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ドウマ帝国の危機……マモレナカッタ……

「くぅ……まさかこれほどあっさりと捕まろうとは……」


「愚かな……お主如きがサーボ様に敵うはずなかろうが……」


「黙れこの裏切り者っ!! 貴様に魔王軍としての誇りはないのかっ!! このような惰弱な人間にいいように使われて恥ずかしくないのかっ!!」


 拘束された状態で吠える魔王軍の幹部らしい相手に、キメラント君は心底同情するような目を向けていた。


(うーん、かつてのキメラント君そっくりだぁ……しかしマジでぎりぎりだったんだなぁ……)


 カノちゃんが気絶させた兵士たちのうち、既に半数が魔王軍の魔物が化けた者だった。


 どうやら徐々に人を入れ替えていき、この国を秘密裏に乗っとるつもりだったようだ。


「貴方っ!! どうして魔王軍などと手を組んだのですかっ!!」


「信じられぬっ!! 王よ、何を考えておられたのですかっ!!」


「そ、それは……ぐぅ……」


 入れ替わられ魔法の空間に閉じ込められていた人々を俺が切り札で強引に開放すると、その中には大臣や王妃様も混じっていた。


 彼女たちは助かったことを喜びつつ、王様を見つけるとこうして即座に糾弾を始めたのだ。


(牢獄じゃあ放置されてろくに飲食もできなかったらしいし……俺たちが来るのが遅れてたら間違いなく死人が出てただろうなぁ……)


 ある意味で全力で突っ走ってきたお陰だ、少しだけ今までの旅路が報われた気がして嬉しくなる。


「全くですよねぇ、魔王軍なんかと手を組む人にこの国は任せられませんよねぇ~」


「そ、そうだその通りだっ!!」


「我々は今の王に愛想が尽きましたっ!!」


「くっ!! 貴様らはっ!? だがこの国の長に相応しい者が他に……」


「ここにいますよぉ、私たちの仲間で皆さんを魔王軍から解放した……この国の第一王女にして正当後継者のアイ様ですぅっ!!」


「っ!?」


 唐突に名前を告げられたアイさんは少しだけ驚いたような顔をしてシヨちゃんを見つめた。


 しかし彼女の狂気交じりの目に耐えられなかったようで、そっと俺のほうへ涙目を向けてくるのだった。


(わかるわかる、怖いし妙に迫力あるんだよなぁシヨちゃん……だから俺も何も言ってやれないんだ……ごめんねアイさん……)


 どうやらシヨちゃんはこの国の乗っ取りを始めているようだ。


 そのために俺の忠実な僕を自称するアイさんを名目上の支配者に置いて影から操る気なのだろう。


「なっ!? そ、そやつはとっくに追放して……」


「そう言う名目で世界を知るたびに出させたんですよねぇ~」


「ふ、ふざけないでっ!! そんな呪われた子が王位など……」


「呪いの仮面なら既に解かれてますよぉ、お二人の出した試練をアイさんは見事に乗り越えて帰ってきたのですぅっ!! 皆さんこんな立派なアイさんと魔王軍と組んで皆さんを苦境へ追いやった方とどっちを王様に選びますかぁ」


 王様と、思うところがあるらしい王妃様が流石に反発する。


 しかしシヨちゃんは適当なでっちあげをいり交ぜて、無理やり世論に持ち込む気のようだ。


「さ、サーボ様ぁ……わ、私は王様など相応しくありません……ど、どうかお止め……」


「ほらほらぁ、兵士の方々がアイさんを呼んでますからこっちに来て挨拶を……サーボ様は魔王軍の後処理をお願いしますねぇ~」


「……ほどほどにね、シヨちゃん」


「さ、サーボ様ぁ……た、助け……」


「サーボ様の弟子が泣き言を言ってはいけませんよぉ……ほら早くこっちに来て下さぁい」


 シヨちゃんに連れていかれるアイさん……可哀そうだがもう俺にしてやれることは何もない。


(許してくれアイさん……師である俺の情けなさとそんなやつの弟子になると言ってついてきた自分の愚かさを恨んでくれ……)


