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王女プリスと指名手配犯……シャレにならねぇ……

「……どうしようかムートン君?」


「……」


「……」


 止まった時の中では当然ムートン君は返事をしてくれなかった。


 当然もう一人連れてきた……プリス様も同様だ。


(あのまま放置したら間違いなくカノちゃんたちの手にかかる……とはいえ王女様を誘拐してしまったぁ……)


 はっきり言ってシャレにならない。


 しかしあの状態で俺に取れる手段はこれしかなかったのだ。


(本当にそうか? うまく説明すれば口先で……いや俺はそれ苦手だしなぁ……)


 何より口先ででたらめを並べて人を騙すような真似はしたくない。


(……いや変だな、俺は一度あんまり酷かったとはいえ魔法で弟子たちの精神を叩きなおそうとした……今更口先でごまかすのを何で躊躇う?)


 どうもよくわからない、やはり俺は何かを勘違いして……無意識のうちに何かに逆らっているような気がする。


 こうなってはいけないという忌避感……いや義務感だろうか。


(どうかしてるなぁ……大体今考えるべきことはそれじゃないはずだ……)


 現実逃避しそうになった意識を引き締めなおし、改めて目の前で固まるプリス様へと視線を移す。


 豪華な服装で着飾った美しい王女様、俺なんかとは無縁なはずの雲の上の存在。 


 なのにどうしてか俺は彼女を見ていると懐かしいような、嬉しいような不思議な気持ちになる。


(弟子たちと会った時と同じ……いつも通りなら仲間に勧誘するところだが……)


 幾らなんでも王女様を旅に連れ出すわけにはいかない。


 だからどうにかして王宮に戻してやる必要があるのだが、その前に少し話しておこうと思う。


(このまま有耶無耶にして別れたら、下手したら俺の弟子たちが指名手配されかねないからなぁ……)


 目の前で暴れたことと殺気をぶつけたことをどうにか弁解しなければいけない。


 何だかんだであの三人の弟子は大切なのだ、だから俺は面倒なことになると分かっていながらも時間停止を解除した。


「な、な、な、な、なぁ……っ!?」


 途端に動き出したプリス様は周囲の光景が一転していることに気づき、激しく首を振り自らの状態を確認し始めた。


「すみません、危険でしたので一時避難させていただきました……改めて自己紹介を……」


「え、ええいっ!! さっき聞いたわっ!! 勇者なのであろうっ!! お主どうしてこのようなところにわらわを連れ出したのじゃっ!!」


「で、ですから危険でしたので……」


「じゃから何故それでわらわを外へと連れ出す必要があるのじゃっ!! あの狼藉者どもを倒せばよかろうがっ!!」


「い、いや彼女らは敵ではなくて……」


「わらわに歯向かう者は全て敵じゃっ!!」


(全く会話にならねぇ……なんかイメージと違うぞ……)


 勝手な話だが、俺はこの子のことをもっと弱々しい……小動物のようなイメージをしていた。


 しかし実際にはまるで誰彼構わず吠え掛かる猛犬……いや子犬だろうか。


「分かったら行くぞっ!! あの狼藉者どもを今度こそ始末……」


「し・ま・つ・さ・れ・る・の・は・あ・ん・た・だ・よ・ぉ」


「ひぃいっ!?」


「くぅっ!?」


 余にも恐ろしい声が聞こえて、俺は咄嗟にプリス様を庇うべく抱きかかえた。


 その瞬間、カノちゃんが……姿も見せずにナイフを突き立ててくる。


「サーボ様邪魔サーボ様邪魔サーボ様邪魔サーボ様邪魔邪魔邪魔邪魔ぁあああああああっ!!」


(化け物かな……怖すぎる……魔王軍よりずっと脅威だよこいつ……)


 身体中切り刻まられていく。


 尤も今回は俺を倒すことが目的でないので急所だけは見事に避けられている。


 それでも痛いことは痛い……涙が出そうだ。


(酷いよなぁ……本当にこいつは俺を尊敬してんのかなぁ……ぐすん……)


