駆け出し冒険者『あ』
本編が間に合わなかったので代わりに外伝を投稿させていただきます。
楽しみにしている皆さま、本当に申し訳ございません。
何か見たいキャラ同士の絡みや、過去話等、希望がありましたら感想欄などで伝えて頂ければできる限りお応えしたいと思います。
「『あ』ですか……本当にその登録名でよろしいのですか?」
「はい」
両親からそう呼ばれていた私には他に思い浮かぶ名前などありません。
「分かりました……一応説明させてもらいますが、冒険者ギルドとは簡単に言えば住居不明者が犯罪に走らぬよう身元を保証し最低限の仕事を斡旋するための組織となっております」
「はい」
旅人さんたちがそう話しているのを聞きました。
だからここに来ました。
国元から捨てられて、誰にも頼れない身寄りです。
道中でたくさん魔物を倒したから多分お仕事は出来ると思います。
「そして活躍度に免じて待遇が変わります……人々への貢献度と言ってもいいですね、まあ要するに地道に成果を重ねて信頼を得ればそれだけ皆から認められるというだけの話です」
本当なのでしょうか。
少なくとも私の国ではいくら頑張っても誰も認めてくれませんでした。
みんな二言目には私を化け物だと言いました。
どんなに一生懸命説明しても人間だと認めてはくれませんでした。
「勿論それ以外にも信用を得るポイントはありまして……『あ』はその仮面を取るつもりはありませんか?」
「はい」
呪われた仮面は外せません。
呪われた素顔を晒せません。
「まあ構わないのですが、当然素顔を見せない方への信頼は下がります……実績もないようですし『あ』のランクは最低のEランクになりますが本当によろしいのですか?」
「はい」
登録できるだけでありがたいです。
多分素顔を見せたらきっと化け物だと言われて追い払われます。
自分の家族からも追い出されたのですから。
「では早速登録させていただきます……少しお待ちください」
「はい」
「……最低ランクということですぐに申請は通りました、これが登録証です」
「はい」
Eランクと書かれた登録証に『あ』という名前が書かれています。
これが私の身分証というわけです。
ここに刻まれていく活躍だけが私の全てです。
「さて早速何か仕事をいたしますか?」
「はい」
生活費など全く持っていません。
今までは退治した魔物を食べていましたが限界です。
身体も臭ってきています……見た目も悪いのに臭いまで酷くなったらお終いです。
「Eランクということで出来る仕事は……鶏小屋の掃除がありますね」
「はい」
「ではこの紙に書かれた場所に、この紹介状を持って行ってください」
「はい」
二枚の紙をもって私は早速鶏小屋の掃除に向かいました。
「……変なことしないでくれよ?」
「はい」
やってきた私を見て鶏小屋の主は少し嫌そうな顔をしました。
王宮でよく見た顔です。
仮面で素顔を隠してなお、やっぱり私は嫌われ者なのでしょう。
いや、考えても仕方ありません。
出来ることをちゃんとやっていきましょう。
鶏小屋のお掃除です。
ゴミを片付けて綺麗にすればいいのでしょう。
(……箒をもって回転切りすればあっという間ですっ!!)
とてもいいことを思いつきました。
道中で魔物を退治していた人たちを真似して覚えた回転切りを使えば簡単にごみを集められるはずです。
私は早速箒を使って回転切りを放ちました。
風が私を中心に逆巻いて、小屋の中にある固定されていないあらゆるものが私の元に集まってきます。
餌の食べかすと埃と羽根と卵さんが降ってきました。
そういえば綺麗にとはどこまで片付けることを言うのでしょうか。
小屋の中にあるものを全部退けるべきなのでしょうか。
(……よくわかりませんが、卵さんは守っておきましょう)
回転切りを止めて落ちてくる卵を片っ端から受け止めて近くの巣の上に置いておきました。
「コケェエエエっ!!」
「っ!?」
あちこちから鶏さんが私に飛び掛かってきました。
卵を取り上げられたと思って怒っているのかもしれません。
あちこちを突かれて蹴りつけられてしまいました。
攻撃自体は大したことはないのですがどうしていいかわかりません。
(……お掃除をしましょう)
とりあえずわからないことは後回しにして、しゃがんで床に集めたゴミを拾うことにしました。
「な、なんだなんだっ!? って鶏に襲われてるぅうっ!!」
飼い主さんが様子を見に来てくれましたが、どうやら私が鶏に襲われていると勘違いしたようです。
しゃがんでいたせいで鶏に完全に覆い尽くされていたのが原因のようです。
何とか鶏を追い払って私を連れ出してくれました。
「ま、まさか鶏にやられる冒険者が居るなんて……だ、大丈夫だったかあんたっ!?」
「はい」
怪我はありません。
お掃除も終わりました。
ミッションコンプリートです。
私は飼い主さんに報告書を書いてもらって冒険者ギルドへと戻りました。
これが私の初めてのお仕事でした。
「……『あ』さん、言いにくいのですが鶏に負けたことでランクがE−になりましたよ……」
