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ドーマ様との出会い……なるほどねぇ

「もう夕方ですけど、いきなり尋ねても大丈夫なのですか?」


「ええ、これでも世界を救った勇者として多少は懇意にされていますからね」


「大ジョーブ、ドーマさん人見知りだけどいい人だから」


 ゼルデン大陸に着いた俺たちは、早速ドーマ様の元へと向かった。


 予想通りと言うべきか、俺たちの時代ではドウマ帝国の領内に位置する村にいるらしい。


「い、イキョサ様っ!?」


「お久しぶりですイキョサ様っ!!」


 こちらに気づいた村人たちが笑顔で駆け寄ってくる。


(俺に向けてじゃないんだろうけど……既視感がするなぁ……)


 俺が結果的に救った人々もこんないい笑顔を向けてくれていた。


 だけどそれが誤解の元で生まれたものだと知っていた俺は、鬱陶しいとすら感じてしまった。


(俺には人々の想いを受け止める器量もないってことなんだろうなぁ……)


 まともに自分と向き合った今、やはりどうしようもないぐらい勇者が似つかわしくない人間だと思う。


「みんな久しぶり~、元気だった~?」


「ええ、それはもう……イキョサ様たちのお陰で魔王の脅威も去って安心して暮らしております」


「それは何よりです……ところでドーマ殿はいらっしゃいますか?」


「ええ、自宅で新しい技術を開発中でございますよ……何か御用でしょうか?」


「ああ、ちょっとなぁ……ほら行こうぜサーボ」


「はい……どうも失礼いたしますね」


 先導するトラッパー様についていく俺を、村人たちが不思議そうな目で見つめていた。


(昨日泊まった村でも似たような目で見られたなぁ……)


 やはり女性だけの勇者パーティに男が混じっているせいで目立つようだ。


 特に一部の男性陣からは嫉妬の視線が飛んできている。


「あなた様は初めてお目にかかりますが、どなた様でしょうか?」


「俺はサーボと言いまして、ただの雑よ……」


「……あたしの彼氏さぁ、いい男だろぉ?」


「と、トラッパー様ぁっ!?」


 ニヤニヤ笑いながらとんでもないことをほざくトラッパー様。


 村人たちがどよめき……男性陣からの嫉妬の視線がより強くなった気がする。


「そ、それは……い、イキョサ様本当でございますかっ!?」


「ち、違うよっ!! トラッパーったら変なこと言わないでよっ!!」


 真偽を尋ねられたイキョサ様が即座に否定してくれた。


(た、助かったぁ……はぁ……心臓に悪すぎる……)


「サーボは私の彼氏なんだよっ!!」


「うぉおおおいっ!?」


 むしろとんでもない発言を重ねられた。


 思わずイキョサ様を見ると、得意げに笑って見せていた。


(ま、まさか山で俺が選ばなかったことへの仕返しなのか……)


「い、イキョサ様の……勇者様が……」


 村人が目を丸くしている。


 世界を救った救世主がどこぞの馬の骨とも知らぬ男を彼氏だと言い張っているのだから当然だ。


 シャレにならない、男性陣の嫉妬がさらに強まり女性陣からの視線も厳しくなる。


「イキョサもトラッパーもいい加減にしてくださいませ」


 そこでようやくイーアス様が怒ったような口調で割って入ってくれた。


(おお、これは頼りに……嫌な予感しかしねぇ……)


 既視感が半端じゃない。


「サーボ様は……私の伴侶となるべきお方ですわ……ぽっ」


 はにかんだ笑みを浮かべて俺を見るイーアス様。


 どこか悪戯めいた様子に見えるのは勘違いじゃないだろう。


(や、やっぱりこの二人……山での件を根に持ってるぅううっ!!)


