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外伝 VS大僧侶の試練

色々と遅れていて申し訳ございません、弁解の言葉もございません。

本編は次回がエピローグとなります。


(……ここは、どこでしょうか?)


 どうも私は眠ってしまっていたみたいです。


 身体を起こして私は周囲を見回しました。


 見慣れた王宮の一室が目に映りました。


(そうでした、確か政務をしている最中に眠気が襲ってきて……まだまだ精進が足りませんねぇ)


 身体をほぐしながら、私は目の前に溜まっている報告書の束と格闘を始めました。


 私の指揮する王都バンニがようやく世界を統一して数カ月、まだまだたくさんやることはあります。


 魔王退治したサーボ先生の異名を大々的に宣伝して民衆の支持を得たとはいえ、やはり強引な国々の統合には反発する人もいます。


(最もこの調子では今月中には反乱の火種は消しきれそうですねぇ……盤石な支配が完成しそうです)


 各所から上がってくる報告書には私の指示が上手く行っている旨を示しています。


 もちろん嘘が混じらないように大盗賊のカノさんに裏取りはしっかりしてもらってます。


(やっぱり私の判断は正しかった……ついにサーボ先生と私の前に世界は跪くのですっ!!)


 嬉しくてたまりません、あれだけ無能だと揶揄されていた私に今では世界中がひれ伏しているのですから。


 これもそれも全てサーボ先生が私を引き上げてくれたから……私を受け入れて認めてくれて、才能を見出してくれたからです。


 本当にいくら感謝してもし足りません。


 サーボ先生の為なら私は何だってしちゃいたくなるのです。


「シヨちゃん、ちょっといいかな?」


「さ、サーボ先生っ!!」


 ちょうどいいタイミングでサーボ先生がやってきてくれました。


 政務を投げ出してすぐにサーボ先生の胸に飛び込みます。


 そんな私を優しく抱き留めてくれるサーボ先生……いえ、私の旦那様でした。


 魔王退治が終わってすぐ、サーボ先生は私を第一婦人として……正妻として選んでくれたのです。


 カノさんとテキナさんもサーボ先生がそう言うならと受け入れてくれて、祝っていただけました。


 私は本当に幸せです。


 ちょっと出来過ぎで……何か夢物語のような気すらしてしまいます。


(……そんなわけないですよね、これは全部私が努力して掴んだ成果なんですからぁ)


 頭を振って違和感を吹き飛ばし、私はサーボ先生に甘えることにしました。


「もう先生は止めてほしいな、せっかく結婚したんだからさ」


「で、でもぉ……は、恥ずかしいですぅ」


「お願いだよシヨちゃん……いや、俺の愛するシヨ……」


「はぅっ!? うぅ……さ、サーボ……」


 名前を呼んだだけで顔中が……いいえ、全身が火照って熱くなってきます。


「ありがとうシヨ……大好きだよ」


「あ……んっ」


 サーボ先生が私の顔を持ち上げて、そっと口づけをしてくれます。


 もうそれだけで頭の中が真っ白になってしまいます。


(し、シヨは……幸せ者ですぅ……)


 この時間がずっと続けばいい、私は心の底からそう思いました。


「すみません……サーボ先生……シヨちゃん……一大事です……っ」


「ぷ、プリスさんっ!? ど、どうしましたぁっ!?」


 政務室のドアがノックされて、慌てて離れた私たちの前にプリスさんが顔を出しました。


 珍しく焦った様子を見せています、何事でしょうか。


「ゆ、勇者の里で……は、反乱が……」


「っ!?」


 どうやら待遇に不満が募っての暴動が発生しているようです。


 テキナさんはともかくとして、カーマさんやセーヌさんを筆頭として勇者コンテストの優良者は魔王退治にはまるで役に立たなかった。


 だから勇者年金などという不要な出費を削除したのがよほど気にくわなかったようだ。


(やっぱり……勇者の里はガンですっ!!)


 前々から思っていた……大盗賊としての才能にあふれるカノさんや世界一の勇者であるサーボ先生を認めなかった愚かな村。


 私のこともさんざん見下して追い詰めて……本当に腹立たしい場所でした。


 それでも仮にも生まれ故郷だと思って潰すのは我慢してあげていたのです。


(しかしこうなった以上、容赦する必要はありませんっ!!)


