可愛い奴ら……い、癒されるぅうううっ!!
「……癒されてぇ」
「このキメラント、お気持ちはよくわかりますよぉ」
俺の言葉に頷いて答える執事姿をした人型に変貌したキメラント君。
既にその瞳に敵意はない、あるのは俺への同情だけだ。
「分かってくれるか友よ……」
「そんな友などと恐れ多い……魔王軍から解放してくださった恩義、もはや僕として扱って……」
「それが嫌なのぉ……わかってくれよぉ……」
「は、はぁ……サーボ殿がそうおっしゃるのでしたら……」
半泣きで縋りつく俺を、キメラント君は優しく支えてくれる。
俺の切り札で魔王軍から解放されたキメラント君は、こちらの強さに心が折れていたこともあるが意外と従順な仲間になってくれた。
どうも魔王軍は上位存在が消滅したら巻き込まれて死ぬという関係のせいで、嫌々上司に従っている奴も多いらしい。
特にこのキメラント君は半端に強いせいで中間管理職としてチーダイ様と部下の板挟みで苦労してたようだ。
「お互い大変だよなぁ……下は言うこと聞かないで暴走するし、その責任はこっちに来るしさぁ……」
「そうなんですよぉ……勝手に私を超えて直接チーダイ様が部下に命令を下すわ、それで失敗したら責任は私のせいになるわ……はぁ……本当に嫌になりますよねぇ……」
(俺も弟子たちが勝手に人の名前使って暴走してるし……勘弁してよぉ……)
ため息をつきながら、俺はちらりと人力車の外へと視線をやった。
「いいですかぁ、テプレ様と共にそれぞれの国を回ってサーボ様の名前をアピールしつつ結界を張って行くんですよぉ」
「ああ、任せてくれシヨちゃんっ!!」
「その際にしっかりとサーボ帝国を認めさせえて、サーボ教を信仰させることも忘れずに……この世で信ずるべきは神様ではなくサーボ様なのだとしっかり理解させましょうっ!!」
「ははぁっ!! 了解致したぞっ!!」
(本格的にこの大陸はお終いだ……)
確かに魔物から人々を守るためだと考えれば、結界を張って回るのは間違いじゃない。
だけどそれを餌に国だけではなく、思考まで染め上げようというのはもはや暴君とかいうレベルじゃない。
(人的な被害こそ出てないけど……もうこいつら魔王以上の脅威だよ……)
そしてこいつらの暴走の全てが、育て上げた俺の責任でもある。
(どうやって償えばいいんだよこんなの……もう自首してもこの大陸じゃぁ誰も裁いてくれねぇよ……)
「元リース国にもしっかりとサーボ教の教えを広めて回りますわっ!! サーボ様ばんざぁいっ!!」
「うむ、妾もこの領内でサーボ教を信仰しない野蛮人は精神ごと叩きのめしてくれようぞっ!! サーボ様ばんざぁいっ!!」
「私も冒険者ギルドを通じて世界中にサーボ教を広めてみせますっ!! サーボ様ばんざぁいっ!!」
「そうだそうだぁ、サーボ様はこんな可愛い子も作り出せるすてきなお方なんですよっ!! サーボ様ばんざぁいっ!! ムートンちゃんばんざぁいっ!!」
「ええとぉ、よくわからないけどみんなたのしそう……ばんざぁい、さーぼさまばんざぁい」
テプレさんにヒメキさんにミイアさんにミリアさん、それとカーマとセーヌが人力車の中にいる俺に向かい礼拝を始める。
物凄く居心地が悪い。
「ねぇサーボ様ぁ……シヨちゃん止めたほうがいいんじゃないの?」
「さ、流石にこれは……やり過ぎなのでは?」
「……じゃあ君たち止めてきてよ」
「……サーボ様ばんざぁい」
「……サーボ教ばんざぁい」
(諦めやがった……)
尤も気持ちはわかる。
物理的に討伐するならともかく、それ以外の方法じゃぁもうシヨちゃんを止めることは不可能だ。