 トラッパー様は単純に面白そうだと思って意地悪しただけだろう。


 その証拠にこの展開を見て爆笑するのを必死でこらえて震えている。


「ま、マーセ様ぁ……お助けぇ……」


「やれやれ、おふざけはこのぐらいにしておきなさい……トラッパーはともかくあなた達まで悪乗りしすぎですよ」


(よ、よかったぁ……マーセ様だけはまともだぁ……)


 本当に頼りになる人だ。


「なんだその態度はぁ……さてはお前、正妻に選んでもらったからって余裕こいてんだなっ!!」


「な、何を馬鹿なことをっ!?」


「えぇ~、ずるいよマーセぇ……いつの間にサーボの正妻の座を射止めてたのぉ?」


「マーセは意外に抜け目がないのですね」


 俺の味方をしたせいで、マーセ様は三対一で攻められることになった。


 当然この会話を聞いていた村人たちがどっちを信じるかは明白だった。


「……まあ勇者様たちがそれでよいのでしたら我々は何も言いませんが……」


「こ、このような戯言を信じないでくださいっ!!」


「大丈夫です、我々は何も聞かなかったことにいたします……ではこれで失礼します」


 厄介ごとに関わりたくないとばかりに早足で立ち去っていく村人たち。


 何人かが殺意を込めた視線を俺に向けてきた気がしたが、勘違いだと思いたい。


「あ、あなたたちは何を考えているのですかっ!!」


「本当にシャレになりませんよっ!! 何であんなこと言ったんですかぁっ!!」


「面白そーだったから」


 トラッパー様に断言された……泣きたい。


「私は結構本気だけどなぁ……サーボ、ここに残らない?」


「サーボ様がこちらに残ってくださるのでしたら色々とほ、奉仕させていただきますわ……ぽっ」


「……何でそうなるんですかぁ」


 山でも思ったが、どうしてこの二人は俺にここまで好意的なのだろうか。


「ほら、あたしらって女だけで旅してきたから男に免疫ねーんだよ……だから安心して話せるってだけでポイント高いんだよお前」


「いや、そんなあっけらかんと言われても説得力ないのですが……」


 しかしトラッパー様の説明で多少理解できた気がする。


 事実最初はトラッパー様も男の俺を警戒して仲間に入れるのを渋っていたではないか。


「まあ確かにサーボ殿は悪い方ではないですし、僕も寝食を共にすることに思うことがないわけでは……」


 真剣な顔で考え込んだかと思うと、結構本気っぽい言い方で呟いたマーセ様。


(ま、マーセ様まで影響されてるぅ……)


「いやマジな話、あたしらって世界を救った実力者じゃん……変な奴ばっかり近寄ってきて、まともな男は腰引けて寄り付かねぇのよ……だけどせっかく平和になったんだから結婚とかしたいわけで結構困ってたんだよ」


「サーボは私たちと向き合ってちゃんと相手してくれるし……きっかけがきっかけだったから話しやすいんだぁ」


「何より僅かな間とは言え共に旅をして……誠実で信頼できる相手だともわかっておりますから……」


「……否定はできませんねぇ」


 四人がじっと俺を見つめてくる。


(ちょ、ちょっと怖い……)


 まさか彼女らが男に飢えているとは思わなかった。


「あ、あはは……伝説の勇者様たちにこれほど好意を向けられて嬉しい限りですよぉっ!! ですが今は装備づくりを優先いたしましょうっ!!」


 言い切って当てもなく村の中を走り出した俺。


(か、勘違いされて困ったから本音で生きるようにしたってのに……どうしてこうなるんだよぉおっ!?)


