新たな存在……シーサーペントぉ?
(こんなところに地図にも載ってない島があるなんてなぁ……)
それはまるで一つの大きな火山のような形をした島だった。
尤も頂上の大穴からはマグマではなく噴水のように水が噴き出していて、島中に水路を作り上げている。
(そしてカノちゃんの言った通り霞みの霧もここから発生してるみたいだなぁ……この島自体にそう言う仕組みが仕掛けられてるんだろうなぁ……)
恐らくこの島に魔力を流すことで、あの霞みの霧が生み出されるようだ。
(つまりここに住んでるやつらを説得すれば霧は抑えられるってわけだな……)
改めて島全体を見回す。
頂上からあふれ出した海水が島中を伝わり、あちらこちらに水たまりを作りつつ海へと流れだしている。
そしてその水たまりの中に人影……というより異種族たちの姿がある。
下半身が魚の人魚族に、全身が半透明で透き通っていて頭の部分が傘のように広がり触手が伸びている海月族だ。
(あの水路を通じてこの島と海を行き来してるんだろうなぁ……)
誰もかれも露骨にこちらを警戒して睨みつけている。
中には弓を手にしている者もいる。
(まあこんな大きな魔物が近づいてきたんだから当たり前の反応だよなぁ……)
鳥人族が余りにも友好的だから平気かと思ったが、やはりそんなうまい話はないようだ。
まだ攻撃されていないのは、その鳥人族が俺たちの周りをうろついているから巻き込まないようにしてるのだろう。
だからといってこれ以上近づいて刺激したらどうなるかは分からない。
尤もあの程度の武装では何をされたところで、傷つくような奴はいないのだから強引に着陸するのも一つの手ではある。
「すっごく警戒されてる……どうするのシヨちゃん?」
「力づくで制圧してもいいんですけどぉ、ここは穏便に接触して洗脳……説得していきましょうっ!!」
「了解したぞシヨっ!!」
(本音がチラリしてるぞシヨちゃん……そして俺の意見を求めないカノちゃん&テキナさん……いやもう今更突っ込まんけどさぁ……)
「そう言うわけですのでぇ……鳥人族の皆さぁん、私たちが勇者であって敵ではないことを人魚族と海月族の方々に伝えてもらえますかぁ?」
「うーん、むずかしいなぁむずかしいなぁ?」
「ゆうしゃってなんなんだ?」
「……やっぱり武力制圧したほうが話が早そうですねぇ」
「待ってシヨちゃん……簡単にあきらめないで……君たちの中で難しい話ができる子……そうだセーレちゃんはどこに居るんだい?」
先ほど聞いた名前、やっぱり何か親しみが感じられて気づいたら気軽にちゃん付けで呼んでいた。
(鳥人族がこういう相手だからってのもあるけどな……この子たちは大切にしてあげたいなぁ……)
これほど癒される種族もそういない。
もしも彼女たちとも前に会ったことがあるのなら、きっとその時も俺はこの種族を愛おしく思っていたに違いない。
「そーだセーレはどこだセーレはどこだぁ?」
「セーレぇ~おーいセーレぇ~」
「そのセーレさんってどんな子なの?」
「すっごくかっこよくて、かわいくて、つばさがびゅってなってて、ええとぉあといいにおいがしてそれでね、かっこよくて、かわいくて、つばさばびゅっとなってて、あ、あといいにおいがしてね、かっこよくてかわいくてつばさばびゅっとなってて……」
(うーん、可愛い……癒されるわぁ……)
言葉足らずで一生懸命誉め言葉を口にする鳥人族、気が付いたら同じ単語がループしてるがそう言うおまぬけなところも可愛い。
ただその表現では流石に見つけようがない。
「それだとぉ……ああ、あのあたりにいる子なんかいい匂いがするけど違うかな?」
島の一角を空高くから指さすカノちゃん。
(匂い……この距離で匂い?)
