VS魔王 後編
魔王とにらみ合いながら状況を観察する。
周囲はあちこち罅割れて大地が隆起した荒野、障害物などは何一つ見つからない。
恐らく先に戦っていた人間との争いであらゆるものが吹き飛んだためだろう。
(環境に利用できるものはない……)
次に魔王の状態を確認する。
イキョサ様とテキナさん、そして俺の攻撃で身体は僅かに小さくなり傷跡は依然として浄化の炎が燃え上がり修復されていない。
ただ四大幹部の時とは違い、それ以上傷口が広がることもない。
(同じ攻撃を何度もたたき込めば倒せなくはないだろうが……そんなに上手くいくのか?)
今のところは魔王が冷静さを失って俺だけに集中しているからこそ隙をついて攻撃できている。
しかし余り戦闘が長引けばどうなるか……また俺たちの集中力が切れて攻撃が躱しきれなくなってもお終いだ。
(恐らく魔王の攻撃が直撃したら……多分イキョサ様ですら戦闘不能になるだろう……)
まして俺などひとたまりもない。
だからもっといい方法をと考えてみるが、何も思いつきはしない。
「サーボ先生?」
「……とにかく傷は癒えないんだ、こうなったら魔王が倒れるまで攻撃を続けようっ!!」
「わかりましたっ!!」
「わ、わかったよっ!!」
俺と共に前線に立つイキョサ様とテキナさんが頷いてくれた。
「後方支援はお任せください」
「必ず守り抜いて見せますっ!!」
後方支援を担当するマーセ様とイーアス様も力強い言葉をかけてくれる。
「あたしは機を見計らって魔王の隙を作ることに専念する……攻撃は任せたからな」
状況に合わせて臨機応変に対応するため、トラッパー様は姿を霞ませた。
『うぅ……ぼ、僕たちはどうすれば……』
『あうぅ……や、やっぱり私……肝心な時に役立たずですぅ……』
カノちゃんとシヨちゃんが申し訳なさそうな声を上げている。
流石にこのレベルになるとマジカルアーマー如きではどうにもならない。
(むしろ下手に攻撃を受けたら結界ごと消し飛びかねない……何で俺はこんな危険な場所に連れてきたっ!?)
共に居たいなどという感傷で冷静さを失った自らを嘆く。
多少強くなって思い上がっていたようだ。
俺の一番の強みは冷静な判断力ではなかったのか。
(いや過ぎたことは考えるな、二人を活かす方法を……そうだっ!!)
「カノちゃんとシヨちゃんにはさっき戦……っ!?」
『勇者サーボぉっ!!』
魔王が俺たちに向かい両手をかざす。
すると禍々しい邪悪な炎が収束し、一気に巨大な火球と化した。
(攻撃魔法かっ!?)
下手な街なら丸々飲み込めそうなほどの大きさだ。
あんなものを皆が集まってるここに打ち込まれたら……ヤバい。
「オーラ突きっ!!」
「さ、サーボ先生っ!?」
咄嗟に全員から距離を置くべくスキルを放つ。
(さあ、どうでるっ!?)
『はぁっ!!』
目論見通り魔王は俺一人に的を絞り攻撃魔法を放ってきた。
(は、早い……それに熱量もやばいっ!?)
「うぉおおおっ!!」
オーラ突きを連続使用しているのに全く振り切れない。
自動追尾するかのように追いかけてくる火球が通り抜けた後は大地まで蒸発して、文字通り草すら生えぬ荒野と化していく。
(くそっ!? 迎撃するしかねぇっ!!)
「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、聖輝剣っ!!」
オーラ突きの最中に詠唱することで強引に魔法を発動させる。
(流石にスキルと無詠唱魔法は同時使用できねぇ……これで何とかなるのかっ!?)
二重ではない魔法剣の輝きは普段のテキナさん程度でしかない。
果たして聖剣とスキルの上乗せだけで、魔王の攻撃を打ち消せるだけの威力になるかどうか。
しかし悩んでいる暇はない。
オーラ突きの効果が終わると同時に一気に距離を詰めてくる火球へ向けて攻撃を放つ。
「十文字斬っ!!」
正面から魔王の魔法にぶつかると、両手に凄まじい重圧がかかってくる。
(お、押されてるっ!?)
