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帰還の手がかり

「うーん、どこにもいないねぇ魔導の使い手さん」


「ああ、ほんとーに困ったなぁ~……これはもう諦めてここに残ったらどうだいサーボ君?」


「……お願いですから真面目に探してください」


「勿論、真剣に探しております……サーボ様、あの場所でしばし休憩いたしましょう」


「……さっきも休んだばっかりですよねぇ」


(……勘弁してくれよ、本当にさぁ)


 ニコニコと笑いながら俺の手を引っ張り、村の一角にある芝生に座らせようとする三人。


 魔導の使い手の情報を求めようと行動を開始したはずが、何故か全くはかどっていない。


 それもこれもこの三人が、何かにつけて無理やり一緒に休もうとしてくるからだ。


(こいつら……本気で俺をここから帰さない気かよ……)


 もうマーセ様だけが救いだ。


「ほら、サーボ座って座って……ほら膝枕してあげるから」


 最強勇者が力づくで俺を横たえさせ、楽しそうに笑いながら強引に頭を抱え込む。


「なら私はサーボ様のお腹をお借りいたしますわ……ふふ、素敵な感触ですわ」


 大僧侶が俺のお腹を枕替わりに頭を置いて、嬉しそうに微笑みながら優しく摩ってくる。


「よぉし、じゃああたしは……サーボをマッサージしてやろうじゃないかぁ~」


「ちょ、ちょっとトラッパー様……ぶ、ぶははははっ!?」


 大盗賊が身動きの取れない俺の急所を的確に見抜き、とても良い笑顔を浮かべながらくすぐってくる。


(ご、拷問だ……誰か助けてぇ……)


「もぉ、抵抗しないのぉ~」


「ああん、サーボ様ぁ動かないでくださいませ」


「ほぉら、ここがいいのかなぁ~?」


「ひ、ひひゃははっ!? か、勘弁してくださいぃいっ!? あはははぁっ!?」


「……何をやっているのですかあなたたちは?」


 戻ってきたマーセ様が呆れた顔で俺たちを見下ろしていた。


「お、助け……くくははは……助けてマーセ様ぁあっ!!」


「皆さん、サーボ殿が嫌がっておりますよ……いい加減にしてあげなさい」


「ちぇ、ノリが悪いなぁマーセは」


 渋々という感じで皆がどいてくれた。


「はぁ……はぁ……つ、疲れたぁ……」


「お疲れのところ申し訳ありませんが、また移動しなければなりません」


「この村も駄目かぁ……どこに居るんだろう、魔導の使い手さん」


「或いはこの大陸にはいらっしゃらないのかもしれませんね」


「つってもディキュウ大陸にもそんな奴いるとは思えねぇし……エルフ共は異種族を嫌いまくってるから協力なんざしてくれねぇだろうしなぁ……」


(本当に魔導の使い手は希少なんだなぁ……どうしたもんかねぇ……)


 他に元の時代に戻る方法を考えるべきかもしれない。


「……とにかく次の村に向かいましょう、この大陸にある全ての集落から情報を集めれば何かわかるかもしれませんからね」


「はーい、じゃあ……皆人力車に乗ってぇ~」


 俺たちは村の入り口に置いてある、馬車を改良した人力車へと移動した。


「乗りましたよイキョサ様……お願いします」


「よぉし……オーラ突きぃっ!!」


 俺たちが乗ったのを確認したイキョサ様は、人力車を武器に見立てて覚えたてのスキルを放った。


(まさかスキルが生まれる現場を目の当たりにすることになるなんてなぁ……)


 どうもドーマ様はイキョサ様の特異体質を見てから、何とか武具に応用できないか四苦八苦していたらしい。


 その副産物として生まれた技こそがスキルであった。


 元々身体強化の魔法を得意としていたドワーフにとって、イキョサ様の体質はとても興味深い研究対象だったようだ。


(先祖返りしているアイさんがスキルを使いこなしているわけだ……才能が受け継がれてんだろうなぁ……)


 ひょっとしたらアイさんは他にもドワーフの特徴を兼ね備えているかもしれない。


(案外繊細な作業とか……それこそ掃除とか得意かもしれないなぁ……)


 またスキルを教わったイキョサ様も原型を使っていただけあってあっさりと習得してしまったのだ。


 それを見た俺は早速、アイさんがしていたようにオーラ突きでの移動を提案したのだった。


「うひょぉおっ!! やっぱいいなぁこれぇええっ!!」


「素晴らしい速度です、これならあっという間に大陸中をめぐることが出来ましょう」


「サーボ殿の言う通りでしたね、まさか人力車がこれほど有益だとは思いませんでしたよ」


 興奮している伝説の勇者パーティを見回しながら、俺は懐かしい思いにとらわれていた。


(まさかこっちでも人力車で移動することになるなんてなぁ……)


 振動がまた何とも言えず心地よい。


 これでムートン君が居れば完璧だった。


(ああ、落ち着くなぁ……)


 ついつい微睡んでしまいそうになる。


「はーい、到着ぅっ!!」


 しかし眠りに落ちる間もなく、新たな村へと到着する俺たち。


「ではまた解散して情報を集めましょう……いいですね?」


「「「はーい」」」


 マーセ様の言葉にとてもいい返事を返す三人。

 

 そして皆で手分けして村に入り……マーセ様の姿が見えなくなったところで三人が戻ってくる。


「あれあれ~、奇遇だねぇ」


「あらあら、奇遇ですわね」


「くっくっく、サーボちゃぁん……奇遇だねぇ~」


「……さよならっ!!」


 急いで走り去る俺。


聖祈鎖(セイント・リストリクション)


「ちょっ!?」


 魔法で縛り上げられて身動きが取れなくなる。


(こ、ここまでするのかよぉおおおっ!?)