 今回は逆に誠実さが評価されてしまうとは……どうしてこう上手く行かないのだろうか。


 余りにも酷い。


「もぉ、待ってよサーボぉ~」


「そこは右ですわ、サーボ様ぁ」


「サーボ殿、道に迷っては困ります……共に進みましょう」


「あはははっ!! やっぱ面白れぇわお前……待てよサーボぉ~」


 何だかんだで嬉しそうに後をついてくる四人。


 当然振り切ることは敵わず、あっさりと拘束されて連れ立って歩くことになった。


 両腕を取られて引っ張られて……やっぱり俺は玩具かペットと勘違いされている気がする。


「えっとねぇ……ああ、ここだよ~」


「こんばんわ、お邪魔致しますわ」


 工房が隣り合わせになった民家のドアを開けて中に入る。


「い、い、いらっしゃい……あ、イキョサさんだぁ~」


「っ!?」


 家の中にいた少女が怯えながらこちらへと振り向いて、イキョサ様の顔を見ると安堵して近づいてくる。


 しかし俺はその子の顔を見て目を見開いてしまう。


「……アイさん?」


 思わずつぶやいてしまった。


「ふぇ……あ、あ、あの、あ、あな、あなたは……っ!?」


 俺の存在に気付いたその子は、異なる色をした瞳を潤ませその異様に白い肌に汗を滲ませた。


 身長こそ俺の半分ぐらいしかないが、その外見的な特徴はまさにアイさんにそっくりだった。


「こいつはサーボ……あたしたちの旦那様だ、ねぇダーリィン」


「……気持ち悪いですよトラッパー様」


「んだとこらぁっ!?」


「ぐげっ!?」


 首を締め上げられる。


「だ、だ、だ、だ、旦那様っ!? け、けっこ……結婚したのみんなっ!?」


「……ウンソーダヨォ」


 露骨に目を逸らして頷くイキョサ様、完全に棒読みだ。


「え、え、え、ええええっ!! う、裏切り者ぉ~~っ!!」


「ドーマ殿、いつもの冗談ですよ……」


(……この子もドーマって言うのか……聖剣を作った一家の子供かな……アイさんのご先祖様ってところかなぁ)


 あの外見は先祖返りというやつだったのだろう。


「な、なんだぁ……びっくりしちゃったぁ……もぉ驚かせないでよぉ……そ、それであなたはどちらさまなの?」


「ど、どうも初めましてサーボと申します……」


 何とかトラッパー様を振り払って挨拶をする。


「未来から来たんだって……私の子孫で勇者してるんだよ」


「も、もう嘘ばっかり……もう騙されないんだからねっ!!」


 頬を膨らませてこちらを睨みつけるドーマ様、だが身長のせいで可愛らしくしか見えない。


「それが事実なのですよドーマ殿……」


「ま、マーセさんまでそんな冗談言っちゃってぇ……冗談だよね?」


 ドーマ様の言葉に、皆で一斉に首を横に振った。


「あ……あはは……えぇええええっ!! ほ、本当なのぉおおおっ!?」


 物凄く驚いている。


「ど、どうしてそんな人が……というかイキョサさんの子孫っ!? じゃ、じゃあやっぱり結婚したのっ!? ず、ずるぃいいいっ!!」


「ず、ずるいって……そんなこと言われてもぉ……」


「わ、私は結婚したのっ!? え、えっとサーボさんだよね……そこのところどうなのぉっ!?」


「お、恐らくは……ドーマ様の子孫と思わしきお方にも出会っておりますから……」


 俺は未来におけるドウマ帝国とその子孫のアイさんについて軽く説明した。


「そ、そうなんだぁ……ど、道理でサーボさんは私を見ても驚かないわけだね……」


「いえ驚きましたよ、アイさんと同じで余りに美しく……このような女性が二人もいるとは思わなかったもので……」


「は、はうぅっ!? う、美しいって……えへへ、そ、そんなことないよぉ~」


(しまった……いつもの癖でつい褒めてしまった……)


 他人を褒めてご機嫌を取って利用してきたせいで、もう自然に口が動いてしまう。


 最も本心でもある、本当に美しいと思う。


「サーボ……全く、女の人を見るとすぐ褒めるんだからぁ」


(別に男女で区別した覚えはないんだけどなぁ……)


 かつての俺はどちらも利用できるなら持ち上げて利用していたのだから。


「ま、まあともかく……聖剣を作った御方にお会いしたいのですが……」


「え、ええと……私がその聖剣を作ったドーマです……どうも」


「えっ!?」


(ど、どう見ても子供じゃねぇかっ!?)


 イキョサ様たちを見るとそうだと言わんばかりに頷いている。


「わ、私その……ドワーフだから……これでも成人しているの……もう三十近い……うぅ……早くお嫁に行きたいよぉ……」


「えぇっ!?」


 なんだか驚きのオンパレードだ。


(ドワーフってエルフと争ってたあの……生物兵器をたくさん作ってたっていう……)