 心中で冥福を祈りながら、改めて魔王軍の魔物と向き合う。


「それであなたは風のフウク様の陣営でよろしいのでしょうか?」


「ええ……ですがどうもチーダイさ……の下で働いているようですね……」


「黙れキメラントっ!! 貴様が裏切ったことでこちらがどれだけ迷惑を受けていると思うっ!!」


「……何の影響もないと思いますけどねぇ?」


「ふざけるなっ!! 仮にも魔王軍のトップであった貴様が敵についたことで我らも勢力争いするだけの余裕もなくなったのだぞっ!!」


「勢力争いって?」


 俺の疑問にキメラント君が簡単に説明してくれた。


 どうも魔王軍の魔物は四大幹部がそれぞれ管理する属性ごとに派閥が存在し、それぞれで手柄を競い合っているらしい。


「へぇ……どこの組織でも権力争いってのは無くならないもんなんだなぁ……」


 ちらりと後ろで民衆を扇動しているシヨちゃんを見てため息をつく。


「ええ……それに魔王様は全ての生き物を……それこそ魔王軍も含めて玩具としか思ってませんからねぇ……世界を滅ぼした後には一番気に入られた派閥ならともかく他のに属する方はいつ処分されてもおかしくないんですよ」


「ああ、それじゃあ皆必死で手柄を奪い合うよねぇ……全く魔王といい指導者が危険思想の持ち主だと大変なんだねぇ……」


 カノちゃんも思うところがあるらしく、何故かシヨちゃんへ視線を向けてため息をついた。


(こればかりは同意だよカノちゃん……君も十分危険思想の持ち主で大変だけど、確かにシヨ助よりましだしなぁ……)


「全く愚かな……仲間同士で手を取り合い協力し合う……その絆こそ最も大事なものだというのに……」


 こちらは純粋に話の内容に憤慨するテキナさん。


(絆を重視しすぎて暴走する君が言わないでよ……まあ最初に絆云々言い出した俺が悪いんだけどさぁ……)


「よくわからないよぉ、ボクなんかみんなでなかよくごはんをたべてればそれでしあわせなのに……まおうってへんなひとだねぇ?」


 相変わらず癒し系のムートン君、可愛い。


(ああ、何も考えずムートン君の羊毛ヘヤーに顔をうずめたい……じゃなくて、魔王軍が派閥争いする余裕がなくなったって話だったよな?)


「まあともかくだ、今の魔王軍は権力争いをする余裕すらないほど追い詰められているってわけだ」


「それもこれも全て貴様が裏切ったからっ!! お陰でせっかく圧倒していたはずの我らの戦力が逆転しかねないではないかっ!!」


「……何言ってんだおめぇ?」


 思わず素で尋ねてしまった。


(魔王軍が圧倒って……どこをどうすればそんな台詞が出てくるんだ?)


「ふんっ!! とぼけても無駄だっ!! 一番の強敵であるはずの勇者の里に雑魚しかいないことは既に分かり切っているのだっ!!」


「……へぇ、僕らって雑魚だったんだぁ」


 カノちゃんが乾いた笑みを零す。


(この子に一瞬で気絶させられといてどうしてここまで強気に……そう言えばキメラント君もなんか粋がってたよなぁ?)


「キメラント君、どういうこと?」


「は、はぁ……実は前に勇者の里へ魔王様が直々に魔物を派遣されたのです……何か覚えはありませんか?」


「覚えてるよ、初日にワイバーンやらサンドワームとかの混成軍が親玉付きで大量に攻めてきたねぇ」


(そして俺たちの犯罪隠匿行が開始されたきっかけ……あの時素直に謝罪しておけばなぁ……いやその前に弟子を育てすぎなきゃ……そもそも最初にカノちゃんを当初の予定通り弟子に取らなきゃ……はぁ……後悔するポイントがあり過ぎるぅ……やり直してぇ……)


 後の祭りとはこのことだ……お祭り騒ぎどころではないが。


「それが魔王様の策略の一環でありまして……幹部を除く魔王軍の総力をぶつけてみて、もしも目ぼしい実力者が居る場合は直接魔王様が四大幹部によって閉鎖されている自らの場所に連れ込んで直々に退治する予定だったのです」