「テキナさんに連絡してくださいっ!!」


 いくら勇者の里が実力者揃いとはいえ、魔王退治の勇者であるサーボ先生とテキナさんが兵を率いて攻めればあっという間に鎮圧できるはずです。


「世界平和を乱すことは大罪ですぅっ!! 見せしめの意味もかねて徹底的に叩き潰しちゃってくださいぃっ!!」


 元々憎かったところが、自ら叩き潰される大義名分を作ってくれたのです。


 私はどこか喜びすら感じながら、指令を出しました。


(ここさえ潰せばもう私たちに逆らえる力のある勢力は存在しなくなりますぅ)


 これでずっと私たちの幸せは続いていくことでしょう。


『……残念です』


 不意に聞き覚えのない声が頭の中に響いてきました。


 そして疑問に思う暇もなく、私の意識は真っ白い光に包み込まれていくのでした。


 *****


(ここは一体……?)


 どうも私は眠ってしまっていたようだ。


 身体を起こし周囲を見渡す。


 見慣れた人力車の荷台が目に飛び込んでくる。


(そうだ……確か近くに魔物の群れが巣くってると聞いてサーボ先生と共に討伐に来たのだ)


「おはようテキナさん、よく眠れたかな?」


「さ、サーボ先生っ!? な、何故車を引いているのですかっ!?」


「少しでも早く魔物を退治して人々を安心させてあげたくてね……かといってよく眠ってるテキナさんを起こすのも悪いからね」


 まさかサーボ先生にそんな雑用をさせて寝入っていたなど、申し訳ない限りだ。


「か、代わりますよっ!!」


「いやもう到着するところだからね……ほら、ここがカノちゃんが見つけ出した敵の本拠地だ」


「す、すみません……私としたことが惰眠をむさぼりサーボ先生の手を煩わせてしまいました」


「いいんだよ、いつもお世話になっているし……それに可愛い彼女の寝顔も見れて嬉しかったよ」


「っ!?」


 彼女と言われて舞い上がりそうになる。


(な、何度聞いても慣れない……だ、だが私はサーボ先生のこ、恋人なのだ……)


 魔王退治の旅路で、サーボ先生は私が一番だと告白してくださったのだ。


 カノとシヨには悪いと思ったが、二人とも祝福してくれて何よりだった。


「さあ、さっさと終わらせて……デートでもしようじゃないか」


「で、デートだなどと……そ、そのような真似……」


「俺はしたいなぁ……最もテキナさんが嫌なら止めておくよ」


「い、いえっ!! お、お願いしましゅっ!!」


 慌てて言い直そうとして噛んでしまった。


(い、嫌なわけがない……さ、サーボ先生とデート……だ、駄目だ想像するだけで頬が緩む……)


 これから戦闘が始まるというのに情けない。


 私は自らの顔を軽くたたいて気合を入れると、サーボ先生と共に魔物の巣へと攻め入った。


 最もサーボ先生に適う相手がいるはずがない。


 私たちはあっさりと魔物の巣を殲滅しきってしまった。


「今回は大したことがありませんでしたね」


「テキナさんが頑張ってくれたからね……しかし返り血が凄いことになってるねぇ」


「ええ……しかし帰るまでの辛抱です」


「そうだけど……確か近くに湖があったはず、そこで水浴びをしていかないか?」


 サーボ先生の提案に胸が高鳴った。


(み、水浴びっ!? は、裸っ!?) 


 破廉恥だと思う……だけど全く嫌だと思えない。


「さ、サーボ先生がお、お望みならば……ま、参りましょう」


「そうだね、可愛いテキナさんを早く綺麗にしてあげたいからね」


「そ、そのようなお世辞はおやめくださいっ!?」


「本気だよ、俺の世界で一番かわいい恋人さん」


 本当に心臓に悪い、サーボ先生の言葉の一つ一つが私の感情をかき乱す。


 だけどそれもまた心地がいい……私は本当にサーボ先生に惚れているのだ。


 言われた通り移動するとすぐに湖を見つけた。


(は、恥ずかしい……だ、だがサーボ先生になら……)


「じゃあ先に水浴びをしていてくれ……俺はこっちで誰かが来ないように見張っているから」


「え……一緒に……っ!?」


 慌てて口を押えた。


(恥ずかしいのは私だっ!? さ、サーボ先生が女性と共に水浴びをするような真似をするはずがないではないかっ!?)


