。
「ふっ、俺はハンマーでも完璧に戦う。お兄様だからな」
意味不明な自信に、全員が対抗意識を燃やしています。
「俺の方が強い」「俺はハンマー使ったことあるし」「私に敵うものか」
ハンター家の皆さんは似た者同士でしょうか。
私は一人、リフルお姉様を真似て、清らかな聖女の格好をしています。この服が一番、気分が乗るからです。バカでかハンマーを抱えて、改めて皆さんに説明しました。
「いいですね? 悪魔は徹底的に叩き潰すのです。潰れて焦げ跡のようになるまで、容赦はしないでください。私の枕元に置いた紙の巻物に、すべての悪魔を封印するよう私が導きますから」
私が夢使いの聖女として既に ”整っている” ので、全員が無駄口をやめました。
私はアンディ王子殿下を向きました。
「そして王子様。あなたは私と一緒に、夢使いのキアラさんを殺します」
王子様だけが、剣を持っています。キアラさんを斬るための剣です。
「俺はあいつにぶっ殺すと宣言したからな。必ず殺す」
嫉妬と憎しみと、愛する家族への想いと。すべてが混ざり、王子様のバイオレットの瞳を色濃く光らせていました。近寄れば斬られる、そんな殺気に、全員が息を飲みました。
いいですね。私のイメージ通りです。士気の高い騎士団と、殺意が漲る王子様。そして、エヴァン王太子殿下から伝授された戦術があれば、後は私の夢使いの精神力でまとめてみせましょう。
「ルナ」
王子様ではない、澄んだお声が後ろから聞こえて、私は振り返りました。
思った通り、離れた場所にキアラさんが立っていました。
漆黒の瞳を哀しそうに澱ませています。
「そんなに沢山の怖い人たちを連れて、どうしたんだい」
「キアラさんこそ……ずいぶんと沢山の人を連れているではないですか」
私の指摘通り、キアラさんの後ろには霞がかかるほど大勢の人間が、まるで夢遊病者のように立っています。誰もが肩や頭に、小さな悪魔を乗せて。
その光景にギディオン騎士団長が呻きました。
「人質のグレンナイト王国の民たちを駒として使うつもりか……!」
あまりに卑怯で残酷なキアラさんの戦い方に、夢の騎士団は悔しさで歯軋りしました。
当たり前です。自分たちの同胞ごと悪魔を潰すなんて、どんなに勇敢な人でもできませんから。
私は冷静な顔のまま、隣に立つ王子様に指示を下しました。
「端から端まで。一直線に斬ってください」
冷酷な指示に、騎士団の全員がハッと私に注目しました。
王子様は躊躇なく剣を構えると、視界に入る国民の群衆の端から端まで、一直線に剣を振ったのでした。それは見事な、鍛え抜かれた一振りでした。