「ひぃいっ!!」


「お、落ち着いてください、私がお守りいたしますの……」


「サーボ様どうしてサーボ様なんでサーボ様その子をサーボ様庇うのサーボ様ねえサーボ様にはサーボ様僕がいるのにサーボ様何でサーボ様サーボ様サーボ様……」


「カノちゃん、お願いだからやめてよ……無関係な人を巻き込まないで……」


「無関係じゃないよだって僕のサーボ様を取ろうとするやつは全員敵なんだから間違いなく敵なんだからサーボ様に抱かれてるそいつを抱き着こうとした泥棒猫を叩きのめして打ちのめしてそれで僕が代わりにそこに納まってナデナデしてもらってギュってしてもらってベッドで一緒にくっついて裸で……」


強制転移(リジェクトワープ)


 もう駄目だと何度目になるかわからない判断を下した俺は、いつも通り切り札を解き放つ。


「あはははははっ!! 今更そんなの僕に当たるわけ……っ!?」


 残像を残してそちらに魔法のターゲットを向けさせることで強引によけたカノちゃん。


(わかってるよカノちゃん……だけど避けたことで流石に距離は離れたよね……)


時間停止(タイムストップ)


「あぁああああ……っ」


 間髪入れずに二発目を放つと、流石に反撃が間に合わなかったようでそのまま無防備に停止するカノちゃん。


 今のうちにどこかへ飛ばしてしまおう。


強制転移(リジェクトワープ)、あと回復(ヒーリング)


 流石に時間が止まっている最中は抵抗もできず、どこぞへと飛んでいくカノちゃん。


 ようやく落ち着いた、傷も言えたところで俺は改めて魔法を解除する……前に場所を移動することにした。


 あのカノちゃんのことだ、同じ場所に居ては数秒で嗅ぎつけて来かねない。


 その後でようやく時間を動かす。


「ひぃぃっ!!」


「ご安心くださいプリス様……もう安全でございます」

 

「な、何が安全……お、おお……あ、あやつを倒したのかっ!?」


「いえまあ、追い返しただけですかねぇ……」


「な、何故退治しなかったのじゃっ!? あ、あんな危険な……うぅ……」


(気持ちが痛いぐらいわかる……だけどあんなんでも俺の可愛い弟子なんですよぉ……)


 怖いし恐ろしいし面倒くさいし距離を置きたくてたまらないけど……何だかんだでカノちゃんは大切な弟子だとは思っている。


 だから始末などできるはずがない……俺はそれをわかってもらおうと口を開いた。


「プリス様、あの者は……」


「みぃつけたぁ……えへへ、やっぱりこっちに居ましたかぁ?」


「し、シヨちゃんっ!? ど、どうしてここにぃっ!?」


「この辺りで身を隠せそうな場所はここともう一カ所ぐらいですけどぉ、そっちの方向にはカノさんがすっ飛んでいきましたからぁ……サーボ様ならきっと逃げ切ってこっちに来るって思ってましたよぉ……」


(完全に読まれてる……いや理論的にはわかるけどさぁ……)


「こ、この者は何者じゃ?」


「シヨはサーボ様の弟子ですよぉ……そして貴方が居るサーボ様の腕の中はシヨの場所なんですよぉ……いけませんねぇ泥棒猫さんはぁ…叩いて潰して皮を剥いで肉をそぎ落とし足先から寸刻みにして最後まで残る目で自分の末路をしっかりと自覚させたうえで処分しないと駄目ですよねぇ」


 とても恐ろしいことを無邪気な笑顔でのたまうシヨちゃん。


 これはこれで恐ろしい……カノちゃんのストレートな邪気とはまた一味違う恐怖だ。


「ふ、ふ、ふ、ふけ、不敬なぁっ!? さ、さ、サーボよ、こ、こやつを叩きのめ……」


「あららぁ、お口が上手く動いてませんねぇ……シヨがその震えを止めてあげますよぉ……ほらサーボ様どいてくださぁい」


「どくわけないでしょうが……あのねぇシヨちゃん、いくら何でも君には負けたりしな……」


「カノさぁんっ!! ここに泥棒猫がぁ……っ」


「た、時間停止(タイムストップ)っ!! 時間停止(タイムストップ)っ!! 時間停止(タイムストップ)ぅううっ!!」


(な、何という恐ろしい呪文を使うんだこいつはぁああああっ!!)


