表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/91

19 我が王国は平和です

 グレンナイト王立学園の登校日。

 平和な王国の空は、どこまでも晴れ渡っています。


 私はいつものように。本を抱えてふわふわと、廊下を歩きます。

 しかし、周囲はいつもと違った日々が続いているのです。


 ざわざわ、ひそひそ。


 以前は嘲笑のような噂ばかりでしたが、私を見て噂をする令嬢たちは、前と違って目がマジになっているのです。

 ええ。原因は例の”ドレス脱ぎ散らかして添い寝聖女事件”、ですよね。

 舞踏会のあの一件から、私はいろんな意味で学園の注目の的となってしまいました。王子様の取り巻き軍団は相変わらず王子様を囲っていますが、私が通ると珍獣を見るような眼差しで避けるのです。


 そんな中、後ろから幽霊のようなお声が掛かりました。


「ルナさん……ルナ・マーリンさん」

「あっ! コリンナさん!?」


 コリンナさんはキチンとした制服姿で、笑顔で立っておられました。あの包帯グルグルだったお顔は、綺麗に治っています。


「コリンナさん、もう学園に来て大丈夫なんですね」

「はい! リフル様のおかげで、すっかり回復しました。その節はありがとうございました……」


 丁寧にお辞儀をしたコリンナさんは頭を上げて、私に近づくと小さな輪になって小声でお話されました。


「それから王子様とのご婚約……おめでとうございます」

「えっ!? こ、婚約? まだ、してないですよ!?」

「父に聞いてもハッキリと教えてくださいませんが……とっくに学園の噂ですし」

「い、いやいや、噂って、私の奇行が話題になってるだけのような」


 コリンナさんは首を振りました。


「あんな勇敢なお姿を見たら、誰もが納得の結果ですよ……私は夢使いなる力を目の当たりにして、感動しました」


 コリンナさんにお褒め頂き、私は照れて周囲を見回しました。

 そこには噂をする令嬢たちの困惑のお顔、睨むお顔、凝視するお顔……。


「な、納得はされてないと思いますが」

「皆さん、情報が多すぎて現実を飲み込めないのですよ……何しろルナさんにあんな力があるだなんて、誰も知らなかったのですから」


 コリンナさんは珍しく明るい笑顔で、舞い上がっているようでした。


「そういえば、例のリーリア令嬢も退院されたようで……あっ」


 コリンナさんは途端に怯えたような顔をして、後退しました。

 私が後ろを振り返ると、美少女のオーラを放ちながら、リーリア令嬢がこちらに歩いて来たのです。いやはや。結局、薬なんて飲まなくても、元から充分に美少女なんですよね。


 リーリア令嬢も私の存在に気付いて、ムッとされました。


「廊下の真ん中で邪魔ですわ」

「あ、す、すいません!」

「ふん」


 いちゃもんだけ付けて去っていくリーリア令嬢に、コリンナさんは目を剥きました。


「助けてもらったのに、あの態度……」

「い、いえ、実はリーリアさんからは直接お礼を頂いたのですよ」


 それは本当でした。お花とお菓子と、いい匂いのするお礼のお手紙が、私の元に届いたのでした。流石の令嬢らしき心配りです。


 そこには美しい筆跡で、助けてもらったお礼と、無礼を働いた謝罪と、それから意識の中で見た物はどうか誰にも言わないで欲しい、という懇願が書いてあったのです。


 だから私はお返事を書きました。

「夢使いの聖女の、守秘義務ですから」と。


 そうしたらまた手紙が来て、今後は薬をやめて野菜を食べようと思う、とあったので、またお返事をして……。


 コリンナさんは目を丸くしました。


「えっ!? じゃあ……ルナさんはリーリア令嬢と文通してらっしゃるの?」

「文通……確かに。リーリアさんて、見た目と違ってお強くて、面白い方なんですよ」


 コリンナさんは「ほえ~」と息を吐いて感心しました。


「ルナさんは変わってらっしゃる……さすが王子様の婚約者に選ばれるだけあって、お心が広いのですね」

「い、いやいや! ちんまいですよ、私なんて、アタッ!」


 謙遜する私の頭の上に、突然ゴツゴツとした物が置かれました。


「王子様!?」


 振り返ると、アンディ王子殿下がクッキーが沢山入った袋を、私の頭に乗せていました。


「シェフが新作のクッキーを作ったから、味見してくれってさ」

「お、おおっ!」


 王子様は硬直しているコリンナさんに笑顔を向けました。


「ご学友とご一緒にどうぞ」


 去っていくスマートな後ろ姿に、コリンナさんも私も「はわわ」と見惚れました。何度見ても、王子様の格好良さには慣れないのです。



 ♢♢♢



 それから数日後。


 私は王子様と一緒に馬車に乗って、我が家であるマーリン伯爵邸に向かいました。

 正面に座るクリフさんは、大量の書類のチェックをしています。その隣にはバカでかい箱があって、中にはリフルお姉さまにプレゼントする巨大なケーキが入っています。


「はああ。私、緊張してきました」

「ルナの家なのに?」

「だ、だって、父も母も驚きすぎて卒倒するんじゃないかって。そ、その、こ、婚約とか……」


 ゴニョゴニョする私に、スーツをお召しの素敵な王子様は、ネクタイをキリッと締め直しました。


「緊張するのは俺だよ。リフルお姉さまにぶん殴られるかもしれないからな」

「あははっ、じゃあ先制でケーキを渡しましょう!」


 お喋りしているうちに、私も楽しい気分になってきました。


 やがて馬車の窓から、我が家が見えてきます。

 赤い屋根の。緑のお庭の。

 明るい芝生には、父と母とリフルお姉さまがいらして、こちらに向かって手を振っていたので、私は嬉しくなって馬車から身を乗り出して、大きく手を振りました。


「危ない、落ちちゃうぞ」


 私の腰を慌てて抱き留める王子様を振り返って、私は満面の笑みでお伝えしました。


「ふへへ。幸せって、こういうことなんですね!」


 王子様の笑顔と。

 大好きな家族と。

 懐かしい我が家と。

 今まで別々だった大切なものが、全部繋がったような今日。

 私は溢れるほどに、大きな幸せを感じたのでした。



 第二章 おわり

最後までお読みくださりありがとうございました!

★★★★★印の評価ボタンや「ブックマークに追加」を押して頂けたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