「っ!?」


 キメラント君の言葉で、俺はようやくあの時転移魔法を仕掛けてきた強敵の正体に気が付いた。


(あ、あれをやったのが魔王だったのかっ!? よく無効化できたな俺っ!? )


「しかし実際には魔王様は動かず、むしろ今に至るまで沈黙を保ったまま……故に勇者の里には魔王様が直々に手を下すほどの実力者はおらず我々に全てを一任されたのだ……そう思ってたんですよ、私もサーボ様達に出会うまではですが……」


「その通りではないかっ!! 確かに魔王軍はここまで負け続けているが何かの偶然に決まっているっ!! 出なければ未だに猛々しい魔王様が音沙汰もないはずがないっ!!」


「……そっかぁ、未だに動きがないのかぁ」


(あの時かけた封印魔法がまだ続いてんのか……まあ魔王の魔力をそのまま利用してやったからそりゃあ長持ちするだろうけど……)


 どうやら俺の魔法で動けないだけなのを、動くまでもないと魔王軍は誤解してしまったらしい。


(それでこれだけ負け続けなのに、未だにこんな上から目線なのかよ……)


 尤もこれはある意味で油断してくれているということだ。


 そんなこちらに有利な誤解をわざわざ解く必要はない。


(つまりこいつらからすれば、魔王様が動くまでもない相手なはずの俺たちに苦戦し続けてて……このままじゃとんでもない罰が与えられるんじゃないかと思ってついに派閥を超えて共同作戦を始めたってところか……)


 そうなるとこれからは魔王軍の攻撃はより一層激しくなるかもしれない。


(ディキュウ大……シヨ大陸は結界が張ってあるしカーマ殿とセーヌ殿もいるから安全だろうけど、こうなるとこの大陸ともう一つの大陸が危ないかもしれないなぁ……)


 いっその事先に全ての大陸に結界を張って安全を確保してから動いたほうがいいかもしれない。


 その辺りのことはシヨちゃんと相談して決めることにして、今はもう少し尋問を続けよう。


「なるほど……ちなみにチーダイ様はどこで何をしてるんだい?」


「貴様などに話せるものかっ!!」


「……話してくれたら拘束を解いて正面から戦ってあげるけど?」


「それで僕たちを始末しちゃえば何も問題ないよ?」


 前にシヨちゃんがやっていたように交渉してみる俺とカノちゃん。


「ふんっ!! どうせキメラントにしたように我も洗脳するつもりなのだろうっ!! その手には乗らんぞっ!!」


「別に洗脳なんかしてないんだけどなぁ……」


「口を割らねば今すぐ成敗してくれるぞっ!!」


「好きにしろっ!! だがなぁ、俺を殺せばその魔力が作り主のところに戻って記憶も継承されるのだぞっ!! それでよければ殺すがよいっ!!」


 魔物の言葉に思わずキメラント君を見ると、ゆっくりと頷いて事実であると教えてくれる。


(なるほど、そうやって情報を共有してんのか……ならもう少し俺たちの脅威を知ってても……)


 そう思いながらも俺は今まで倒してきた魔王軍との戦闘を思い浮かべる。


(イショサ国で戦った時は……大体一撃でケリがついてるなぁ……あれじゃあどうやって負けたかもわからんだろうしなぁ……)


 次にツメヨ国で戦ったヴァンヴィル様……これも魔法であっさりと溶けた。


 リース国ではサンドワームと仲間たちが……テキナさんが一瞬で蒸発させた。


 ツメヨ国に居たキメラント君……俺たちの仲間になってそもそも討伐されていない。


(こうしてみると魔王軍からしたら、出会ったと思ったら奇襲をかけられて……真っ当に戦って負けたとは思えないのか……)


「しかし……だとすると何でキメラント君が裏切ったことが知られてたんだ?」


「ふんっ!! チーダイとのつながりが絶たれたのに魔力が戻ってこなかったからな……全く搦手ばかり得意としおって……貴様らのどこが勇者だっ!?」


 ついに俺たちを勇者として認めてくれていた唯一の存在である魔王軍からも否定されてしまった。


(ああ……やっぱり俺ら勇者じゃなかったぁ……だけど搦手が得意なのはお前らだろうが……)


