目指せドウマ帝国……も、もっとゆっくりぃいいっ!!
「つまりぃ、『あ』さんはこの大陸の冒険者ギルドに登録して働いているわけなんですねぇ?」
「はい」
シヨちゃんの質問に素直に応える『あ』殿。
あの後、何とかギリギリでカノちゃんを魔法で眠……落ち着かせることに成功した俺たちは互いの素性を曝け出しての情報交換を始めた。
何せ俺たちはこの大陸は初めてで、ろくな情報も持っていないのだ。
意外なことに初対面は切り結ぶほど最悪だったというのに、『あ』殿は全く敵意はおろか警戒心すら見せていない。
(いやむしろ俺を見て頬を赤らめて……これってひょっとして……ま、まさかなぁ……)
時折……いや極極極まれに正常な状態の弟子たちが俺に向かって見せる態度に似てなくもないと言えなくもない。
(けど惚れられるほどのことしたか? ただ呪われた仮面を外して殺しに来ている相手から身を挺して守って……ありえるわぁ……)
やはりカノちゃんを寝かせて正解だったようだ。
もしもこいつが起きてたら、間違いなくこの視線に敏感に反応するだろう。
(他の二人は流石に直接行動に移されなきゃ暴れないからなぁ……はぁ……やっぱりこの点はカノちゃんが一番厄介だぁ……)
俺に対する女性の視線に一番敏感に反応して、即座に始末に走るカノちゃん。
ある意味で愛情が深いともとれるが……正直辛い。
「それで今回はこの辺りの魔物の討伐をしていて、そのついでにキメラント君へ攻撃をしてきたわけですねぇ」
「はい……すみません」
「いいえ、気にしてませんから」
人に化けたキメラント君にぺこりと謝る『あ』殿、しかし敵だと間違えるのも無理もない話だ。
(こんなデカい魔物を見たらだれだって警戒する……ましては元とは言え魔王軍の魔物だしなぁ……)
「なるほどぉ、よくわかりましたぁ……後聞きたいことはドウマ帝国について何ですけどぉ……」
「……はい、なんでしょう?」
(あれ、今ちょっと表情が……気のせいかな?)
俺の疑問をよそにシヨちゃんは簡潔にこの大陸に来た理由を説明し始める。
「魔王軍が……ドウマ帝国と……そうですか……」
「ええ、ですからぁシヨたちはドウマ帝国へ乗り込んで魔王軍を追い出すつもりなんですけどぉその兵器とやらがどの程度の物なのか知っておきたいんですよぉ」
「……ドウマ帝国の兵器は私でも倒せる程度です」
「『あ』殿は戦ったことがあるんですか?」
頷いて見せる『あ』殿、どうやら冒険者ギルドの依頼で交戦したことが何度もあるらしい。
(というより、この子の力で領土を維持してる感じか?)
確かにこの『あ』殿は異様に強い。
恐らく俺に修行を受ける前のテキナさんに勝るとも劣らぬ実力だ。
(でもこれで一国を守り抜ける強さなんだな……ああ、俺の馬鹿ぁ……)
改めて俺が弟子たちを無駄に強くし過ぎたことに気づき、愕然とする。
(自分で自分の首……どころか世界全体の首を絞めてしまったぁ……)
「ならば今の我々の戦力なら正面から打ち破ることも可能ですねっ!! 行きましょうシヨ……サーボ先生っ!!」
相変わらずシヨちゃんに真っ先に話しかけるテキナさん。
尤ももう慣れてしまって俺もなんとも思わない。
「うーん、それもいいんですけどぉ……サーボ様はどう思いますぅ?」
「えっ!? お、俺っ!?」
しかし予想外なことに、そこでシヨちゃんは俺に意見を求めてきた。
(おおっ!! 何か知らんけどついに俺の弟子であることを思い出して主導権を返……すわけないよねぇ……何企んでんだよシヨ助ぇ?)
絶対に何か企みがある、間違いなくある。
師匠として見続けてきた俺の勘が告げている。
だけど何を企んでいるのかまではわからない。
「どーしましたぁサーボ様ぁ?」
「あ、ああ……ちょっと待って……」
(こいつの考えを俺ごときが読めるわけないよなぁ……なら普通に考えるか……手のひらの上で踊らされてやるよ畜生……)
少しだけシヨちゃんを恨みがましい目で見つつ、俺は今回の事態を考えた。
(仮にも一国を巻き込んだ陰謀だ、本来なら外交問題とか考えて慎重に行動すべき……だが……)
俺は改めて目の前の弟子たちを見つめる。
(こいつらが慎重にとか穏便にとか……出来るわけねーよなぁ……)
むしろ下手に長居しようものならどうなるか……間違いなくシヨ助が大暴走する。
それこそこの大陸まで乗っ取りを始めて、挙句にシヨ大陸2とかに改名しかねない。
(なら最速で乗り込んで、さっさと解決してこの大陸を離れるのが一番かなぁ……)
「……そうだね、テキナさんの言う通りだ……ここは正面から乗り込んで一刻も早く解決に動くとしようじゃないか」
「ちっ……サーボ様がそう言うなら仕方ないですねぇ」
(い、今舌打ち……俺が穏便策をとると思ってたのか……)
どうやらシヨちゃんの本命は、ここに残る大義名分を作ってからの侵略行動だったようだ。
(あ、危なかったぁ……ナイスだ俺っ!!)
