バンニ国にて……ここでもかぁ……
(……うぅ、皆さんごめんなさぁい)
人力車に揺られながら、俺は後悔と懺悔をしながらムートン君の身体に顔をうずめていた。
「どうしたのサーボ様? せっかくサーボ国の王様になったのにそんな顔してちゃ国民が不安になっちゃうよ?」
(止めてくれカノちゃん……あの時の俺はどうかしてたんだよぉ……)
「サーボ様の活躍はお見事でしたぁ、誰一人傷すらつけず敗北を理解させるなんてシヨたちじゃできませんでしたよぉ」
(止めてくれシヨちゃん……切り札まで使って暴れた自分が許せないんだぁ……)
「サーボ様、これから隣国に攻め……交渉に行くというのにそのような顔をしていては……な、何でしたら私を相手にストレス解消を……」
(止めてくれテキナさん……あの国にはいられないから逃げ出しただけなんだよぉ……)
「めぇええ……」
「ああ、温かいよムートン君……」
俺を労わり動こうとしないムートン君の身体に密着して、その体温と羊毛の柔らかさを堪能する。
こうして精神を癒さしつづけていないととても持たない。
(どうして俺はあんな屑な真似をしてしまったんだぁ……前だってここまでは……ああ、もう訳が分からねぇ……)
時々入り混じる謎の思考も増えてきた。
俺は一体どうしたというのだろうか。
「サーボ様ぁ、いい加減僕のことも相手してよぉ~」
「サーボ様ぁ、シヨと遊びましょうよぉ~」
「さ、サーボ様……わ、私もその共に休みたいと……できれば抱き枕として使っていただきたいと……」
「いいからテキナさんは人力車を引いてね、シヨちゃんはついた後のことを考えてカノちゃんは周囲の警戒……みんなやることやろうね」
弟子たちに言い切って俺は改めてムートン君の素晴らしさを堪能して、心を穏やかに勤めようとする。
「ずるいよムートン君ばっかりずるいずるいずるいずるぃいいいっ!!」
「サーボ様は何もしないでお休みですかぁ……シヨ怒っちゃいますよぉ?」
「サーボ様……その、私もそろそろ休憩を頂きたいのですが……」
(相変わらず俺の言うことを聞かない弟子たちだこと……それに比べてムートン君は天使だなぁ……)
尤も弟子たちの暴走についてはもうあまり気にならない……自分がそれ以上の暴走をしてしまった以上咎める権利などなくなってしまった。
(もういざとなったら実力行使も辞さんぞ俺は……はぁ……こりゃあ勇者なんか名乗れそうに無いなぁ……)
己の情けなさを嘆きながら、とりあえず出来るだけ弟子たちを抑えようと言葉を続けることにする。
「それよりもだ、そろそろ着くんじゃないかな……隣国のバンニとか言ったっけ?」
「そうですねぇ、イショサ……サーボ帝国とそこまで距離は離れてないはずですからねぇ」
「シヨちゃん、その名前だけは止めてくれよぉ」
「だけど今頃カーマさんとセーヌさんが一生懸命、領内に周知して回ってると思うけどなぁ……」
カーマ殿とセーヌ殿は占領したばかりの国で反乱が起こらないようにという名目でシヨちゃんがイショサ国に置いてきたのだ。
(ふははは、残念だがあの二人には秘密裏に元に戻しておくよう指示を出しておいたのだ……俺の命令とシヨちゃんの指示なら……お、俺が優先だよな……?)
ちょっぴり不安だが、まあ大丈夫だろう……多分。
「サーボ様っ!! 王都バンニに到着いたしましたっ!!」
(流石に早いなぁ)
早速降り立つと、立派な門構えと入り口でこちらを封鎖する門番の姿が見えた。
「き、貴様らは何者だっ!? あ、あの速度は一体っ!?」
どうやらオーラ突きを連発して移動するのが余りにも不安をあおっていたらしい。
怯えながら槍を付きつけようとする門番……は次の瞬間には倒れ伏していた。
「サーボ様に刃を向ける奴は許さない誰一人どんな理由があっても許さない絶対許さない許さない……」
(はーい、カノちゃん暴走モード入りましたぁ……はぁ……)
俺が止めるより速く動かれたらどうしようもない。
軽く周りを見回すと、既に兵士は全員意識不明状態……出入りしていた住人が怯えた様子で俺たちを見つめている。
「……このままじゃ絶対噂になって不味いことになる……とりあえず目立たないよう解散して後で合流しよう」
「じゃあ僕はサーボ様と一緒絶対一緒ずっと一緒に……」
「シヨはこの中じゃ一番弱いから一緒に行動するのが当然ですよねぇ?」
「さ、サーボ様……私は忠実な家来として……いえ僕として共に行動を……」
「……じゃあまた後で、時間停止」
「っ!? させな……」
俺のやることに気づいたカノちゃんがとっさにナイフを投げつけてきた。
「……アブねぇなぁ」
ナイフがぎりぎり俺に届く前に時間が止まり、空中に留まった。
それを叩き落としながら安堵のため息をつく俺。
(段々この切り札にも対策してきてやがる……どうしたもんかなぁ……)
いずれ俺は攻略されてしまう気がする。
その時果たしてどうなるのか……間違いなく色々と搾り取られることは間違いがない。
(せめて普通にしてくれれば俺だってさぁ……どうして俺の意志を無視して自分の欲求を押し付けてくるんだこいつらは……?)
