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ヒメキ様とミイアさん……後おまけ一匹。

「サーボ様ぁ、何をそんなに考え込んでいるんですかぁ?」


「いや……ちょっとね……」


 少し考えこんでいた俺を気にしてシヨちゃんが話しかけてくる。


 しかし説明しようもなく、軽く首を横に振った。


(まだ仮説の段階だけど……俺はひょっとして……一度こいつらと……)


 人力車に揺られながら中にいる人々を見回す。


「サーボ様サーボ様えへへサーボ様と久しぶりに密着密着誰にも邪魔されず密着……」


 俺の背中に回り込んでいつでも首を絞めれる用腕を巻きつけ……ではなく抱き着いているカノちゃん。


「サーボ様ぁ、何かあったらなんでもシヨに相談してくださいねぇ……」


 俺の腕の中でとても怪しげな……ではなく可愛らしく微笑むシヨちゃん。


「サーボ様、もうすぐにでもツメヨ国に到着いたします……そうしましたらそこからは歩きで……いえ不肖このテキナが足の代わりとして……」


 人力車を引きながらテキナさんが危険な……とは言い切れない程度の発言をする。


「偉大なるサーボ様、この私も同行させていただきます……もしも駄目なところがあれば容赦なくお導きを……」


 既に大僧侶の役目も放棄して俺へ拝むように頭を下げるテプレさん。


「ふふふぅ……ムートンちゃぁん、ミリアお姉ちゃんはねぇ……とぉってもしあわせぇええっ!!」


「めぇええ……ボクもみんなといっしょでしあわせなんだよぉ」


 擬人化したムートン君の無邪気な笑みに、ミリアさんの緩み切った笑顔。


(この光景も違和感やこうじゃないという感じはあるけれど……どうしても懐かしい思いが混じる……)


 特に出会ったばかりのミリアさんやテプレさんにすら、親しみを感じている自分が居る。


 さらに名前だ、既に俺の中では彼女たちを気安く呼ぶようになっている。


(何より既視感や違和感すら……どっちも本来の……というか知っている相手にしか抱けない感情だ……)


 つまりは俺は彼女たちを知っていて、しかしそのことを忘れているのだろう。


 それならばこの不可思議な感情の正体も説明がつく。


(だけどそれなら……彼女たちも同じ感情を抱いてないとおかしいはずだ……)


「ちょっとい……」


「ちょっと待ってっ!! テキナさんストップっ!!」


 俺が出そうとした声はカノちゃんの叫び声にかき消される。


「どうしたカノっ!? 何か見つけたのかっ!?」


「何か人の集団が近づいて来てる……このままオーラ突きで突っ込んだら吹き飛ばしちゃうよ」


 俺の背中に張り付いていたはずのカノちゃんは、既にテキナさんの隣に並んで事情を説明している。


 同じ様に俺たちも人力車の荷台から顔を覗かせ、先のほうを眺めてみるけれど地平線が見えるばかりだ。


(本当にこいつどうやって判定してんだ? まあ物凄く便利だからいいんだけどさぁ)


「カノさんが言うなら間違いないでしょう、一応刺激しないように歩いて近づきましょう」


「了解した」


 もはやカノちゃんの能力は疑うべくもない。


 素直に従い、俺たちは念のために周囲に気を配りながら移動する。


 そして少しすると、カノちゃんの言っていた通り人々の集団が姿を現した。


(あの格好……この国の騎士団か?)


「ミリアさん、あの方たちをご存じですかぁ?」


「ムートンちゃぁ……あ、何でしょう?」


「ですからぁ、あの方たちを……」


「そこの者達、そこで止まるのだっ!!」


 この国の出身者であるミリアさんに事情を聞こうとしたが、その前にこちらに気づいた騎士団は何故か制止を呼び止めてきた。


「どうします? 蹴散らしますか?」


「テキナさん……何で人間相手にそんな発想するのぉ……」

 

「サーボ様のその言い方ですとあの人たちは魔物が化けているわけじゃないってことですねぇ?」


「あっ!? そ、そうかその可能性があったね……」


 シヨちゃんの指摘で改めて、前にヴァンヴィル様が人間に化けていたことを思い出した。


(直接見た俺が覚えてないのに、間接的に説明されただけのシヨちゃんが覚えてんのは大したもんだなぁ……)


 感心しつつ、俺はその集団の魔力の流れを確認することにした。


「っ!?」


(なぁっ!? ま、マジで魔物の群れじゃねぇかっ!?)


