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外伝 風の魔物VS三弟子

本編が終わらないのでまたしても外伝でお茶を濁させていただきます。

楽しみにしている皆さま、何度も誠に申し訳ございません。


「テキナさんの言いたいことはわかるけど彼女の笑顔を見てごらんよ……盗ったことが気になるなら代金を置いて行こう」


「は、はいっ!! お見事な配慮にこのテキナますます惚れ直し……掘れ跡を直してきます」


 あ、危うくボロを出すところだった。


 いやサーボ先生には既に気づかれていてもおかしくはない。


(わ、私は何と恥ずかしいことを言ってしまったのだっ!!)


 自然と口から洩れていた。


 まさかこの私が男性に惚れてたなど、自分でも驚きだった。


(た、確かにサーボ先生は素晴らしい……理想の男性だ……)


 偉大な思想のもと千里先を見通す先見の明を持ち、行動は常に正しく見事な成果を残していく。


 何より他の下劣な男とは違い、私の顔や体ではなく能力や思想そして行動を見て評価して導いてくださる。


 事実一つ前の村では、あの下品な魔物の誘惑をあっさりと断ち切る高潔さを表してくださった。


(サーボ先生……本当に素敵だった……)


 あのお方の元で働ける私は何と幸せな事だろうか。


 出来ればずっと行動を共にしたいものだ……魔王退治が終わった後も……里に帰った後も。


(出来れば寝食も共に……い、一緒に寝る……わ、私は何を考えたっ!?)


 同じ家で寝泊まりする姿を想像しそうになって、私は慌てて頭を振った。


 いくらなんでも年頃の男女が共に暮らすなど破廉恥極まりない、それこそ夫婦でもない限りは。


(ふ、夫婦……サーボ先生と……)


 いくら私が性的なことが苦手でも知識ぐらいは身についている。

 

 お陰で連想的にサーボ先生との同衾が頭に浮かんでしまい、だけど不思議と嫌悪感は感じなかった。


 あれほど嫌っていたはずの行為が、サーボ先生が相手だと思うとどうしてむしろ甘美にすら思えてしまうのだろう。


(し、しっかりするのだ私よ……そもそも夫婦以前に私たちは付き合ってもいないのだぞ……ライバルも多い……)


 サーボ先生はとても魅力的な方だ、共にいるカノやシヨも惚れているはずだ。


(カノもシヨも華奢な美少女で可愛らしい……それに対して私はどうだ……)


 女性的な魅力など鍛えようともせず、ひたすら鍛錬に明け暮れた身体はとても武骨に思われた。


 唯一あの二人に勝る点があるとすれば……今まで忌み嫌ってきたこの胸部のふくらみぐらいだろう。


(だ、だが……サーボ先生はそのような外見的魅力に左右されるお方ではない……)


 この胸を気にしない男性だから素敵なのに、胸以外に男性を誘惑する術など思いつかない。


 本当に上手く行かないものだ。


「……サーボ先生」


「呼んだかな?」


「っ!?」


 はっと顔を上げれば、そこにサーボ先生が立っていた。


 近づく気配を全く感じ取れなかった。


(どうしたのだ私は……こんなことは初めてだ)


 いくら気を許している相手とはいえ、これほどの接近に何故気づけなかったのだろうか。


 まるでこの場にいきなり現れたかのようだ。


「さ、サーボ先生……い、いつの間に……」


「テキナさんに話したいことがあってね……あの二人が居ない所じゃないとできない話が……」


「そ、そうなのですかっ!?」


 聞きたかったのはいつ近づいてきたのかだが、そんなことどうでもよくなってしまう。


(さ、サーボ先生が私に話……ふ、二人きりで話……っ!?)