「あーセーレだぁっ!!」
「やっぱりぃ、皆そうだけどあの子だけ特にお日様の匂いがするからねぇ~」
(正解ですかそうですか……もうこいつらの能力を疑うのは止めよう……)
俺の中の常識がくずれそうだ、だけど今回は落ち着いている。
何せ癒し系の鳥人族にこんなにも囲まれているのだから。
「さすがかのさんはすごいなぁ……ボクもにおいはかげるほうなのにぜんぜんわかんないや」
「大丈夫だよ、ムートン君もすぐにできるようになるよ……何なら僕が修行をつけてあげようか?」
(止めてくれ、癒し系ポジションの子をバケモノ枠に引きずり込まないでくれぇ……)
「と、とにかくそのセーレさんと会話しに行こうじゃないか」
「分かりました、そちらに向かえばいいのですね?」
「刺激しないようにゆっくりと向かってくださいねぇ~」
シヨちゃんの指示に従い、ゆっくりとセーレちゃんが居る場所に向かうキメラント君。
果たして俺たちが近づくと、それでもセーレちゃんらしき鳥人族が怯えているのが分かった。
「お、お前たちはなんだっ!?」
「せ、セーレちゃん無理しないでぇ……」
「セーレお姉ちゃん、無茶は駄目だよぉ……」
「だ、大丈夫っ!! マーメイもクーラもセーレが守るんだっ!!」
セーレちゃんは両腕と翼を広げて、後ろにいる人魚族のマーメイ様と海月族のクーラ様を守ろうとしていた。
セーレちゃんは二十歳ぐらいで無邪気そうな子で、マーメイ様は二十歳後半ぐらいで魅惑的な女性だ。
そしてクーラ様は十八歳ぐらいで全身が半透明で透き通り、頭が傘のように広がっていて触手が生えているスレンダーな少女だった。
(この子たちもいつもの……だけど何か物凄く……違和感が……?)
いつもの胸の高鳴りを感じて、だけど何かが違う気がする。
しかしその正体が掴めない……元々胸の高鳴り自体がなぜ起こっているのかわからないのだから当然の話だ。
「落ち着いて下さぁい、私たちは敵じゃありませぇん」
「そ、そうなのかぁ……全くびっくりしたぞぉ~」
(流石鳥人族……ピュアだなぁ)
セーレちゃんは確かに他の鳥人族よりは賢そうだが、それでも人を疑うことを知らないらしい。
あっさりと俺たちの言葉を受け入れて安堵のため息をついた。
「で、ではあなた方は何者でどのような御用でしょうか?」
それに対して警戒心が消えないまま、セーレちゃんの代わりに話しかけてくるマーメイ様。
(まあこんな巨大な魔物と一緒に人間が……向こうからすれば異種族が近づいてくれば警戒するわなぁ……)
「俺たちは勇者として魔王軍と戦っている者です……今はこの海を渡った先にあるゼルデン大陸へ向かっているところです」
「ま、魔王軍ですかっ!? つ、つまり魔王が蘇ったということでしょうかっ!?」
「ええ……尤も俺たちが知ったのも数日前ですが……うん、数日前だった……」
(そう言えば村を出てからまだ一週間も経ってねぇ……なのにこれだけ大暴れしてきた俺たちって一体……)
冷静に思い返してみて、それだけの短時間で大陸一つを混乱のどん底に突き落とした事実に何やら虚しくなってきた。
それだけこいつらが……そして俺も化け物だということだろう。
「あぁ……それでは今頃海底では……私様子を見てきますっ!!」
「だ、駄目だよマーメイお姉ちゃんっ!! そ、それは私が行ってくるよっ!!」
「ど、どうしたマーメイにクーラ? 魔王ってのは何なんだぁ?」
急に慌てだしたマーメイ様とクーラ様に対して、魔王が何かも知らずのんびりしているセーレ様。
(やっぱり鳥人族は癒しだなぁ……じゃなくて、何だこの慌てぶりは?)
幾ら魔王の復活を知ったとはいえ、ここまで取り乱すのは流石に想像外だ。
「どうしたんですかぁ? 海底に何かあるんですかぁ?」
「ええ……実はこの海底には大昔に魔王対策に作られた生物兵器が封印されているのです」
「わ、私たち海月族が作っちゃって……だけど上手く制御できない失敗作だったの……それで目に付くあらゆるものに攻撃を仕掛けて大変だったって聞いてるの」
「……それはひょっとしてシーサーペントでしょうか?」
話を聞いていたキメラント君が恐る恐る口にした単語に、二人は頷いて見せた。
「シーサーペントですかぁ……うーん、聞いたことがありませんねぇ」
「へぇ、シヨちゃんが知らないなんて珍しいなぁ」
「それも当然です……このことは人魚族と海月族だけの秘密でしたから……むしろそちらの魔物様が知っていたのが驚きです」
「……まあその、ちょっと」
(魔王対策の兵器だってことだからなぁ……魔王経由で教わったってところかなぁ?)