 道理で聖剣などを作れる能力があるわけだ、ちょっと納得した。


「まあ将来的には結婚できるみたいだし気にしない気にしない……それより悪いんだけど新しい装備を作ってほしいんだぁ」


「うぅ……べ、別にいいけどぉ……魔王を退治したのに今更何でそんなものが必要なの?」


「実は俺のいた時代では魔王が復活しておりまして……」


 俺は未来で起きたこと、そしてここに来るきっかけについて説明した。


「……そっかぁフェンリルが……ごめんねサーボさん……私たちとんでもないもの作っちゃったんだね」


「ドーマ様はフェンリルを知っているのですか?」


「うん、シーサーペントは別口だけどフェンリルは私も関わってたから……だけどまさかエルフにけしかけるなんて……酷いなぁ」


「……ドーマさんはね、ツエフ大陸の皆で仲良くしようって主張したせいで追放されちゃったんだよ」


「せっかく魔王の脅威を前にみんなで団結できたんだからそのまま仲良くすればよかったのに……どうして上手く行かないんだろうねぇ」


 困ったように笑うドーマ様。


「……一応フェンリルを操る魔法と封印する魔法知ってるから後で教えてあげるね」


「それは助かります……」


(もしも操れればそれはそれでこちらの戦力になりえるからなぁ)


 ただ俺の時代のフェンリルは魔導の使い手が作ったであろう魔法で操られているはずだ。


 果たしてドワーフが用意した正規の魔法で操れるかは疑問が残る。


「でもドワーフは全滅しちゃったのか……天罰なのかなぁ……はぁ……」


「……いいえ、ドーマ様の血筋が続く限りドワーフが滅びたことにはなりませんよ」


 悲しそうにつぶやくドーマ様に俺は、久しぶりに適当なごまかしを口にした。


 純粋なドワーフはもはやこの世に居らず、ドーマ様の血筋にしても人間と混ざって殆どドワーフとしての原型はない。


 もしアイさんの後も血筋が続いたところで、ドワーフ族が世に戻ることはないだろう。


 それでもこんな俺のでたらめで僅かにでも気持ちが楽になってくれるのならと思った。


「ありがとうサーボ……その私の子孫の……アイちゃんをお願いね」


 実際に少しだけ表情が明るくなったドーマ様を見てほっとする。


「ええ、お任せください……それで話は戻しますが未来の大盗賊が使う装備を作っていただきたいのです」


「ええと、トラッパーさんのローブに透明化と消音と消臭と……要するに気配を消す効力をつければいいんだね?」


「それと機動力の向上も……」


 俺は覚えている範囲でカノちゃんに聞いた装備の効果を説明する。


「なるほど……うん、わかったよ……出来るだけやってみる……ちょっと時間かかりそうだけど……」


「構いませんよ……俺の時代までに出来ていればそれでいいので」


「はーい、じゃあちょっと考えてみるねぇ……」


「あとついでにこいつ用の装備も作ってやってくんねぇかな……」


 俺たちはドーマさんにあれこれと依頼をした。


 その全てをドーマさんは頷いて聞き入れてくれた。


「よぉし、じゃあ後はドーマに任せて……あたしらは魔導の使い手を探しに行くとするかぁ」


「そうですね……ですが今日はもう暗い、一晩休んでから行動しましょう」


「それなら私のうちに泊まって行ってよっ!! 部屋はたくさん空いてるから……無駄に増築したからさぁ……うぅ……」


 涙を流すドーマ様、どうも魔王の脅威が去ったのをきっかけに結婚するつもりで家を増築したらしい。


 しかし見た目的な理由でどうしても相手を見つけられず、結果として無駄に部屋が余ってしまったのだという。


(だけど村人がドーマ様の名前を呼ぶとき嫌そうにはしてなかったよなぁ……)


 恐らく目と肌の色で嫌われているのではなく、身長が低すぎて恋愛対象にならないだけなのだろう。


(まあ結婚できるのはアイさんの存在でほぼ確定してるし……この問題には首を突っ込まないようにしよう)


 俺はあえて何も言わずに頭だけ下げて、適当な部屋を借りて休むことにするのだった。


「……サーボ、起きてる?」


「サーボ様、一緒に寝てみませんか?」


「サーボ殿、隣に失礼しますね」


「サーボ、もっと脇に退けろって……」


(な、何故こうなる……部屋余ってんだろうがぁ……)


「さ、サーボさん……私もここで寝ていいかなぁ?」


(ドーマ様までぇ……勘弁してくれよぉ……ぐすん……)

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[一言] セーヌ殿不憫な…… 失恋だけでなく嫌われるのはキツいですなあ
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