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悪い魔王を退治しよう……その前に胃に穴が開きそうだ……

「驚くべきことが起きたが落ち着いて聞いてほしい……魔王が蘇ったようだっ!!」


 長老の言葉に広場中がざわめく。


「くそっ!! まさかこの勇者の里を攻めてくるなんてっ!!」


「しかも直接攻撃するんじゃなくてあちこちに放火して回るなんて……何て質の悪い奴らなんだっ!!」


「里の半分を燃やしやがって……絶対に許さねぇっ!!」


 誰もかれも、里に火を放ち半分以上を焼き落ちさせた魔王に対して怒り狂っている。


(めちゃくちゃ盛り上がってる……今更俺たちがやりましたとは言えねぇ……)


 勝手に里の連中が勘違いしただけなのだが、ものすごく居心地が悪い。


 カーマとセーヌが庇ってくれたお陰で怪我人が出ていなかったのが不幸中の幸いだ。


「ま、全く魔王って悪い奴だよねぇ……」


「そ、そうですよぉ……ぜ、ぜったいに許すわけにはいきませんよぉ……」 


「こ、このような卑劣な行いを許すわけには……うぅ……ゆ、許されない気がぁ……」


 カノちゃんとシヨちゃんはもう完全に責任を魔王に押し付ける気満々のようだ。


 嘘が付けないテキナさんはとても苦しそうにしている……後で余計なことを言わないように釘を刺しておこう。


「テキナ殿、しっかりなされよっ!!」


「そうですよ、悪いのは魔王なんだからなっ!!」


「うぐぅっ!?」


(その言い方はクリティカルヒットだよぉ……ああ、ものすごく罪悪感がするぅっ!!)


 仮にも勇者を目指す身として、黙っているのが心苦しくて仕方がない……けどバラシても何の得にもならない。


 むしろ話がこじれそうだ……何せ里の人間は魔王軍の襲撃を見ていないのだ。


 そして実際に出た被害はこの火災だけ、これを否定してしまえば魔王の出現すら理解されなくなる可能性がある。


 流石にそれは不味い、恐らく魔王は今後も激しく暗躍するだろうから今すぐ動かないと手遅れになりかねない。


 だから都合のいい展開になっている今、俺は罪悪感を抱きながらも口出しすることができないでいるのだ。


(うぅ……と、とにかく魔王退治の旅に出て……全部終わった後で謝罪しよう……)


 そのために一刻も早く出発したいものだ。


「さて選出方法だが、歴代の勇者コンテスト優勝者の中から選挙制で選択すべきだと思う」


「実戦形式で実力を競ったほうがいいのではないですか?」


「それでは時間がかかる、魔王は時がたつにつれ強力になってしまうだろう……迅速な対応が求められるのだ」


 長老の言いたいことはよくわかる。


 確かに勇者コンテストはそのために開かれていたのだし、基本的に優勝者は他を圧倒する実力がある。


(だけど俺もカノちゃんもシヨちゃんも……テキナさんも参加してないからなぁ)


 少し前に開かれた勇者コンテスト、その参加資格を満たしていたテキナさんは俺を見習ってボイコットしたのだ。


 お陰で俺の弟子の中で優勝者という称号を持っているのはカーマ殿とセーヌ殿だけなのだ。


(流石に選んだ奴だけを送り出したりはしないだろうし……カーマ殿かセーヌ殿が選ばれたらその仲間として……)


「異議ありですぅっ!! 魔王退治は万が一にも失敗は許されませぇんっ!! これこそ勇者の里の存続に関わります、だから少しぐらい時間が掛かっても実力を測って選出すべきですぅっ!!」


 考え込んでいる俺の隣でシヨちゃんが高らかに声を上げた。


「子供は黙っておれっ!! そもそも勇者コンテストで優勝する時点で実力は足りておるっ!!」


「いやぁ、そんなことないよねぇ……じゃあコンテスト優勝者の誰でもいいから僕に勝てる人いるのぉ?」


 怒鳴りつけた長老を挑発するようにカノちゃんが一瞬で壇上に登り、広場に居る人間を見下す。


 今日まで里で暴れまくったカノちゃんは既に勇者コンテスト優勝者も叩きのめしている……だから誰一人反論出来る者はいなかった。


「か、カノ……余り勝手な……」


「なぁにお父さん、文句あるならかかってきてよ……お母さんも文句ないでしょ?」


「あぁ……あのカノがどうして……うぅ……」


「か、カノちゃん……ご両親に失礼じゃないか……」


「ううんサーボ様の素晴らしさを分からない奴は全員敵だよだって僕を助けてくれた僕だけのサーボ様が認められないなんておかしいほら早くサーボ様こっち来てみんなの前でサーボ様の素晴らしさを語ってだけど僕だけのものだからね他の人はとっちゃ駄目だから早くサーボ様宣言してサーボ様サーボ様サーボ様……」


