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最終決戦 前編

(さて、上手く行くかどうか)


 魔法の効果により時を遡った俺は、狙った場所と時間に到達できたかの確認を行うことにした。


 周りを見渡してすぐに、近くに見慣れた田舎村を見つける。


(よし、勇者の里の近くだ……後はちゃんと俺たちが出発前に戻れているかどうか……)


 俺はあの歴史に抗うために、わざと魔王が復活する前の時間まで戻ることにしたのだ。


 魔王は時間が経つにつれて強くなっていく、ならば復活した直後が一番弱いはずだ。


 そこを奇襲すれば或いは勝ち目があるのではないかとそう考えたのだ。


(もしも歴史を変えられるんならこの時点で魔王を倒しておけば……被害は出ない)


 後は俺が魔王の振りをして、被害を出さないよう歴史を改善しつつ今の俺に繋がる様にしてやればいい。


(そしてもう一つ、やはり歴史は変えようがないとしても……一応対策はしてある)


 イキョサちゃんたちを元の時代に送り届ける前に魔王との戦いを決意したのがそのためだ。


 歴史必然説が正しいのなら、イキョサちゃんたちはこの後必ず元の時代に戻ることになる。


 そして戻るためには魔導の使い手の協力が必要で、それは俺とエルフの里の長老しかいない。


 しかしエルフの里の長はもう歳だ、おまけに彼らに頼もうとすれば魔導の使い手が寿命を消費することも知るだろう。


 そうなれば彼女らは、長の命と引き換えに元の時代に戻ろうとはしないだろう。


(つまり俺が戻らない限りはイキョサちゃんたちは過去へ戻らない……俺が戻らないと歴史が狂うことになる……)


 俺が生き残るための保険だ。


 逆に誰も連れてこなかったのも、歴史必然説の場合に備えてだった。


 あの場所で魔王と戦っていたのは俺一人だった。


 つまりもしも援軍を連れてきた場合、他の奴らはそれまでに倒されてしまうことになる。


 それだけは絶対にダメだ……仮に俺が約束を破った屑に終わることになるとしても彼女らだけは巻き込めない。


(……まあ、とにかく負けなければいいんだ……今の俺なら行けるはずだっ!!)


 両手を握ると信じられないほどの力が湧き上がってくる。


 俺は未来の俺と一体化した結果、とてつもない実力者になった。


 テキナさんですら赤子のごとき扱いができた俺は、きっと素の能力はイキョサちゃんにすら勝るとも劣らぬものだろう。


 更にそれを装備が強化してくれる上に、二重魔法で更なる火力を叩きだせる。


(多分一人でも魔王を倒せるはずだ……)


 もちろん万が一また魔王が命と引き換えに魔法を残したとしても、余裕で無効にできるだけの魔力がある。


(……何故、あの俺はそれをできなかったんだ?)


 恐らくは未来の俺も同じ経験をしているはずで、当然魔王との戦闘時にはこれだけの魔力があったはずだ。


 しかし何故か未来の俺は、あの局面で魔力が足りなかったがために俺と一体化することを選んだ。


 その謎こそが不安材料だった。


(……考えても仕方ないな、とにかくちゃんと出発前に辿り着いているか調べに行こう)


 これで上手く行っていれば、気付かれないよう出発前の皆に色々と援助してあげるのもいい。


 だから早速勇者の里に近づこうとして、不意に何かが聞こえてきた。


(何だ……魔物の咆哮っ!?)


 異常に強くなった俺はどうやら五感も強化されているようで、遠くから魔物の群れが迫りくる気配を察知した。


 それもとんでもない数だ……それがまっすぐ俺たちの里へと向かってきている。


(魔物の襲撃なんか記憶にないぞっ!? 何がどうなってんだっ!?)


 仮に魔物の群れに襲撃されようと実力者揃いの勇者の里がそうそう陥落するとは思えない。


 それでも念のため俺はそちらの様子を確認しに向かうことにした。


 オーラ突きを放つ……までもなく単純な脚力だけで風のように移動する俺。


「シャァアアアっ!!」


「グォオオオオオっ!!」


「ピギャァアアアアっ!!」


「ギギィイーーーーッ!!」


「っ!?」


 そして辿り着いた先で、信じられないものを見た。


 無数のワイバーンの背中に魔王軍の親玉と思しき黒づくめのローブを来た魔物が乗っている。


 そいつらが怪しげな呪文を唱えるたびに地上に無数の魔物が生まれて、親玉の後を追いかけていく。


 サンドワームも地上を進んでいて、まさに魔王軍の総攻撃という感じだ。


「おやぁ、貴様は何だぁ?」


「お前らこそ何だっ!?」


「ふははは、聞いて驚けっ!! 我らは偉大なる魔王様の僕っ!! ついに魔王様は蘇られたのだっ!!」


(そんなことはわかってんだよ……どうしてここにいるのかを聞いてんだよ)