しかし流石に十歳の幼子に本気で暴力を振るうわけにはいかないし、まして命を奪うなど言語道断だ。
やってることはアレだが、これでも大事な俺たちの仲間なのだ。
だから結果として止めようがないのだ。
(いっそまた眠らせて……いやどうせ起こさざるを得なくなるだけだな……)
何だかんだで方針の決定やら他の奴らの暴走とかに対処するにはシヨちゃんに頼るしかない。
(もう諦めよう……色々と諦めよう……うぅ……)
「サーボ殿、お気を確かに……」
「ありがとうキメラント君……はぁ……」
「じゃあ皆さん、早速行動してくださぁいっ!!」
「「「「「「ははぁっ!!」」」」」」
シヨちゃんの指示を受けて、皆が勢いよく走り去っていった。
「うふふ、これでディキュウ大陸は……いいえぇシヨ大陸は私たちの手に落ちたも同然ですうぅ」
(大陸名まで変えやがった……というかそっちはお前の名前かよ……野望丸出しじゃねぇか……)
サーボ帝国は当たり前だがシヨ大陸の上にあることになる……これはある意味で俺がシヨちゃんの掌の上で踊らされているという意味にとれるのではないだろうか。
(いやもうどうでもいいけどさぁ……戻ってくる気ないしぃ……)
「お待たせしましたぁ、じゃあ早速お隣の大陸へ向かいましょうかぁ」
「そうだねぇ、魔王軍の進行を食い止めなきゃだしねぇ……キメラント君お願いしていいかい?」
「もちろんですよ、お任せください」
俺に一礼するとキメラント君は外に出て、変身を解除した。
途端に元の魔物の姿を取り戻したキメラント君は、さらに身体を振るわせて背中から翼をはやす。
「さあどうぞお乗りくださいサーボ殿とお仲間の方々」
「じゃあ遠慮なく……よし、行ってくれ」
「ははぁっ!! では参りますよっ!!」
巨大なキメラント君の背中に人力車ごと乗り込んで指示を出すと、彼は翼を振るわせて空へと飛びあがった。
そのまま猛烈な勢いで海を渡り始める。
(まさか空を飛べるとは……大した奴だなぁ……)
これでまた移動が楽になった。
尤も流石に人気があるところではキメラント君の姿は威圧的過ぎるので、今まで通り人力車を使わなければだめだろう。
(しかし早いな……これだけ乗せてタシュちゃんより早そうだ……い、いや彼女に運んでもらったことなんかないけど……それともやっぱりあるのか?)
少し前に考えていたこと……俺の中で時々起こる不可思議な感覚について思い起こす。
やはり俺は前に彼女たちに会ったことがあるのではないだろうか。
(しかしだとして、何でこうも綺麗に記憶を忘れてるんだ?)
さらに彼女たちの方からも一言も言及してこないのはおかしい。
(こいつらも忘れてる? だけど出会った時に固まってるのは俺だけだしなぁ……)
今までの出会いを思い起こしてみても、不自然に反応していた奴は一人もいない。
何より俺はずっと勇者の里で育ってきた、それは間違いがない。
だから三弟子はともかく、他の奴らと出会えるはずがないのだ。
(一体どうなってんだろうなぁ……まあそれより気になるのはこいつらの狂った才能だけどな……)
身のこなしが既に神域に達しつつあるカノちゃん。
指導者を超えて世界の支配者を目指せるシヨちゃん。
戦闘能力という意味では他の追随を許さないテキナさん。
(マジでどうなってんだよ……天才とかいう言葉じゃ納得できねぇよ……)
元々ぶっ飛んで強かった俺が教え導いた結果とは言え、やはりこれは異常だ。
(俺だって生まれつきおかしいぐらい強いほうだったのにな……ん? おかしいぐらい?)
