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王都リースにて……ドン引きだよもう……

「ムートンちゃんは本当に良い子ねぇ~」


「えへへ、ありがとう……でもみりあおねえちゃんもとってもやさしくていいこだとおもうよ?」


「ふふふ、そうやって素直に人を認められるムートン君こそが本当の良い子なんだよ」


「でもゆうしゃとしてたくさんのひとをたすけてるさーぼさまにはかなわないよぉ……ボクもさーぼさまみたいになりたいなぁ」


(何この子……天使なのっ!? 天使だよねぇっ!! やっぱり天使だってっ!!)


 半袖半ズボンを着た擬人化したムートン君は、素直に俺をほめて純粋に尊敬のまなざしを向けてくれる。


 弟子たちにも少しは見習ってもらいたいものだ。


「ねぇシヨちゃん……サーボ様が壊れたままなんだけどどうしたらいいのこれ?」


「しかもミリア殿まで付いて来てしまって……サーボ様が狙いではないとはいえ……」


「うぅ……しかもぉあの村の人達の人気者だったミリアさんをサーボ様が寝取ったことになってましたよぉ……こんな悪評は流石にシヨも嫌ですぅ……」


(何かゴチャゴチャうるさいなぁ……また悪だくみしてんのかこいつら……はぁ、ムートン君で癒されよぉ……)


 人力車の荷台で俺はミリアさんと共にムートン君と寄り添って癒されていた。


 ミリアさんは一時的に俺たちの仲間に入ったのだ。


 何でもあのダナという男と喧嘩したらしく、ツメヨ国にある実家に帰るつもりらしい。


(元々そこまで仲良くなかったみたいだし……別れるきっかけを無意識のうちに探してたのかねぇ……それともムートン君が可愛すぎるから……こっちかもしれないなぁ、うん)


 しかしミリアさんには移動手段がないらしいので、俺が共に行動することを提案したのだ。


 何せムートン君のことでわかり合えた同士だ。


 その危機を放っておくことなどできるわけがない。


「ほらほら~、ムートンくぅん……ここはどうかなぁ~」


「さーぼさまぁ……おへそくすぐったいよぉ~……まえはへいきだったのにぃ……」


「じゃあさすってあげちゃうわぁ……ほぉらぁ、よしよし……ああ、お肌も滑々ぇ~」


「め、めぇええ……み、みりあおねえちゃん……んぅ……はふぅ……」


 本当に可愛らしく悶えるムートン君に俺たちはメロメロだ。


「サーボ様ぁ、そろそろ王都リースに到着しますよぉ……」


「結界について聞きに行くんでしょ……ほら起きてぇ……」


「そ、そんなにペットを可愛がりたいのであれば……ふ、不肖このテキナが首輪をつけ……」


「……わ、わかったから今行くから……ごめんねミリアさん、少し人力車とムートン君をお願いね?」


「はぁい、勇者サーボ様の言う通りにしまぁす……ふふ、ほら行ってらっしゃいって手を振るのよ?」


「い、いってらっしゃぁ~い」


 ちんまい手を持ち上げて一生懸命左右に振るムートン君。


 やばい可愛い、鼻血が出そうだ……ミリアさんは実際に出してる。


「ほら、行くよサーボ様ぁっ!!」


「せ、背中を押さないでカノちゃんっ!? わ、わかったってばぁっ!!」


 見惚れていた俺を弟子たちが強引に引っ張り、王都の中へと入っていく。


(ああ、癒しが消えて辛い現実がぁ……ってマジで何か視線が痛いんだがっ!?)


 王都に入ると、何故か住人たちや護衛兵の人たちが俺たちを見て露骨に嫌そうにしている。


「な、何だこいつら……?」


「……あのですねぇサーボ様ぁ、この国は大僧侶イーアス様の出身地でもあるので僧侶を目指す人が……男女の関係に関しては潔癖症の方が多いんですよぉ……それなのに入り口で大人の男があんなショタっ子といちゃついてたら……ねぇ……」


(お、おれのせいなのっ!? と、というかムートン君の可愛さなら性別とか関係ないでしょうがぁっ!!)