「……はい」
酷いです。
*****
「『あ』さん、新しい仕事が来ました……E−専用のお仕事です……」
「はい」
やっと二回目のお仕事です。
今度こそ成功させなければいけません。
じゃないと生活費がなくて何もできません。
たまには魔物のお肉や雑草以外のご飯を食べたいです。
「清掃業です、王都中の道という道にあるゴミを掃除してください」
「はい」
またお掃除です。
頑張ります。
「きちんと隅から隅まで掃除してくださいね……それを見て評価する人が五人いればランクはE−からEランクに戻します」
「はい」
王都にはたくさんの人が住んでいます。
きっと上手く行くと思います。
私はゴミの袋と箒と塵取りを貸していただきました。
装備を済ませて、これで準備は完璧です。
「ゴミ袋は満タンになったらここに持ってきてください、新しいのと交換します」
「はい」
私は早速外に出て道の掃除を始めることにしました。
王都はとても大きいです。
私の居たドウマ帝国も大きかったけれど、ハラル王国はもっと大きい気がします。
伝統ある国だからでしょうか、よくわかりません。
普通に掃除していてはとても時間がかかってしまいそうです。
(……箒をもってオーラ突きすればあっという間ですっ!!)
とてもいいことを思いつきました。
道中で移動に利用していたオーラ突きを利用すれば一気に道を綺麗にできるはずです。
私は早速箒をもってオーラ突きを放ちました。
凄い速度で私の身体は動き出し、敵認定した道中のゴミが攻撃を受けて消滅していきます。
流石私です。
とても賢いです。
これなら午前中に終わりそうです。
「うおっ!?」
「ひぃっ!?」
「なぁっ!?」
すれ違った人たちが私を見て驚いています。
きっと私の掃除が見事すぎて感動しているのだと思います。
これなら評価もたくさん集まるでしょう。
私は意気揚々とオーラ突きを放ち続けます。
「……っ」
失敗しました。
地面ばかり見ていたから突き当たりに気づきませんでした。
城壁にぶつかって動けなくなります。
オーラ突きの効果が切れるまでずっとこのままです。
本気を出せば壁を突き抜けることもできますけど、流石に怒られるでしょう。
仕方ないので効果が切れるまでこのまま壁にぶつかり続けることにします。
「な、何してるんだあいつはっ!?」
「か、壁に向かって直進して……何考えてんだっ!?」
周りが騒がしいです。
よくわからないけど正面を向いているから何も見えません。
ようやく効果が切れて振り返るころには、周りにたくさんの人が居ました。
だけどみんなさっと立ち去っていてしまいました。
何だったのでしょう。
(……お掃除をしましょう)
とりあえずわからないことは後回しにして、残る道の掃除も終わらせてしまうことにしました。
オーラ突きを何度も放って、お陰で殆ど時間もかからずにお掃除は終わりました。
完璧です、塵一つ落ちていません。
私は堂々と冒険者ギルドへと戻りました。
これが私の二度目のお仕事でした。
「『あ』さん……何でゴミ袋が空なんですか……それに怪しい奴が暴れてるって苦情もたくさん……ランクはFになります……この世であなただけの特別なランクです……わかりましたね……」
「……はい」
酷いです。
*****
「『あ』さん……本当に特別に特例としてお仕事が決まりました……お願いですから今度こそ完璧にこなしてください……」
「はい」
今までも完璧にこなしていたつもりです。
だけど私は基本的に、はいとしか答えられません。
悔しいけど我慢です。
ここでお仕事を成功させないとまた野宿です。
ネズミさんと一緒に眠るのはもう嫌です。
「今度のお仕事は……廃品処理です……酒場から出るごみを片っ端から処分してください」
「はい」
またお掃除です。
だけど今回は上手く行きそうです。
たくさん魔物退治をして、力には自信があります。
「本当に頼みましたよ……これで失敗したら次はとんでもなく危険な仕事になってしまいますからね……」
「はい」
よくわかりませんがとにかく頑張ることにします。
私は紹介状を持って酒場へと向かいました。
「……鶏に負けて壁に向かって進む癖のある掃除が苦手な冒険者『あ』……何なんだこの経歴はっ!?」
紹介状にかかれた私の活躍を見て酒場の店長が叫び声をあげています。
「あ、あんた……本当に大丈夫なんだろうなぁっ!?」
「はい」
大丈夫に決まっています。
本当は今までのお仕事だってきちんとやり遂げているのです。
こうなったら今度こそぐうの音も出ないぐらい完璧にやってみせます。
「じゃ、じゃあ……こっちに転がってる粗大ごみを解体して処分してくれ……任せたぞ」
「はい」
裏手にある庭に回ると、たくさんの壊れた椅子や机、樽などが放棄されていました。
これを壊せばいいのでしょう。
私が軽くたたくだけで簡単にバラバラになって行きます。
だけど数が多いので時間がかかりそうです。
(……近くに集めて回転切りで一掃すればあっという間ですっ!!)