これならもう後顧の憂いはない。
「よぉしっ!! 全員でドウマ帝国に乗り込もうじゃないかぁっ!!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
久しぶりに俺が今後の行動を宣言すると、五人の口から返事が聞こえてきた。
(……五人?)
俺以外のパーティはカノちゃんにシヨちゃん、テキナさんにムートン君、そしてキメラント君で五人だ。
しかしカノちゃんは未だにぐっすりだ……怖くて念のため三回確認したけど確かに寝ている。
(い、いや残像を残して移動してたり……よ、よかった実体だ……)
それでも不安でついに手で触ってようやくカノちゃんが眠っていることを受け入れて、ほっと一息つく。
(……ってじゃなくてぇ、何で五人分の返事が聞こえてくるんだよっ!?)
慌てて周囲を見回して、俺のことをじっと見つめる『あ』殿に気が付いた。
「あ、あの『あ』殿……もしかして一緒に来るつもりですか?」
「はいっ!!」
彼女は俺をはっきり見据えて力強く宣言した。
「い、いや仮にも一国を相手に争うことになるんだ……この大陸に住んでない俺たちはともかく『あ』殿は厄介なことに……」
「私もサーボ様のお力になりたいです……サーボ様の僕となりたいです……」
(な、何でそこまで……マジで俺に惚れてんのかこの子…………嫌な気はしないけどさぁ……)
むしろ何と言うか、いつもの胸の高鳴りと合わせて既視感のようなものすら感じている。
(つまりかつての俺は……この子とも三弟子と同じ様に……弟子……この子も?)
改めて目の前にいる『あ』殿を見る。
修行前のテキナさんと同等の才能を誇る彼女。
もしも他の弟子と同じ様に修行をすれば、間違いなく同じレベルまで強くなるだろう。
(よ、四人目……いやカーマ殿とセーヌ殿を入れれば六人目……や、ヤバすぎるぅっ!?)
これ以上人災を増やしてたまるものか。
何としても断ろうと俺は口を開こうとした。
「つまりぃ、サーボ様のお嫁さんじゃぁないってことですよねぇ?」
「お、お嫁……あ、愛人で……十分です……い、いえ何でしたらペットでも……」
「い、いやサーボ様のペットは私がなると決まっているのだっ!! しかしその心意気は見事だっ!!」
「あ、あのねぇ……まだ誰も一緒に行くとは言ってない……」
「いいじゃん、連れてってあげようよ?」
「っ!?」
不意に六人目の声が聞こえて、振り返るとそこに寝ていたはずのカノちゃんが居ない。
「僕が一番のお嫁さんだって認めてくれるならまあ仕方ないから許してあげてもいいと思うんだぁ」
「か、カノちゃんっ!?」
次に横から声が聞こえて、首を横にずらして……残像が見えた。
改めて視線を前に戻すと、既にカノちゃんが他の二人と共に『あ』殿と握手しているところだった。
(は、速ぇっ!? そ、そしてどうやって魔法の眠りから覚めたっ!? 俺まだ解いてねぇぞっ!?)
訳が分からない、わかるのは目の前にいるのが想像を絶するバケモノだということだけだ。
俺は本気でビビりながら、少し後ずさりしてしまう。
「よ、よろしくお願いします……」
「うん、よろしくぅ……いいよねサーボ様?」
「は、はいはいはいはいぃいいっ!!」
こっちを見たカノちゃんに必死で首を振って見せる。
ある意味で切り札を攻略しつつあるカノちゃんに、逆らえるわけがない。
「じゃあ決定ですねぇ、じゃあ『あ』殿……ええとぉこれは本名なんですかぁ?」
「……いいえ……私はこの顔で……親から捨てられて名前もなく……」
「めぇええ……おねえちゃん、なまえないのはつらいよねぇ……さーぼさまぁボクにつけてくれたみたいにつけてあげてよぉ?」
ムートン君が無邪気に呟く。
「い、いや勝手につけるわけには……」
「はい、サーボ様……新しい名前を……あなた様に付けてほしいです……」
「サーボ様ぁ、ここまで言ってるんだからさぁ……」
「は、はいわかってますよぉっ!!」
本人にまで頭を下げられては逆らえない……決してカノちゃんが怖いわけじゃない……嘘です怖いです助けてください誰か。
(と、とにかく名前……『あ』殿に相応しい……あ……)
「アイ……というのはどうだろう?」
自然と頭に浮かんだ名前と告げると、彼女は一瞬頬を赤らめてから嬉しそうに……見覚えのある笑顔を見せた。
「あ、愛……い、いいえアイですか? はい……私は今日からアイです、そうお呼びください」
(このやり取り……どこかで……?)