「その魔王軍が何故このような田舎村に攻め寄せてくるっ!?」


「そこはかつて魔王様を討伐した勇者の血筋が住む村なのだろうっ!! だからこそ全力で叩き潰しに来たのだっ!!」


「……なるほどねぇ」


(準備が整わないうちに奇襲か……俺と同じこと考えやがって……)


 しかし納得がいった、俺自身も前に一度考えたことがあった。


(俺が魔王なら全軍を率いて準備の出来てない勇者の里を落とす……マジでやってたんだなぁ)


「さて納得が行ったら死んでもらおう……この場所に居合わせた己の不運を嘆くがいいっ!!」


「確かに不運だったな……お前らがな」


「な、何を……っ!?」


「我が魔力に従い壮大なる大空よ悪しき者への天罰を齎せ、『天雷撃(ライトニングボルト)』っ!!」


 笑いながら俺は空に手を掲げると、二重魔法を解き放つ。

 

 圧倒的な魔力の元に生み出された無数の雷撃が絡まり合い、極太の光線となって降り注ぎ魔物の群れを丸ごと飲み込んだ。


「「「「っ!?」」」」


 雷撃が直撃した全ての魔物は悲鳴を上げることすら許されず、一瞬で蒸発していった。


(よりにもよって今の俺と正面からぶつかるとか……同情するわ)


 もはや戦いにすらならない。

 

 あっという間に魔物の群れは一掃された。


(……いや、ワイバーンが一匹だけ残ったか)


 運よく効果範囲から免れていたらしいワイバーンが、一匹だけ勇者の里を目指して進もうとしていた。


(念のため撃ち落として……っ!?)


 ワイバーンに手を向けた瞬間、不意に俺の身体を妙な輝きが包み込んだ。


(こ、これは転移魔法かっ!?)


 魔導の使い手ゆえか、本能的に自らにかけられた魔法の効果がわかったがその時には既に遅かった。


 視界が反転して、浮遊感に包まれて……そして俺は別の場所へと飛ばされていた。


(ここは……浮遊大陸かっ!?)


 軽く周りを見回して、自分が魔王と戦った浮遊大陸の上に居る事に気が付いた。


『ふはははは、実に見事だっ!! 当代の勇者がまさかこれほどとはなぁっ!!』


「……魔王かっ!?」


 聞き覚えのある声にその方向を向いて、しかし妙な靄が張ってあり魔王の姿が見つからない。


『よくわかったなぁっ!! そうだ我こそが長き眠りより目覚めし魔王であるぞっ!!』


 更なる声が頭上から響いていると知り、顔を上げて……愕然とした。


(ば、馬鹿な……デカすぎるっ!?)


 どうやら目の前にあった霞は魔王の身体の一部だったらしい。


 顔を上げて尚も視界に納まりきらない黒い煙が人型を模っている魔王、その全長は浮遊大陸の何割かを占めるほどだった。

 

 下手な山より遥かに大きい……俺たちが戦った時の魔王とは比べ物にならない。


 魔王の身体は魔力で構成されているということは、その実力も桁違いと言うことになる。


(な、何故だ……魔王は時間が経つにつれて強くなるのでは……っ!?)


 そこでイキョサちゃんたちの言葉を思い出した。


『だけど攻撃魔法が少なかったのは不思議だねぇ……前戦った時はもっとバンバン打ってきてたし、魔物だってたくさん生み出して抵抗してきたんだけどなぁ……』


『恐らく、私たちの前に戦った方との戦闘でかなり魔力を消費していたのではないでしょうか?』


(そう言うことか……つまりここから俺が戦い続けて……あそこまで弱らせなきゃいけねぇってことかよっ!!)


 歴史の必然を覆そうとしたが、これもまた決められたルートの一部だったようだ。


『やはり先に勇者の里を攻めさせて正解であったわ……この調子で実力のある勇者を一人一人孤立させて殺していけば今度こそ我を止める者はいなくなるなぁ』


「……ここで俺が逃げ出すという考えはないのですか?」


『無駄だっ!! この場所は我が魔力を分けた四人の幹部が封印しておるっ!! 奴らが倒れん限りお前は抜け出すことは適わんのだっ!!』


(やっぱり勇者を警戒してやがったのか……)


 ようやく過去と現代の魔王の行動の違いが分かった。


 一般人への侵攻は部下に任せて、自分はこうして特に力のある者が結束しないよう個別に攫って始末していくつもりだったのだろう。


(だが俺が無駄に抵抗するものだから魔王は他に手を出す余裕がなくなり……そのうちに外の魔物がやられて行って焦っていった……)


 挙句の果てに外の魔物を倒したのも俺と同じ存在である、サーボなのだ。


 魔王からすれば作戦を逆に利用されて、完全に手玉に捕らえたことになる。


(道理で俺を見てあんなに怒ってたわけだ……)