 先頭に立っている者とその脇に立っている二人を除いて、変な魔力が身体を包み込んでいる。


 ヴァンヴィル様や他の魔物の塵際と同じような魔力……間違いなく魔王軍だろう。


「ご、ごめんテキナさん……先頭と脇の二人以外全員魔物だったわ……」


「畏まりました、では早速殲滅して……」


「倒すのっ!? じゃあ僕がさっさと退治して……」


「まあ待ってくださぁい……わざわざ人間と行動している以上はいきなり襲い掛かってくることはないでしょう、ですから上手くすれば犠牲を出さずに情報が収集できるかもしれませんよぉ」


 確かにシヨちゃんの言う通りだ。


(こっちが気づいていることに向こうは多分気づいてない……その隙に捕らえて洗いざらい吐かせてやればこの魔王退治の旅も一気に終わりに近づく……はず)


「すまぬが今このツメヨ国は緊急事態……お、お主らはサーボとその仲間たちであるかぁっ!?」


「ええ、我々はサーボ様の下で活躍しております者ですが一体どうなさいましたか?」


「ええい、しらばっくれるではないっ!! 妾の目は節穴ではないぞっ!!」


 そう言って魔物たちを引き連れていた騎士は俺たちへ剣を突き付けてきた。


(思いっきり節穴じゃねぇか……どうせ後ろの魔物たちにあることないこと吹きこまれてんだろぉ……)


「イショサ国でクーデターを起こしサーボ帝国なるものを建国し、更にバンニ国で王女を誘拐し誑かし強引に合併……そして今リース国から出てきたところを見ればそちらでも暴れてきたのであろうっ!!」


 これ以上ないほど正論だった。


 どうやら節穴なのは俺の方だったようだ。


(勝手に決めつけてすみませんでしたぁ……うぅ……だけどわざとやったんじゃないんだよぉ……)


 尤もわざとじゃないのにここまでの被害を出しているほうがどうかしている……まるで疫病神だ。


「今の声は……ひょっとしてヒメキ様でございますか?」


「お、お主はテプレ殿っ!? な、何故このようなところに……リース国はどうなされたのですかっ!?」


「私のような愚か者には国を治めることなど適わぬことでございました……今はサーボ様の下で一から修業をし直す所存です」


「おお、なんということだ……まさかリース国までお主の手に落ちておったとは……」


(違うんですよぉ……俺じゃなくてシヨちゃんなんですよぉ……)


 そう言って差し出してやりたい衝動にかられたが、こんな子供がやったなどと言っても信じてもらえないだろう。


「ど、どうしましょうヒメキ様……もうすぐ近くまであの二人組は迫ってますし……もうこの国はお終いなのでは……」


「あ、諦めるでないミイアよっ!! 我々が諦めてどうするというのだっ!!」


「い、今ミイアって……ミイアなのっ!?」


 不意に出てきた名前に反応して、ムートン君を弄っていたミリアさんが人力車から飛び出した。


(仮にも魔物が居る中に民間人が出るのは不味いよなぁ……)


 正直関わりたくないが、流石に放っておくわけにもいかず俺も後をついて人力車を出て騎士たちと対面する。


「え、ええとぉ……っ!?」


「お、お主が諸悪の根源であるサーボかっ!!」


「そ、そうです確かにこの人がイショサ国で暴れた……ってお姉ちゃんっ!?」


「や、やっぱりミイアっ!? あなたも実家に戻ってたのっ!?」


 ミリアさんにそっくりなミイアさん、どうやら二人は姉妹のようだ。


 しかしそんなことより、俺は新たに現れたこの二人の女性にいつもの既視感を覚えていた。


(この胸の高鳴り……間違いない、俺はこの二人とも……)


「お、お姉ちゃんこそ……あのダナって人と結婚したんでしょっ!! 何で他の男の人と一緒に旅してるのぉっ!?」


「な、何と人妻であられたミイア殿のご姉妹まで堕とされてしまっておるとは……サーボよ、お主はどこまで節操がないのだっ!!」


(違うんだよぉ、その子はムートン君に惹かれて勝手についてきただけなんだよぉ……)


「ひ、ヒメキ様そんなこと言わないでくださいっ!! サーボ様はお話の分かるとても素敵なお方なんですっ!! あのダナなんかとくっついた私の目を覚まさせてくれた素晴らしい人なんですっ!!」


「ああ、お姉ちゃんが洗脳されてるぅっ!?」


 物凄く騒がしくなっていく、そして俺への偏見がどんどん強まっていく。


「ヒメキ様っ!! こうなっては一か八か攻撃しましょうっ!!」


 人間に化けた魔物がさりげなく俺たちへの攻撃を促してくる。


「はぁ……どうしようかシヨちゃん?」


「確かにもう面倒ですねぇ……サーボ様が切り札で正体を暴くと同時にテキナさんが彼らを拘束しちゃってくださぁい」


「「了解」」


 このままでは確かに話が収まらないどころか、攻撃される可能性まで出てきた。


 ならば早いところ終わらせてしまおう。


対抗呪文(アンチマジック)


「『聖祈鎖(セイント・リストリクション)』」


「なぁっ!?」


 俺が魔物たちにかかった魔法を解除するのと同時に、テキナさんが二重魔法を放ち動きを押しとどめる。


(あれ……い、今こいつ無詠唱で二重魔法使わなかったか?)


