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囮作戦

「か、過去から連れて……ほ、本当にイキョサ様なのですかっ!?」


「う、うん……どうもです」


 過去と現代の勇者が見つめ合っている。


「おらおら、この程度も避けれねぇで大盗賊名乗るのは百年はえぇぞぉ~」


「う、うわぁっ!? さ、サーボ先生助けてぇっ!?」


 過去の大盗賊にカノちゃんが虐められている。


「シヨ様は魔力がないのですね、サーボ様とご一緒ですね」


「は、はい……お恥ずかしい限りですぅ……」


「いえ、活躍はサーボ殿から聞いています……我々ですら国を復興するような偉業は成せておりません、お見事ですよ」


「きょ、恐縮ですぅっ!!」


 過去の魔法戦士と大僧侶に見つめられて、シヨちゃんは肩身が狭そうだ。


「ここが未来のツエフ大陸かぁ……」


 感慨深そうに自らの故郷の末を見つめているドーマ様。


(どうしたもんかなぁこれから……)


 紹介を兼ねて状況の説明はしたが、この事態をどう収拾つけるか全く思い浮かばない。


(とりあえず……シヨちゃんたちからこっちの状態を聞いて現状を再確認しよう……)


「……取り合えずこっちの事情はこんなところだけど、そっちはどうだったんだい?」


「え、えっとですねぇ……サーボ先生と別れてからまずセーレさんを呼びまして……」


 どうやら俺が別大陸に上陸した可能性を考えて、セーレちゃんに確認するよう頼んだうえでツエフ大陸へ乗り込んできたらしい。


 そして大陸中の木々がめちゃくちゃになっている様子から俺が魔王軍と戦っていると目星をつけて慌ててワイバーンで移動して回った結果、隙を突かれてフウク様に捕らえられていたらしい。


「しかし先ほど急に解放されまして……それで近くにいたエルフのルーフ様に事情を聞きサーボ先生を探していたのです」


「ルーフ様に会ったのか……彼女はどうしてるんだい?」


「父親がかなり疲労してたから一緒に洞窟に避難するって……サーボ先生によろしく伝えてほしいって言ってたよ」


(そっか、長も生きてたのか……良かったぁ……)


「これからどうするのサーボ?」


 イキョサ様の疑問に少し考えてから口を開く。


「そうですねぇ……申し訳ありませんがせっかくここまで来たので帰す前に魔王軍との戦いに協力していただけませんか?」


(帰すだけならいつでもできる……だがせっかくの戦力を利用しない手はない)


 確実に犠牲者を減らすために協力してもらおう。


「私は別に構わないよ」


「この際ですし、最後までお付き合いいたしますよ」


「しゃーねぇなぁ……お前ら頼りねぇし、手伝ってやるよ」


「勿論ご協力させていただきますわ」


 皆快く頷いてくれた。


「では二手に分かれましょう、エルフたちの護衛組と四大幹部の討伐組にね」


 これだけ戦力がそろっているのだ。


 二手に分かれても問題はない。


「残りの魔物は搦手とかつかわねーんだろ?」


「ええ、実際に出会った感じでは力押し一辺倒という感じでしたね」


「じゃあ警戒する必要もなさそうだし、あたしとカノは護衛組だ……お前らが四大幹部とか倒してる間に少しでも鍛えてやるよ」


「いやぁあっ!! サーボ先生助けてぇええっ!!」


(ごめんねカノちゃん、俺じゃあどうしようもないんだ……)


「えっとぉ、じゃあ私も護衛組に回りますねぇ……エルフも取り込んで……サーボ帝国の世界統一にリーチを……うふふ……」


「……ならば僕も護衛組に回りましょう、シヨ殿の手腕も拝見したいところですからね」


(マーセ様、どうかその冷静な判断力でシヨちゃんの野望にストップをかけてやってください……) 