 物凄い早口で俺を急き立てるカノちゃん……怖すぎる。


 カノちゃんの両親は俺を睨みつけてるし、周囲の目も物凄く痛い……俺が何をしたぁ。


「カノさぁん、そんな威圧だけしてたら話が進みませんよぉ……」


「なぁにシヨちゃん反対なの何か悪いことした僕おかしくないよね僕正しいよねサーボ様の素晴らしさを理解しない奴らが悪いんだからそうでしょなのにシヨちゃんどうして僕に……」


「そぉじゃなくてぇ……もうさっさと勇者コンテスト優勝者を再起不能にしちゃってくださぁい……そのほうが話が早いですよぉ」


「っ!?」


 さらっととんでもないことを提案するシヨちゃん。


「し、シヨっ!? な、なんてことを言うんだっ!?」


「だってパパぁ、直接叩きのめされれば力の差が一番はっきりするじゃないですかぁ……まさか倒した人を差し置いて倒された人が選ばれるわけもないしぃ、これが最善手ですよぉ……」


「け、けどそ、そんな乱暴な……」


「ママぁ、これから魔王と戦おうというのにその程度の暴力に屈する輩なんか送り出しても無駄なんですよぉ……邪魔するならパパとママも退治しちゃいますよぉ……シヨ出来ればそれはしたくないから黙っててくださぁい」


「し、シヨちゃん……ご両親に何てこと言うのぉ……」


「正論を語ってるだけですよぉ、それにぃシヨが一番尊敬しているのはサーボ様ですぅ……それを認められるように何もかもを調教するのがシヨの役目なんですよぉ~」


 にこやかに微笑むシヨちゃん……狂気がにじみ出ていて怖い。


 シヨちゃんのご両親は涙目で俺を睨みつけてくる……だから俺が指示してるわけじゃねぇってばぁ。


「シヨちゃん、これでいいの?」


「か、カノちゃぁあああんっ!?」


 ほんの僅かに目を逸らしたすきに、カノちゃんはカーマとセーヌ以外の候補を全て叩きのめしてしまった。


「な、ななな……」


「ほらぁ早かったでしょぉ……これでぇ長老が戯言しかほざかない老害だってはっきりしましたねぇ……そんなのに従ってたらこの里は崩壊しちゃいますぅ……だから代わりにシヨが指示を出しますねぇ~」


「な、何でそんな……」


 無茶苦茶な言葉に異議を呟こうとした長老の息子に向かい、シヨちゃんは軽く指を鳴らす。


「カノさん」


「うん、黙らせるね」


「ひぃ……ぎゃぁああっ!!」


「あららぁ、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃいますよぉ……クスクス……他に何か異議のある方いますぅ?」


「…………っ」


 これだけ人が集まっているにもかかわらず沈黙が広場を支配している。


(カノちゃんを使いこなしてる……シヨちゃんって何者なんだろう?)


 逆に感心してきた。


(というかさぁ……力づくで押し通そうとしないでよぉ……俺とテキナさんが何のためにボイコット運動したと思ってんのよぉ……)


 物凄く疲れてきて、ため息が漏れた。


「……っ!!」


「なぁにテキナさん……口枷咥えてたらわからないよ……うぅ……」


 紐を通した棒を咥えたテキナさんが俺の溜息を聞きつけて何か言おうとしているがよくわからない。


 その場に四つん這いになって背中を指さしていてもだ……絶対に座りたくない。


(首輪に飽き足らず今度は口枷……そして人間椅子……テキナさんなりの忠誠心っていうけど……絶対何か勘違いしているぅ……)


「あぁ……あの、テキナがぁ……」


「うぅ……誇り高かったあの子がどうしてぇ……」


「ほ、ほらご両親が悲しんでるよ……普通にしようよテキナさん……」


「……っ!!」


 首を横に振って、頬を火照らせながら嬉しそうに俺の足に頬ずりするテキナさん。


 もちろんご両親は俺を殺意のこもった目で睨みつけている……俺悪くねぇよぉっ!!


「はぁい、じゃぁ満場一致で魔王退治はサーボ様御一行が行うことに決まりましたぁ~っ!!」


 テキナさんに気を取られているうちに壇上でシヨちゃんが勝手に話を進めていた。


(せめて俺の意志を確認してくれぇ……まあ行くけどさぁ……)


「どけぇ愚民どもっ!! 偉大なるサーボ先生のお通りであるぞっ!!」


 カーマ殿が里の人たちを強引に押しのけて俺の通り道を作る。


「お前らサーボ先生のお通りだっ!! 非礼のないよう頭を下げろよっ!!」


 セーヌ殿が脇に立つ人たちに強引に俺に向かい頭を下げさせる。


「カーマ殿ぉ、セーヌ殿ぉ……そんなことしなくていいからぁ……」


「何をおっしゃいますかっ!! こうでもしなければサーボ先生の偉大さが伝わりませぬっ!!」


「そうですよっ!! サーボ先生がどれだけ素晴らしいのか、身体で覚えさせるのが俺たち弟子の役目ですっ!!」


 弟子が誰も俺の言うことを聞いてくれない。


(誰もそんなこと頼んでねぇよぉ……俺が止めろっていったら止めろよぉ……)