『ふはははっ!! 絶望のあまり言葉も出ぬかっ!! 可哀そうな奴だ……最後に名前ぐらいは聞いておいてやろう、この魔王に最初にやられる貴様は何というのだ?』


 余裕ぶった態度を崩さない魔王に俺はにこやかに笑い返してやった。


「俺はサーボ……屑で無能だったサーボ……」


『屑で無能か……まあ我に比べれば当然の……』


「そして魔王を殺す男、勇者サーボだっ!!」


『っ!?』


 俺の不遜な言葉を聞いて言葉を詰まらせる魔王。


 その明白な隙を逃しはしない。


「聖なる祈りに応え正しき者達に偉大なる祝福を齎し賜え、『聖祈昇威(セイント・ブースト)』っ!!」


 二重魔法で自らを強化して魔王へと迫る。


『よくぞほざいた……死ねぇっ!!』


 魔王が怒りを込めた瞳で俺を睨みつけ、紫電をまとった疑似腕を振り下ろす。


(遅いんだよっ!!)


 舐めているからか、或いは俺の能力が強化され過ぎた故か……その動きはとても緩やかに感じられた。


「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣(シャイニングブレード)』っ!!」


 魔法を唱えながらあっさりと魔王の攻撃を掻い潜り、その無防備な胴体に全力の一撃を叩き込む。


十文字斬(グランドクロス)っ!!」


『グォオオオオオオオオっ!?』


 俺にできる最大の攻撃は浮遊大陸全土を包み込み、全てを溶かしていく。


 俺とテキナさんとイキョサちゃんとマーセさんの四人掛かりで放った一撃とほぼ同等の威力だった。


 直撃を受けた魔王は無様にも悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。


 しかし流石に倒しきるまではいかず俺の魔法は魔王の身体に飲み込まれて消失した。


(だけど……二回りは小さくなりやがった……これならいけるっ!!)


『き、貴様ぁああああああっ!!』


 追撃しようとした俺の前で、魔王は怒声を上げながら素早く身体を起こした。


『この我に膝をつかせるとは……万死に値するっ!! 死ぬがよいっ!!』


「っ!?」


 魔王が腕を振るうと、目の前の空間に巨大な火炎竜巻が発生した。


 その熱量は傍に立っているだけで皮膚に激痛が走り、血液が沸き立つのを感じるほどだ。


「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、『豪雪暴風(ブリザード・ストーム)』っ!!」


 即座に二重魔法を放ち、マーセ様とイーアス様が同時に使った時以上の猛吹雪をぶつけて相殺を図った。


 しかし俺の魔法は一方的に押され始めた。


(魔法の威力はあっちのほうが上かっ!?)


「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、『豪雪暴風(ブリザード・ストーム)』」


『はぁっ!!』


 再度二重魔法を放つが、同時に魔王もまた同じ魔法を放ってきた。


(は、早いっ!? そして強いっ!?)


 詠唱抜きで魔法を使える魔王は、間髪入れずに同じ魔法を何度も放ってくる。


 あちらこちらから不規則な軌道でもって俺に迫る複数の火炎竜巻。


 それらは地表を溶かしマグマ状に変貌させながらその渦に巻き込み、周囲に散らばらせている。


(こ、このままじゃ押し負けるっ!?)


 魔法合戦では適わない……普通の魔法を使っていてはだ。


(仕方ねぇ……くれてやるよ、俺の寿命っ!!)


「我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……聖なる意思のもとに全ての魔の業を打ち払い賜え、対抗呪文(アンチマジック)


『な、なんだとぉっ!?』


「ぐ、ぐぅ……」


 心臓に激痛が走り、俺の体内から魔力がごっそりと抜け落ちていく。


 それだけの対価を払って作り上げた魔法は、魔王が起こした全ての現象を打ち消した。


『わ、我の魔法を……ば、馬鹿なぁっ!?』


「はぁ……くそ……」


 魔王があっけにとられている隙に魔法水を飲みこみ魔力を回復させる。


 地味に鎧が効果を発揮して俺をガードしていたから致命傷にならずに済んだ。


 もしも魔力を使い切ってしまい鎧が効果を発揮できない状態で先ほどの火炎竜巻を使われたらそれだけで致命傷につながる。


(ギリギリだ……だけど負けるもんかよっ!! 俺はあいつらと約束したんだっ!!)


 また後で会うのだ、あの三人と……俺を慕う弟子たちと。


 そのためなら何でもしてやる、俺の寿命だろうが何だろうが全てを踏みにじってでも成し遂げてやる。


「うぉおおおおおおっ!!」


 身体を強引に立て直して聖剣を構えて魔王へと突っ込んでいく。


『お、おのれぇええええっ!!』


 魔王もまた俺を正面から睨みつけると、その両腕を振りかざした。


 こうして俺と魔王の死闘は幕を上げた。

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