 むしろしたいと思って期待していたのは私の方だった。


 自らの浅ましい感情を呪いたくなる、穴があったら入りたいとはこのことだ。


「……テキナさんがいいなら、俺も一緒に水浴びしたいね」


「っ!?」


「本当は恥ずかしいけれど……テキナさんには失望されてしまうかもしれないけど……俺もテキナさんの全てを見てみたい」


「し、失望などと……わ、私もサーボ先生の全てを見たいですっ!!」


 我慢できずに叫んでいた。


 あれだけ男嫌いで性的なことが苦手だったはずの私は何処へ行ったのだろうか。


(い、いや……す、好きな男性を前にすれば誰だってこれぐらい……)

 

 そして私たちは……生まれたままの姿を見せあった。


 サーボ先生の身体はとても逞しく、私は恥じらいに顔を染めながらも目を逸らすことができなかった。


「凄い綺麗だよテキナさん……いやテキナ……愛している」


「さ、サーボ先生……い、いえサーボ……わ、私も愛しております……」


 お互いに顔を見つめ合って、どちらからともなく口づけをした。


(ああ……これが……幸せなのだな……)


 サーボ先生の身体に抱き着いて……私は恥知らずなことに胸を押し付けた。


 少しでもサーボ先生に気持ちよくなってほしかった。


「ふはははっ!! 見つけたぞサーボぉっ!!」


「ひゃははっ!! テキナも一緒かぁっ!!」


「なっ!?」


 誰かが飛び出してきて、とっさにサーボ先生が私を背中に庇ってくれた。


「カーマ殿にセーヌ殿……それにお仲間の方々ですか……覗きとは感心しませんね」


「うるせぇっ!! 俺たちは魔王様から力を授かった、もうお前なんかには負けねぇぞっ!!」


「これでお前を倒せば世界中の女は我らのモノだ……覚悟してもらおうっ!!」


「ま、魔王に魂を売り渡して女性をものにしようなどとは……恥を知れっ!!」


 前に魔物が化けた女の誘惑に引っかかったときから嫌悪感は抱いていたが、それでも同じ勇者だと思い攻撃するのは控えていた。


 しかし魔王の僕にまで成り下がった以上はもう遠慮する必要はないだろう。


「愚かなものだ……流石に放っておくわけにはいかない、やろうテキナ」


「はいっ!!」


 サーボ先生の指示も得られた、大義名分は十分になる。


 私は足元に落ちている剣を抜き放つと、サーボ先生と共に愚かな魔王の手先へと切りかかった。


『……残念です』


 不意に聞き覚えのない声が頭の中に響いた。


 そして疑問に思う暇もなく、私の意識は真っ白い光に包み込まれてしまった。


 *****


(ここは……どこでしょう?)


 どうやら私は眠ってしまっていたようです。


 目を覚ました私が頭を上げれると、見慣れた王座の間の光景が映りました。


(ああ、そうでした……私はサーボ様たちとお別れしてここに戻ってきたのでした……)


 旅の疲れが残っていたとはいえ、まさか玉座に座ったまま眠ってしまうなど大僧侶として恥ずべきことです。


 もっと精進しなければいけません。


(確か今日の仕事はもうほとんどなかったはずです……少し領内を見守りながら修行をしましょう)


 すぐに立ち上がり私は兵士の方々に後をお願いして、王宮から外に出ました。


 街中を歩いて人々との交流を図りますと、誰もかれもサーボ様の素晴らしさを語っておりました。


(本当にサーボ様は素晴らしいお方でした……あれこそが勇者なのでございましょう)


 目の前のことに囚われず大局を見て、真にやるべきことを見抜き困っている人を的確に助けあげる。


 それに比べてすぐ近くにある脅威に意識を奪われ、あと一歩で魔物によって領内を蹂躙されるところだった私。


(本当に情けない限りですわ……もっとしっかりしなければいけません)


 自らに活を入れながら私は領内にある別の村を見回ろうと思い、街の外を歩き始めます。


「っ!?」


 しかし不意に足元がぐらつき始めました。


「ギギィイーーーーッ!!」


 咄嗟にその場を飛びのくのと、地面の下から魔物が飛び出してきました。


(こ、これがサンドワーム……ま、まさか生き残りがいたのですかっ!?)


