6 王子様のしゃぼん玉
街ぶらりデートから宮廷に帰ってからは、クリフさんを始め皆さん大騒ぎになりました。
ノアさんとクロードさんの報告を聞いて、アンディ王子殿下の盾の力の開花にお祝いムードとなったのです。お父様であらせられる王様は特にお喜びで、目元がきらりと涙で光ったのを私はそっと目撃しました。なんて幸せな涙でしょうか。
王子様が王族の皆様の引っ張り凧になっているうちに、私はお風呂に入って先に寝室で王子様をお待ちすることにしました。
「お帰りなさいませ! 王子様!」
王子様が寝室に参りました! 皆様から祝福を受けて、お疲れのご様子です。
「ルナ。起きてたのか。待たせてしまったな」
キングサイズベッドの上に露店みたいに本を並べている私を、王子様は見下ろしました。
「だって、ワクワクして眠れませんよ! こんなに本がいっぱいあるし、宮廷はお祭り騒ぎだし!」
「チビッ子は眠る時間だ」
王子様は本をザバーッ、と端に避けました。ああ、イケズでございます!
「はあ」と溜息を吐く王子様のお顔を、私は覗き込みました。なんだか疲れているというより、落ち込んでいるようです。
「王子様? こんなめでたい日に、何を落ち込んでいるんです?」
「エヴァンが……盾が出たなら剣も出るはずと言って、一緒に宮廷の庭に出て試したんだ。でも剣は出なかった」
「あらら。でも、盾が出たばかりですよ? そんなに焦らなくても」
王子様は言いにくそうに首を振りました。
「それが……盾も出なかったんだ。あれは咄嗟のまぐれだったのかな?」
「そ、そんなまさか! 今一度、やってみてくださいよ!」
「今ここで?」
私が強く頷くと、王子様は珍しく戸惑っています。ええい、まどろっこしいです!
「きゃあ! 蜘蛛が!」
「え!?」
私が下手な芝居で王子様に飛びつくと、王子様はしっかりと私を抱き締めてくださり……。
フォン! と。二人の周りに透明の壁ができました!
「あっ! 盾が出ました! やっぱりまぐれじゃないです!」
「ルナ、蜘蛛だなんて嘘を吐いたのか。確かに盾が構築されている」
王子様は内側から、そっと盾に触れました。
「もしかして、ルナがいないと発動しないのかな? エヴァンにもそう指摘された」
ひゃあ、そんな萌えちゃう設定あります!? 私は己の興奮を隠して否定しました。
「ま、まさか~。練習すれば自在に操れるようになりますって! しゃぼん玉みたいに……」
「しゃぼん玉?」
あ、口が滑りました!
「えっと、透明でまん丸で、虹色に光ってるので……王子様の盾はしゃぼん玉みたいだなって」
王子様は「ぷっ」と笑いました。
「ルナの目を通すとすべてが夢のようだな」
「はい。二人だけの夢の世界です」
私たちは盾のドームの中で見つめ合いました。外の世界と隔絶されたこの空間はとても静かで、互いの鼓動が聞こえそうなほどに親密です。髪に、頬に優しく触れる王子様の指を感じながら、私は自然と目を閉じました。王子様がくださる口づけは甘くて温かくて。身も心も蕩けてしまいます。
「……好き」
少し長いキスの後。思わず溢れた私の言葉に王子様は赤面して、潤んだバイオレットの瞳を乙女のように輝かせました。はうう、なんて可愛さでしょうか!
アンディ王子殿下の尊い素顔を知るのは、添い寝係の私だけ……。
今夜も王子様とご一緒に、甘い甘い夢を見るのです。
第三章 おわり




