16 リーリア令嬢のお部屋
王子様が叫ぶのも無理はありません。私も驚きで蛙みたいな声が出ましたし、正直、恐怖よりも興奮が勝りました。
リーリア令嬢の意識の核のお部屋は、キャンディカラーなピンク色の、可愛らしい空間でした。
所狭しとリボンやぬいぐるみ、可愛いクッションやカーテンに囲まれて。中央には真っ白なファーでできたキングサイズのベッドもあって、リーリア令嬢はその上で優雅に寛いでいたのです。
が、しかし異様なのは、リーリア令嬢を囲む者たちです。
執事のようなスーツを着たり、学園の制服だったり、第二王子様の正装であったり。5人はいるでしょうか。アンディ王子殿下のハーレムです!
「お、俺が沢山いる!?」
「ふ、ふおお! 眼福!!」
どの王子様も色っぽく、こちらを睨んでいます。手にはフルーツやシャンパングラスを持って、リーリア令嬢のお世話をしている様子。
リーリア令嬢は気怠そうにこちらに目をやると、舌打ちをしました。
「何よ、人の部屋に無断で入って! しかもチンチクリンじゃないの!」
「チ、チンチクリン?」
はて。もしや私のことでしょうか。私と王子様が唖然とする姿に、リーリア令嬢はますます苛立ちました。
「そうよ。さっきはよくも嫌な物を見せてくれたわね! 王子様のファーストダンスは私がお相手すると決めていたのに!」
「す、すみません!」
「謝って済むと思って? コネで専属聖女とかやってる、インチキのチビクリンが!!」
興奮しすぎて破綻した語彙の罵倒に、私は苦笑いするしかなく。隣の王子様は絶句しております。
お怒りのリーリア令嬢を、5人のハーレムの王子様は優しく宥めました。
「ああ、リーリア姫。せっかく穏やかに眠るところだったのに」
「あんな奴ら気にしないで、俺の胸でゆっくり眠るんだ」
「一緒に二人だけの世界に行こう」
王子様の甘いお声が重なるように輪唱して、私まで気持ちよくなりそうですが……いやいや、それは駄目です!
「リーリアさん! 楽な方に引っ張られないで! それは幻覚で、薬の副作用ですから! 全部偽物の王子様なんです!」
「はあ? あんたが連れてる王子こそ偽物じゃない!」
リーリア令嬢に言われてそっと隣の王子様を見上げると、なるほど。いつもの王子様らしからぬ、ゲッソリとしたお顔。自分が沢山いる状況に滅入っているようです。
リーリア令嬢は大きな枕に伏せながら、5人の王子様に命令しました。
「私はもう眠いのよ! あのチンチクリンどもを退治して!!」
「!!」
5人の王子様は剣を構えて、こちらに向かって来ました。
あわわ、イケメンが5人! 私は王子様に杖を向けるなんてできず、咄嗟に頭を抱えました。見かねた王子様が前に出て、執事の王子を斬り倒して叫びました。
「ルナ! ここは俺に任せて、後ろの奴を頼む!」
後ろを振り返ると、リーリア令嬢の顔を持つ巨大な蜘蛛が、沢山の手で本物の王子様を捕らえようとしていました。5人も王子様を侍らせているのに、さらに王子様を増やそうとするリーリア令嬢の貪欲さに、流石に私も腹が立ちました。
「に、偽物って言ったくせに! 欲張りですよ!?」
私が巨大リーリア蜘蛛と応戦し、王子様が偽王子を斬り、その間もリーリア令嬢はベッドの上でウトウトと寝てしまいそうです。
「駄目っ! 寝ては駄目です! 意識を手放さないで!」
「うっさいわね~……もう疲れたのよ……」
何本も腕を失いながらも猛攻してくるリーリア蜘蛛に苦戦しながら、私は王子様を横目で見ました。
リーリア令嬢は学園で、王子様の剣術をしっかり見学しているのでしょう。剣捌きが本物の王子様とそっくりで、鎧を纏った偽王子と勇者の王子様は接戦を繰り広げています。どちらも格好いいですが、本物の勇者王子を応援するしかありません。
ガイン!
鈍い音とともに鎧の王子の剣が弾かれて、鎧の隙間から首を突かれました。な、なんと残酷な! 私がショックを受けている間に勇者の王子様は鎧の王子を前蹴りで倒し、そのままファーのベッドに飛び乗ると、殆ど眠りかけているリーリア令嬢の体の上に跨ったのです。
私は蜘蛛の相手で手一杯の中、一見エッチな展開に見えてショックを受けましたが、直後に王子様はリーリア令嬢に、予想外の行為をしたのです。