元魔王軍でしたなどと言えば混乱待ったなしだ。
それが分かっていて口をつぐんでいるのだろう。
「まあそれはともかくとしてぇ、そのシーサーペントが封印されていて……魔王対策の兵器だから魔王の存在を感知して動き出すとかそういう話でしょうかぁ?」
「その通りです……当時外で暴れようとした個体をマシメと名乗るお方が封印したらしいのですが、その際に魔王が再び甦るときにこの封印は解けるであろうと言い残していったのです」
「そ、そうなんだ……正確には魔王軍の魔物の魔力を完治したら動き出すとのことだからまだ平気だろうが、今のうちに確認しておくべきだと思うのだ」
「なるほどねぇ……魔王軍の……」
「魔物の……」
「魔力……」
「ですかぁ……」
俺たちは足元に居るキメラント君へ視線をやって、四人同時にため息をつくのだった。
(どう考えも……アウトだよなぁ……)
「……その魔物はどこに封印されているかわかりますか?」
「それはこの島の真下に……」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
果たして予想通りと言うべきか、聞いたこともない咆哮を上げながら見たこともない白い鱗をした魔物が山頂から顔を覗かせるのであった。
「きゃ、キャァアアアアアっ!?」
「し、シーサーペントぉっ!? な、何でこんな急にぃっ!?」
「ひぃっ!? た、助けてくださいませ勇者様ぁっ!?
唐突に表れた魔物に怯える三種族の方々が、縋るような目を俺たちに向けてきた。
(これじゃあ……完全にマッチポンプみたいなもんじゃないかよぉ……)
「お任せください皆さま、我らがあなた方を守り抜いて見せましょう……うふふ、理想的な展開ですぅ……」
「……御免なさいサーボ殿ぉ」
「謝らなくていいよキメラント君、こんなの想像つかないってば……はぁ……」
シヨちゃんの怪しげな笑みを見ながら、俺は深くため息をついた。
(この島もサーボ帝国の仲間入り、待ったなしだなぁ……どんどん浸食されてくよぉ……うぅ……)
しかしだからといって戦わないわけにはいかない。
「じゃあさっさと退治して……」
「サーボ様っ!? 後ろからもう二匹来るよっ!?」
「なぁっ!?」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
カノちゃんの言葉通り、同じ姿をした魔物がさらに二体島の外周部に姿を現した。
「ちぃ……正面のは俺が……」
「サーボ先生は正面の一体を、後ろの二体はカノさんとテキナさんとキメラントさんで協力して退治してくださいっ!! ただし島に被害が出ないよう特に注意してくださいねっ!!」
「「「ははぁっ!!」」」
「……はぁい」
シヨちゃんの仕切りの下、俺たちは早速シーサーペントへと向かっていく。
(大掛かりな魔法は周りに被害が出るし、何より下手に暴れさせても危険だ……ここは切り札で行きますかねぇ)
「時間停止」
「キュルル……」
俺の魔法により、魔物を含めたあらゆる現象が動きを止める。
この隙に退治してしまおうと正面のシーサーペントに近づきつつ、ちらりと後ろを振り向いた。
すると既に一匹はカノちゃんの手でバラバラに切り刻まれた後だった。
(……さらに速くなってるよこいつ……もう俺の切り札間に合わないんじゃないかこれ?)
もう一匹のほうを見ると、テキナさんが素手でパンチを決めようとするタイミングだった。
どう見ても回避不能な角度だ、これも既に勝負はついたも同然だ。
(もう武器を使うまでもないのか……やっぱり化け物だなぁ……)
何やら自分ばかりこんな裏技を使っていて劣等感すら感じてしまいそうになる。
(い、いや俺も強いからなっ!! 本当に強いほうなんだからなっ!!)