その辺りに物凄い違和感を感じる。
元々はもっと従順だったような……しかし同時にある意味でありのままの俺を見てくれていることにありがたさを感じる気もする。
(この辺りの謎も解きたいもんだけど……まあ今考えても仕方ないな……)
とにかく魔法の効力が持っている間に出来るだけ移動しよう。
そうして合流場所をと思ったところで、気が付いた。
(待ち合わせ場所決めてなかったわ……)
一瞬魔法を解いて相談でもと考えたが、今にも襲い掛からんという表情のカノちゃんを見て諦めた。
まあこいつらなら放っておいても死にはしないだろう。
そして俺が居なければ遠からず暴走する……その騒ぎになっているところに駆けつければいい。
だから俺はムートン君だけ連れてさっさとその場を後にするのだった。
(しかし……時間が止まってるとは言え、何か新鮮だなぁ)
王都バンニの中を見回りながら、俺は何故か新鮮さを味わっていた。
(前に王都イショサを歩いていた時は何も感じなかったのに……不思議なもんだなぁ……)
市場や住宅街などが並ぶ街並みは、綺麗なのだがどこか不揃いにも感じてしまう。
この国はもっとこう、整然と……まるで設備を考えた上で一から作り直したような効率的な都市のような気がしてならないのだ。
(まあ……イショサ国の外に出たのは初めてだから興奮してそんなこと考えてしまうのかな?)
それなりに人でにぎわってもいるし、これなら流石のカノちゃんでも俺を見つけ出すのに時間もかかるだろう。
だから路地裏に入り、人目がないことを確認して俺は時間を動かし始めた。
「め、めぇええ?」
「大丈夫だよムートン君」
時間が動き出し、周りの変化に気づいたムートン君が慌てたような声を出す。
そんな彼が落ち着けるように俺は優しく身体を撫でてやる。
「めぇええ……」
「ふふ、ここがいいのかなぁ……ムートン君の鳴き声は本当に……」
「おい、てめぇ何してやがんだぁっ!?」
「ん?」
粗暴な声に顔を上げると、何やら野盗くずれのような風貌の男が数人こちらを見下していた。
「こんなところで隠れて魔物を飼ってる奴がいるなんてなぁ」
「へへ、このことをばらされたくなかったらわかってるだろうなぁ?」
「俺たちは泣く子も黙る……」
「豪雪暴風」
俺とムートン君のひと時を邪魔する不届きな輩はあっという間に氷漬けになった。
「ふぅ、うるさい連中だった……ほらムートンく……」
「お、親分っ!? て、テメェ何をっ!?」
「豪雪暴風」
新たに湧いてきた雑魚をひとまとめにして氷漬けにしてやる。
(何だってんだ一体……?)
流石に何度も街中で吹雪が舞い、そこに氷の塊が出来ると人目が集まってきてしまう。
「仕方ない、ムートン君……移動しようか?」
「め、めぇええ……」
素直で良い子なムートン君を抱きかかえて、俺は近くの屋根の上へと飛び上がった。
そのまま屋根から屋根に移動を続けて、どこか落ち着けそうな場所を探すことにした。
「っ!?」
「めぇっ!?」
そんな俺たちの耳に爆音が聞こえて、その方向を見れば王宮の一部から煙が湧き上がっているではないか。
王宮のど真ん中で暴れるような存在に俺は心当たりがあり過ぎる。
(あ、あいつらっ!? ここでも暴れる気かよっ!?)
冗談じゃない。
イショサだけでなくバンニ国でまで悪評をとどろかす羽目になるのは勘弁だ。
「い、行こうムートン君っ!!」
「めぇええっ!!」
力強く頷いたムートン君を抱きかかえたまま、俺は全力で爆発があった場所へと向かった。
(二階の一室か……今の俺なら余裕で飛び移れるっ!!)
全力で飛び上がり、王宮の塀も門も飛び越えて爆発でできた壁の穴へと飛び込んだ。
黒煙が上がる一室には瓦礫に埋まりかけた男と全く同じ姿顔をして俺へ視線を移した男……そして床にへたり込みながらも生意気そうな表情を浮かべる少女の三人が居た。
「き、貴様らぁ……わらわ達を王族と知っての狼藉かっ!?」
「おやおや、もう追手が……貴様は勇者サーボかっ!?」
(お、俺のことを勇者と言ってくれるなんて感激ぃ……何て言ってる場合じゃない、こいつは魔王軍かっ!?)