「では俺とテキナさんとイキョサ様とイーアス様で討伐に向かいましょう……できればドーマ様も付いて来てくれませんか?」


(仮にもドワーフを絶滅させたエルフのとこにはいきたくないだろうからなぁ……)


「い、いいのかなぁ……私足手まといにならない?」


「大丈夫ですよ……それにフェンリル関連でお願いすることもあるかもしれませんからね」


「そ、そっかぁ……わかったよっ!!」


「よぉし、じゃあ任せたぞ……おら行くぞカノっ!!」


「うぅ、お手柔らかにお願いしますぅ……」


 大盗賊二人が早足に立ち去って行った。


「やれやれ……では参りましょうかシヨ殿」


「は、はい……サーボ先生たちも頑張ってくださいねっ!!」


(サーボ先生たち『も』ってどういうことなんだろうね……今の君は頑張らないでいいんだよシヨちゃん……)


 物騒なセリフを残して去って行くシヨちゃんとマーセ様。


「じゃあ俺たちも行きましょうか」


「分かりました……しかし四大幹部はどこにいるのでしょう?」


 俺は記憶にあるエンカ様とスーイ様が向かった先を指し示す。


「エンカ様はあちらのほうに吹き飛ばしました、スーイ様は向こう側でフェンリルと共にカーマとセーヌの船と争っているはずです」


「その人たちも私の子孫なんだよねぇ……みんな頑張ってるなぁ」


「うぅ……イキョサさんは子だくさんで羨ましいなぁ」


「私の子孫もいるのでしょうか……もしいらっしゃるのでしたらぜひ会ってみたいものです」


(むしろイーアス様は本人もいるんだけどなぁ……会わせてみてぇ……あれ?)


 ふと思う。


 もしもこれも歴史の必然に組み込まれているならイーアス様たちはあの宝箱の仕掛けをするために必ず帰ることになる。


 逆に言えばここで死ぬことはあり得ないことになる。


 つまり彼女たちがこの時代に居る限り俺たちの勝利は確実なのではないだろうか。


(そしてもう一つ……この事態を応用すれば戦力はいくらでも増やせる……負けようがない気がしてきたぞ)

 

 最もあまりしたいことではないので今は考えないようにする。


「……まあとにかく、海のほうは後回しにして飛んでいったエンカ様を追いかけましょう……テキナさんワイバーンはどうしました?」


「上空で待機させてあります……少しお待ちください……」


 テキナさんが呼び寄せた三匹のワイバーンに分乗する俺たち。


 イーアス様とドーマ様が共に乗り、俺とテキナさんが別の一匹に乗り、最後にイキョサ様が一人で跨った。


「イキョサ様、一応聖剣を渡しておきますね」


「そう言えば二本持ってたもんね……うん、ありがとう」


「聖剣がこれだけあるとは心強い…では行きましょうっ!!」


 テキナさんの号令の元、ワイバーンが飛び立った。


「うわぁっ!! 凄い凄いっ!!」


「それに中々の速度です……怪鳥とは比べ物になりませんわ」


「わ、わわわぁっ!? た、高いよぉっ!?」


 浮かび上がった俺たちは一塊になって、エンカ様が飛んでいった方向へと進む。


 しかし中々エンカ様は見つからない。


(全身燃えてるから目立つはずなんだけどなぁ……)


「見つからないねぇ……」


「困りましたね……」


(やっぱり大盗賊に付いて来てもらうべきだったかな……おや?)


 大陸の端にまで到達して周りを見回したところ、別の方角の海上が妙に眩しく光を反射していた。


 確認しようと移動してみたところ、凍り付いた海面の中心に船が浮かんでいた。


「この氷が光を反射してたんだねぇ……だけど何だろうこの船?」


「これは……カーマ殿とセーヌ殿が乗っていた船ですね、恐らくこの大陸に上陸するために船を固定しているのでしょう」


 あの二人の船には船員が載っていないようだったので、こうでもしないと港のない大陸には上陸できないのだろう。


(となると本人たちは小舟か何かで海岸の浜辺に向かったはず……おお、居た居たぁ)