何かが引っかかった。
確かに俺は生まれつき強かった……それこそ目の前の彼女たちですら追いつかない程度にはだ。
(そうだ天性の才能があるこの子達ですら産まれたばかりの頃は他の奴らと大差なかった……これは……)
「サーボ様ぁ、何を考えこんでるんですかぁ?」
相変わらず人の考えなどには目ざといシヨちゃんが、俺の変化に気づいて話しかけてくる。
「いや、ちょっとね……」
「最近悩みこむことが多いですよぉ、何かあるならシヨたちに相談してくださいよぉ~」
(八割がお前の行動に対する悩みだよ、相談してどうなるってんだよ……いや九割かもなぁ……)
「そうなのですか……もしよろしければ我々がお力になりますが……?」
「さーぼぉなやみがあるの? ボクもおたすけする?」
「ありがとう皆、だけどこれ……」
「サーボ様っ!? なんかこの先に変な霧が張られてるよっ!?」
「変な霧って?」
カノちゃんの言葉に話を打ち切り、皆で先のほうを眺めてみる……いつも通りまだ何も見えはしない。
「上手く説明できないけど、なんか変な霧……自然発生した現象じゃないみたい」
「……それはひょっとして霞みの霧かもしれませんね」
「キメラント君、どういうこと?」
「我々の住処との間に張られている霧をそう称しているのです……要するにその中を通ると方向感覚が狂わされて大陸に戻らされてしまうのですよ」
(うわぁ、厄介な……)
「つまり魔王軍の仕業だということかな?」
「いえ、この辺りには魔王様の居住している大陸が浮かんでますし……あの方の視界を塞いではどんなお怒りがあるかわかりませんからそんなことしないはずです」
キメラント君の言葉が確かなら、これはまた別の奴の仕業と言うことになる。
果たして少しすると、身体にまとわりつくような妙な霧が見えてきた。
「うーん、確かに変な魔力が混じってるねぇ……」
「やはり霞みの霧でしょう……このままでは元の大陸に戻されてしまいますよ」
「でも魔法ってことはサーボ様ならどうにかできるんじゃないですかぁ?」
「多分ね……まあ試してみるよ、対抗呪文」
いつもの切り札を使ってみると、霧の中から魔力が消え失せていくのが分かった。
「上手く行ったよ、これでただの霧になったはずだよ」
「確かに風に流されていきますね、これならすぐにでも視界が晴れそうです」
「うん、結構先まで見通せるように……サーボ様ぁ、この下に小さい島があって異種族の人たちがいっぱい居るよぉ?」
「へぇ……そうなんだぁ……」
(だからどうやって水平線の先まで見通してんだよこいつはぁ……)
空を飛んでいる以上、音や振動すら伝わってこないはずだ。
もはや超感覚とかいうレベルじゃないと思う……やっぱり化け物だ。
「ふぅん、こんな海のど真ん中に……一体どんな種族なんでしょうねぇ~?」
「流石に距離があるからはっきりとは分からないけど、翼が生えてるのと下半身が魚みたいなのと……傘を被ってるようなのが入り混じってみるみたいだよ」
(分かり過ぎだよカノちゃん……)
「うーん、翼が生えてるのは龍人族か鳥人族で下半身がお魚なのは人魚族でしょうかぁ……最後のは海月族かもしれませんねぇ」
外見的特徴だけであっさりと種族を見破るシヨちゃん。
(この子もいつの間にこんな知識を身に着けたんだろうか……世界征服の為にどんな異種族が居るか調べてあったとかかなぁ?)
「サーボ様、どうなさいますか?」
「いや今は先を急いでいる……魔王軍と関係がなさそうならわざわざ関わらなくても……」
「いいえ、顔を合わせていきましょうっ!!」
俺とシヨちゃんの意見が真っ向からぶつかる。
「ではこのまま高度を落とすということでよろしいですね?」
「待ってキメラントさん、もう少し右側……うん、その角度で高度を下ろしていって」
「では私は上陸の準備をしておきます」
「よぉし、いっぱいおはなしするぞーっ!!」
(誰も俺の意見を尊重してくれない件……はいはい、どーせシヨちゃんのほうが正しいですよぉ~)
もうどうしてと聞く気すら起きなくて、俺も諦めて準備にかかる。
「あっ!? シヨちゃん、あの大陸からまたさっきの霧が浮かんできたよっ!?」
「やっぱりですかぁ……この霧のど真ん中に陣取ってるから絶対に何か関りがあると思いましたよぉ」
(ああ、そう言うことだったのね……はいはい降参降参、シヨちゃんが正しいですぅ~)
ちょっと不貞腐れたくなったが、流石にこうも選択が正しかったことを見せつけらえれては受け入れざるを得ない。
(何度でも向こうに出来るとはいえ、この霧をどうにかしとかないと万が一俺が居ない状態で移動する必要が出た時に困るからなぁ……)
「とりあえず無効化するね……対抗呪文」
もう一度こちらに漂ってきた霧を無効化する。
その後も何度かやってきたがその全てを打ち消して、ようやく俺たちは島の上空へとたどり着くことができた。
「まてまてぇ~っ!! こっちきちゃだめなのぉっ!!」
「だめだっただめなのぉっ!!」
すぐに翼の生えた……恐らく鳥人族と見られる異種族が群がってくる。
手には武器を持っていて、俺たちを睨みつけている。
「お、お待ちくださいっ!! 我々は敵ではありませんっ!!」
とりあえず敵意がないことを示す。
(だけどこれだけ巨大な魔物に乗ってるんだ、信じてもらうのは時間がかかるだろうなぁ……)
「敵じゃないの? 敵じゃないの?」
「敵じゃないって、みんな敵じゃないってっ!!」
「敵じゃないの、そうなの敵じゃないの?」
(あっさり信じたよ……こいつら純粋過ぎない?)