「あっちに休めそうな場所があったよ」


「よぉし、早速運んで遊ぼうぜぇ~」


「では参りましょう」


(た、助けてくれぇ……)


 俺は抵抗も敵わず引きずられていき、再び三人に組み敷かれ弄り回されるのだった。


「……いい加減にしてくれませんかねぇ」


「ま、マーセ様ぁ……うぅ……ぐすん……」


「もう大丈夫ですよサーボ殿……ほら泣くのはおやめなさい」


 助け出してくれたマーセ様の背中に隠れる俺。


 情けないというなかれ、ずっと身動き一つ取れない状態でくすぐられ続けたら誰だって心が折れるというものだ。


「ちぇ、いいところだったのになぁ」


「もう少しでサーボ様がこちらに残ると確約してくださるところでしたのにぃ」


「空気読めよぉ、それだからお前は駄目なんだよぉ」


「そのような無理強いで残ると言わせてどうするのですか……」


(ここに残るって言うまでくすぐり続けるとか……本当の拷問じゃねぇかよぉ……)

 

 最も彼女たちのことを嫌いになったりはしない。


 何だかんだでお世話になって色々と助けてもらって、何よりここまで鍛えあげてくれた人たちだ。


 感謝もしているし、好意も抱いている……何よりここは安全だし居心地だって悪くない。

 

 ただそれでも俺は帰らないといけないのだ。


(あっちには大切な弟子達が……あの子が居るんだからなぁ……)


「まあまあ……それより何か進展あった?」


「いえ、何も……やはりそう簡単に見つかるものではないようですね」


「役に立たねぇなぁ……もっとしっかり探せよなぁ」


「サボっていたあなたに言われたくありませんよ……そもそも探し事など大盗賊の仕事でしょう?」


「だってなぁ…………たら帰っ……」


 珍しくトラッパー様が困ったようにボソボソと呟いていて、うまく聞き取ることができなかった。


(よくわからんが……やる気ないってことかなぁ……)


「お願いしますよトラッパー様、ちゃんと探してください……」


「……はいはい、わーかーりーまーしーたぁー」


 不貞腐れたように言うと、トラッパー様は姿を眩ませて立ち去って行った。


「と、トラッパー様っ!?」


「ご安心を、恐らく気配を消して本格的に情報を探しに行ったのでしょう」


「すれ違いにならないように人力車で待っていようね」


 皆に促されるまま人力車へと戻った俺たち。


 そのまま待っているのも退屈なので、修行をすることにした。


「……回転切りっ!!」


「上手い上手い……サーボやったねぇっ!!」


「体内で魔力を練り上げるという点では無詠唱魔法とコツは同じですから」


 イキョサ様の監修の元、スキルを習得していく。


 しかしやはり魔力の絶対量の差が大きいために、その威力には大きな差がある。


(それでも使える技が増えれば選択肢も広がるからなぁ……どれだけ弱くても無駄じゃないんだぞ……)


 かつての俺ならこの程度の技を放てて何になるのかと不貞腐れているところだ。


 本当に性根が腐っていたのだろう……我ながら情けない男だ。


十文字斬(グランドクロス)っ!!」


 アイさんがチーダイ様を切り裂いた大技、しかし俺の一撃では小さい木を何とか切断できる程度の威力しかない。


 聖剣と普通の剣という違いを考慮したとしても、その威力は天と地ほど差がある。


(隙を見てぶちかませばそれなりにダメージは与えられるだろうけど……やっぱり俺が前線に立つのは厳しいなぁ……)


 せめて何かもう一つ決め手があれば話は別だが……何かいい手がありそうで思い浮かばない。


聖祈昇威(セイント・ブースト)……回転切り……やはり魔法とスキルを同時に使用するのは難しいですねぇ……ワンテンポずれてしまいます」


「最も魔法の効力は持続いたしますから、それで十分だとは思いますけれど……」


「そうですよねぇ、同時に別の魔力を練り上げることはできませんからねぇ……魔法の同時使用もできないわけですし……っ!?」


 何かが頭をよぎった。


(体内で魔力を練り上げて放つのがスキルであり無詠唱魔法……それに対して意識せずに魔力が形をとるのが詠唱魔法……組み合……)