 心臓が高鳴る……しかしすぐに頭を振って思考を切り替える。


 あの真面目なサーボ先生だ、この魔物の脅威が迫る現状で変なことをするはずがない。


 恐らくこの状況に対する考察なのだろう。


 だから私は出来るだけ真剣にサーボ先生の話を聞こうと思った。


「実は……テキナさんにだけはどうしても伝えておきたいことがあったのです」


「な、なんでしょうか?」


 しかしサーボ先生は申し訳なさそうな顔で、言いずらそうに口を開いた。


 あんまりにも深刻な雰囲気に、気を引き締める。


「俺は……本当は弱い無能なんです……勇者コンテストに出なかったのもそのためなのです」


「えっ!?」


 本当に弱弱しい発言に驚かされる。


「い、いやサーボ先生は……魔王退治を目指して努力をしていて……」


「それでも俺は弱いままだったんだ……騙すような形になって申し訳ない……」


 頭を下げるサーボ先生。


 確かに私はサーボ先生が戦うところを見たことがなかった。


「ど、どうしてそのような事を黙っていたのですか……それに何故魔王退治という危険な旅路に付き合ってくださったのですかっ!?」


「……テキナさんと一緒に居たかったからだよ」


「っ!?」


 苦しそうに呟いた言葉は私の胸を貫いた。


「だけどテキナさんと共に旅をして、魅力的な様子を見れば見るほど騙している自分が許せなくなったんだ……」


 そう言って頭を下げるサーボ先生。


「し、しかし実力がどうであれサーボ先生の偉大な思想には変わりありませんっ!! わ、私はそれでもサーボ先生を尊敬しておりますっ!!」


 余りにも痛々しくて、気が付けば叫んでいた。


「そう言ってくれるなんてテキナさんはとても優しい……だけどやっぱり俺はそんな立派な人間じゃないんだ……今だって俺はテキナさんを騙していた罪悪感より……二人きりでいることにドキドキしているんだから」


「さ、サーボ先生っ!?」


 今まで騙されていたと知って、また男女の目で見られていると分かって……だけど私は嬉しさしか感じなかった。


 どうやら私は本当にサーボ先生に……惚れてしまっているようだ。


「わ、私も同じです……サーボ先生とこうして二人でいると心臓が高鳴って……仕方ありません」


「……証拠を見せてもらってもいいかな?」


「しょ、証拠とは?」


「キス……してもいいかな?」


「っ!?」


 サーボ先生の言葉に私は固まる。


 頭の中で単語を反芻して、実際に行っているところを想像してしまう。


 すぐに全身が熱くなる、恐らく私の顔は真っ赤だろう。


「駄目かな?」


「……っ」


 私はもう言葉も返すこともできず、自らの意志でサーボ先生の胸元に飛び込んだ。


「サーボ先生……私は……」


「……かかったなぁっ!!」


「えぇっ!?」


 その瞬間にサーボ先生の姿が霞んで消えていき、代わりに粘っこい風が私の全身にまとわりついた。


 そして視界が反転して、気が付いたら私は不思議な空間の檻の中に囚われていた。


「……わ、私は……あぁああああっ!?」

 

(さ、サーボ先生があのようなことを言うはずないのに……わ、私の馬鹿ぁあああっ!!)


 まんまと魔物の罠にかかったことを悟って、私は悔し涙を流すのだった。

 

 *****


「俺が起きたら交代で君たちは眠ってくれていいから」


「分かりましたっ!! 頑張りますっ!!」


 サーボ先生が寝室に引っ込んでいきました。


(本当に……頑張らなくちゃっ!!)


 私は自分に気合を入れて外の監視をすることにしました。


 夕暮れに染まる真っ赤な世界を真剣に眺めますが、何一つ変化は見られません。


(……大丈夫かなぁ、私たち)


 テキナさんが居なくなって、私の心には恐ろしさが忍び寄ってきます。


 サーボ先生の顔を見れば安心できると思ったけど、起こすのも悪いから会いに行くのは止めておきました。


 代わりにちらりと横目でカノさんを見ました。


 真剣なまなざしで外の変化を観察しているのがわかります。


(流石大盗賊だなぁ……はぁ……どうして私には何の才能もないんだろう……)


 何の役にも立てない自分が情けなくて涙が出ちゃいそうです。


 こんな役立たずだとサーボ先生に嫌われてしまうんじゃないかって、そう思うと不安で恐ろしいのです。


(ううん、サーボ先生は……あの方は私を見捨てたりしないもんっ!!)


 自分に言い聞かせます。


 勇者の里で誰からも見捨てられていた私を受け入れてくれたサーボ先生。


 どんな時も正しい判断を下して、人々から尊敬の念を集めている素晴らしい人。


 何より私を受け入れて、勇者としてあるべき姿を教えてくれて……本当に勇者にしてくれた。


 だから私は、気が付いたらサーボ先生のことが好きになっていました。


(もしもサーボ先生を独り占め出来たら……い、いやそんなこと考えちゃ駄目ですよ私っ!!)