「ぐぅうう……はぁあああっ!!」
何とか気合を込めて強引に剣を振り切ると、僅かに軌道が逸れて俺の脇の大地へと着弾した。
途端に火球は大爆発を起こし、間近でその衝撃を受けた俺は吹き飛ばされる。
(こ、声が出ないぐらい痛ぇ……っ)
「しっかりしろサーボっ!!」
また大地にぶつかる前にトラッパー様が俺を受け止めてくれて、すぐにマーセ様とイーアス様の元へと連れて行ってくれる。
「「光の祝福の元に正常なる形をとりもどせ、『回復』」」
「ぐぅぅっ!?」
二重魔法を二人から同時にかけられて相乗効果により、俺の身体は一気に修復されていく。
その過程で一瞬苦痛が戻り、すぐに消え失せた。
「はぁはぁ……た、助かりました……ま、魔王はっ!?」
「イキョサとテキナ殿が抑えております、すみませんが我々は彼女らの支援に戻りますっ!!」
「サーボ様もすぐに戻ってきてくださいませっ!!」
余裕もなく駆け抜けていく二人。
その先では魔王と切り結んでいるイキョサ様とテキナさんの姿が見えた。
『どけぇえええっ!! サーボぉおおっ!! 貴様だけはぁああっ!!』
「はぁああっ!! 十文字斬っ!!」
「やぁああっ!! 十文字斬っ!!」
俺に追撃しようと躍起になっている魔王は隙だらけだ。
そこに左右からイキョサ様とテキナさんが一番威力の高いスキルを叩き込む。
またしても魔王の身体を包む黒い雲が僅かに消し飛び、身体に十字傷が刻まれる。
だが魔王の行動は止まらない。
「十文字斬っ!!」
「十文字斬っ!!」
『ぐぅぅ……サーボぉおおおっ!!』
背中に更なる追撃を受けながらも、勇者二人を放置して俺に向かってくる魔王。
(そこまで俺が憎いのか……魔王軍を殲滅しただけでこうなるのか?)
「行きますよイーアス……自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、『豪雪暴風』」
「分かりました……自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、『豪雪暴風』」
二人が同時に同じ二重魔法を放ち、魔王の身体を猛吹雪が襲いその巨体を凍り付かせていく。
『がぁあああっ!!』
魔王が強引に氷を振り払いながら進む。
しかし伝説の英雄二人が相乗効果を発揮して放った魔法が、壊されるそばからさらに分厚い氷を張り魔王の動きを封じ込める。
少しずつ魔王の動きが鈍くなっていく。
(これなら……俺も攻撃できるっ!!)
イキョサ様やテキナさんと違い、俺では攻撃と回避行動を同時には取れない。
だがこうして動きが止まっている状態なら、攻撃に専念すればいい。
「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣』っ!!」
二重魔法で最高威力まで高めた魔法剣を作り出し、魔王に向かって強化された身体能力をフルに活かして飛び掛かる。
『さぁ……っ』
そして目の前で氷に阻まれて動きが止まった魔王の顔に全力でスキルを乗せた一撃を振り下ろす。
「十文字斬っ!!」
頭の上から洗礼のように聖なる輝きが降り注ぎ、魔王の全身を包み込んだ。
(どうだっ!?)
着地して振り返ると魔王の身体が溶けていくのが分かった。
それでも未だに致命傷にはならない。
魔王は一回り小さくなったが、身体を振るわせて氷ごと俺の攻撃を振り払って見せた。
『き、貴様ぁっ!! 屑の分際でっ!! 我に比べれば無能極まりないゴミ屑がっ!! どこまで我の邪魔をすれば気が済むっ!!』
「……違う、俺は屑でも無能でもない……俺はサーボだっ!! 勇者サーボだっ!!」
魔王の言葉を、俺は力強く否定した。
否定できた……自信をもって言うことができた。
(……ずっとそれだけが取り柄だったのになぁ……だけどもう、自虐めいた自慢とはお別れだっ!!)
自分を表現する称号に別れを告げて、俺は新たな称号に相応しい人間だと証明すべく魔王へと立ち向かう。
「行きましょう、サーボ先生っ!!」
「やってやろうね、サーボっ!!」
そんな俺と肩を並べて立つ過去と現代を代表する勇者二人。
(この二人と並び立てる日が来るなんてな……よぉし、やってやるさっ!!)