 予想通り近くの浜辺の上を歩いているカーマとセーヌとお仲間を見つけた。


 情報収集の為にも接触を図ることにする。


「おーい、カーマ殿にセーヌ殿~」


「さ、サーボっ!? お、お前どの面下げて拙者らの元へ戻ってきたぁっ!?」


「サーボテメェっ!! ミイアさんの件と言い……ふざけんじゃねぇぞっ!!」


(めちゃくちゃ怒ってる……まあ当然かなぁ……)


 着地した俺に向かって詰め寄ってくる二人、その仲間も物凄く睨みつけてくる。


「お前があんな強力な魔物を押し付けたせいで、あと一歩で全滅するところだったのだぞっ!!」


「絶対に許さねぇっ!! いますぐ叩ききってやるっ!!」


「落ち着いてくださいお二人とも……あの時点ではああするほかなかったのです」


 何とかなだめようとするが、聞く耳を持ってくれない。


 今にも切りかかってきそうだ。


(だけど全然恐ろしく感じないなぁ……)


「……こ、この粗暴な方々もイキョサさんの子孫なのぉ?」


「はい、残念ながら事実なのです」


「サーボ様のような素晴らしいお方ばかりではないのですね……」


「うぅ……も、もっと冷静に話し合おうよぉ!!」


 イキョサ様が恥ずかしそうに俺たちの間に割って入った。


「そ、そこをどかれよ……サーボお前また新たな女を誑し込んだのかっ!?」


「いい加減にしやがれテメェっ!! あんたもこんな最低野郎をかばうんじゃねぇよっ!!」


「さ、サーボはいい子だよっ!! 勇者がそんな口の利き方しちゃ駄目だよぉっ!!」


 自分の子孫と言うことが気になっているようで、一生懸命諫めようとしているイキョサ様。


「今はこのような争いをしている場合ではありませんよ、後で謝罪いたしますから先に情報を……」


「うっせぇっ!! 誰がテメェなんかに……くたばりやがれっ!!」


 ついにセーヌ殿が剣を抜いて俺に切りかかろうとする。


 結構本気なのだろう、見事な一撃だ。


(だけどトラッパー様に比べれば……止まってるも同然だなぁ)


 イーアス様ですらもっと勢いがあった。

 

 そんな人たちと模擬戦をしていた俺にとって、恐れるほどのことではない。


 冷静に相手の軌道を読み取り、腰に下げた聖剣で迎撃しようとする。


「もぉ……だめだったらぁっ!!」


「うおっ!?」


「なっ!?」


「っ!?」


 しかしその前に反応したイキョサ様が即座にセーヌ殿へ手を伸ばし、思いっきりデコピンした。


 それだけで身体を激しく回転させて、頭から砂場に突っ込んだセーヌ殿。


 見慣れている俺はともかく、初めてイキョサ様の能力を目の当たりにした現代の勇者たちが驚愕している。


「どお、頭冷えた?」


「こ、こいつ何者だっ!?」


 特に実力差を直接感じたセーヌ殿は、半分ビビってすらいるように見えた。


「信じがたいとは思いますがご紹介します……伝説の勇者であるイキョサ様です」


「はぁっ!?」


「さ、サーボ……お主本気で言っているのか?」


 露骨に首をひねる皆に、俺は簡単に過去から連れてきた経緯を説明した。


「ま、魔導の使い手……お、お前が……?」


「い、いやしかし……そのような事が……」


「まあ信じる信じないはお任せします、とにかく心強い味方ということで納得してください……それよりあの後どうなったかお聞かせください」


 余りの展開に意気消沈した二人は、俺の質問に素直に答え始めた。


「た、大変だったんだぞ……あいつらすっげぇ強力で何してもダメージすらろくに通らなくてよぉ……」


「このままでは危ないと思った矢先、不意に何かを察知したようで慌てて立ち去って行ったのだ……」


 そしてこのまま船の上に居るのは危険だと判断した彼らは、急いで近くにあった大陸へ向かいここへ辿り着いたのだという。


「……大体で構わないのですが、立ち去った魔物はどちらの方向へ向かいましたか?」


 俺の質問に二人が指し示したのはエンカ様が飛んでいった方角だった。


(なるほどなぁ……要するに合流を図ったってことかな)


