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勇者候補として……もうこいつらの師匠辞めたい

(……どうしてこうなるんだよぉ)


 里の入り口で嘆く俺、もう振り返りたくもない。


「流石サーボ様だぁ」


「全員の奇襲を切り抜けて殺さない程度に返り討ち……凄いですぅ」


「んぅ~っ!!」


「全くサーボ先生の素晴らしさが理解できぬ連中はこれだから困る」


「しかしこれで身をもって理解したでしょう、サーボ先生の凄さをね」


(だから俺は力づくで事を為したかったわけじゃねぇんだよぉ……)


 涙がこぼれる、どうしてこうなってしまったのか。


 前回の騒動で俺は有能な人間を惑わし、里へ混乱をもたらした元凶であると認識されてしまったようだ。


 お陰で弟子たちが出立の準備に取り掛かっている隙に全員が襲い掛かってきた。


 最初こそ避けることに専念していたが、入り口まで封鎖されてはどうしようもなかったのだ。


 仕方なく片っ端から黙らせていくことになり、気が付いたら二人を除いて全員を叩きのめす羽目になってしまった。


(弟子たちの両親まで襲ってくるし……だけどこいつら少しは心配してやれよぉ……)


「……じゃあ、行ってくるよ」


 仕方なく唯一残った俺の両親にお別れの挨拶をしておく。


「……ガンバレー」


「……ウチノホコリヨー」


 死んだ魚のような目で俺に力なく手を振る両親……もう彼らも里には居場所がないだろう。


(お、俺のせいじゃない……俺のせいじゃない……俺のせいじゃない……)


 自分に言い聞かせるように心中で呟き続ける俺。


「じゃあ行ってくるね、お義父さんお義母さんっ!!」


「行ってきまぁすっ!! お義父さんお義母さんっ!!」


「ふぐぅ~ふぐぐふんふぐうふんっ!!


「……ガンバレー」


「……ウチノホコリヨー」


 三弟子の言葉に同じ言葉を返す俺の両親。


「では行ってまいります、お義父様、お義母様」


「ご無事を祈っててくれ、お義父様、お義母様」


(お前らもかぁああああっ!!)


「……ガンバレー」


「……ウチノホコリヨー」


 男二人からも義理の親扱いされてなお、俺の両親は変わらぬ乾いた笑みを向けるばかりだった。


(こ、壊れてる……す、すまん帰ってきたら親孝行するから勘弁してください)


「と、とにかく行ってくるから……皆さん準備は良いですね?」


「「「「はぁ~い」」」」


「むぐぅ~」


 全員を見回し、文句がないことを確認すると早速人力車に乗り込む。


 俺たちの移動速度を考えると、馬車よりこっちのほうが速いと判断してわざわざ用意したのだ。


 すぐにテキナさんが運転席へと向かい、俺に首輪から伸びる鎖と口枷から伸びる手綱を渡してくる。


 嫌だけど受け取らないと走ってくれなそうだ……代わろうにも絶対に場所をどいてくれなそうだ。


 仕方なく受け取ると、今度こそテキナさんは嬉しそうに人力車を引いて移動を始めた。


「うぅ~~~っ!!」


 恐らくオーラ突きとでも言ったのだろう、途端に人力車はすさまじい速度で移動を始める。


「うーん、ちょっと物足りない速度だけど……まあその分サーボ様とのんびりできるからいいかなぁ」


(この速度でのんびりって……お前何考えてんだよ)


 素の脚力でこれ以上の速度を出せるカノちゃんは少し不満のようだ。


 尤もこんな化け物の意見を聞いていたら頭がおかしくなる。


 俺は無視していつも通りムー……何かが物足りない気がした。


(おかしいな、人力車での移動なんか初めてのはずなのに……何か妙に既視感がする……?)