 物凄く納得がいかない、とても理不尽だ。


「あ~あ……これじゃあ情報収集も一苦労だよぉ、どうしてくれるのサーボ様ぁ?」


「そ、そんなこと言われてもなぁ……と、とりあえず勇者としてこの国のトップと面会をだねぇ……勇者許可証どこにしまったっけ?」


「そう言えば一応勇者許可証を貰っていましたね、確かこのバックに……ありましたよ」


 テキナさんが荷物の奥底に押し込んであった許可証を取り出す。


 シヨちゃんが国を乗っ取った際に、強引に最高のSSSランクとして発行させたものだ。


 尤ももう彼女たちは勇者の称号に拘っていないようだし、俺も余り勇者を人前で名乗る資格があるとは思えない。


 だからこそ今まで完全に存在を忘れていた。


(これがあれば面談の許可ぐらい下りるだろ……何なら住人から情報を聞き出してもいいし……)


 しかし国全体に張ってありそうな結界ともなると、やはり国のトップでないと詳細は分からないだろう。


 だからまず最初に王宮へと向かった。


「止まれっ!! 貴様ら、王宮に何の用だっ!!」


(めちゃくちゃ敵対的だ……そんなに嫌わなくてもいいじゃん……)


 恐らく門番経由で情報が届いているのだろう。


 露骨に俺たちに敵意を飛ばす護衛兵、当然即座にカノちゃんが反応する。


「サーボ様に刃を……向けて当然だったね、あはは……ごめんなさぁい」


「カノさん……気絶させてから謝っても無意味だと思いますよぉ……」


 もはや条件反射のようで気絶させてしまった護衛兵にあっけらかんと笑いながら謝るカノちゃん。


 流石のシヨちゃんもドン引きだ。


(サイコパスかな……相変わらず怖ぇよ……)


「とにかく邪魔は無くなりましたね、先に進みましょう」


「邪魔ってお前……テキナさん、俺たちは別にこの国を攻めに来たわけじゃないんだけど……」


「そ、そうなのですか? し、しかし前にシヨが王宮に寄る暇があったら攻め落と……」


「て、テキナさんっ!? それはサーボ様にはシーですぅっ!!」


(やっぱりお前のほうが危険人物だよ……何企んでんだシヨちゃんよぉ……)


 俺はシヨちゃんにドン引きだ。


「な、何をしてるんだお前らぁっ!?」


「ご、護衛兵が倒されてる……さては貴様ら大僧侶テプレ様の命が狙いかぁっ!?」


「そんなことさせるものかっ!! リース国の名に懸けて貴様らのような狼藉者の好きにはさせんっ!!」


(なんかぁ……とんでもないことになってるんですけどぉ……)


 どんどん人目が集まってきて、シャレにならないぐらい騒ぎが大きくなっていく。


「み、皆さん落ち着いてくださいっ!! 我々は勇者として……」


「何が勇者だっ!! 護衛兵を叩きのめして王宮に乗り込もうとする勇者が居る者かっ!?」


「……デスヨネー」


 説得力があり過ぎて何も言い返せない。


「「「「「聖なる祈りに応え悪しき者に制約を齎し賜え、聖祈鎖(セイント・リストリクション)」」」」」


 本格的に俺たちを捕らえようとしたのか、俺たちを取り囲む無数の住人たちが同時に拘束呪文を解き放つ。


 相乗効果を発揮したその魔法は一般人が唱えたとは思えないほど強固だった……しかし俺たちに通じるわけがない。


「よっと……これで正当防衛成立っと……悪く思わないでねぇ~」


「な、よ、よけ……っ!?」


 魔法を躱したカノちゃんが一瞬で百人近い術者を気絶させた。


 お陰ですぐに効果は消えた……尤もかかっていても動きに影響は全くなかったが。


「ふぅ……ちょぉっとだけシヨは冷や冷やしちゃいましたぁ……」


(そうか、シヨちゃん程度ならまだ少しは拘束できてたのか……というか次からこいつだけは魔法で縛れば……口が動かせるから意味ねぇなぁ……)