 恐らくスーイ様はフウク様が倒されたことに気づいたのだろう。


 それで単独行動していては危険だと判断して、最大戦力で立ち向かうためにエンカ様と合流しに向かったのだと思う。


(確かにスーイ様とエンカ様、そしてフェンリルの三体を同時に相手にするのは辛い……はずだったんだけどなぁ)


 ちらりと横目でイキョサ様を見る。


 素手でフウク様を撃退した彼女だが、今は聖剣まで装備済みなのだ。


 更にこっちにはテキナさんもイーアス様もいる、おまけでカーマとセーヌもいる。


 もはや三体が同時に襲って来ようとも確実に勝てると断言できる。


(つまり後は……見つけ出すだけだなぁ……)


 俺は皆に推測を話しつつ、魔物をおびき寄せる方法を考えた。


「……では、後は魔物を見つければいいのですね」


「だけどどこにいるんだろうねぇ」


「分かりませんが……恐らくはどこかに隠れて機会をうかがっているのだと思います」


 流石にこの人数に正面から戦闘を吹っ掛けるほど愚かではないだろう。


(となると囮でも使って誘い出すのが一番だなぁ……警戒している四大幹部が思わず襲い掛かりたくなる囮……俺だな)


 すぐに答えは出た。


 魔王軍は俺のことを一番の難敵だと思っている。


 実際にスーイ様もフウク様も俺だけは倒すと言っていた。


 そんな俺が一人で行動し始めれば……どう見ても罠だと分かっていてもその機会を逃すような真似はしないだろう。


(なら……やるか)


 前なら絶対に出なかった結論。


 だけどこれが一番効率的で、多分一番確実だ。


 俺は皆に自分が囮になることを提案した。


「……というわけで俺が一人でいれば魔王軍は確実に襲い掛かってくるはずです、なので皆さんは少し離れたところに隠れていてください」


「さ、サーボ先生にそのような危険な役をやらせるわけには……私が代わりになりましょうっ!!」


「さ、サーボ……囮なら私がやるよ?」


「サーボ様……囮ならば私が……」


「大丈夫なのかサーボよ……お主に囮役など務まるとは思えんが……」


 皆が不安そうに俺を見つめている。


 セーヌ殿も何も言わないが、俺では無理だという視線を送ってきている。


「いいえ、これは魔王軍に一番目を付けられている俺だから出来ることなのです……お任せください」


 にこやかに笑って言うと、俺は早速皆を置いて歩き出す。


「ち、近くで隠れておりますから……どうか無茶はなさらないでくださいっ!!」


 テキナさんの言葉に手を振って応える。


(さあ……正念場だっ!!)


 たった一人で森へと戻り、皆の姿が見えなくなったのを確認する。


 そして深く深呼吸して……叫んだ。


「俺が勇者サーボだっ!!」


 心の底から思いを込めて、初めて本気で勇者を自称する。


 その称号に恥じない人間になれたと証明するかのように。


「さぁあああぼぉおおおおおっ!!」


「さぁあああぼぉおおおおおっ!!」


「ウォオオオオオオオオオオンっ!!」


 少しして俺の名前を叫びながら空から三体の魔物が降ってきた。


 どうやら上空で待機していたようだ。


 目の前に現れた強力な魔物を見て、俺の心に脅えが生まれる。


 はっきり言って逃げたい、口先でこの場をごまかしてやり過ごしたい。


(だけど……ここで踏ん張れるのが勇者だろっ!!)


 自分を好きになるために、理想の自分に近づくために……俺は自らの意志で魔物へと立ち向かうのだった。

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 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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