 慌てて杖を構えようとした私に、サンドワームは勢いよく口を開いて突っ込んできます。


 とても避けられそうになくて、かといって呪文も咄嗟に唱えることができませんでした。


「はぁああっ!!」


「っ!?」


 絶体絶命、そう思った次の瞬間にサーボ様がサンドワームを切り捨てておりました。


「さ、サーボ様っ!?」


「大丈夫でしたか、テプレ様っ!!」


「は、はい私は平気です」


「よ、よかったっ!!」


「っ!?」


 サーボ様が私に抱き着いてきました。


 何がどうなっているのか混乱の連続でわかりません。

 

 ただ分かるのは……こうしてサーボ様の腕の中にいることは決して嫌ではないということでした。


(いえ、むしろ……)


「テプレ様が無事でよかった……あなた様に何かあったら俺は……」


「あ、あのサーボ様……な、何がどうなって……?」


「どうしてもあなたに伝えたいことがあって戻ってきたのです……まさか魔物の生き残りが居るとは思いませんでした……間に合ってよかった」


 そう言ってサーボ様はとても素敵な笑顔を見せるのです。


 間近で見てしまった私は……全身が熱を帯びるのを感じていました。


「そ、そうでしたか……そ、それで私に言いたいこととは何でしょうか?」


「……テプレ様……俺は一目見たときから……そして僅かな時間とは言え共に旅をして……貴方様に……好意を抱いてしまったのです」


「そ、それはっ!?」


「愛しておりますテプレ様」


「はぅっ!?」


 予想外の発言に私は素っ頓狂な声を出してしまいました。


 だってまさかあの素敵なサーボ様が……勇者サーボ様が私に告白するなど考えもしていなかったのです。  


「もしもお許しいただけるのなら……あなたと共に過ごしたい……」


「で、ですが私は大僧侶としてこの国を……サーボ様も勇者として魔王を退治する義務が……」


 何とか理性を総動員して応えます……ともすれば頷いてしまいそうでしたから。


 大僧侶として禁欲生活をしてきた私ですが、こうして素敵な殿方に正面から告白されるとどうしてもドキドキしてしまいます。


 まして尊敬していた憧れのサーボ様が相手となれば、ときめきが止まらないのも仕方がない話です。


「全てわかっております、だけれどもどうしてもテプレ様と離れたくないのです……どうかこの俺と共に駆け落ちしてくださらないでしょうか」


「っ!?」


 駄目だと理性が告げています、断らなければいけないと分かっています。


 だけどサーボ様が余りにも辛そうにしていて、本気で私を想っていることが分かってしまいました。


(わ、私は…………大僧侶失格です……皆様申し訳ございませんっ!!)


「わ、私もサーボ様をお慕い申しておりますっ!! さ、サーボ様が望むのでしたらどこまでもお付き合いいたしますっ!!」


「ありがとうテプレ様……いやテプレ……絶対に幸せにするよ」


「さ、サーボ様……んっ」


 私に唇を重ねてくれるサーボ様、その甘い感触に私は頭まで蕩けてしまいそうでした。


(わ、私はもう十分幸せでございます……)


『……気持ちはわかりますが残念です』


 不意に聞き覚えのない声が頭の中に響き渡りました。


 そして疑問に思う暇もなく、私の意識は真っ白い光に包み込まれてしまったのです。


 *****


(ここ……どこ?)


 周りを見回すけどよくわからない。


 だけど目の前に草がある。


 だから食べることにした。


 うん、美味しい。


「よしよし、ムートン君はいい子だなぁ」


 サーボが僕を撫でてくれる。


 気持ちいい。


 本当に良い人だ。


 僕はこの人が大好きだ。


 格好いいし優しいし、悪い魔物をどんどんやっつけてて強いんだ。


 この人と一緒に居られて幸せだなぁ。


「勇者サーボぉっ!!」


「なっ!? 魔王軍かっ!?」


 悪い魔物が出てきた。


 こいつらは言葉が通じるくせに僕の話を聞かない。

 

 言葉が通じないのに僕の気持ちを分かってくれるサーボとは全然違う嫌な奴だ。


「呪われるがいいっ!!」


「ムートン君、逃げて……ぐわっ!?」


「っ!?」


 僕をかばおうとしてサーボが敵の魔王を喰らっちゃったっ!!


 サーボをいじめる奴は許せないっ!!


