【閑話】輪っかの夢(後編)
「こ、これは俺の失敗で……ああ、もう……」
王子様はさらに赤くなって、涙目で白状なさいました。
「あの輪っかは、俺の心の中で隠してたもので……緊張のせいで現れてしまったんだ」
え? 王子様が隠していた輪っか? それが現れちゃったって?
私はますます意味がわかりませんでした。
ポカンとしている私の足元に王子様は跪いて、何やら小さな箱を貝殻のように開けました。その中にはキラキラと……金の輪っかが入っていたのです!
「ゆ、ゆゆゆ、指輪!?」
ゆ、ゆゆゆ、指輪でございます! あまりの驚きで脳がオウム返ししています!
こ、これってもしかして、婚約指輪!?
王子様は赤面していたお顔をキリッと引きしめて、私の顔を真っ直ぐ見上げました。
はあ、なんて精悍なお顔!
「ルナ。俺は夢でも現実でも、ルナの側にいたい。俺を婚約者にしてくれる?」
え!? まるで私の許可を求めるような告白です!
あまりに畏れ多すぎて、私は慌てて首を高速で横に振り、さらに縦に振りまくりました。
「あははっ、イエスかノーかどっちだよ」
私のおかしな反応に王子様は笑っています。
「イ、イエスでございます!」
オウムみたいな素っ頓狂な声を出してしまいました。
王子様は小さく肩を揺らしながら、それでも真面目なお顔で、私のちんまい指に指輪を嵌めてくださったのでした。
「ほわあ~……」
惚け顔で星空に指輪を翳すと、金の輪っかだと思っていた指輪には、小さな宝石が着いていました。バイオレット色の美しいサファイアと、小さなアクアマリンのメレ。王子様と私の瞳の色と同じです! ひょっとしてこれって、王子様と私? アクアマリンは二粒あります。
「一つは現実のルナ。もう一つは夢の中のルナだよ」
王子様の説明に、二人の私に挟まれた王子様を想像してにやけました。宝石も添い寝をしています!
私が指輪に没頭するうちに、王子様はいつの間にか私の肩を抱いて、そっと頬に触れて。
あっ、これは、これはもしかして、キ、キ、キッス……?
私は目前の色っぽい王子様のお顔に釘づけとなって、心臓がバクバクと暴走しました。
え? こういう時、目ってどうするんでしたっけ? 瞑るんでしたっけ?
まったく心の準備ができていなかった私は、ガン開きの眼のまま。王子様は私が目を瞑るのを待っていたようですが……。
唐突に足元が、テディベアが、うさぎたちがグラグラと。雲の舞台が揺れだしました。
「え? 雲が崩壊していく!?」
王子様が驚いて周囲を見回したので、私はギュッと目を瞑って叫びました。
「リ、リビドーの上昇です! リビドーの極度な上昇は夢から覚醒する原因なので!!」
リビドーとはつまり、性的欲求でして……その、エッチな気分になると、私は夢から醒めてしまうのです。
「……」
私と王子様はベッドの中で、向き合ったまま目を覚ましました。
いいところで私の邪念が暴発したため、夢は強制終了したのです。
真っ赤な顔で目を見開いている私に、王子様はそっと近づくと、私が目を瞑るのを待たずにそっと、優しく小さなキスをしました。なんて軽やかで、爽やかな触れ合いでしょうか。まるで小鳥同士の挨拶のように。
「おはよう」
王子様のご挨拶に私はお返事ができないまま、慌てて頭を縦に振ったのでした。
その後、王子様は枕の下に隠してあった本物の宝石箱を取り出して、夢の中と同じ金の指輪を私に嵌めてくださいました。バイオレット色の王子様と、アクアマリン色の私が二人並んでいます。
王子様は同じ宝石を使ったお揃いの指輪も取り出して、首から繊細なチェーンに通してご自分の胸に光らせていました。
「俺は剣を扱うから指輪を嵌められないけど、ルナの瞳の色をお守りにしたくて、作ってもらったんだ」
ロマンチックなことを呟きながら大切そうに胸に手を当てる王子様を見て、私も真似をしてネックレスとして指輪を着けることにしました! これなら手を洗う時になくす心配もないし、学園で不用意に見せびらかしてしまうこともありません! 服の中の誰も知らない場所に、王子様との秘密の絆があるのです……。根暗な発想かもしれませんが、私はそういう設定に萌えてしまいました。
それにしても、夢の中で指輪を渡して告白しようと画策していた王子様は、緊張のあまり意識の中の隠しごとを晒してしまったのですね。いつも不良みたいに女性慣れして見える王子様の、意外なピュアさに悶えます。なんて可愛さでしょうか!
私は怪訝なお顔の王子様の前で、含み笑いが止まらないのでした。
閑話『輪っかの夢』 おわり
第二章はこれで完結となります。ありがとうございました!
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