「どうなされましたサーボ先生っ!?」


「い、いや何でもないんだ」


「何かあったらおっしゃってください、何でも致しますっ!!」


「あ、ありがとうカーマ殿、セーヌ殿……」


 何かが足りない気がするし、この二人を見ていると何か違和感もする……だけど全く正体が掴めない。


(下手に考えて弟子たちを刺激したらまずいな……こいつらがどう動くのか俺には想像もできねぇんだから……)


 もはや弟子とは名ばかりで俺を信仰する宗教のような形になっている……当然敬拝の対象でしかない俺の言葉は歪曲されて都合よく利用されるばかりだ。


 俺はこの集団を統括して操っている事実上のリーダーであるシヨちゃんへと目を向けた。


 俺の腕の中に抱かれたまま彼女は何事か考えていたが、唐突に全員を見回すと指示を出し始めた。


「この間に王都に着いた後のことを説明しますねぇ……まず私たちが王様と面会している隙にカノさんは王宮内を探索して弱みを……」


「シヨちゃん……お願いだから勇者というものについてもう一度考え直してくれ……」


「勇者と言うのはサーボ様のことですよぉ、シヨはそんな偉大なサーボ様が世界に認められるよう手を尽くすだけですぅ~」


「あ、あのねぇ……」


「あっ!? テキナさんストップっ!! サーボ様、あっちの方で何かあるよっ!?」


「っ!?」


 カノちゃんの言葉に一度行動を止め、彼女が指し示した方角へと視線をやった。


「なにも……ないけど?」


「よく聞いてよぉっ!! 魔物が村を襲おうとしてるでしょっ!!」


(地平線しか見えねぇよ……何でそこまでわかるんだよこいつはぁ……)


 襲われていて黒煙やら争う音などが聞こえてれば話は別だが……やはり能力が狂いすぎている。


 尤も間違ってるとは思わない、カノちゃんの感覚をごまかせる存在がこの世にいるはずがない。


「人々が襲われているというのなら助けに行かないと……テキナさん、向かってくれっ!!」


「ふぐぅ?」


「はい、テキナさん向かっていいですよ」


「ふぐぅっ!!」


(何でシヨちゃんの許可を待つのよぉ……俺の言うこと聞いてよぉ……)


 テキナさんが方向を変えて即座に移動を開始する。


「カノさんは先に向かって状況の視察、および被害が出そうなら避難に協力してあげてください」


「いいけど、避難させるより倒したほうが早くない?」


「それはそうですけどぉ、前の時みたいに変な魔法を使われたらサーボ様が居ないと大変なことになっちゃいますよぉ」


 全く持ってその通りだ、あれはある意味で俺の切り札で放つ魔法と同じ類の技だ。


(あればっかりは他の誰でも抵抗できない、この俺がやらな……)


「ああ、あれなら多分もう避けれるよ僕」


「はぁっ!?」


 とんでもないことを言い出したカノちゃん。


「ほんとぉですかぁ?」


「うん……サーボ様似たような魔法できたよね、試しに使ってみてよ?」


「え、あ……い、いやそんなことより魔物への対処を急いでくれっ!! 早く行くんだカノちゃんっ!!」


(冗談じゃないっ!! あれまで躱せるようになられたら俺はお終いだっ!!)


 変に練習されて本当に躱せるようになられたら困る。


 俺はカノちゃんを荷台から押し出した。


「え、ええとぉ……行っていいのシヨちゃん?」


「サーボ様の言うことも一理ありますぅ、今回はいう通りにしましょう」


「わかったよ、じゃあ行ってくるねっ!!」

 

 シヨちゃんの許可が出た途端に、すっ飛んでいくカノちゃん。


(どいつもこいつも……俺もういらないじゃん……うぅ……)


 一体どうして俺はここにいるのだろうか、わからなくなってきた。


「サーボ様ぁ、そんな涙目になって……えへへ、私たち弟子が立派だからってそこまで感激してくださるとシヨも嬉しいですぅ~」


(わ、分かってて言ってるだろシヨちゃんよぉっ!!)


「おお、そんなサーボ先生のお気持ちがありがたい限りですっ!!」


「俺たちももっともっと頑張っていきますよ、全てはサーボ先生の為にっ!!」


(俺の為になってねぇんだよぉっ!! お前らワザと言ってんのかぁっ!!)


 怒鳴りつけてやりたいが、一応みんなの純粋な瞳を見る限り悪意は篭っていないのだろう。


(シヨちゃんだけは純粋な狂気……い、いややっぱりよく見るとどいつもこいつも狂気が入り混じってるっ!?)


 何だか恐ろしさすら感じてきた。


 これ以上この場所に居ると俺の命が危ういような……何よりも自分の命が大事だった俺としては逃げ出したくてたまらない。


(あれ? 自分の命が大事? い、いやそりゃあ大事だけど……何よりもとまで考えたことって……?)


