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【書籍化コミカライズ】夢見る聖女は王子様の添い寝係に選ばれました  作者: 石丸める@「夢見る聖女」発売中
第二章

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9 王子様のご褒美

 追試が終わったので放課後のお勉強も無く、私は早々に学園を後にしました。王子様は午前中で授業を終えて、先に宮廷に戻られたようです。

 馬車が門に着くと、側近のクリフさんがニコニコ顔でお迎えくださいました。


「ルナさん、おめでとうございます。追試を合格されたようですね」

「えっ? ま、まだ結果は出てないですよ?」

「合格点を軽くクリアするほどルナさんが勉学に励まれたと、アンディ王子が仰っていました」

「えへへ、ま、まあ、確かに手応えがありましたね」

「王子は沢山のご褒美をご用意されてお待ちですよ」

「えっ!?」


 お勉強のご褒美は舞踏会の招待状かと思っていましたが、いったい何の用意でしょう? 巨大なケーキとか? 豪華なディナーとか?

 私は途端にお腹がグ~と鳴って、卑しい笑いが出てしまいました。


「た、ただいま帰りました~」


 クリフさんに案内されて大広間のお部屋を訪ねると、王子様は素敵なお召し物でお迎えくださいました。

 いつも気怠いサラサラの髪を綺麗に整えて、高貴なブラウスとジャケットを品良く着こなしています。バイオレットの瞳は凛と冴えていて、それはそれは美しい……


「お、王子様っ!!」


 あまりに王子様然としているので、私は当たり前の事を叫んでしまいました。クリフさんが真後ろで「アハハ」と乾いた笑いを上げています。


「ルナ。お疲れだったな。ほら、ご褒美を用意したぞ」


 口調はいつもの不良風なアンディ王子殿下です。

 王子様の後ろには、ずらりと見知らぬ女性たちが並んでおりました。え? ご馳走じゃない?

 私が目を白黒としていると、王子様が女性たちを紹介してくれました。


「彼女は王室御用達の人気デザイナー、ベルタ嬢だ。ルナに舞踏会用のドレスを仕立ててもらうんだ」


 ベルタさんはお洒落な髪型とドレスで、いかにも優秀そうな方です。エレガントにご挨拶をしてくださいました。


「わ、私に、ドレスを!?」


 思ってもみなかったご褒美です!

 同時に、驚いたお腹もグギュ~、と広間に鳴り響きました。

 王子様はそれも見越していて、テーブルに軽食をご用意してくださっていました。


「まずは腹を満たして、ドレスの布を選ぶんだ。ベルタが山ほど持って来てくれたから」


 まるで色の洪水のように、室内には布、布、布があって、リボンやレースや様々な飾りが溢れていました。

 乙女ちっくな現場に気圧された私が後ろに向かって倒れたので、クリフさんがすぐに支えて椅子に誘導し、王子様が私の開いた口にカップケーキを突っ込みました。流れるような連携プレイです。


「ほんらはふぁ」

「ルナ。よくがんばったな。俺は内心、悪夢退治のためにルナの勉強が疎かになったんじゃないかって、焦ってたんだ。自分のせいで留年させてしまうかもってね」


 王子様の勘違いに、私は申し訳なくなりました。私が宮廷の生活に浮かれて、王子様のことばかり考えて勉強をサボッたのが原因なのに。必死に首を振る私に、王子様は嬉しそうな笑顔になりました。


「でも、ルナはやり遂げた。お前は本当に凄い大聖女だよ」


 ご馳走よりも、ドレスよりも嬉しいお言葉に、私はケーキを頬張りながら涙目になりました。王子様は不良のふりをして、誠実で、優しくて、純粋なお方です。なんて尊いのでしょうか。


「ふひ……」


 私は口いっぱいのケーキの中で小さく、”好き” と呟いたのでした。



 ♢♢♢



 山ほどの布に溺れるようにあれこれと選んで、採寸をして……。

 自分のためのお洒落を選ぶって、ものすごくエネルギーを使うのですね。

 私が紺とか黒とか、隠密のような目立たない色ばかり選ぶので、王子様が可愛いキャンディカラーを勧めてきました。これは揉めに揉めまして。似合うとか似合わないとか言い合って、まるで戦のようでした。



 夜になると、私はぐったりと疲れ果てて。

 キングサイズベッドに登ったと同時に、気絶するように眠ってしまいました。




「はれ?」


 私は広く豪華な内装の……宮廷の会場の真ん中に、ポツンと立っておりました。あ、これは舞踏会が開かれる場所ですね。ドレスを見すぎて、私はひと足先に舞踏会の夢を見ているようです。


 ボケーッと突っ立っていると、なんと。向こうからアンディ王子殿下がやってきたのです。

 黄金の模様が施された詰襟に、ショートマントを靡かせて。

 グレンナイト王国の王子としての、煌びやかな正装です。


「お、おわぁ、王子様っ!!」


 またしても私は叫びました。あまりに格好良すぎたので。

 綺麗に整えられた髪は品が良く、いつもは色っぽいバイオレットの瞳も、知的に輝いています。

 口を開けたまま見惚れる私の目前まで来ると、王子様は優しく微笑んで、跪きました。そしてなんと、私のちんまい手を取って、く、口付けをされたのです!

 これはお伽話で見る、憧れナンバーワンのシーン!

 私の膝は面白いほどガクガクと震え、崩れ落ちそうになりました。


「ルナ。やっぱりキャンディカラーのドレスで決まりだな」

「へ!?」


 慌てて見下ろすと、私はまるでお姫様のように可愛いドレスを纏っていたのです。


「!?!?」


 パニックになる私の手を、王子様は離しません。


「初めて夢の中で出会った時のことを、覚えてる?」


 王子様の問いに、私は恥で真っ赤になりました。ええ、覚えておりますとも。私は児童書の主人公の真似をして、ドレスを着て歌って踊っていた、トンチキな夢でございますね。


「あの時、ルナは明るくてド派手なドレスを着てたんだ。よく似合っていて、可愛かったから」


 ふ、ふおぉっ? 私の黒歴史が、か、可愛い?

 私と王子様の解釈の違いが激しくて、理解が追いつきません。私は金魚のように喘ぎました。


 王子様がスッと立ち上がると同時に、誰もいない舞踏会の会場に、大きな音楽が鳴り響きました。


「さあ、踊るぞ。ルナ」

「え!? む、無理です! 私はダンスなんて……」


 王子様は慣れた手つきで私の手を引き、腰を引き寄せ、身体を密着させました。あ、これはエッチです。距離が近すぎます!

 優しい笑顔だった王子様のお顔は、急にスン、とスパルタなお顔に変わりました。


「無理だから踊るんだ。舞踏会の当日に恥をかく気か? 完璧にステップを覚えてもらうからな」


 私の夢をジャックしたお勉強会の時と同じように、今度は王子様のダンスレッスンが始まってしまいました。


 ステップ、ターン、ステップ、ターン!


 ひええ、と青冷めつつも、あまりに甘美な王子様との触れ合いに、私は蕩けて舞い上がったのでした。

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