「よぉ、楽しそうなことしてんなぁお前ら」


「トラッパーお帰り~、どうだったぁ?」


「ああ、やっぱりこの村にもあったわ……隠れ冒険者ギルド」


「……冒険者ギルドならば知っておりますが、隠れとはなんでしょうか?」


「あのねぇ、実はこっちの冒険者ギルドは悪い人に目を付けられないよう隠れてるんだぁ……」


 話によると俺たちの時代と比べて、まだ探検できる場所が残っているこの時代では冒険者ギルドの役割が違うらしい。


 それこそ新たな世界を開拓する人々を支援する施設であり、同時に実力者がどこへ行っても活躍できるよう後押しするシステムなのだそうだ。


 だからこそ無能な輩が属さないようあちこちに潜んでおり、それを見つけ出すのも登録するための第一歩なのだそうだ。


「他にも実力者が所属していることから魔王軍に目をつけられたことも隠れている理由の一つなのですが……」


「そーいうこと……しかも本部は大陸ごと魔王に吹き飛ばされちゃったから余計に連携が取れなくなっちゃって、属してる私たちですらそうそう見つけられないんだぁ」


(属している人間が見つけられないとか……それじゃあ援助とか受けられないし……もう本末転倒なんじゃないか?)


「だから実質今じゃ盗賊とか情報通が集まる場所になってんだよ……つまり大盗賊であるあたしがトップみたいなもんなんだぜぇ」


 得意げに語るトラッパー様だが全く納得できない。


(トラッパー様がトップの組織かぁ……嫌すぎるぅ……)


「サーボ君のその顔は何か言いたいことでもあるのかなぁ?」


「トラッパー様万歳っ!! 流石魅惑の大盗賊様ぁ素敵ぃいいいっ!!」


「あっはっは、よろしいっ!! 素直なサーボ君の為に特別な情報をあげようじゃないか」


 そう言ってトラッパー様は地図を広げると、とある一点を指し示した。


 何もなさそうに見えるそこは、だけど俺には妙に見覚えのあるところだった。


(ドウマ帝国の王都があった場所……ドンピシャだ……)


「ここに魔法の宝石が眠ってる天然の地下洞窟があるんだとよ……それを使えば一度だけ任意の効果がある魔法を使えるんだとさ」


「……なるほど、つまりそれを手に入れて帰還する魔法を作ればいいのですね」


「しかしそのような便利すぎるアイテムの情報がありながら、どうして誰も利用していないのでしょうか?」


「何で利用されてねぇかって言うと厄介な問題が二つあってな、一つは強力な魔物の巣になってて誰も近づけねぇんだとさ」


「そ、それは怖いよねぇ……うぅ……強力な魔物かぁ……」


 イキョサ様が震えている。


(貴方がビビるほどの相手がいるわけないでしょうが……)


「そんでもう一つは……使いたい魔法の効力に比例して沢山の宝石が必要になるんだとさ」


「つまり魔物が危険で真っ当な採掘作業は出来ず、かといって魔物の目を盗んで忍び込んでも必要な量を集められないということでしょうか」


「そーいうこと……特にサーボの時を超えるなんて魔法を使おうとしたら一体どれだけ宝石が必要になるのかねぇ」


「……ですがソレしか方法がないのでしたらやるしかありません……皆さん、どうか協力していただけないでしょうか?」


 いくらそこそこ実力がついたとはいえ、俺一人で強力な魔物の巣を攻略できるなどとは思えない。


 だから頭を下げてお願いする。


「当たり前だよっ!! ここまで来て協力しないわけないよっ!!」


「ええ、ぜひとも手伝わせてくださいませっ!!」


「サーボ殿を一人で行かせるわけにはいきませんからね、お付き合いいたしますよ」


「まぁこーなった以上は最後までつきやってやるよ……感謝しろよ」


「ありがとうございます皆さま……もしも俺に出来ることがあれば言ってください、お礼に何でもするつもりですから……」


 心の底から感謝する。


 ただで伝説の勇者パーティを護衛にしようというのだ。


 いくらお礼をしてもし足りないぐらいだ。


「今なんでもって言ったなぁ……よぉし、言質とったぁ」


「何でもしてくれるのサーボっ!? な、何してもらおうっ!!」


「さ、サーボ様が私の言うことを……ぽっ」


 激しく喜んでいる三人、早まったかもしれない。


「え、あ……い、いや今のはその……ま、マーセ様何か言ってくださ……っ!?」


「……サーボ殿が……何でも……サーボ殿と……ふふ……」


 真剣な顔で怪しい笑みをこぼすマーセ様。


(ま、マーセ様までぇえっ!?)


 どうやら俺に味方は居ないようだ。


「よぉし、今すぐいこーぜぇっ!! そして終わった後は……くひひ、楽しみだぁ」


「い、今すぐ行こうねっ!! そ、その後は……えへへ、楽しみだなぁ」


「一刻も早く終わらせてしまいましょうっ!! そうしてその後……うふふ、楽しみですわぁ」


「さっさと終わらせてしましましょうっ!! すべて終わらせてから……ふふふ、楽しみですねぇ」


(や、やっちまったぁああああっ!!)


 ギラギラと猛禽類のような目つきで嗤う四人を見て、俺は自らの軽率な発言を心の底から後悔するのであった。

 【読者の皆様にお願いがあります】


 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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