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俺……強いのか?

「そこの岩陰だっ!!」


「シャァアアアっ!!」


豪雪暴風(ブリザード・ストーム)


 トラッパー様の指摘通り岩陰から飛び出してきた蛇に似た魔物、その顔に向けて冷静に魔法を解き放つ。


 俺の魔力では顔の半分ぐらいしか氷漬けに出来ないが、口さえ開かなければ十分だ。


 すぐに駆け寄り剣で頭を切り落とした。


「ふぅ……」


「かなり慣れてきたじゃねぇか……やればできるだろサーボよぉ」


「うん、サーボ凄いよっ!! 初めて会った時とは比べ物にならないよぉっ!!」


「ありがとうございます、これも全て皆さんの指導のお陰です」


 振り返って素直に皆に頭を下げる。


 そして顔を上げれば、ここまで辿ってきた山道と……あちこちに点在する俺が討伐した魔物の血痕が目に入ってくる。


(俺が……ここまでやれるようになるなんてなぁ……)


 この時代の山には大量の魔物が巣くっていて、登頂中の俺たちは何度も襲撃を受けている。


 その全てを俺は一人で苦戦することなく返り討ちにすることに成功しているのだ。


 それこそ魔王軍の雑魚ぐらいには匹敵する強さの魔物だけでも既に十体以上は退治している。


 流石に自らの成長を自覚できてしまう。


「いえサーボ殿の努力のたまものですよ……特に無詠唱魔法をこれほどの短期間で習得してしまうとは……僕としても驚きでした」


「俺は元々魔法が使えませんでしたから……逆に理解しやすかっただけですよ」


 マーセ様の言葉に首を横に振った。


(俺は元々魔力が無かったから……素で魔法を使えなかったからどうしても頭で考えてしまうからなぁ……)


 魔法とは簡単に言えば魔力を決められた形に練り上げて外に放出することだ。


 そのための作業を自動化した結果が呪文を唱えることであり、詠唱をこなすことで意識せず魔力を既定の形に練り上げることができる。

 

 しかし逆に言えば意識して魔力を練り上げることができれば詠唱部分を大胆にカットすることができるのだ。


(生まれつき魔力があるやつは呪文を唱えるだけで魔法を使えちまうから……そう言うものだと思うんだろうなぁ……)


 もっとも俺ですらマーセ様たちが無詠唱で呪文を唱えるところを見ていなければ、こんなこと試そうとすら思わなかっただろう。


 皆にアドバイスを貰い、何度も試行錯誤して……さらに実戦でのぶっつけ本番を経て、ようやくつい先ほど出来るようになったのだ。


「ご謙遜なさらずに……これも全てサーボ様が頑張られた成果でございますわ」


「ああ、こればっかりは本当に頑張ったと思うぞお前……なんたってあたしらですら数年かけてようやくだからなぁ」


「開祖者が一番時間がかかるのは当然ですよ……後からコツだけ教わった俺が楽をしてしまっただけですよ」


「それでも十分凄いんだってばぁ、他に出来てる人見たことないもん……サーボはもっと自分を認めていいんだよぉ」


 イキョサ様たちは褒めてくれるが、どうしても自分が大した奴だとは思えない。

 

 実際にこれだけの魔物を退治して、自らの成長を自覚してなお……俺は無能なのだという自責の念が消えてくれない。


(ずっと自分を屑で無能だと言い聞かせてきたからなぁ……)


 そうすることで生き抜いてこれたというのに、まっとうに成長しようとしている今では皮肉にもそれが枷になっている。


 中々上手く行かないものだ。


「本当にうじうじと面倒な奴だなぁサーボは……ほら、さっさと先進むぞ」


「ええ、行きましょう」


 トラッパー様と並んで先頭を歩く。


 流石に俺では奇襲には対処しきれないからだ。


「サーボ殿は観察力もあり頭も切れる……向き合っての戦闘なら実力差がある相手であっても工夫してそれなりに渡り合えるでしょうね」


「だけど実戦じゃ奇襲にだまし討ちは当たり前だ……反射的に動けねぇお前はやっぱり最前線に立つべきじゃねえ」


「分かっておりますよ」


 マーセ様とトラッパー様の言う通りだ。


 やはり戦闘に関して天性の才能がない俺は、詐欺師時代に培った観察力を利用しての立ち回りが基本になってしまう。


 だからどうしても行動に移すまでのタイミングが遅れがちだ。


 イキョサ様たちやテキナさんのように最前線に立って敵の攻撃を受けるのは厳しい。


(それでも……前の俺と比べれば遥かにましだ……)


 これなら元の時代に戻っても足手まといにはならない。


 きっと魔王軍との戦いでも役に立てるはずだ。


(もう戦う気満々だな俺……だけど倒さなきゃいけないし、俺も倒したい……)