「サーボ様ぁ、見えてきましたぁっ!!」


「そ、そうか……」


 シヨちゃんの言葉で思考を断ち切り目の前の現実へ意識を集中する。


 そこには今にも村に襲い掛かろうとしている魔物の群れが居た。


 どうやら襲撃前にぎりぎり間に合ったようだ。


(あの黒づくめの格好……魔王軍の魔物を生み出せる親玉だなぁ……そしてフレイムドッグの群れ……本当にこれが主力なのかな?)


「お、お前たちは勇者の里のっ!? ば、馬鹿な早すぎるっ!?」


「ご存じでしたか、では……」


「カーマさん、セーヌさん、GOっ!!」


 せっかく会話できるのだからと俺がしゃべろうとしたところで、シヨちゃんが指を鳴らした。


「「ははぁっ!!」」


「ちょっ!?」


「な、なにをっ!?」


「キャゥウンンっ!?」


 途端に飛び出したカーマ殿とセーヌ殿が一瞬でフレイムドッグの群れを蹴散らし、魔物の親玉を組み敷いた。


「これからぁ尋問をはじめまぁす……素直に答えてくれれば命だけはお助けしますよぉ」


「な、なにを言うかっ!? ほ、誇り高き魔王軍の一員である俺が……」


「セーヌさん」


「ぐはぁっ!?」


 パチンとシヨちゃんが指を鳴らすと、セーヌ殿が無言で魔物の身体に刃を突き立てる。


「仮にも魔王軍の魔物なら急所さえ外せばそうそう死にませんよねぇ……聞いたこと以外を口にしたらそのたびに少しずつ削って行きますよぉ……ふふ、どこまで耐えられますかねぇ~」


「し、シヨちゃん……い、いくら何でもこれは……」


「シヨだって心苦しいですよぉ、だけどこの後も魔王軍の侵攻は続くんですよぉ……少しでも被害を減らすためには多くの情報を集めていかないといけません」


「そ、それはそうだけどさぁ……お、俺たちは勇者なんだから……」


「勇者以外に誰がこんなことを出来るですかぁ? むしろ勇者である私たちが率先してやらなければいけないことなんですよぉ……すべては人々の為、被害を減らすためですぅ~」


(い、言い分事態は正論かもしれないけどさぁ……なんかおかしいってこれぇええっ!?)


 人々を救うために拷問じみた尋問をする勇者……勇者って何だろうか?


「ふぐぅ……ふぐぐぅ……」


「……何言ってるかわからないよ、テキナさん……口枷だけでも外してください」


「んぐぐぅっ!?」


 嫌々と言わんばかりに首を横に振り、俺に許しを請う視線を向けるテキナさん。


「テキナさぁん、私たちはもう少しこの魔物を尋問しておきますから先に村に入ってカノさんに合流してくださぁい……それまででいいから口枷を外してサーボ様とコミュニケーションを図ってくださいねぇ」


「ふぐぐぅ……わ、わかったシヨがそういうのなら……行きましょうサーボ様っ!!」


「……うん」


(もう何も言うまい……うぅ……お前ら絶対俺のこと飾りか何かだと勘違いしてるだろぉ……)


 もう何もかも虚しくなった……だけど勇者として人々の為にもう少し頑張ろうと思う。


 やけくそ気味にテキナさんが差し出した首輪の先に着いた鎖を握り、共に近くにある村へと入っていく。


 まずは被害が出ていないか確認することにした。


(とりあえず問題はないな……しかしカノちゃんはどこに居るんだ?)


 取り合えず情報を集めようと近くの村人を呼び止めた。


「すみません、この辺で……」


「っ!? な、なんだお前っ!! 変態かぁっ!?」


 こちらを見るなり騒ぎ出す村人、それを聞きつけてやってきた人たちも俺たちを見るなり睨みつけたり怯えたりしている。


(な、なんだこれ……ま、まさか魔王軍と勘違いされてるとか……)