 焦って三回も同じ呪文を唱えてしまった。


 しかしそれぐらい危険な状態だった。


(どれだけ距離があってもあのカノちゃんが叫び声を聞き漏らすはずがない……今のうちに距離を……ひぃっ!?)


 移動しようと振り向いたところで、狂気の笑みを浮かべたカノちゃんが今にも飛び掛からんという態勢で固まっていた。


 やはり聞きつけて、一瞬でここまで移動してきたようだ。


(し、心臓止まるかと思った……怖すぎるよぉ……)


 もう一度移動しよう、下手に隠れられる場所ではなくて彼女たちの意表をつけそうな所を選ぼう。


(王宮……に今戻ったら大騒ぎになるし……そうだ、人力車っ!!)


 あの中にそっと隠れれば周りからは簡単には気づかれないだろう。


 仲間からすればまさか俺たちの拠点に隠れているなど考えもしないだろう……多分。


(し、シヨちゃんならすぐに気づきそうだけど……他に何も思い浮かばねぇ……)


 とにかく急いで人力車に向かい、中に潜んでから時間を動かす。


「さ、さ、さ、サーボぉ……あ、あれ……こ、ここは……っ!?」


「何度も怯えさせてすみません……今度こそ安全なはずですので……」


「ほ、本当だなっ!? 本当なんだなっ!?」


「え、ええ……ですからどうか落ち着いて……」


「その声は……サーボ様、戻っていらしたのですか?」


 ひょいっと人力車の入り口から顔を覗かせるテキナさん。


 入る時は気づかなかったから、恐らくすれ違い……というかタイミングよく駆けつけてきたのだろう。


「テキナさん……どうしてここに?」


「カノもシヨも走って行ってしまい、どうしていいかわからなかったので一度戻り皆が戻るのを待つことにしたのですよ」


「そうでしたか……」


「ええ……しかしやはりサーボ様が王女プリス様を連れ歩いていたのですね……きっと意味のあることなのでしょうが……」


 何やら歯切れの悪いテキナさん。


「何を言いたいのかな?」


「わ、わらわがここに居たら不都合でもあるのかっ!?」


「いえ、それが我々はどうも王様暗殺未遂及び王女様誘拐犯として見られているようで……今も私は人力車に余計なちょっかいを出されないよう護衛を兼ねて戻ってきたのですよ」


「……おぉーぅ」


(な、何でいつもいつもそうなるんだよぉ……俺は助けて回ってんのにぃいいいっ!!)


 確かに状況証拠だけ見ればその通りだ。


 しかし何やら虚しくなってきた……泣きたい。


(い、いやプリス様は俺に助けられたことを知っているし……何とか事情を理解して貰ってから返せばまだワンチャンスあるっ!!)


 そのためにも何が何でもプリス様には俺たちの現状を理解してもらわないといけない。


「ぷ、プリス様……俺たちは別に貴方に危害を加えようという集団では……」


「よ、よく言うわっ!! お主はともかく他の二人はわらわに露骨に殺意を向けておったではないかっ!!」


「い、いやそれはそうなんだけどぉ……て、テキナさんからも何か言ってやってっ!!」


「は、はぁ……プリス様、あの二人はサーボ様を慕う余り暴走しているだけなのです……どうか寛大な気持ちで許して差し上げられないでしょうか?」


「な、ならぬっ!! わ、わらわにあんな思いをさせた連中は死刑じゃっ!! 絶対に許すわけにはいかんのじゃっ!!」


(頑なだなぁ……まああれだけビビらされれば当然かなぁ……)