 人々の為……俺を信じて付いて来てくれた弟子たちの為……何より俺自身のためにもだ。


 何せ魔王は大陸を丸ごと吹き飛ばせるほどの力を秘めているのだ。


 どこへ逃げ隠れしようとも無駄だ、ならば戦って退治してしまうほかない。


 俺の命を守るために何でもしよう……本当に、今までの口先とは違って何でもだ。


(他人を犠牲にして、踏み付けて逃げ出すのではなく……俺自身を鍛えて危険に負けないよう……頑張ろう)


 自分が強く成ればそれだけ生き延びられる可能性は増える。


 そんな当たり前の事実を見ないふりをしていた自分が恥ずかしい。


 結局俺はずっと無能であるというコンプレックスを振り切れず、不貞腐れていただけなのだろう。


 トラッパー様たちがスパルタで鍛えなおしてくれて、そして成果を出してくれたお陰でようやく目が覚めた。


(しかし、修行してきちんと強くなれると……成果が身に着くとこんなにも楽しいもんなんだなぁ……)


 本当にこれほど的確に修行をつけてくれるトラッパー様とマーセ様には頭が上がらない。


「上だっ!!」


「キュルルルっ!!」


 上空から鳥型の魔物が急降下で迫ってくる。


聖輝光(シャイニング・レイ)


 こちらをまっすぐ見つめている顔に魔法を放ち、火傷させつつ眩しい輝きで視界を遮る。


「キュルルルゥっ!?」


 目の前が見えなくなり、困惑した様子で速度を下げた魔物が中空で立ち止まる。


豪雪暴風(ブリザード・ストーム)


「キュゥゥっ!?」


 片方の翼を凍り付かせてやると、情けなく地面に墜落した魔物。


 隙だらけなのであっさりと剣で両断することができた。


「お見事です……魔力はまだ持ちますか?」


「威力を抑えてますから……ですけど、そろそろ補充したいです」


 ただ呪文を唱えるだけでなく、自らの意志で練っている俺たちはその気になれば多めに魔力を注ぎ込み魔法の威力を増すことができる。


 最も非効率すぎるし、何より俺の魔力はそこまで多くないのでそのような無駄遣いはする気にならない。


「はい、魔法水だよ」


「ありがとうございます」


 水筒を受け取り甘ったるい魔力の篭った水を飲む。


 全身に染み渡る様に魔力が補充されるのが分かった。


(こんな便利なもん……良く作り出したよなぁこいつら……)


 自らの魔力を水に溶かしこんで保存しておくことで、こうしていつでも回復できるようにしてあるのだ。


 生活の知恵だと語っているが、俺たちの時代には失われた技術だった。


「よぉし頂上だ……よく頑張ったなサーボ、後は休んでていいぞ」


「ええ、すぐに終わらせますから少しお待ちください」


 頂上付近の開けた場所に着くと、トラッパー様が俺の背中を叩きマーセ様と共に歩き出した。


 そして来た道とは違う絶壁を見下ろすと、そこから飛び降りていった。


 恐らく壁の窪みに怪鳥の巣があるのだろう。


「任せて平気なのですよね?」


「うん、あの二人なら大丈夫だよ……ほらサーボちょっと休もう」


「ここまでご苦労様でした、どうか休んでくださいませ」


 イキョサ様とイーアス様が荷物から敷物をだしてそこにくつろぎ始める。


 俺もお言葉に甘えて休むとしよう。


 近くに腰を下ろす。


 ここまで休みなく戦いながら歩き続けてきたのだ。


「ではお言葉に甘えて……ふぅ……」


 溜まっていた疲労が湧き出てきて、ついついため息を漏らしてしまう。


「ほらサーボおいで……膝枕してあげるよ~」


「サーボ様どうぞ……私のお膝でお休みくださいませ」


「「えっ?」」


 イキョサ様とイーアス様がほぼ同じ発言をして、互いに顔を見合わせた。


「い、イーアスぅ……サーボは私の孫だから私が膝枕してあげるよ」


「い、イキョサ……サーボ様は今朝も私と訓練して疲れておりますから私が労わらせていただきますわ」


 にこやかに微笑みながら視線を交える二人。


 何やら火花が散って見えるのは気のせいだろうか。


(い、いやまさかな……流石にこいつらまで俺に惚れるとか……あるわけねよなぁ……)


 俺のいた時代では勘違いが積み重なった結果としてあんなことになったのだ。


 情けない本性を曝け出しているこちらで俺が惚れられるはずがない。


(まあ……俺自身は……少しだけ自分のこと好きになれたけど……)


