1 騎士様は人気者
第三章のはじまりです!
グレンナイト王立学園は、部活動が盛んでございます!
王国は騎士の育成に力を入れているので、アンディ王子殿下が所属されている剣術部は学園で一番大きな部です。他にも乗馬、ダンス、吹奏楽に絵画と、貴族の令息令嬢が嗜む様々な部がありますが、私。ルナはというと、安定の帰宅部でございます!
しかし本日は、帰宅部のくせに剣術部に向かっています。
何故なら今朝方、王子様が「授業が終わったら剣術部で待ち合わせしよう」とおっしゃったのです。
「はあ~、気が重いです」
私の呟きに、並んで歩くクラスメイトのコリンナさんは不思議そうなお顔です。
「どうしてでしょう……剣術部は人気の部ですのに」
一人で行く勇気がないので、コリンナさんに付いて来てもらいました。
私は立ち止まって、遠くに見える人垣を指しました。
剣術部に群がっているのは、キャアキャアと黄色い声で沸き立つ、女生徒の集団です!
「だっていつもすごい人だかりで、近づくのも怖いじゃないですか」
怯える私の背中を、コリンナさんはそっと押しました。
「ルナさんはアンディ王子殿下の婚約者なのですから、堂々となさったら良いかと……」
「コ、コリンナさん! それは学園を卒業するまで内緒にしてください!」
私は慌ててコリンナさんのお口を塞ぎました。
「ふぉうひれ?」
「どうしてって、学園内でこれ以上目立ちたくないからですよ。王子様にも内密にとお願いしてるんです」
私は先日の舞踏会で目立った行動をしてしまいましたが、「王子様の婚約者に正式に選ばれた」という事実は学園内で有耶無耶のままです。そんなケッタイな真実なぞ、誰も信じたくないのでしょう。学園の女生徒たちは相変わらず王子様にお熱を上げています。
「なるほど……自慢もせずにお隠れになるとは、ルナさんは謙虚でらっしゃる」
「いやいや、臆病なんですよ」
そうこう喋っているうちに、剣術部に着いてしまいました。
柵の向こうでは騎士を目指す男子たちが剣を奮って訓練しており、その柵に齧りつく女子たちは各々の想いを叫んでいます。
「王子様ぁー!」
「アンディ様、こっち向いて!」
圧倒的に王子様の名前が上がっていますが、他にも人気の部員がいるようです。
「クロード様~、格好いい!」
「ノアくーん!」
私は一生懸命背伸びをしましたが、女子の壁で全然見えません。でも私より背の高いコリンナさんは柵の向こうが見えるようで、らしからぬ黄色い声を上げました。
「きゃあっ! 麗しの三強騎士様!」
「へ?」
コリンナさんは興奮したお顔で私を振り返りました。
「三強騎士様がお揃いです! 眼福、眼福でございます……!」
「コ、コリンナさん? サンキョー騎士って何です?」
コリンナさんは目を丸くしました。
「え、ルナさんはご存知ないのですか? 剣術部のトップの実力であられる三人の騎士見習いの渾名で、学園の人気者ではないですか」
ああ、確かにそんな三人組がいましたね。アンディ王子殿下と他二人……。美形で剣術の腕も立つと女子の注目を集めているとか。
だけど以前の私は王子様をお見かけするだけで眩しくて、さらに美形が三人揃うと目が潰れるのではないかと思って、今まで無意識に目を逸らしていたのです。それぞれを囲む女子の取り巻き軍団も怖いですし。
「あ、練習が終わってしまいました……」
残念そうなコリンナさんの袖を、私はそっと引っ張りました。
「あの、裏口に行きましょう。あちらの暗い方に」
私は早くこの場から逃れたくて、日陰を探しました。ここにいたら王子様が「ルナ!」とお声を掛けてくださるかもしれません。そうなったら私はファンの方々から槍玉に上がってしまいます! お、恐ろしい!
コソコソと。泥棒令嬢のように。
私とコリンナさんは校庭の端を通って、剣術部の部室がある建物の裏側に回りました。
こんな時、一緒に陰に溶け込んでくれるコリンナさんは心強い味方です。
コリンナさんは隠密のように、小声で教えてくださいました。
「三強騎士様はアンディ王子殿下と、次期騎士団長を期待される部長のクロード・ハンターさん。それから二年生にして異例の強さで副部長に就任したノア・フリッツさん。どちらも公爵家のご令息です」
「へ~、コリンナさんは情報通ですねえ」
「いえ……この学園でご存じないのはルナさんだけかと……」
私とコリンナさんは藪を通って葉っぱだらけになりながら、剣術部の裏口のドアにたどり着きました。王子様が施錠を開けておくとおっしゃってましたから、入れるはずです。
とは言え、男子だらけの園……ノックするのも緊張してしまいます!
と、モジモジしているうちに、ドアは向こうから開いたのでした。
第三章もお楽しみいただけたら嬉しいです。
2月10日の書籍発売まで毎日更新予定です!