 これは本格的に説得する必要がありそうだ。


 だから俺は口を開き……かけたところで視界の端に輝くものを捕らえた。


 咄嗟に剣を抜き放つと、テキナさんが振り下ろそうとした剣と正面からかち合った。


「て、テキナさんっ!? い、一体何をっ!?」


「サーボ様はおっしゃった……仲間を守るためならば誰とでも戦うと、私も弟子としてその思想を貫くだけですっ!!」


「ちょぉっ!?」


「サーボ様、さあ仲間を守るためです……心苦しいですがそちらの方の口を黙らせましょう」


「ひぃいいっ!! さ、サーボサーボサーボぉおおっ!!」


 テキナさんの抜き身の殺気は、今までの二人と違って狂気さより真剣さが勝っている。


 だからこそ、ある意味より恐ろしく感じる。

 

 事実腕の中にいるプリス様は、度重なる殺気に当てられたということもありついには涙目で俺に縋りつき始めた。


「お、落ち着いてテキナさんっ!!」


「どうしたのですかサーボ様っ!! あの時の言葉は嘘だったのですかっ!!」


(こういう意味じゃねぇえええええっ!!)


 しかしそう言ったところでテキナさんは止まらないだろう。

 

 またヤバいことにテキナさんの実力は俺とほぼ互角、ましてプリス様をかばいながら戦えば間違いなく俺が負ける。


 仮に負けなくても膠着状態に陥れば、俺たちの争う音を聞きつけて化け物がやってくる。


(ああもう、これしかねーじゃねぇかああっ!!)


「さあサーボ様っ!! そこをどいて……」


時間停止(タイムストップ)


 時間を止めて、強引にこの場を脱する。


(もう……誤解を解くのはあきらめよう……)


 腕の中で泣きじゃくったまま止まるプリス様。


 これ以上連れ回しても同じような恐怖を与えるだけだ。


(この子の泣き顔を……いや弟子たちもだけど……見たくないからなぁ)


 だから指名手配される覚悟で俺はプリス様を王宮へと送り届けることにした。


 元のプリス様の部屋に戻り、ちょうど誰もいないことを確認して時間を動かす。


「さ、サーボサーボサーボぉおおっ!!」


「お、落ち着いてくださいっ!! 今度こそ大丈夫ですっ!! ほら見てくださいっ!!」


「い、嫌じゃっ!! もう怖いのは嫌なのじゃっ!!」


 完全に怯えて俺の腕の中で震えるプリス様。


(本当に悪いことをしてしまった……もう二度と会わないから許してくれ……)


 二度と会えないと思うと胸がずきりと痛むが、こればかりは仕方ない。


 何よりこれ以上この子を泣かせたくなくて、俺は優しくプリス様の頭を撫でて別れを告げる。


「済みませんプリス様、これほど悲しませてしまって……俺はあの者達を連れて二度とここには近づきませんから今度こそ安心して……」


「だ、駄目じゃっ!! サーボお主はわらわから離れるなっ!! ずっとずぅっとこうしておるのじゃっ!!」


「え、い、いやそう言うわけには……」


「わらわがそうしろと言ったらそうするのじゃっ!! もう怖いのは嫌なのじゃっ!! こうしてずっとわらわを守り続けるのじゃっ!!」


 腕の中で必死に俺にしがみ付き離れようとしないプリス様。


 そのうちに叫び声を聞きつけた兵士たちが、王様と共にやってきてしまう。


「プリスよっ!? 戻ってきておったのかっ!! お主我が娘を泣かせるとはわかっておろうなぁっ!!」


「ささ、プリス様どうぞこちらへっ!!」


「い、嫌じゃわらわはサーボから離れとうないっ!! 父上そして皆の者っ!! わらわはサーボと共に生きるぞっ!! そのように取り計らうのじゃっ!!」


「「「えぇええええっ!!」」」


 プリス様の余りな発言に、その場にいた俺達は全員素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。


「よいなサーボっ!! お主はずっとわらわをこうして守るのじゃっ!! 魔王軍からもあの化け物どもからもじゃっ!! 拒否は許さんのじゃっ!!」


(ど、どうして……どうしてこうなるんだよぉおおおおっ!!)

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