「て、テキナさん今……」


「こ、こ、これは一体っ!?」


「え、ええっ!? な、何がぁっ!?」


「ぐぅぅううっ!! お、おのれ勇者サーボめぇっ!! 気づいておったのかぁっ!?」


 俺の疑問はすぐに飲み込まれた。


 姿を現した、見上げるような巨体をした魔物を見てヒメキ様とミイアさんが悲鳴じみた声を洩らしたからだ。


「あれあれぇ、これってひょっとして魔王城で門番してたって言うキマイラじゃないですかぁ……うふふ、意外な大物をゲットしちゃいましたねぇ~」


「こ、こうなったら力づくでぇっ!! ぐぅううっ!!」


(うーん、欠片も動けてない……流石テキナさんの二重魔法……やっぱり無詠唱で二重魔法使ってるなぁこいつ……)


 巨大な魔物が必死で力を振り搾って、しかし身じろぎ一つできていない。


 凄まじい威力だ、下手したら二重魔法の威力は俺を上回っているかもしれない。   


 しかもそれを俺ですらできない無詠唱で使えるとなれば……もう俺の優位は切り札しかないことになる。


(て、テキナさんだけは怒らせないようにしよう……この子が積極的に来るタイプじゃなくてよかったぁ……)


「あ、あの者達はどこへ……サーボよ何をしたのだっ!?」


「彼らは魔王軍の魔物が化けていたのですよ、こいつが正体です」


「そ、そんなぁっ!? じゃ、じゃあ私たちは……騙されて……」


 流石に目の前で正体を暴かれたこともあって、受け入れざるを得なかったようだ。


 ヒメキ様とミイアさんは顔を見合わせると、がっくりと肩を落とした。


「まあ魔王軍の狡猾さは今に始まったことじゃないから気にしなくていいんですよ」


「そうなのですよ二人とも、私のリース国も結界が張ってあったというのにどうしたわけか王宮内に忍び込み爆破されてしまったのですから」


「な、何と……あの結界を超えて大僧侶であるテプレ殿の目を盗み……そ、それほど狡猾な相手であったとは……」


「……エエ、ソーナンデスヨー」


 否定するわけにもいかず頷いて見せる。


「ふ、ふははっ!! 流石は我が同士っ!! あの結界を越えられぬと弱音ばかり聞こえていたがしっかりと攻略しておったとはっ!! これぞ魔王軍の底力よぉっ!!」


「……ウワァ、スゴイナー」


 カノちゃんが物凄い棒読みで頷いて見せた。


「まあそっちのことはともかくぅ、あなたは無様に不覚を取って哀れにも捕まってるんですよぉ~……おのれの立場もわきまえず威張っちゃダメダメですよぉ~」


「ぐぅううっ!!」


 シヨちゃんだけ罪悪感のかけらもないとばかりに、平然と魔物をからかい始める。


(ねえ、君が王宮を吹き飛ばしたんだよねぇ? 俺たちが居心地の悪い思いしてるのにどうして当事者の君がそこまで堂々と出来るの?)


 やっぱりシヨちゃんは危険だ、とても危険だ。


「だけどぉ、シヨたちの言うことに素直に応えてくれれば一度だけチャンスを上げますよぉ~」


「な、なにを言うかっ!! このキメラント様が魔王軍を裏切り貴様ら等の指図を受けると思うかぁっ!?」


「それだとこのまま退治しちゃいますよぉ~、だけどもしこっちの聞いたことに素直に答えてくれるならその拘束を解いて改めてまともに戦って差し上げますよぉ~」


「ぬ、ぬぅ……」


 自力で拘束を解けないことは既に悟っているようだ。


 僅かにキメラントの表情が歪む。


「もしもぉあなたがここで情報を開示してもぉ、その場で私たちを倒して口封じしちゃえば何も問題ないじゃないですかぁ~」


「そ、それは……ぐぬぬぅ……」


「あれあれ、どうしたんですかぁ……あぁわかったぁっ!! シヨたちに勝てる自信がないから困ってるんですねぇ~」


「ふ、ふざけるなっ!! このキメラント様が貴様らに勝てぬはずが無かろうがっ!! 良いだろう、貴様の提案に今だけ乗ってやろうではないかっ!!」


(シヨちゃんの勝ちぃ……いや、この展開に持ってく為にわざと煽ってたのかよ……)


 普通に尋問しても答えないだろうと踏んで、プライドをくすぐる作戦に出たようだ。


 流石と言うか、やはりシヨちゃんは頼りがいがあり過ぎて……恐ろしい。


 とにかくこの調子なら普通に情報収集が出来そうだ。


 俺は何を聞くか考え始めるのだった。

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[一言] サーボ一味はもはや世界の敵w
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