散々人間の里で暴れまわった俺を勇者などと褒めたたえてくれるのは、もう魔王軍ぐらいしかいない。
おまけに魔力の流れを見れば、身体の表面を覆い隠すように包んでいるのがわかる。
(恐らくそっちの倒れた男に化けたんだろうなぁ……だけどそれよりも……)
ちらりと横目で俺と魔物を睨みつける少女を見ると、やはり心臓が僅かに高鳴った。
カノちゃんたちと同じだ。
(し、しかしこの子は王族……前はムートン君にも反応したし……何なんだこの感覚はっ!?)
まるで共通点が見いだせない……しかし今はそんなことを考えている場合ではない。
俺は頭を振って余計な考えを止めると、剣を抜き魔物へと突き付けた。
「俺のことを知っているということは貴様は魔王軍だな……何を企んでいるっ!!」
「くぅっ!? 隣国からあっさりと魔王軍が駆逐されたと聞いて、王族と入れ替わる作戦を速めたつもりが……このヴァンヴィル一生の不覚だっ!!」
「ほほう、なるほどなぁ」
とても分かりやすい説明だ。
こいつは結構いいやつなのかもしれない。
もっと色々と聞き出してやろう。
「そんなお前に命令を出しているのは誰なんだっ!?」
「チーダイ様の崇高なる命令だ……それを完遂できぬとは……情けない……っ」
「そのチーダイとはどこにいるのだっ!?」
「このような場所にいるはずが無かろう、この世界の東西南北のはずれにある小島に炎のエンカ、水のスーイ、風のフウクとそれぞれ基地を作って待機しているのだ」
「ほほう、では魔王はどこに……」
「き、貴様っ!! 勇者だというのならば早くこの下劣な魔物を始末せぬかっ!!」
(ああ、余計な口出しをしないでよプリスちゃん……今俺この子のことプリスって言ったか?)
「え、ええと……君は……」
「このヴァンヴィル様に向かって下劣だとっ!? 許すまじっ!!」
「げ、下劣な魔物に下劣と言って何が悪いっ!! さあ勇者よ、さっさと退治してしまうのだっ!!」
今にも飛び掛からんとしているヴァンヴィル様とそれを挑発する王女様。
これ以上放置するのは危険だろう、俺は情報収集をあきらめて退治してしまうことにした。
「聖輝光」
ヴァンヴィル様の全身を眩しい閃光が包み込んだ。
「なぁっ!? こ、この程度で私……っ!?」
少し堪えようとしたヴァンヴィル様だが、言葉を言い切るまでも耐え切れず消滅してしまった。
(あっさりだったなぁ……本当に魔王軍ってのは大したことがないのか?)
「よくやったぞっ!! 次に父上の傷を癒すのじゃっ!!」
「ええ、回復」
俺の放った魔法を受けて倒れていた男……王様らしい人の傷がすぐに回復する。
後は意識が戻るのを待てばいい、俺はがれきの下から王様を救い出すと近くにあったベッドへと横たえた。
「プリス様っ!?」
「何事でしょうかっ!?」
「お主ら遅いわっ!! 何をしておったのじゃっ!?」
「そ、それは……お、王様っ!? き、貴様がやったのかっ!?」
今更駆けつけてきた兵士たちが、こちらを見るなり刃を向けてくる。
「これは全て魔王軍の仕業じゃっ!!」
「な、なんと魔王軍……き、貴様がそうかっ!!」
「いや、俺のどこが魔物に見えるんですか?」
「何を言うか、実際に魔物を引き連れているではないかっ!!」
「め、めぇええ……」
そういえば一応魔物のムートン君と俺は行動を共にしている。
(そりゃあ誤解されても仕方ないけどよぉ……困ったもんだ……)
「ええい、お主ら何をほざくかっ!! 良いかこの者はなぁ……」
そう言って王女様……やはりプリスというらしい女の子が俺に抱き着くのと、兵士たちが全員気絶するのは同時だった。
「サーボ様サーボ様サーボ様サーボ様どういうことどういうことどういうことどういうこと……」
「か、カノちゃんっ!? な、なんでここにっ!?」
「色々と王様に話を通そうと思ってまず王宮に来たんですよぉ……そぉしたら爆発音が聞こえてぇ……」
「そ、それで様子を見に行こうとしたところ、兵士たちの反発にあい……それでも何とかシヨが説得して共にここに来たというわけですが……」
「なんでなんでなんでなんでなんで浮気して浮気浮気浮気ぃいいいいいいいっ!!」
「ひぃっ!?」
三弟子全員から、特にカノちゃんの狂気を目の当たりにしたプリス様はより一層俺に強く抱き着き……さらに彼女たちの視線が厳しくなる。
「サーボ様ぁ……うふふ、シヨはもっと早く調教しておくべきでしたねぇ……」
「サーボ様……こうなったら二度と別れられぬよう私と首輪と鎖で結ばれましょう……」
じりじりとにじり寄ってくる三人。
(こ、これは放置したら間違いなく……死人が出るぅっ!!)
こうなったら仕方がない、俺は説得をあきらめていつもの手段に出るのだった。
「時間停止」
「逃がすかぁああ……」
(か、かすった……つ、次は直撃するかもしれねぇっ!?)
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