とてもいいことを思いつきました。
私が本気で回転切りを放てば、こんなゴミは完璧に消滅するはずです。
早速全てのゴミを近くに集めると、私はドウマ帝国から追い出される際に渡された剣を抜きました。
最初で最後に父上からもらったものです。
これを見ていると変な感情が湧きそうになり、そのたびに仮面の効果で抑制されます。
(私は人形……言われるままに動く人形……)
私は一生こうなのでしょうか。
はいとしか言えず、他人の言いなりとなって動き続けるのでしょうか。
そんなのは嫌だと、感情を抑圧されている状態ですら思います。
(私の意志を尊重してくれる人が現れてくれたら……)
あるわけがないのにそんな願望を抱いてしまいます。
もしくは何かしらでこの仮面が外れて、自由になれたらとも思います。
だけどそうなれば呪われた醜い素顔が露わになって、皆から嫌われてしまいます。
(私の素顔を見て素敵だと……綺麗だと言ってくれる人が現れたら……)
あり得ないことだと分かっていてそんな夢みたいなことを考えてしまいます。
それこそ白馬に乗った王子様や、或いは昔話で読んだ竜に跨った勇者様に私を救い上げて欲しいと思ってしまいます。
そんなこと絶対にないとはわかっていますが、せめて心の中で思うぐらいは許してほしいです。
(……お掃除をしましょう)
取り留めのない妄想を打ち切って、私は掃除を終わらせるべく全力で回転切りを放ちました。
凄まじい轟音が鳴り響き、そして余りに回転速度が速すぎたせいか……私の身体は空に舞い上がりました。
回転切りにこんな使い方があったなんてびっくりです。
連続使用したらもっと高く上がれるかもしれません。
早速試してみて、その考えが正しかったことがわかりました。
「…………っ!!」
下から何か声が聞こえてきました。
どうやら音を聞きつけた酒場の店長が様子を見に来たようです。
私は回転切りを止めて、地面に向けてオーラ突きを放ちました。
「な、何してんだあんたはっ!?」
着地した私を見て、店長はとても驚いた顔で叫びました。
「き、気化した酒樽を爆発させて飛んでたのか……あ、遊んでちゃ困るんだよっ!!」
どうやら勘違いされているようです。
説明したいのですが、私は基本的にはいしか言えません。
「も、もういいから帰ってくれっ!!」
「……はい」
せっかく見事に掃除をしたというのに、結局認めてもらえませんでした。
世知辛い世の中です。
冒険者ギルドに帰って報告書を渡しました。
「『あ』さん……こうなるともう……次は……命がけの仕事になってしまいます……」
私は完璧に仕事をこなしているだけなのですが、どうしてこう評価されないのでしょう。
本当に酷いです。
「国境付近で魔物が暴れています……それを退治してもらうのですが……支援物資は何も提供できません……自力で退治してください……」
「はい」
予想に反してとても楽そうな仕事でした。
これなら完璧にこなせそうです。
「魔物だけじゃなくて隣国の侵略兵もいる……事実上の死刑宣告ですよこれは……信頼がおけない身元不明者の処理を兼ねての……ですから無理だと判断したら逃げて構いませんから……」
「はい」
よくわかりませんが多分大丈夫です。
私は早速魔物を狩りに行くことにしました。
「ま、万が一これに成功すればランクは一気に跳ね上がります……だけど本当に無理だけはしないでくださいねっ!!」
「はい」
貰った地図を開いて目的地までの道のりを確認します。
国境までは結構な時間がかかりそうです。
(……回転切りで宙に浮かんだところをオーラ突きで移動すればあっという間ですっ!!)
とてもいいことを思いつきました。
私は早速外に出ると、剣を抜き放って全力で回転切りをしました。
そして天高く飛ぶと、目的に向かってオーラ突きを放ちました。
私の身体は一直線に進んでいきます。
こうして私は冒険者としての一歩を踏み出したのでした。
その後
「あれ……『あ』さん、何か忘れも……っ!? そ、その魔物はまさかっ!?」
「はい」
「う、嘘では……い、いや本物だっ!? ほ、報告書は……えぇっ!? ドウマ帝国の先発隊を全滅させたぁああっ!?」
「はい」
「あ、は……ははは……い、今すぐ『あ』殿の適正なランク申請をさせていただきますぅううっ!!」
「はい」
多分こんな感じ。