 頭を振って不埒な考えを吹き飛ばします。


 多分カノさんもテキナさんもサーボ先生に好意を抱いているはずなのです。


 なのに私だけのものにしたいだなんて、そんな考えはいけません。


「……サーボ先生」


「……気づいちゃったかい」


「っ!?」


 何故か私が監視していたドアの外からサーボ先生の声が聞こえてきました。

 

「しっ……カノちゃんに聞こえないように」


 驚いてしまった私をたしなめるようにサーボ先生がつぶやきます。


 慌てて口を押えながら、そっとカノちゃんの様子を伺いますがどうやらこちらの変化には気づいていないようです。


「さ、サーボ先生……どうしてそんなところに?」


「寝室の窓から抜け出したんだ……」


 どうやら裏から回ってきたようですが、何か頭に引っかかります。


(外でゴソゴソ移動していたのに私はともかく大盗賊のカノさんが気づかないなんてあるのかなぁ?)


「シヨちゃん……二人で逃げ出さないか?」


「っ!?」


 サーボ先生の言葉で私の疑問は吹き飛んでしまいました。


 信じられません、あの立派なサーボ先生の言葉だとは思えなかったのです。


「な、なんでそんな……そ、それに安全かどうかもっ!?」


「さっきこの現象を起こしている魔物と取引したんだ……勇者と大盗賊を渡せば見逃してやるって」


「っ!?」


 まさかサーボ先生が魔物と取引するなんて、余りの言葉に私は目の前がくらくらしてきました。


「俺はねシヨちゃん……君なら気づいているかもしれないけど本当は……ただの屑なんだよ」


「っ!?」


「こんなことで死にたくないんだ……俺は誰を犠牲にしてでも生き残りたいんだよ……」


 驚きの連続で私の頭はもうめちゃくちゃでした。


 だけどどこか納得している自分が居ました。


 実は今までサーボ先生の動きを見て、どこかおかしいと感じてしまっていたのです。

 

 魔王軍との戦いでは私たちを常に前線に立たせて、自分は馬車に残っていて……まるでいつでも逃げれる準備をしているようでした。


「だ、だけど……じゃあ何で私に話しかけたんですか?」


「……俺と同じ無能だから……シヨちゃんだけは見捨てられなかった……見捨てたくないんだ」


「っ!?」


 サーボ先生の言葉に私の胸は、不謹慎にも高鳴りました。


「テキナさんもカノちゃんも俺たちとは違う選ばれた人間だ……放っておいても平気だよ……シヨちゃんだけが駄目な俺の気持ちを分かってくれるはずだ……支えてくれると信じてるんだ」


「さ、サーボ先生……」


 気持ちはよくわかりました。


 だって私も仲間だと思っていながらもあの二人の能力に劣等感を抱いてしまっています。


(だ、だけど……そんなの駄目ですっ!!)


 勇者として仲間を見捨てて逃げるような真似は出来ません。


 サーボ先生にも、そんなことをして欲しくありません。


「わ、私は勇者として……ここで魔物と戦いますぅ……だからサーボ先生も……」


「……そっか、シヨちゃんは強いね……でも俺は駄目なんだ……ごめんねシヨちゃん……」


 サーボ先生は悲しそうにつぶやいて立ち去って行こうとします。


 引き留めなきゃと思って、だけど何を言えばいいのかわかりません。


「……シヨちゃんならきっと俺と違って勇者になれるよ、頑張ってね……俺が一番……愛しているシヨちゃん……」


「あ……」


 そんな私に最後の言葉をかけながら、サーボ先生の姿がゆっくり遠ざかって行きます。


「ま、待ってください……」


 気が付いたら私はサーボ先生の後を追いかけて外に飛び出していました。


(カノさん……テキナさん……ごめんなさいっ!!)


「サーボ先生っ!! わ、私も一緒に行きますぅっ!!」


「し、シヨちゃん……どうして……?」


 追いついたサーボ先生の言葉に、私は強く言い返します。


「だ、だって……私もサーボ先生が大好きなんですぅっ!!」


 失望もした、思うところもある……だけどやっぱり私はサーボ先生が好きだ。


 自分を受け入れてくれて……自分と同じコンプレックスを抱いているサーボ先生を見捨てることなんかできない。


(ううん……今度は私がありのままのサーボ先生を受け入れてあげる番ですぅっ!!)


