表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/91

13 激動のボッチ飯

 授業開始の本鈴が鳴るタイミングで。

 私は慌てて教室に入って、席に着きました。……が。


「あら?」


 いつも教壇の前の席に座っているはずのコリンナさんの姿がありません。コリンナさんが遅刻なんてするはずがないので、今日はお休みでしょうか? 昨日の芝生のお昼寝で、風邪などひいていなければ良いのですが……。


 と、いうことは。

 今日のお昼にコリンナさんと夢を共有するはずが、予定が空いてしまいました。

 キアラさんと夢でお会いする約束をしているのは明日のお昼ですが、もしかしたら、またあの時間に昼寝をすれば、偶然にお会いするかもしれませんね……。


 などとぼんやり考えて、私は我に返って頭を振りました。

 いやいやいや、これではまるで、キアラさんとの再会が待ち切れないみたいではないですか!


「ち、違いますよ〜」


 思わず小さな独り言を放ってしまって、お隣の席の令嬢がこちらをチラ見しました。

 いけません。自分の考えに没頭すると、独り言が出てしまうのは私の悪い癖です。

 私は黒板をノートに写すふりをして、箇条書きでキアラさんに質問したいことをまとめてみました。

 キアラさんがお住まいの森には、本当に珍獣がいるのか、とか。キアラさんが今まで見た一番面白い夢はどんな夢か、など。

 キアラさんは岐路から他人の夢にお邪魔できるのですから、きっと奇想天外な他人の夢を目撃したこともあるでしょう。


「ぐふふふ……」


 いけません。隣の令嬢どころか、教壇の先生まで不審な顔で私を見ています。

 私は咳払いをして、ひとまずキアラさんへの質問事項を教科書の下に隠しました。



 お昼時間になって。

 私はいそいそと、お昼ご飯を抱えて裏庭に向かいました。

 今日はコリンナさんがお休みなので、私は久しぶりのボッチ飯の後にお昼寝にいそしもうと、浮き足立っていました。

 今朝方、ノアさんから王子様とオリビア様が婚約者同士ではなかったと聞いて、私は安心して気を抜いていたのでしょう。ふわふわと浮かれている最中に、渦中の麗人と出会ってしまうとは、思いもよらなかったのです。


 千鳥足で歩いていた私は突然、ドオン! と、誰かにぶつかりました。

 反動で仰向けで倒れそうな私を、お相手の方が咄嗟に支えてくださいました。


「危ない! お嬢さん、お怪我はない!?」


 あまりに凛とした素敵なお声に私は驚いて、お顔を見上げました。

 女生徒の制服ですが、まるで男性のように背が高いです。見事なマリーゴールドの髪に薔薇色の瞳で……うわっ、オリビア様です!!


「うっ、はっ、うわーーっ!?」


 オリビア様に両肩を支えられたまま、私は魚のように大きく仰け反って、大声を上げました。するとオリビア様は驚いて目を見開いた後、「あははは!」と楽しげに笑いました。

 パニックで絶句する私の顔を、マジマジと見つめてらっしゃいます。


「ふふふ。可愛いお嬢さんだな。あなたがルナ・マーリン伯爵令嬢。そうだろう?」

「はっ? は、ははは、はい!」

「失礼。私はオリビア・アーシェ侯爵令嬢だ。あなたにお会いできて嬉しいよ」


 なぜ、オリビア様が私の名前をご存知なのでしょうか? もしかして、アンディ王子殿下から、私が婚約者であると伺っているのでしょうか? だとしたら、こんなチビで挙動不審な人物が……と驚いてらっしゃるかもしれません。

 頭の中が猛烈な勢いで回転して、ノアさんに言われた「堂々としてよ」という激励はどこかへぶっ飛びました。完全に「あわあわ」状態の私をオリビア様は飽きずに見つめてましたが、オリビア様を囲んでいる女生徒たちは痺れを切らせて、駄々をこねました。


「オリビア様ぁ! 早くテラスへ参りましょうよ。私がご案内すると約束しましたわ」

「あら、私が先に約束しましたのよ! ねえ、オリビア様!」


 まるで女子同士の取り合いになって、オリビア様は私を離して取り巻きたちの肩を抱きました。


「ほら、喧嘩しないで。仲良く一緒に行こう」


 イケメン顔負けのイケメンぶりで、女生徒たちはポワ〜ンと夢心地なお顔になっています。


「それじゃあ、かわい子ちゃん。また後で」


 オリビア様はウィンクすると、大量の女生徒を連れて行ってしまいました。

 え? かわい子ちゃんて、私のことですか?

 そんな呼ばれ方を、あんな素敵なお声で言われたのは初めてのことで、心臓がバックンバックンと跳ねています。いったいどんなお考えで、どんな意味なのかもわからず、私は震える脚を無理やり走らせて、誰もいない裏庭に逃げ込んだのでした。



「はあ、はあ……ここまで来れば、誰もおりますまい……」


 意味なく気勢を張った独り言を呟くと、私は芝生に腰を降ろして、昼食の入った袋を開けました。


「……」


 ダッシュしたせいでしょうか。それとも、オリビア様との出会いが衝撃的すぎたのでしょうか。私の鼓動は収まらず、とても食事が喉に通りません。

 私はやおら昼食の袋を閉じて横に置くと、自然とそのまま仰向けになり、汗だくのまま目を瞑ったのでした。


 あまりにパニックになると、思考をやめて睡眠に逃げる……。

 これも私の悪い癖の一つです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