 僕は全力でダッシュして魔物にタックルした。


「ぐはぁ……ちぃ、覚えてろっ!!」


 何とか追い払うことができた。


(もう大丈夫だよ)


 僕が振り返ると、サーボは苦しそうに身体を抑えていた。


 そして全身を黒い煙が包んだと思うと、とっても可愛らしい姿になっちゃったんだ。


「サーボ大丈夫?」


「何とか……あれ、ムートン君の言葉がわかるよ」


「サーボも僕と同じ姿になっちゃったからじゃないかなぁ」


「そうなんだ……うん、本当だねぇ」


 近くの水辺で自分の姿を確認してサーボは納得したみたいだ。


「うーん、どうしようかなぁ」


「とりあえず草をお腹いっぱい食べようよ」


「それもそうだね」


 僕たちは横に並んで草を食べ始めた。


 言葉が通じるようになって、今まで以上に楽しい。


 このままずっと一緒にいたいなぁ。


「ふう、お腹いっぱいだぁ」


「食べたら寝ちゃ……っ!?」


 サーボが横になって気づいた。


(さ、サーボ……女の子になっちゃってるっ!?)


「どうしたのムートン君、一緒に休もうよ?」


 サーボが無防備に聞いてくる。


 だけどサーボが女の子なんだと思ったらなんだかドキドキしちゃうんだ。


「さ、サーボ……僕サーボのこと……大好きみたいなんだ」


「そっかぁ……俺もムートン君のこと大好きだよ」


 大好きって言われちゃったっ!!


 嬉しくなって僕は身体をサーボに擦り付けた。


 サーボも身体を寄せてくれて、僕たちはとっても幸せになれたんだ。


『……ふふ、もう少し見ていたいけれど残念です』


 急に聞いたことのない声が聞こえてきた。


 そしたら目の前が真っ白になっちゃった。


 *****


(あれ……ここどこだっけ?)


 どうやら眠っちゃってたみたいだ。


 身体を起こして周囲を確認すると、見慣れた修行場に居ることが分かった。


(そっかぁ、修行中に寝ちゃったんだぁ)


 こんなところをサーボ先生に見られたら大変だ。


 僕は慌てて起き上がると近くに落ちていた木刀を握って素振りを開始した。


「サボらずに続けているかな?」


「さ、サーボ先生……も、もちろんだよぉ」


「本当かなぁ……ほっぺたに涎が付いてるのはなんでだろうねぇ」


「えぇっ!?」


 慌てて拭ったけど特に湿ってなんかいなかった。


(だ、騙されたぁっ!?)


「カノちゃん、やっぱり眠ってたんでしょ?」


「うぅ……ご、ごめんなさぁい」


「全く、嘘はいけないよ……」


「は、はぁい……」


 恐る恐るサーボ先生の顔を見たけど、どうやら怒ってはいないようだ。


「でもまあ飽きる気持ちはわかるよ、カノちゃんは大盗賊としての才能があるからこういう素振りは飽きちゃうんだろうねぇ」


「い、いやそんなわけじゃぁ……」


「だけどごめんね、俺はそっちの指導は一切できないから……情けない先生だねぇ」


「そ、そんなことないよっ!! 大体僕の才能を見抜いてくれたのもサーボ先生じゃないかっ!!」


 勇者という称号に拘って、せっかくの才能を見てみぬふりをしていた僕の目を覚まさせてくれたのもサーボ先生だ。


 本当に感謝している、情けないだなんて思ったことは一度もない。


(い、いや……女性関係だけは情けないって思ったかも……)


 サーボ先生は女性関係には非常にいくじなしになっていまう。


 何せ誰一人としてキス一つしてもらえていないのだから。


(こんなに好きなのになぁ……)


 皆と協力して一生懸命アピールしているのに全く手を付けてくれないのだ。


 まして僕とは両思いで……恋人同士にまでなったというのにろくに手も繋いでくれない。


 今だってわざわざ修行という口実で二人きりになったのに、何もしてくれない。


(別にサーボ先生になら押し倒されてもいいんだけどなぁ……)


 いっその事内緒で色々してやろうかと思う。


 僕の大盗賊としての能力とトラッパー様の装備の効果を使えば大抵のことは出来るだろう。


 実際に何度か着替えとか覗いているし、正直そのたびに襲い掛かりそうになる。


 だけど力では敵わない以上、そんなことをしても振り払われるのが落ちだろう。


(はぁ……せめてキスぐらいしたいなぁ……)