「ありがとうシヨちゃん……だけど俺は臆病だから証拠がないと……信じられないんだ……」


「しょ、証拠ってっ!?」


「キス……してくれないかな?」


 そういってサーボ先生が両手を広げて私を待ち構えています。


 もちろん私は喜んでその胸に飛び込んで、サーボ先生に顔を近づけました。


「さ、サーボ先せ……」


「……ふははは、騙されたなぁっ!!」


「はぅっ!?」


 何故かサーボ先生の姿が霞んでいって、代わりに私の全身を粘り気のある風がまとわりつきました。


 そして視界が反転して、気が付いたら私は変な檻の中に囚われてしまっていました。


「……わ、私は……あぁああああっ!?」


 向かいの檻の中でテキナさんが嘆きながら地面をぶっ叩いてひび割れを起こしています。


 ようやく自分が魔物の罠にかかったのだと分かり、申し訳なさと悔しさで顔中が火照っていくのがわかりました。


(な、なんであんな演技に騙されたの私ぃいいいっ!!)


 少し考えれば尊敬するサーボ先生があんな情けないはずないと気づけたはずなのに、どうして誤解してしまったのだろうか。


「う……うぅ……ごめんなさぁいサーボ先生ぇ……」


 私は恥ずかしさの余り、その場に蹲り悔し涙を流しました。


 *****


「じゃあ行ってきますっ!!」


「うむ、信じているよカノちゃんっ!!」


 サーボ先生の言葉を背中に受けて、僕はフードの効果を発動させて民家を飛び出した。


 外に出た瞬間は恐ろしくて目をつぶってしまったけど、僕がどこかに連れ去らわれることはなかった。


(サーボ先生の想像通り……流石だよっ!!)


 やっぱりサーボ先生は凄いと思う。


 いつだってどんな状況でも冷静で、常に正しく物事を見て判断を下すことができる。


 それでいて誰よりも優しくって、女の人の色香にも惑わされない……本当に立派な人だ。


 見た目だけでしか僕を評価しなかった他の奴らとはまるで違う。


(そ、そんなサーボ先生が僕のことを……う、嬉しいよぉっ!!)


 物凄く胸が高鳴っている。


 さっきまで生きるか死ぬかで恐怖しか感じていなかったというのに不思議だ。


 だけど仕方ない、僕は……ずっと前からサーボ先生のことが好きだったのだから。


 その想いが成就したのだから、舞い上がるなって言うほうが無理な話だ。


(よぉし、絶対にこの場を乗り切って……サーボ先生とき、キスして……え、エッチな……えへへ……)


 両思いなのだから当然そう言うことをしても構わないはずだ。


 恐らく同じ感情を抱いているであろうシヨちゃんとテキナさんには悪いがもう止まらない。


 早速今夜にでも二人きりで眠るよう誘ってみよう、きっと喜んで頷いてくれるはずだ。


 そのためにも何としてもこの危機を乗り越えないといけない。


 僕は全力で村の中を探索して回った。


(何も目立つところは……っ!?)


 装備の効果か、或いは物凄く集中しているためか……とある家に違和感を覚えた。


 ほんの僅かだが、壁が焦げている気がしたのだ。


 早速中にお邪魔して調べようとして、玄関先に何故か一冊の本が落ちていた。


(これは……日記だっ!?)


 どうやらこの家の住人が残した日記のようだ。


 この状況を打開する手掛かりになるのではと思い、僕は中を読み進めることにした。


『ついに隣の家もやられた、残る人々は俺たちも含めて村長の家に集まった』


『また幻覚と幻聴が発生した、しかしもう騙されるものはいない』


『どうやら魔物は風と一体化した状態で人々を攫っているようで、風の吹かない屋内にいれば安全のようだ』


(や、やっぱり魔物の仕業だったんだっ!!)