 むしろそんなことしたら残る二人を扇動して大暴れさせかねない……諦めよう。


「それよりどうしますか……このままこの場に残ってくるものを返り討ちにし続けますか?」


「何で一般人を返り討ちにしなきゃいけないのさぁ……俺たちは勇者として……」


「もうお辞めくださいませっ!! これ以上罪のない者達を痛めつけるのは許しませんっ!!」


 不意に毅然とした美しい声が聞こえてきた。


 顔をそちらに向ければ、王宮内から十字架の形を模した杖を持った女性がこちらに近づいてきている。


(ああ……いつもの奴だ……胸がドキドキするよ……)


「ええとぉ、どちら様ですかぁ?」


「この国を治めさせていただいている大僧侶のテプレと申します……皆さま方の狼藉をこれ以上見過ごすことはできません、今すぐ罪を悔い改め人々に謝罪するのですっ!!」


(大僧侶ってのは確かご先祖様と魔王を退治した仲間の称号……それがこの国に指導者をしてるのか?)


「へぇ、ちょぉどよかったぁ……実は僕たち貴方に聞きたいことがあるんだぁ」


 当たり前のようにテプレ様に話しかけるカノちゃん。


 その顔には罪悪感だとかそういうものは一切浮かんでいない。


(か、カノちゃん……命は奪ってないとはいえついに暴力を振るうことになんの呵責も覚えなくなっちゃって……うぅ……もとは良い子だったのにぃ……)


 俺の育て方が悪かったのだろうか……一体どうしてこんな子になってしまったのだろう。


「私の話を聞いていたのですかっ!! このような狼藉を働くものにお答えできることなどありませんっ!! ですからまずは罪を償って……」


「答えてくれないならこれ以上ここに居ても時間の無駄だね、サーボ様他の村に向かおうよぉ」


「か、カノちゃんさぁ……シヨちゃんからも何か言ってやって……」


 気が付いたらシヨちゃんの姿がない。


「て、テキナさんっ!? シヨちゃんはどこにっ!?」


「今のうちにやることがあると王宮の中へと入って行きましたが?」


「何で止めないのぉおおっ!!」


 絶対にヤバい、ヤバすぎる。


 俺も急いで後を追いかけようとして、テプレ様に邪魔をされる。


「どこに行くつもりですかっ!! あなた方は私を馬鹿にしているのですかっ!!」


「い、今はそれどころじゃないんだっ!! あ、あの王宮内にテロリストが侵入してるんだってっ!!」


「そんな子供じみた嘘に騙されるわけが……っ!?」


 テプレ様が叫ぼうとしたところで、不意に王宮の方から爆音が響き渡った。


 全員でそちらを見ると、爆発魔法の効果によって王宮がまさに吹き飛ぼうとしているところが目に入ってきた。


(し、シヨちゃぁあああああんっ!? なにやってんだぁああああっ!!)


「え……な、なななななぁっ!?」


「う、うわぁ……し、シヨちゃん何考えてんだろぉ……流石の僕もドン引きだよぉ……」


 一般人に手を出すことを厭わないカノちゃんも、流石に王宮爆破には困惑している。


「こ、これは……あぁっ!? ま、まさかこんな……ふぅ……」


 どうやら現実に耐え切れなかったようで、テプレ様はあっさりと気絶した。


 無理もない話だ。


 急に尋ねてきた見ず知らずの旅人が住人と護衛兵を叩きのめしたかと思えば、つい先ほどまで自分が居た王宮が吹き飛んだのだ。


 誰だってショックを受ける……というか俺ですらシャレにならない精神的ダメージを受けている。


「さて、これからどうしましょうかサーボ様?」


 意外なことに唯一この場で平然としているのはテキナさんだけだった。


「ど、どうしましょうって……」


(俺が聞きてぇよぉ……どうしたらいいんだよこれぇ……) 


