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【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第二章

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14 眠り姫の中へ

「脳死っていったい、どういう事だ!?」


 誰もが絶句する中で、アンディ王子殿下がリフルお姉さまに問いただしました。さっきまで毅然としていたお姉さまは顔色を悪くされていて、周囲もその様子に重い沈黙となりました。


「心肺は微弱ながら動いているわ。だけど意識が昏睡していて、仮死のような状態なの」


 お姉さまは歯を食いしばっています。


「薬の相性があまりに悪い。時間を追うごとに心肺と脳の機能が低下していく」


 深刻な説明に周囲から小さな悲鳴と泣き声が聞こえて、私は目の前が真っ暗になりました。


 あの美少女で意地悪で、存在がお強いリーリア伯爵令嬢が?

 あり得ません。


 私は無意識のまま、ブチィ!と、自分の首に飾られたチョーカーを引きちぎりました。


「えっ?」


 隣で泣いていた令嬢が私の行動に目を丸くしましたが、私は続けてヒールの靴を投げるように右、左、と脱ぎ捨てました。

 いよいよ恐怖によって錯乱したかと、周りもアンディ王子殿下も唖然とこちらを見ています。

 続けてイヤリングや頭のリボンや、私を装飾するチャラチャラとした物すべてを剥ぐように投げ捨てました。そしてドレスの背中のホックを外そうとするも手が届かずに、大声で叫びました。


「これ! 外して!!」


 鬼のような形相に隣の令嬢はビビッと背筋を伸ばして、すぐにホックを外すのを手伝ってくれました。


「それからこのコルセットを緩めてください!」


 私が猛烈な勢いでドレスを脱ぐ様に全員が怯えましたが、王子様の側近のクリフさんは私に駆け寄って、露わになった背中を隠しました。


「ちょっと、ルナさん!? いったい何をして……」

「窮屈だと集中できないので! クリフさんは枕を持って来る! 早く!」


 クリフさんは訳がわからないまま、言われた通りにソファに走って、両手にクッションを沢山抱えて来ました。

 リフルお姉さまだけが、私の行動の理由を読んで息を飲みました。


「ルナ……あなたまさか」

「はい。私が潜ります。リーリア令嬢の昏睡した意識に」


 ざわ、と周囲が響めきました。誰もが意味がわからずに動揺しています。私はリーリア令嬢の左手を取り、隣に添い寝をしてリフルお姉さまに伝えました。


「途中で絶対に起こさないでください。必ずリーリア令嬢の昏睡を醒まして、私も戻りますから」

「ル、ルナ! 危険だわ! だってそれは……」


 私とお姉さまの間で、視線だけの疎通がありました。

 そう。二人は同じことを思い出していますね。

 私たちのお祖母様が逝ってしまった、あの日のことを。昏睡から戻らない祖母の意識に、私がダイブをしたあの日を……。

 お姉さまの瞳には、恐怖と心配の記憶で涙が溢れていました。


「ルナ!」


 反対側から呼び掛けとともに、アンディ王子殿下の温かい手が、私の手を握りました。


「俺も行く! 一緒に連れていってくれ」

「へ!? お、王子様も!?」


 私の驚きと同時に、側近のクリフさんが割って入りました。


「駄目です! アンディ王子の御身を危険に晒すなど……!」


 アンディ王子殿下はフン、と鼻で笑いました。


「クリフよ。我が国民の、しかも少女の危機だぞ。ここで動かなければ、王子の存在意義がどこにある。俺は何に備えて日々鍛えているのだ」


 クリフさんはグッと息を詰めて、会場の奥にある上座に目をやりました。そこには王様と王妃様が立ち上がってこちらを見守っており、そしてクリフさんに向けてゆっくりと頷いたのです。

 クリフさんは唇を噛み締めて、クッションを王子様の元へ置きました。


「殿下。必ずや無事にお戻りください」

「当たり前だ」


 王子様の口調はいつものように軽いですが、私を握る手は力強く私を励ましていました。私はもう何も言わずに、王子様と並んで横になったまま、目を合わせて頷きました。



「ふごっ……」



 こんな時でも寝入りが早いのは、私の特技でございます。

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