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【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第四章

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10 正座で反省して

 私は怒っています。

 腕組みをして仁王立ちで見下ろす先には、キアラさんが肩を落として正座しています。

 美貌の男性がこのような反省のポーズをしているのを初めて見るので、つい変な気持ちになってしまいそうですが……私は自分を律して怒りました。

 一度ならずも二度も人の夢に侵入し、勝手に共有まで遮断するだなんて、いくらなんでもマナー違反です!


「ルナ。ごめんね……。ルナと会えるのが嬉しくて、ついはしゃいじゃったんだ」


 浜辺に散らばる遺体を背景に、まるで無邪気な殺戮者のようなセリフですが、涙目のキアラさんは打ちひしがれていて、やはり私の怒りはほだされてしまいます。


「オホン、反省してくださればいいんです。もうこのような勝手なことはしないでくださいね?」

「うん……もうしないよ。これからはルナの夢を見つけても……我慢する……グスン」


 うっ、なんて悲壮感でしょうか。まるで子犬を虐めているようで、やるせない気持ちです。

 キアラさんは私と会うだけでなく、色がついた夢の中で珍しい景色を見たいのですよね。お気持ちはよくわかります。


「その、たまにだったらいいんですけどね。私もキアラさんとお話がしたいですし……」


 つい、甘いお声をかけてしまいました。キアラさんはパアッと笑顔を輝かせて、こちらを見上げました。


「本当に!? 僕とまた会ってくれるの!?」

「うっ、は、ええ……」


 とは言っても、夜の夢はもちろん王子様との大切な時間ですし、昼はコリンナさんとの冒険の時間ですし、いつキアラさんと夢を見るのか考えてしまいます。それに王子様に内緒でこのような逢引きをするのはやっぱり、いけないことのような……。

 迷って困惑する私に、キアラさんは明るく提案しました。


「じゃあ、時間を決めて、その時だけ会うのはどうかな! 夢使い同士、もっと夢の話をしようよ!」

「そ、そうですねぇ……」

「僕、妖精だけじゃなくて、森の珍獣伝説も知ってるよ」


 うぐっ、私の好奇心を刺激してきます。キアラさんは無垢なんだか策士なんだか、わからないですね。

 改めて血塗れの浜辺を見回すと、キアラさんの夢使いとしての力も相当なものです。もっと夢の話がしたい、という願望は私の方こそ膨らんでいます。


「それでは、明後日のお昼はどうですか?」

「え~、明後日までルナに会えないの!?」


 私の提案にキアラさんは不服そうですが、私は心を鬼にしました。


「だ、だめですよ! 今日はコリンナさんとの夢をキアラさんが邪魔してしまったんですから、明日のお昼はコリンナさんの時間です!」


 しゅん、とするキアラさんの後ろから、キーンコーン、と鐘の音が鳴りました。


「あっ! 授業が始まる予鈴の音です! 私は起きて教室に戻らなきゃですから、ここでさよならですよ!」

「うん……わかった。明後日、絶対だよ? 約束だよ?」


 キアラさんが小指を差し出したので、私たちは指切りをしました。

 ザザーン、と穏やかな波音が、二人の約束を見守っています。



「っは!」


 私は芝生の上の昼寝から飛び起きました。

 慌てて隣を見下ろすと、コリンナさんが「ふご~」と気持ち良さそうに熟睡しています。

 キアラさんに夢の共有を遮断されて、普通に寝てしまったようです。


「コリンナさん、コリンナさん! 起きてください、授業が始まります!」

「ふへっ……?」

「すみません、夢の共有に失敗してしまいました! 急いで教室に戻りましょう!」


 私は寝ぼけ眼のコリンナさんを半ば引きずって、校舎に戻ったのでした。


 ♢♢♢


 放課後になって。


 コリンナさんとは明日、改めて冒険しましょうと約束しました。

 が、私の頭の中では、キアラさんの可哀想なベソ顔がずっと巡っています。キアラさんへの罪悪感。そして、王子様への罪悪感……。

 キアラさんと夢で会うたびに王子様への秘密が重なっていくようで、気持ちがもやもやします。もちろん、断じて浮気ではありませんが、あのような美貌の男性とこっそり会っているなんて……。

 かと言って、キアラさんに「二度と会わない」なんて言えません。それは同じ夢使いとしてあまりに冷たいし、きっとキアラさんはショックで泣いてしまうでしょう。


 私はふらふらと立ち上がると、放課後も練習に励んでいるであろう王子様をひと目見ようと、剣術部へ向かいました。いつもは怖くて一人で行くなんてできませんが、今日はコリンナさんが学級委員会に出ているので、ぼっちでチャレンジするしかありません。


「ほんのちょっと、遠くから見るだけでいいので……」


 私はまるで中毒者のような乾いた顔で、剣術部の練習場に近づきました。

 相変わらず、女生徒たちの黄色い声で盛り上がっています。そこだけピンクのオーラのようです。でも、なんだかいつもよりも激しいというか、悲鳴のような絶叫が上がっています。


「キャーッ! オリビア様っ!」

「オリビア様! 素敵ーっ!!」


 オリビア様? 初めて聞いたお名前です。

 三強騎士様ではない、人気のお方が他にもいらっしゃるのでしょうか。

 私は女子の集団の後ろから、必死で隙間を覗きました。


「あっ!?」


 するとそこには、予想外の光景があったのです。


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