 本当に俺はこいつらに尊敬されているのだろうか。


「ほらほらサーボ様早く早く早く早くぅっ!!」


 カノちゃんが俺を囃し立てる。


「サーボ様ぁ、この壇上から愚物どもにありがたいお言葉をお願いしますぅっ!!」


 シヨちゃんがにこやかに俺へ手を差し伸べる。


「んん~~っ!!」


「ちょ、ちょっとテキナさんっ!?」


 テキナさんが強引に俺の股下へもぐりこみ、背中に乗せて壇上に進み始める。


「ほらお前らサーボ先生に感謝の言葉をかけるのだっ!!」


「拍手はどうしたぁっ!! ほら早くしろぉっ!!」


 カーマ殿とセーヌ殿が里の人たちを脅して回る。


「……い、いい加減にしろお前らぁああっ!!」


 流石に切れた。


(やっていいことと悪いことがあるだろうがぁあああっ!!)


「さ、サーボ様ぁ……ど、どうしちゃったのぉ?」


「どうしたもこうしたもあるかっ!! お前ら自分がやってること考えろよっ!!」


 俺の叫び声を受けて、ようやく弟子たちは僅かに動揺を見せた……シヨちゃん以外。


「やってることですかぁ……この里に火をつけた魔王を退治しに行こうとしてる、違いますかぁ」


「はぅっ!?」


 淡々としたシヨちゃんの言葉に俺は黙らされる。


(そ、それを言うなよぉ……反則だろうがぁ……)


「全く火災を起こすなんて許されませんよねぇ……一刻も早く謝罪を求めるためにも、何より魔王を放置してこれ以上の被害を出さないためにも……ねぇサーボ様ぁ」


(こ、こいつ……俺の考えてることを読んでっ!?)


 確かにこのままじゃ謝罪もできない……魔王退治にしても早いほうがいい。


 ここで俺が弟子たちのしたことを叱咤したら、当然の流れとして勇者の選出もやり直し……余計な混乱が発生するのは目に見えている。


「魔王退治こそが何よりも優先すべきこと……だと思ってシヨ頑張ったんですけどぉ何か間違えちゃいましたかぁ?」


「う、うぅ……そ、その通りだよぉ……」


 俺は折れた、ここで下手に抵抗して無駄に話を長引かせるわけにはいかないからだ。


 あきらめて俺はテキナさんに運ばれるままに壇上へと上がって行った。


(もう話術じゃシヨちゃんに勝てねぇ……どうなってんだよこれぇ……)


「ほらサーボ様ぁ、皆さんがお言葉を待ってますよぉ」


 シヨちゃんに言われて広場の皆を見回せば、全員が憎しみを込めて俺を睨みつけている。


 ここまで里の決めごとをぐちゃぐちゃにしたのだ……当然だろう。


「え、ええとぉ……ま、魔王退治頑張りますぅっ!!」


 俺に言えることはそれだけだった。


「ぐぬぬぅ……さ、サーボめぇ……」


「何か文句でもあるんですかぁ、元長老ぉ?」


「も、元ではない……い、いえなんでもございません」


「なぁんだ……残念」


 何か言おうとした長老だが、いつの間にか背後に回っていたカノちゃんにナイフを突きつけられるとすぐに黙った。


「クスクス、それでいいんですよぉ……それでぇ旅立ちの予算はいくらぐらいあるですかぁ?」


「こ、これが予定額ですハイ……」


「はいどうもぉ……この額だと全部で十二人は行けそうですねぇ……じゃあサーボ様ぁ誰と行くか選んでくださぁい」


「い、いいのシヨちゃんっ!!」


「当たり前ですよぉ、サーボ様が私たちの偉大なる主なんですからぁ」


 よくわからないが久しぶりに俺に主導権が帰ってきた、この程度のことでも嬉しくなる。


(いやっほぉおおっ!! よぉし誰と行くか選んで……選ぶの……この中からぁ?)


 周りを見回す。


 首を傾げながらナイフを振り回しつつ、俺をガン見しているカノちゃん。


 怪しげな笑みを零しながらも、目元だけは真剣に俺を瞬きもせず見つめているシヨちゃん。


 俺の腰の下で悶えながら、ズボンのすそを掴んで離さないテキナさん。


 当たり前のように俺の前で跪くカーマ殿とセーヌ殿。


 そして……殺意にまで発展した憎しみを込めて俺を見る里の連中。


 誰を選んでも後悔しそうだ。


(……一人で行きたいよぉ)


 何もかも投げ捨てて逃げ出したくなる。


 だけど俺より早いカノちゃんが居る時点でどうしようもない。


「……俺は実力より絆で結ばれた仲間を選びたい……付いて来てくれるねカノちゃん、シヨちゃん、テキナさん、カーマ殿、セーヌ殿……」


 何もかも諦めた俺は、乾いた笑みを浮かべたまま静かに彼らの名前を告げるのだった。


(せめてこの里から問題児を引き取らせてもらうよ……俺が育ててしまった化け物たちを……うぅ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] サブタイトルの”その前に居に穴が開きそうだ……”は胃でしょうかn? まあ、普通の神経をしていたら大きな穴が開きますよねw 特にテキナさんはどうしてこうなった?
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