「テキナさん、イキョサ様……ええ、やりましょうっ!!」
『い、忌々しい勇者どもめぇええ……っ!?』
「あたしを忘れんなよっ!!」
いつの間にか魔王の背後に回っていたトラッパー様が魔王の影を射抜いていた。
魔王の動きが止まった。
「やっちまえっ!!」
「イーアス後は任せました……邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣』」
チャンスと見たマーセ様も俺たちと並び立ち、魔法剣を発動させた。
「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、『聖輝剣』っ!!」
「二重魔法は使えずとも……邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、聖輝剣っ!!」
「皆、タイミングを合わせて……やるよっ!!」
イキョサ様が先導し、俺とテキナさんとマーセ様が魔法剣でもって魔王へ同時に攻撃を仕掛けた。
「「「「十文字斬っ!!」」」」
『っ!!!?』
同時に放たれたスキルを乗せた一撃、さらに魔法剣は相乗効果を発揮してその威力はもはや大陸全てを飲み干すほどだ。
「や、やべぇっ!?」
「と、トラッパーっ!?」
視界の隅でトラッパー様がイーアス様を連れて上空に飛び上がるところを確認したのを最後に、世界は白一色に染まった。
もう自分が目を開けているのか閉じているのかもわからない。
全身をふわふわした浮遊感が包み込み、自分がどこにいるのかもわからない。
だけど確実に剣を振り下ろした、その手ごたえを感じた。
『さぁ……っ!?』
魔王の言葉すら俺たちの一撃に飲み込まれて、全てが消滅していった。
「くぅ……うおっ!?」
「ふむ……とと」
「な……くぅっ!?」
「う、うわぁ……あっとぉ」
しばらくして俺たちの攻撃の効果が収まると、急に思い出したように身体が重くなった。
何とか転ばないように地面に足を立てて、ようやく見えるようになった世界を一望する。
「う、うわぁ……す、すごいことになってるぅ」
「……良くこの大陸浮かんでますねぇ」
大陸中にひび割れが発生していて、端のほうからどんどん海上へ向けて崩れ落ちている。
俺たちと魔王が立っていた辺りの大地が比較的しっかりしているのは、恐らく魔王の身体が盾になったためだろう。
それでも凄まじい大きさの窪みが出来上がっていて、魔王の姿はどこにもなかった。
(仮にも大陸一つを消し飛ばしかねない威力とか……バケモンだなぁ……俺も含めて……)
「た、倒したのでしょうかっ!?」
「これだけの威力を受けて生きていられるとは思えません」
「こ、今度こそやったんだね……つ、疲れたよぉ……」
(何とかなったか……勝ったんだよな俺たち……)
実感が湧いてこない。
「皆さま、お見事な攻撃でございました」
「あと一歩で巻き込まれるとこだったわぁ……あぶねぇあぶねぇ……」
どうやったのかワイバーンを引き連れて浮かんでいたトラッパー様とイーアス様が戻ってきた。
(怪鳥を操る魔法を利用したのかな……よかったぁ、帰る手段を失うところだったわ)
「イキョサ様、マーセ様、トラッパー様、イーアス様、ご協力ありがとうございました」
「ええ、皆さまの力を借りなければ到底魔王を倒すことは適わなかったでしょう」
過去の英雄たちに頭を下げる俺とテキナさん。
本当に彼女らが助力してくれなければ、現代の人間で退治しきるのは非常に難しかっただろう。
「全く情けねぇ……とはいいきれねぇなぁ……」
「我々と戦った時とは比べ物にならない強さでしたからね」
「だけど攻撃魔法が少なかったのは不思議だねぇ……前戦った時はもっとバンバン打ってきてたし、魔物だってたくさん生み出して抵抗してきたんだけどなぁ……」
「恐らく、私たちの前に戦った方との戦闘でかなり魔力を消費していたのではないでしょうか?」
(確かにその気になれば大陸丸ごと吹き飛ばせる魔法とか打ってこなかったし……かなり消耗してたから冷静さを欠いてたのか?)
だとすると前に戦っていた方には頭が上がらない。
「一体何者だったのでしょうか……それとカノとシヨはどこに行ったのでしょう?」
周りを見回してもカノちゃんとシヨちゃんの姿はない。
「恐らく近くの崩れた地盤の中を探索していると思います」
(最後に俺が出しかけた指示……シヨちゃんなら多分理解してカノちゃんにお願いしているはずだ)
「それは何故な……地震かっ!?」
急に大陸全土が揺れ動き始め、どんどん崩壊が進んでいく。
『がぁああああああああああああああっ!!』
「なっ!?」
そして俺たちの目の前で、窪んだ大地の中心から魔王が飛び出してきた。
全身を構成する黒い煙はところどころが千切れていて、身体も俺たちとほとんど変わらない大きさに縮まっている。
(まだ生きてやがったのかっ!?)