 さらに読み進めていく。


『魔法を使えるものが攻撃してみたところ、一瞬だが魔物が姿を現したがほとんど効果がなさそうだ』


『恐らくこの辺り一帯に吹き荒れる風全てが魔物なのだろう、これでは広範囲の魔法でないと太刀打ちできそうにない』


『逆にどうにかして風との一体化を解除できれば物理的な攻撃も通用すると思われるが、その方法が思い浮かばない』


『食料が足りなくなってきた、このまま餓死するより……一か八か全員で飛び出し逃げれるか試すことにする』


 そこで日記は終わっていた。


 恐らく失敗して全滅したのだろう。


(ど、どうしよう……僕は魔法なんか使えないしテキナさんも攫われちゃってる……サーボ先生も確か……)


 数年近い修行の中で一度だけ、とても辛そうな顔をしてサーボ先生が魔力がないことを語っていた。


 いつだって笑顔だったサーボ先生が初めて見せた顔だったからよく覚えている。


(ひょっとしてサーボ先生も前の僕みたいにコンプレックスを抱えていたりするのかなぁ……)


 少し考えて、首を横に振った。


 いつだってまっすぐ前を向いて正しい指示をくれる、真面目で有能なサーボ先生がそんな小さいことに拘るわけがない。


(しっかりしろ僕……こんなこと考えてる場合じゃないだろ)


 自分の頬を軽くたたいて現実に立ち直ると、僕はこれからどうするべきか考える。


(サーボ先生は辺りを調査したら王都に援軍を呼びに行けって言ってた……けどサーボ先生を置いていくなんて……)


 サーボ先生の指示が正しいのだとはわかっている。


 だけど僕が離れている間にもしもサーボ先生がやられてしまったらと思うとどうしてもそんな気になれない。


(どうせやられるならサーボ先生と一緒に……この情報をもってサーボ先生と合流しよう……)


 約束は違えてしまうが、きっとサーボ先生なら僕の気持ちを分かって受け入れてくれるはずだ。


 僕は外に出てサーボ先生が立てこもっている民家へと向かった。


「……あぁああっ!! てめ…………っ!!」


「っ!?」


 進行方向から聞き慣れない怒声が聞こえてきた。


 恐る恐る近づくと、やはり見覚えのない……だけど見たことのある格好をした奴が民家の入り口に立って怒鳴っていた。


(く、黒づくめのローブ……魔王軍っ!?)


「だか……っ!!」


 怯えて固まる僕の前で、魔王軍の魔物は姿を風と一体化して消えていった。


「ああ……っ!?」


 かと思えばまた現れて怒声を浴びせ……風になる。


「てめ……っ!? 馬鹿に……っ!! いいか……っ!!」


 何度も何度も同じことを繰り返す魔物、そこでようやく僕はサーボ先生が魔物を挑発しているのだと気が付いた。


(そ、そうか……サーボ先生は魔物の正体に気づいたんだっ!!)


 今までも魔王軍の策略を見抜いてきたサーボ先生だ。


 僕にはわからない何かをヒントに、魔物の弱点を見抜いて退治する隙を伺っているのだろう。


 恐らく人型になったタイミングで攻撃しようとして、だけど入り口に近づくと風になるために攻撃できないでいるのだろう。


(……ぼくは気づかれてない……近づける……攻撃できる……僕だけが……)


 ゆっくりと魔物に近づいて行って、ついにいつでも攻撃ができる距離にまで迫った。


 だけど魔物は僕に気づくことなく、サーボ先生に向かって罵声を浴びせている。


(ちゃ、チャンスだ……っ!!)


 僕は深呼吸すると剣を抜き去り、魔物が現れたタイミングで攻撃を仕掛けた。


「俺様を何だと思って……がはぁああっ!!!」


 無防備な身体に全力で剣を突き刺した。


 咄嗟に魔物が姿を消そうとして、だけど突き刺さった剣が邪魔でただ風が渦巻くだけで終わった。


 その風が僕のフードを捲り上げて、姿が白日にさらけ出されてしまう。


 当然魔物も僕に気づいて、憎々しげに睨みつけてくる。


(ま、負けるもんかぁああっ!!)


 僕は恐怖に負けないよう、気合を込めて叫び声をあげた。


「な、なんで仲間がまだ……ぐそぞおおおっ!! お、お前は囮だったのかぁあああっ!!」


「僕だって……僕だってやれるんだぁあああっ!!」

その後


「サーボ先生は……無能ではありませんよね?」


「っ!?」


「サーボ先生はぁ……屑じゃないですよねぇ?」


「っ!?」


「サーボ先生はコンプレックスとか無縁だよね?」


「っ!?」


 こんなことがあったりなかったりするかも。

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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然とはいえ敵の方がサーボのこと理解してて草 この時点で仮に本性をさらけ出してももう手遅れだったんですね~
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