自分の心中で誰に言うでもなく言い訳をしながら、俺は時間を止めた状態でシーサーペントの突き出ている部分を切り刻んでやった。
ちょっとプライドもあってカノちゃんのより細かく砕いてみたが、何やら虚しいだけだった。
(まあこれでいいだろ……魔法解除っと)
「……っ!?」
「……っ!?」
「きゅぅ……っ!?」
「ぐぉおお……あ、あれっ!? お、終わったのですかっ!?」
時間を動かすと同時に、三体のシーサーペントは頭部を失い残った胴体が海水に沈んでいった。
余りの展開にキメラント君が目を丸くしている。
「……え?」
「……ふぇ?」
「……はぁ?」
初めて俺たちの実力を目の当たりにした三種族などは、何が起きてるかすらわかっていない様子だった。
「終わったよぉ……魔王と戦ったって割にはただの雑魚だったねぇ~」
「うむ、大したことはなかったな……どうしたキメラントよ?」
「……い、いえ別に……こ、降参してよかったぁ……うぅ……」
(気持ちはわかるぞキメラント君……)
ようやく自分がどれだけ愚かな行為をしていたのかに気づいたようでキメラント君が、安堵の涙をこぼしている。
それが少し面白くて俺たちは笑おうとして、シヨちゃんだけが何やら深刻そうな顔をしていた。
「どうしたのシヨちゃん?」
「ちょっと……あっさり過ぎると思いましてぇ……あんなのが魔王対策の兵器というのがどうしても納得できないんですよぉ」
「どういうこと?」
「うーん、うまく説明できないんですけどぉ……仮にサーボ様を魔王と仮定してぇシヨが対策の兵器を作るなら切り札に対抗できる何かを準備するはずなんですよぉ」
(俺よりお前のほうが魔王……とか言ってる場合じゃないな……)
あのシヨちゃんが真剣に悩んでいるというだけで、警戒するには十分すぎる。
「どういうことなのだシヨよ?」
「つまりぃ、魔王という存在に対抗するなら魔法対策やそれに追随する威力に対する対策が講じられているはずなんですよぉ……なのにあんなにあっさりと退治されるのはどうにも納得がいかないんですよぉ……」
「うーん、僕たちが強すぎるからってわけじゃないのかなぁ?」
「それにしてもあんな正面からの攻撃だけで撃破できるのは……せめて数秒でも堪えていれば話は別だったんですけどぉ……」
「そう言えば、私の知る限りでは魔王がシーサーペントと戦った際は三日ぐらいかかったとかなんとか……」
キメラントの言葉に、俺も流石に不安になってきた。
(魔王がどれほどの実力者かは知らんけど、そいつが三日もかかるようなのを瞬殺できるってのは確かにおかしいかなぁ……)
「よ、よくわからないけどまだあいつは生きてるってことなのかぁ?」
「そ、そうみたいね……困りましたわ」
「うぅ……ごめんね二人とも、私のご先祖様が馬鹿なもの作っちゃってぇ……」
クーラ様の謝罪にセーレちゃんとマーメイ様は首を横に振って見せた。
「違うぞっ!! クーラは悪くないぞっ!!」
「そうよ、クーラちゃんは何も悪くないわっ!!」
「あ、ありがとう二人とも……だけどあの魔物は……」
「確かに不安ですよねぇ、じゃあシヨたちが念のため一日ここで様子を見ますよぉ~」
三人の言葉にシヨちゃんが優しく答えた……狂気の笑みを隠しながら。
(こ、この不安をついてサーボ教を広めてサーボ帝国に組み込む気だっ!! まちがいねぇっ!!)
どうやらさっきの話も不安を煽るためにわざとやったようだ。
「ほ、ほんとうかっ!? ありがとうサーボぉっ!!」
「た、助かりますわサーボ様っ!!」
「ごめんね、ありがとうねサーボさんっ!!」
三人が、そして島にいる皆が俺たちに感謝して頭を下げる。
「うふふ、勇者として当然ですよぉ……ねぇサーボ様ぁ~」
「はぁ……全くシヨちゃんは……こんな嘘までついて……流石にやり過ぎじゃないの?」
こちらを向いたシヨちゃんに小さい声で言ってやるが、心外とばかりに首を横に振って見せた。
「今言ったことは本当ですよぉ……だから警戒だけは解かないようにお願いしますねぇ~」
「あのねぇ、流石にそんな見え見えな嘘に騙されるわけ……」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
「キュルルルルルゥウウウっ!!」
俺が言い切る前に聞こえてきた咆哮、そして先ほどと同じ場所から同じ魔物が同じように姿を現した。
「ええとぉ、嘘が……なんでしたっけぇサーボ様ぁ?」
「……ごめんなさいシヨ様、この愚かな私をお許しくださいませぇ」
もう何も言い返すことができず、俺はシヨちゃんに土下座してから再度魔物に向かっていくのだった。
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