「……こっちに来るよねぇサーボぉ?」


「……こちらにいらしてくださりますよねサーボ様ぁ?」


「っ!?」


 とてもいい笑顔を俺に向ける二人、だけど物凄い迫力を感じる。


「どーしたのサーボ、素直に私のところにおいでよぉ~」


「どうしましたサーボ様、素直に私の元へおいでましてくださいませ~」


「あ、あはは……す、少し修業します……」


(どっちを選んでもヤバい……こ、これが正解だろ)


 俺は休むことを放棄して、近くで素振りでもしておくことにした。


「もぉ、サーボのヘタレぇっ!!」


「サーボ様にしては不甲斐ないですわ」


(何とでも言ってくれ……)


 不満そうな二人を置いて素振りをする俺。


「どうせなら模擬戦やろうよぉ……ほら、相手してあげるからさぁ」


「サーボ様、私がまたお相手して差し上げますわ」


(勘弁してくれ……早く戻ってきてトラッパー様、マーセ様ぁ……)


「ピギャァアアアっ!!」


「待たせた……おお修行してんのか、偉いなサーボ」


「僅かな時間も訓練に費やすとは……良い心がけです」


 珍しく俺の思いが通じたようで、巨大な怪鳥に乗った二人が戻ってきた。


 翼幅は三十メートルほどはありそうな巨体をした、筋肉質な肉食系の鳥類によく似た魔物だった。

 

 これなら俺たちが全員乗っても平気で空を飛んでいけそうだ。


「お待ちしておりました、では早速行きましょうっ!!」


「もう、サーボの馬鹿ぁ」


「サーボ様は意地悪ですわ」


「あぁん、なんかあったのか?」


「いえ、何も……良いから行きましょう」


 不満そうにしているイキョサ様とイーアス様に気づかないふりをしながら、怪鳥の背中に乗る。


 ロープで括り付けられた簡易な座席に座ると、マーセ様が手綱を振るった。


「では参りましょう……まずはゼルデン大陸へ」


「ピギャァアアっ!!」


「お……おおっ!!」


 力強く羽ばたいた怪鳥の身体が浮かび上がり、空を進み始める。


「どーだ、空の旅は……ってお前たしか飛んだことあるんだったか?」


「ええ、タシュちゃんのお陰でワイバーンにも乗ったことがあります……けれどこれだけ大きいと乗り心地はいいですねぇ」


 速度自体はそこまでではないが、横にも縦にも広いためかなりゆったりとすることができる。


 それでも空を飛んでの移動は効率的だ、恐らく今日中にはゼルデン大陸についてもおかしくはない。


「そう言えば……大陸間にある霧は大丈夫なのですか?」


「うん、私たちが飛んでるのを見たら鳥人族が面白がって近づいてくるからね」


「これでも世界を救った英雄として顔は知られていますから、後は案内をお願いすればいいのですよ」


(この時代の鳥人族は勇者を知ってんのかぁ……セーレちゃん知らなかったのになぁ……やっぱりあいつアホすぎるだろ)

 

 実際に海上を進んでいると、霧に包み込まれる前に鳥人族が気づいてこちらに近づいてきた。


「おっきいおっきい鳥さんっ!! 鳥さん鳥さんだぁっ!!」


「すごーいすごい大きいな大きいなぁっ!!」


「みんなー、またゼルデン大陸まで案内お願いねーっ!!」


「あー勇者さんだー勇者勇者ーっ!!」


「任せて任せてなのっ!! こっち、こっちなのっ!!」


(相変わらず能天気な奴らだなぁ……)


 本当によく俺の時代まで絶滅せずに残っていられたものだ。


「いつ見てもまぬけ面してんなぁ……こいつら近いうち絶滅するだろ……どうなんだサーボ?」


「この辺りは天敵もおりませんし、何より人魚族との同盟が強固ですから……確か性別に関係なく族長同士が婚姻する習わしだとか……」


「ど、同性でも結婚するのっ!? す、すごいなぁ……」


「私も存じませんでした……サーボ様はどこでそのような事をお知りになられたのでございましょうか?」


(貴方に聞いたんですよイーアス様……この情報俺らの間でループしてんのか?)


「あはは……まあ、一応鳥人族のトップと人魚族のトップとも懇意にしておりますので……」


「おや、そうなのですか……その辺りの話はまだ伺っておりませんね」


「丁度いいや、時間もあるし前の続き聞かせろよ」


「構いませんけど……あんまり面白い話じゃありませんよ……」


「前の話だってとっても面白かったよ、私も続き聞きたいもん」


 皆が本当に楽しみな様子で俺の言葉を待っている。


「わかりました、確かキマイラを退治したところまで話しましたよね……その後は……」


 ゼルデン大陸に到着するまでの道中、俺は自らの旅をゆっくりと語って聞かせるのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】


 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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