俺の言葉を聞くとすぐに安心したように武装をしまい、すぐに笑顔になる。
そして興味深そうにキメラント君の周囲を飛び回り始めた。
「すっごぉい、大きい大きいっ!!」
「しっぽが四つしっぽが四つっ!!」
「がぉおおおっ!! がぉおおおおっ!!」
(ま、間抜けすぎて……か、かわいぃいいいいっ!!)
何か見ていると物凄く癒される。
一人……いや全員お持ち帰りしたい。
「みなさぁん、私たちは勇者サーボ御一行ですぅ……魔王軍の脅威からあなた方を守りに来ましたぁ」
「ゆうしゃぁ? ゆうしゃってなぁに?」
「むずしいなむずしいなぁ」
「こまったなぁこまったぁ……ねえセーレはどこぉ?」
「あれぇセーレがいない? セーレどこぉ?」
「へんだなぁへんだなぁ……セーレぇセーレぇどこぉ?」
ぱたぱたと誰かを探して飛び回る鳥人族……間抜け可愛い。
何も考えずこのまま見ていたい。
「そのセーレという方はあなた方のリーダーでしょうか?」
「うんそーだよぉっ!! セーレは私たちのリーダーなのぉっ!!」
「とってもとぉってもかしこいのっ!! だから私たちのリーダーなのぉっ!!」
「すごいんだよセーレはっ!! とってもとってもすごいんだよセーレはっ!!」
「へぇ、そんなに凄い子なんでちゅかぁ~」
思わず赤ちゃん言葉を使ってしまった。
「そうだよそうだよっ!! だってね、たべものをねみんなにわけてくれるんだよっ!!」
「数をかぞえてね、ちゃんと皆に行きわたるようにわけてくれるんだよっ!!」
「すごいんだよセーレはっ!! そんけいできるんだよセーレはっ!!」
「うわぁすごいなぁセーレさんはぁ……ふふ……」
(きゃ……きゃわいいいいいいいいっ!!)
何という癒し系種族だろうか。
俺はもうメロメロだ、鳥人族恐るべし。
「うーん、この調子だと埒が明かないし……あそこに着陸して他の人に話を聞こうかぁ?」
「そうですねぇ……その程度で頭がいいというようじゃぁ鳥人族には何も期待できそうにないですからねぇ」
「し、しかし……少し可愛いではないか?」
「流石テキナさん、お目が高い……どうにかして一人俺たちの仲間にしたいよねぇ」
俺の言葉にテキナさん……だけではなく珍しく皆が頷いて見せる。
「本当に良いよねぇ……なんか見てて癒されるって言うかぁ……」
「ここまで純粋な顔を見せられると、シヨもちょっと穏やかな気持ちになれちゃいますぅ……」
(おおっ!! このパーティが一つに……こんなの初めてじゃないかっ!?)
ちょっとした奇跡に俺は感動を隠せない。
「あ、あの……着陸と言うことでよろしいのですよね?」
「ああ、頼んだよキメラント君」
「は、はぁ……皆さん少しどいてください……着陸いたしますから……」
「「「「「はぁぁいっ!!」」」」」
素直に少し離れて遠巻きにこちらを見守る鳥人族。
その可愛さに見とれながら、俺たちは小島に向かっていくのだった。
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