「……とにかくこれ以上喋る気がないのなら、君の魔力のつながりを絶ってから退治させてもらうよ」


「なぁっ!? そ、そんなことが……っ!?」


「いやだから実際にやってるでしょ……もう一度聞くけど、俺たちの質問に素直に応える気はないかい? そうすれば拘束を解いてちゃんと戦ってあげるよ?」


 魔力さえ戻らなければ記憶も継承されないはずだ。


 事実これを聞いた魔物の顔が引きつり始めた。


 ある意味で記憶の継承こそが命綱のつもりだったのだろう。


「……ほ、本当に拘束を解くのだな?」


「ええ、サーボ様たちは本当に解いて戦ってくださいましたよ……私はそれで負けたことで降伏を選んだのですから……」


「ほ、本当なんだなっ!! 勇者の名前に誓うなっ!!」


「……エエ、チカイマスヨ」


「何で片言なんだ貴様っ!?」


(いやだって……俺勇者じゃないから……)


 俺の思いも知らずに、別の意味にとったらしい魔物は派手に暴れ……ようとしたが俺たちの拘束呪文を破ることはできず僅かにも動くことはできなかった。


「ぐぅううっ!! おのれ……おのれぇええええっ!!」


(もう駄目だなこれは……諦めてさっさと退治してしまおう……)


「テキナさん、拘束を解くから正面から戦って退治してあげて」


「はい、わかりました」


「なぁっ!?」


 驚く魔物の前で俺は拘束魔法を解除して動けるようにしてやる。


 そのまま倒さなかったのは、単にシヨちゃんが言ってたことを思い出したからだ。


(腐っても勇者なんだから出来るだけ嘘はつかんほうがいいだろ……まあテキナさんなら百歩譲っても……いや千歩……一億歩ぐらい譲っても負けはしないだろうし……)


「さあ、かかってくるがいいっ!!」


「ふ……ふははっ!! 油断したなぁっ!! これでも喰らえっ!!」


「っ!?」


 叫ぶと同時に魔物は巨大な竜巻に変貌し、一気に俺たちを包み込みにかかる。


「このまま異空間に閉じ込めてや……」


対抗呪文(アンチマジック)


「なぁ……」


「やれやれ……雑魚でしたね……」


 俺の魔法であっさりと普通の姿に戻らされた魔物を、テキナさんが素手で叩き潰した。


「まあ大したことはなかったねぇ……あれでも幹部なんでしょ?」


「ええ……風の派閥で四大幹部に次いで強い……やはりサーボ様もテキナ様も化けも……素晴らしい勇者ですね……」


(今バケモノって言おうとしただろ……否定できねぇけどさぁ……はぁ……)


 やはり弟子も俺自身も少し強くなりすぎたらしい。


「そっちも終わりましたかぁ~」


「うん、こっちは終わったよ……そっち『も』?」


 シヨちゃんの言葉に恐る恐る彼女が来たほうを見ると、うつろな目をしたアイさんが兵士たちに手を振っている。


「うぉおおおおっ!! 新王女アイ様ばんざぁいっ!! 新帝国サーボ帝国ばんざぁいっ!!」


「サーボ様を信じる者はすくわれるぅうっ!! サーボ教さいこぉおおおっ!!」


 熱狂的に叫び声をあげている兵士と、ついでにいつの間に招き入れたのか民間人の姿もある。


 さらにそこに元王様と王妃様も混じって声を上げている。


(みんな目が死んでる……どんな説得したんだよシヨちゃんよぉ……)


「うふふ、それじゃあそちらの話を聞かせてくださぁい」


「あ、はい……シヨ様の仰せのままに……」


「いやですよぉサーボ様ぁ……まだシヨちゃんでいいですってばぁ……」


 半ばヤケクソにつぶやいた言葉にシヨちゃんは軽く訂正を加えるのだった。


(ま、まだって言ったよこの子……ああ、俺のお先は真っ暗だよ畜生っ!!)

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[一言] どう進もうとサーボのお先は真っ暗闇w
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