「しぶてぇ野郎だっ!!」
「だけどあと一押しだよっ!!」
「今度こそ止めを刺しましょうっ!!」
「ああっ!!」
剣を構えて近づこうとする俺たちを一瞥した魔王は、血走った目で狂気に震える声で叫んだ。
『我は魔王っ!! 全ての悪意の総意であるっ!! 故に決して滅びぬ不死身の存在なりっ!!』
「だから何だってん……っ!?」
『しかしもはやどうでもよいっ!! 何もかもどうでもいいっ!! サーボ、貴様さえ殺せれば他に何もいらんっ!!』
憎しみを込めた眼差しを俺一人に向けた魔王は両手を自らの身体に叩きつけると、高らかに呪文を紡ぎ始めた。
『我が肉体と我が生命の炎を糧にこの世の万物に滅びを齎せ、究極死滅っ!!』
「な、何だっ!?」
途端に魔王の身体が変貌していき、ただの黒い塊となった。
(魔王は魔力そのものが形になった存在……それを全部利用して一つの魔法を作り上げたのかっ!?)
だとすればその威力はどれほどのものになるか、想像もつかない。
「あ、あれは……うわぁっ!?」
「す、吸いこまれるっ!?」
不意に何もかもが黒い塊に吸い込まれ始め……いや落ちて行った。
大地も空気も雲も何もかも、例外なく飲み込まれそして消えていく。
更には大地に空いた穴から海水までもが吸い上げられいく。
「ぐぅぅ……オーラ突きぃ……っ!?」
咄嗟に吸い込まれないよう反対側にオーラ突きを放つが、即座に魔力がはがされていく。
「な、なんですかこれは……っ!?」
「フシャァアアアアアっ!?」
それでも俺たちは何とかスキルを連続使用して堪えているが、ワイバーンはついに耐えられなくなり吸い込まれていった。
そして黒い塊に触れるなり、断末魔すら残さず完全に消滅した。
(や、ヤバすぎるっ!?)
「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風……やはり駄目ですかっ!!」
マーセ様が詠唱することでスキルを使いながら魔法を発動させたが、発生した吹雪もまた一瞬で魔力に分解され吸い込まれてしまった。
「だ、駄目だ……打つ手がねぇっ!?」
「こ、このままでは私たちも魔力が尽きて全滅してしまいますっ!?」
「そ、それどころか下手をすれば世界中の空気や水や大地が吸い上げられてっ!?」
(く、くそっ!? ど、どうすりゃあいいんだっ!?)
魔王の置き土産は恐ろしいものだった。
抵抗する術すら浮かばない。
(いや、一つだけある……俺にはあるんだ……)
魔導の使い手として、アレを消滅させる魔法を作ればいい。
対価として多少寿命が縮むだろうが、他に手がない以上やるしかない。
「皆さん少しだけ堪えてくださいっ!! 今からアレを何とかする魔法を作り上げますっ!!」
「た、頼むぞサーボっ!! もうそれしか打つ手はねぇっ!!」
トラッパー様が何とか俺に近づいて抱え込んでオーラ突きを放ち続ける。
これで俺はスキルを使う必要が無くなり、遠慮なく魔力を練り上げることができる。
「ええ、では……っ!?」
そして作り上げようとして、本能的に悟ってしまう。
(ま、魔力が足りないっ!?)
どうやら魔王の魔法を打ち消すには俺の魔力では全てを注ぎ込んでも足りな過ぎるようだ。
だから新しい魔法を作り上げることができない。
(な、なんだよこれ……肝心なところで俺は駄目じゃねぇかっ!?)
せっかく無能ではなくなったと思っていたのに……まさか俺の魔力不足がここで仇になるとは思わなかった。
「さ、サーボ先生どうしましたっ!?」
「ど、どうしたのサーボっ!?」
「早く何とかしてくれ、サーボっ!?」
「頼みますよ、サーボ殿っ!!」
「お願い致します、サーボ様っ!!」
皆が俺を見ている、期待を込めた視線で俺を見つめている。
だけどその想いに応えることができない。
(俺が弱いから……結局無能のままだったから……くそぉおおっ!!)
悔しい、苦しい、辛い、申し訳ない。
「うわぁあああっ!?」
「さ、サーボ先生ぇえっ!?」
「カノちゃんっ!? シヨちゃんっ!?」
生身のカノちゃんとシヨちゃんが吸い込まれていく。
恐らくマジカルアーマーの結界がこの吸い込みに反応した結果、あっさりと魔力が尽きて排出されたのだろう。
「さ、サーボ先生っ!!」
「た、助けてサーボ先生ぇっ!!」
二人の悲痛な悲鳴が聞こえる。
だけど手が届かない場所に居る二人を捕まえることはできない。
(いっそ皆をワープさせる魔法……駄目だ、この吸い込みの中で放っても魔力に分解されるのが落ちだっ!!)