「そんなことでは困りますよ……シヨがこれから騒ぎになるだろうけれど慌てずにサーボ様の指示を仰げとおっしゃってたのですからね」


「……ああ、そうですかぁ」


(そこまで聞いてたならなおさら止めてくださいよぉ……貴方は状況判断とかできないんですかぁ……)


 どうやらテキナさんは言い方は悪いが指示待ち人間的な面があるようだ。


 今回はあらかじめ言われていたことだからこそ、ある程度落ち着いているのだろう。


「ねぇサーボ様ぁ……シヨちゃん放っておいていいのかなぁ?」


「むしろ手が付けられないんだが……こんなことまでして……」


「だけど全然出てくる気配ないよ……これって本当にシヨちゃんがやったのかなぁ?」


「っ!?」


「そ、それは……っ!?」


 カノちゃんの指摘にふと俺たちは我に返った。


(そ、そうだよっ!! これをシヨちゃんがやったとは限らないじゃないかっ!!)


 シヨちゃんのことだからと思考を停止していたが、考えてみればこんなメリットのなさそうなことをあの子がするとは思えない。


(た、確かバンニ国の時も同じことが……あの時は魔王軍が……ま、不味いっ!?)


 確かにシヨちゃんもある程度は強いが、それでも俺たちの中じゃ一番弱い……やられる可能性は十分ある。


「くそっ!! カノちゃん、テプレ様を安全なところへ運んでくれっ!! 俺とテキナさんは王宮へ乗り込むっ!!」


「わかったよっ!! 僕もテプレ様を避難させたらすぐ追いかけるからっ!!」


「任せたよっ!! 急ごうテキナさんっ!!」


「はいっ!!」


 さっと消えるカノちゃんを見送り俺とテキナさんは急いで黒煙が上がる元王宮だった廃墟へと入っていく。


「シヨちゃんっ!! どこに居るんだっ!!」


「シヨよ、返事をしてくれっ!!」


「シヨちゃんっ!! どこにいるのぉっ!!」


 乗り込んでシヨちゃんの名前を叫ぶと、何故かこの時点で既に当たり前のように合流していたカノちゃんも声を上げていた。


(戻ってくるの早すぎない? って今はそんなこと考えてる場合じゃねぇっ!!)


 あちこちに散らばる瓦礫は全て原型をとどめないほど小さくなっていて、放たれた魔法の威力を無言で物語っているようだった。


(こんな魔法が直撃したら俺たちならともかくシヨちゃんは……た、頼む無事でいてくれっ!!)


「シヨちゃぁああああああんっ!!」


「はい、どうしましたぁ?」


「うぉっ!?」


 さっと黒煙を割ってシヨちゃんが姿を現した。


「し、シヨちゃん無事だったんだねっ!!」


「もちろんですよぉ、いくら皆さんに比べてシヨが弱いからって流石に自分の魔法で怪我したりはしませんよぉ~」


「…………え?」


 さらっととんでもないことを言うシヨちゃん。


「えっ!? これ……本当にシヨちゃんがやったの?」


「ああっとぉ、いけないいけない……いいえぇ、これは魔王軍さんの仕業ですよぉ……だからシヨたちはこの国を守るために強権を発揮する必要があるんですよぉ~」


 恥ずかしそうに舌を出しながら、にこやかに語るシヨちゃん。


(……そ、そういうことかぁああっ!! こいつマッチポンプしようとしてやがったのかぁあああっ!!)


 どうやらシヨちゃんは本気でこの国を手中に収めるべく行動していたようだ。


 魔王軍の仕業と称して被害を出して、勇者として手助けする風を装い発言力を得てこの国を支配するつもりのようだ。


(し、心配して損したぁ……というかもう付き合いきれねよぉ……はぁ……)


「……ねえサーボ様ぁ、シヨちゃんってひょっとして一番危険なんじゃぁ?」


「……かもしれないねぇ」


 カノちゃんの言葉に、いつもならお前が言うなと想うところだが……今回ばかりは素直に頷いて見せるのだった。

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