なぜかいつもの既視感を感じる。
しかし今までとは決定的に違う点がある。
(名付けは一度しかできない……何よりアイさんは今まで『あ』と名乗っていた……つまり俺と出会った事実は存在しないんだ……)
だとすればこの既視感の正体は一体何なのだろうか?
「よし、これで問題はないな……では全力でドウマ帝国に乗り込みましょうっ!!」
「はいっ!! 道案内しますっ!!」
「よろしくですぅ……じゃあ行きましょうかサーボ様ぁ?」
「あ、ああ……」
しかし俺の考えは弟子たちの声に断ち切られる。
(まあ……今考えても仕方ない……とりあえず目の前の魔王軍対策へ全力を費やそう……)
「じゃあお願いしますぅ」
「ああ……行くぞアイよっ!!」
「はいっ!!」
人力車に乗り込んだシヨちゃんの合図で、テキナさんとアイさんはオーラ突きを利用しての高速移動を開始した。
「やっぱりアイさんもスキル使えるんだぁ……良く知ってたねぇこんな技?」
「スキルですか……こちらの大陸では基本技術です」
「えぇっ!? そうだったんだぁ……サーボ様知ってたの?」
「いや……まあ……」
曖昧にごまかす……俺自身分かっていないのだから。
(いや流石にスキル効果だけならともかく名前も一致してるってことは……だけど俺はこの大陸に来た覚えはおろか話すら聞いたことがない……)
考えまいとした傍から、気になってしまいつい頭を悩ませてしまう。
そして……三弟子の制御を忘れていた。
「そこを右……そのまま突っ込めば王宮ですっ!!」
「うむ、シヨよ……このまま突っ込むぞっ!!」
「えぇっ!! 勇者ここにありと派手にのろしを上げてやりましょぉっ!!」
「えぇっ!? ちょ、王宮の門をぶち破る気ぃっ!? さ、サーボ様ぁ本当に良いのぉっ!?」
「ちょぉっ!? い、いいわけなぁあああっ!?」
カノちゃんの指摘で正気に戻ったが……遅すぎた。
「な、なんだなんだぁっ!?」
「と、止まれ……うわぁあああっ!!」
悲鳴を上げながら逃げる門番をしり目に俺たちは王都ドウマへと侵入し、そのまま王宮の門をぶち破り内部へと飛び込んだ。
(さ……最悪だぁああああっ!!)
外交問題とかいうレベルじゃない……何より普通に犯罪だ。
「な、なんなんだお前らはっ!?」
「こ、ここをドウマ帝国だと知っての……っ!?」
わらわらと集まってくる兵士たちが、俺たちのほうを見て固まる。
(や、やばい……指名手配待ったなしっ!? せ、せめて名前だけでも隠さないとぉっ!!)
「控えおろうぉっ!! こちらにおられるお方をどなたと心得るぅっ!! この方こそ世界最強究極無比にて地上最強無敵の勇者サーボ様であるぞぉっ!!」
(シヨぉおおおおおおっ!? 何考えてんだテメェはぁああああっ!?)
堂々と俺の名前を叫びあげるシヨちゃん。
お陰で兵士たちが口々に俺の名前を呟いて……無い。
「な、なぜあなた様が……」
「ま、まさかクーデターでも……」
(何か様子が変だ……というより、皆アイさんを見てんのか?)
「何の騒ぎだっ!?」
そこで奥から初老の男性が姿を現した。
恐らくこの国の王様であろうそいつもこちらを露骨に見下しながら、不意にアイさんに気づくとさらに侮蔑の色を強くする。
「貴様……誰が帰って来いと言ったっ!!」
「……っ」
王様の言葉にアイさんがうつむいた。
「……知り合いですかぁ?」
「……元親です」
「何をしておる番兵よっ!! こやつらをさっさと縛り上げ……っ!?」
「サーボ様に刃を向ける奴は許さないよっと……シヨちゃぁん、こいつどーするぅ?」
俺たちが話している間にカノちゃんが全てやってくれました……やらかしてくれましたぁ。
(兵士たちは……よかったぁ、全員気絶してるだけだぁ……よくねぇよぉおおおおっ!!)
よその国の王宮に土足で踏み込み、兵士から王様まで全て気絶させた集団。
どう考えても……立派なテロリスト以外の何物でもない。
「うふふ、流石カノさんですぅ……これよりこの国をサーボ帝国と改名……」
「い、いい加減にしてく……」
「サーボ様、叫んでる暇があったらこの兵士たちの中に魔物が紛れ込んでないかチェックして下さぁいっ!!」
止めようとした俺をシヨちゃんの正論が畳みかける。
(お、俺の意見も正論のはずだよぉ……どうしてこうなるのぉ……)
「どーしたのサーボ様ぁ? シヨちゃんがこういってるんだから速く動かないと怖いよぉ?」
「は、はぁいっ!!」
だからといって彼女たちに逆らえる筈もなく、涙を呑んで雑用を始める俺なのだった。
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