必死に考える、あの二人を……皆を助けられる方法を。
だけど何も思い浮かばない、何より時間が足りなすぎる。
(か、神様お願いしますっ!! 俺の命でも何でも全部差し出しますっ!! だからどうか……っ!!)
どうしても助けたい、この身を犠牲にして救えるなら命ぐらい幾らでも差し出してやる。
だけどどうしようもない。
「く、くそぉおおおっ!!」
「さ、サーボっ!?」
俺はトラッパー様の手から離れて突っ込む。
届くわけないと分かりながら、吸い込まれながら俺はカノちゃんとシヨちゃんの元へ向かおうとする。
「「サーボ先生っ!!」」
それでも二人が差し出した手に、俺の手は届くことはなかった。
そして無情にも俺の目の前で二人は魔王の魔法に吸い込まれ……
「我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……聖なる意思の元に超常たる現象を我が身に齎せ、時間停止」
何者かの声が響き、世界の全てが停止した。
(な、何が……いやそれよりもカノちゃんとシヨちゃんをっ!!)
訳も分からず、しかし俺は急いで固まっているカノちゃんとシヨちゃんを抱えて移動した。
「……ふぅ、よかったぁ」
何とか皆のところまで連れていき、安堵の溜息をついた。
「いや、最悪だ」
「っ!?」
「結局こうなっちまったんだなぁ……はぁ……どうしようもねぇな俺は……」
ガラガラ声に頭を上げると、全身傷だらけの男が立っていた。
顔も身体も原型が分からないほどの大怪我をしていて、声もまたしゃがれている。
だけどどうしてか、俺はこいつのことを知っている気がした。
「……あなたは、魔王と先に戦っていた人でしょうか?」
「……ははは、いや『先』に戦ったのはそっちだぞ……まあどうでもいいけどな……それより時間がねぇ……」
そいつは俺の肩に手を伸ばした。
「時間が無いとは……それにこの状態は一体どうなっているのでしょうか?」
「俺の魔法で時間を止めた、だけどそう持たねぇ……だからその前にアレをなんとかしねぇといけないんだよ」
男が魔王の残した魔法を指し示す。
「じ、時間を止めるほどの魔法を作り上げられる魔力のある貴方ならばアレも何とか出来るのではないでしょうかっ!?」
「いや僅かに足りねぇ……本当に一人分なぁ……だから、結局こうするしかねぇんだよなぁ……」
男は本当に虚しそうにつぶやくと、俺の肩に手を置いたまま近くにいる皆を見回した。
特にテキナさんとシヨちゃん、そしてカノちゃんをじっくりと眺めてため息をついた。
「本当に俺は……騙してごまかして有耶無耶にしちまって……最後まで屑で無能なままだったなぁ……」
「っ!?」
「まぁ、つーわけで……お前は頑張ってみろよ……運命に負けねぇようになぁ……」
「あ、あなた……いやお前はまさかっ!?」
俺の言葉にそいつは……サーボは儚く笑い呪文を紡ぎあげた。
「我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……我が肉体と我が魂を対価に彼の者に祝福を、転生」
「っ!?」
男の身体が俺と重なって、一つになっていく。
力も体力も魔力も……全てが俺の血と肉となり一体化していく。
「……じゃあな」
力なく呟いた言葉を最後にサーボは完全に消失した。
「うわぁっ!?」
「な、何がっ!?」
途端に時間が動き出して、改めて皆が吸い込まれ始める。
その中で俺は深呼吸すると、静かにこの場を収める呪文を紡いだ。
「我が命を糧に生まれよ新なる魔の法則よ……聖なる意思のもとに全ての魔の業を打ち払い賜え、対抗呪文」
俺の全身から活力と魔力が一気に消失していく。
そして黒い塊はバチンと弾けて消滅した。
「わわぁっ!?」
「うおぉっ!?」
皆が大地に落下して悲鳴を上げた。
「……もう大丈夫ですよ皆さん、全て終わりましたから」
そんな皆に俺は笑顔を作ると、柔らかい口調で……嘘をつくのだった。
(さっきのアレが俺なら……これから俺の戦いは始まるんだ……)
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