「……ノちゃん……カノちゃんどうしたの?」


「はっ!? ご、ごめんなさいサーボ先生、ちょっと考え事してて」


「今日は特に集中力がないねぇ……ひょっとして熱でもあるのかな?」


 そう言ってサーボ先生が僕に近づいてきて、額に手を当ててきた。


 好きな人の貌が間近に迫ってきて、僕はどうしても顔が火照るのを止められない。


「やっぱり熱いね……今日はもうこれぐらいにして」


「や、やだっ!! まだサーボ先生と一緒に居たいっ!!」


「だけど体調が悪いんじゃぁ……」


「ち、違うよ……ただサーボ先生とキスしたいなぁって……っ!?」


 咄嗟に口が動いていた。


 慌てて抑えたけど、完全に聞かれてしまった。


「……なるほどねぇ」


「うぅ……修行中に変なこと考えてごめんなさい」


「いいんだよカノちゃん……本当は俺もしたかったから」


「えっ!?」


 驚く僕を抱きかかえて逃げられないようにしながら、サーボ先生は顔を近づけてきた。


「ただ下手なところですると色々厄介そうだからね……俺はカノちゃんと最初にキスがしたいんだ」


「さ、サーボ先生っ!?」


「サーボって呼んでほしいな……俺もカノって呼ぶから……」


「あ、あの……その……さ、サーボ……うぅ……」


 望んでいた展開になったというのに恥ずかしくて仕方がない。


 だけど顔をそらそうにもサーボ先生が押さえつけていてどうにもならない。


「ありがとうカノ……俺とずっと一緒に居てくれて……愛しているよ」


「ぼ、僕も最初から見捨てないで一緒に居てくれたサーボ先生が……大好きです……んっ」


 初めての口づけはとても柔らかくて、幸せな味がした。


 このままずっとくっついていたいとすら思った。


「何をイチャついているんだ?」


「っ!?」


 唐突に聞こえた声に身体を離してそっちを見ると、勇者コンテスト優勝者の一人が立っていた。


 才能がないからって僕を見捨てた奴だ。


「何か用でしょうか?」


「いや、勇者の才能もないのに何をさぼってんだかってなぁ……何でお前らなんかが勇者に選ばれてんだか……」


「それだけサーボ先生が優れているからだっ!! お前なんかとは違うんだよっ!!」


「はっ!! バカにしやがって……じゃあその実力とやら見せてもらおうかっ!!」


 そう言うと真剣を抜き放ちこちらへと向けてくるそいつ、どうやら酔っぱらっているらしい。


「それは玩具ではありませんよ……」


「うるせぇ、馬鹿にするなっ!!」


 男は本気で切りかかってくる。


(前々から思ってたけど……やっぱり勇者の里の人間はどこかおかしいよっ!!)


 才能の有無で人を当たり前のように見下す彼らを僕はどうしても好きになれなかった。


 それでも同郷の人間だと思って我慢していたが、攻撃までしてくるのならもう容赦してやるつもりはない。


(正当防衛っていう立派な大義名分があるんだ……叩きのめしてやるっ!!)


 僕は装備の効果を発動させると、そいつの死角に回り込んだ。


 そして無防備なところに全力で攻撃を叩きこもうとした。


『……残念です』


 だけどその瞬間、不意に聞き覚えのない声が頭の中に響いた。


 そして疑問に思う暇もなく、僕の意識は真っ白い光に包み込まれていった。

おまけ


 「セーレちゃんは凄いっ!! 素敵っ!! 可愛いっ!!」


 「「セーレは私たちの自慢の娘っ!! 最高っ!! 凄いっ!!」」


 「セーレママすごいのっ!! 格好いいのっ!! 大好きなのっ!!」


 「そーだぞぉっ!! セーレは凄いんだぞぉっ!! よぉしみんなナデナデしてやるぞぉっ!!」


 「ぐわぁおおおっ!! おれはまおうだぁっ!! 悪い奴だぞぉっ!!」


 「きゃぁああっ!! 助けてぇええっ!!」


 「私の家族に手を出すなぁっ!! ええい、メガトンぱーんちっ!!」


 「ぐわぁあっ!! やられたぁあああっ!!」


 「「「「きゃぁああっ!! セーレ様素敵ぃいいっ!!」」」」


 セーレ様最高っす

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