「お、お前は昼間っから何してんだっ!? く、首輪つけて女連れ回すとか……ま、まさか奴隷商人なのかっ!?」


「……おおぉう」


 最近テキナさんの基本装備だからすっかり忘れていたが……首輪と鎖も十分やばい代物だった。


「なぁっ!? き、貴様ぁっ!! 偉大なるサーボ様をまさか奴隷商人と見間違えるなど……許せんっ!!」


「お、落ち着いてテキナさんっ!! あとこの状態で様付けで呼ばれたら余計に誤解されるだけだからぁあっ!!」


「サーボ様はサーボ様だよそんな事もわからない愚か者は排除すればいいんだよそうに決まってるそうでしょサーボ様ねえサーボ様早く指示してよサーボ様……」


 何もない空間から姿を現した、ナイフを片手に怪しげな男三人を引きずっているカノちゃんが周囲に殺気を巻き散らかす。


「ひぃいっ!?」


 当然そんな危険人物を目の当たりにした耐性のない村人たちは、怯え切って震え始めた。


「お、落ち着いてください皆さまっ!! 我々は勇者として活動中の……」


「お、お前らのどこが勇者だっ!? 許可証は持っているのかぁっ!?」


「い、いえその……まだ王都に向かう途中でしたのでその……」


「や、やっぱりじゃないかっ!! この詐欺師……いや奴隷商人めぇっ!!」


「お、俺たちも奴隷にするつもりかっ!? じょ、冗談じゃないっ!! に、逃げろぉおおっ!!」


 ついには蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた村人たち。


 もうこの混乱は俺では収めようがない……シヨちゃんが来たら任せよう。


(シヨちゃんをどうにかしないといけないのに……シヨちゃんに頼らざるを得ない現状……俺って何のために……)


「サーボ様ぁ、やっぱり叩きのめしてサーボ様の素晴らしさを身体に教え込んだほうがいいと思うけど?」


「や、やめてねっ!! というかカノちゃん、その人たちはどうしたのっ!?」


「魔物の群れがあんまりにも貧弱だから近くに別動隊が居るんじゃないかっって探してたら見つけたんだ……何か地図にも載ってない農家を襲おうと計画してたから懲らしめてやったんだよ」


「うぅ……こ、こんな化け物が居るなんて聞いてねぇ……」


「ど、どうして今日に限って……俺たちついて無さすぎるぅ……」


 泣き言をほざく悪人たち、まあこれ自体は見事な行いだ……責めるわけにはいかない。


「おやおやぁ、騒がしいですねぇ~」


「し、シヨちゃん来てくれ……っ!?」


 振り返るとシヨちゃんがにこやかに笑いながら歩いているのがわかった……その後ろから見る影もないほどにボロボロにされた魔王軍の魔物を引きずるカーマ殿とセーヌ殿が続く。


「とりあえずこの村の騒ぎを収めてしまいますねぇ、お話はその後でゆっくりとしましょう」


「あ、はい……お願いしますぅ」


 頭を下げてシヨさんにお願いする俺……もう何も考えるまい。


「はぁい、皆さぁん注目してくださぁい……五秒以内にその場に留まらないともれなくこれと同じ状態にして差し上げますよぉ~」


 そう言ってここまで引きずってきた魔物を広場の中央に掲げるシヨちゃんたち。


 それを見て殆どの村人たちはびくりと身体を振るわせて、その場に立ち止まった。


 それでも動く奴らはカノちゃんが即座に拘束してシヨちゃんの前へと引き立てていく。


「ひぃっ!! お、お許しくださいませっ!!」


「つ、つい勢いづいてて止まれなくて……」


「許してほしければ、偉大なるサーボ様にひれ伏すのですぅ……サーボ様万歳と百回唱えて……」


「げほぉ……っ」


 耐え切れず胃の中身を吐き出してしまった……シヨちゃんの暴走がやばすぎる。


「ふぐぅっ!? ふぐぐぅっ!?」


 テキナさんが……気が付いたら口枷を嵌めなおして俺の体調を気遣い休ませようと人間椅子状態になる。


(どいつもこいつも……もう嫌だ俺ぇ……)


 何も考えたくなくて、俺は抵抗を諦めてテキナさんに座りそのまま目を閉じてしまうのだった。


「サーボ様のお通りだぁっ!!」


「おらおら、道を開けろ愚民どもぉおっ!!」


(聞こえない聞こえない……何も聞こえない……うぅ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] ムートンくんは!? 弟子達が最早災害だぁ…… テキナさんももっと壊れるだろうし強く生きろよサーボ
[一言] こうなると、もうどっちが魔王軍なんだかわからんねw
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