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勇者サーボの朝は早い……もう嫌ぁ

「ぐぐぅ……二百二十……六ぅ……」


「おせぇっ!! 今のはカウントなしだぁっ!!」


「も、もう勘弁してくださいぃ……」


 雑用係として採用されたはずの俺なのだが、何故か朝一でトラッパー様に扱かれている。


 まだ日も登らない時間から、皆を起こさないよう馬車から連れ出され草原で剣の素振りをさせられている。


(せ、千回の素振りとか……勘弁してくれぇ……)


 しかも振り方が悪いとカウントしてくれないのだ。


 かつて俺がカノちゃんにやらせていた訓練とは比べ物にならない難易度だ。


「サーボ殿……何と惰弱な……」


 いつの間に起きたのか、気が付いたらマーセ様がすぐそこからこちらを見て嘆いている。


「ま、マーセ様……お助けをぉ……」


「マーセ、お前お手本見せてやれっ!!」


「貴方に命令される筋合いはないのですが……やれやれ……」


 マーセ様は自らの剣を正面に構えるとぴたりと止まった。


(……い、いや音が聞こえる……速い上に動作が精確すぎて俺が見えてねぇだけかっ!?)


 完璧に同じ動きをこなしているのだろう。


 僅かな残像と空気が引き裂かれる音が聞こえているが、マーセ様の身体は動いているように見えない。


「……千、まあこれができたからどうというわけでもないのですが……仮にも勇者の仲間として活動するのなら最低限の実力は身に着けて頂かないと困りますよ」


「こ、これが最低限ですかぁ……」


 汗一つかかず息一つ切らさずにいるマーセ様。


「ほら、じゃあ続きやれ~……終わるまで飯抜きな」


「そ、そんなぁ……」


「僕たちも付き合いますよ……ほら頑張ってください」 


「うぅぅ……二百二十六、二百二十七……」


「馬鹿かお前、一度止まって休憩したんだから最初からやり直しに決まってんだろーが」


「はぅぅっ!?」


 涙目でマーセ様を見るが、頷くばかりだ。


(だ、誰か助けてくれぇ……)


「んにゃぁ……何してるのぉ皆ぁ……」


「お早うございます皆さま」


 寝ぼけ眼を擦っているイキョサ様を連れて、イーアス様もまたこちらへとやってきた。


「この雑魚を鍛えてんだよ……このままじゃ雑用にも使えねぇからなぁ……」


「トラッパーの言い分など認めたくもありませんが……事実です」


「ふぁぁ……あんまり虐めないであげてよぉ、私の孫なんだからねぇ……むにゃむにゃ……」


「お二人がそうおっしゃるのでしたらその通りなのでしょうね……頑張ってくださいませサーボ様」


 イーアス様はイキョサ様を連れて顔を洗いに行ってしまった。


「おら、皆起きちまったぞっ!! さっさと終わらせろやっ!!」


「お、終わりませぇん……」


「サーボ殿、口を動かす暇があったら手を動かしてください」


「うぐぐ……一、二、三、四、……」


 必死で腕と身体を動かし続ける俺、何とか許されたのは既に昼に差し掛かろうという時間だった。


「はぁはぁはぁはぁ……」


(し、死ぬ……こ、呼吸が苦しい……両腕が上がらねぇ……肩も背中もガチガチだ……)


「ざまぁねぇなぁ……これがイキョサの子孫かよぉ……」


「確かに……信じがたい弱さですね……」


「もぉ、可哀そうでしょっ!! サーボおいで~、私が良い子いい子してあげるから」


 疲れ切って動けない俺に呆れるマーセ様とトラッパー様に対して、膝枕して頭を撫でてくれるイキョサ様。


 どうやら完全に俺を子孫認定しているようで、母性愛のようなものに目覚めているらしい。


「しかしよく最後までやりぬきました……素晴らしい努力でしたよサーボ様」


 イーアス様も慈愛を込めた笑みで俺を褒めたたえてくれる。


「あーやだやだ、お前らこんなの甘やかすなよなぁ……それよりさっさと飯にしよーぜぇ」


「そうですね、では早速獲物を狩りに行きますか」


「……頑張ってください」


「あほか、お前も来るんだよっ!!」


(ですよねぇ……うぅ……)


 マーセ様とトラッパー様に引きずられるようにして、俺たちは獣道から外れ草原を進んでいく。


「えーと……おお、あれなんか美味そうじゃねぇか?」


 トラッパー様が指し示したのは、巨大な牙が生えた体長2メートル程のイノシシに似た魔物だった。


「ファングボアですね……突進と牙に気を付ければ大した相手ではありませんよ」


 そう言ってさっと俺から離れるマーセ様。


(ま、まさか俺に倒せってのかっ!?)


 冗談じゃない。


 ただでさえ苦戦必至の魔物だというのに、今の疲れ切っている俺に何が出来るというのか。


「じゃぁ頑張れよ~」


「ちょ、ちょっと待ってトラッパー様ぁああっ!!」


 トラッパー様は俺の制止を無視して近くにある小石を魔物にぶつけ、わざとこちらに気づかせる。


「ブルルルルルっ!!」


「ひぃっ!? と、とら……っ!?」


 一瞬視線をそらした隙に、隣に居たトラッパー様は影も形もなくなっていた。


「ブルルルルルっ!!」


「ま、マーセ様お助けぇえええっ!!」


 俺に向かって突進してくる魔物の攻撃をよけながら必死にマーセ様の元へ駆け寄ろうとする。


氷結凍壁(ブリザード・ウォール)……勇者たるもの、人に頼ってはいけませんよ」


 詠唱をすっ飛ばし魔法を発動させたマーセ様の足元から氷の壁がせりあがった。


 あっという間に5メートル程の高さがある分厚い壁の上に移動したマーセ様、どうやら俺を助けてくれる気はなさそうだ。


「今の俺はただの雑用係ですぅうううっ!! それに疲れ切っていて魔物の相手なんか無理ですよぉおおっ!!」


「そんな言い訳魔物には通じませんよ……ほら、後ろから迫ってますよ」


「ブルルルルルっ!!」


「ひぃいいっ!!」


 再度突進してきた魔物の攻撃を何とか躱す。


 するとその勢いで氷の壁に衝突した魔物が一瞬動きを鈍らせる。


(い、今のうちに逃げねぇとっ!!)


 慌てて距離を取る俺、しかしすぐに魔物は立ち直って襲い掛かってくる。


「やれやれ、絶好の機会だったというのに……逃げることが身体に染みついてますねぇ」


「ま、魔物に襲われたら逃げるのが普通ですよぉおおおっ!!」


「だとしても逃げきれるだけの算段が無きゃ意味ねぇだろうが……おめぇのはただの臆病ってんだよ……」


 いつの間にかトラッパー様も氷の壁の上に立っていて俺を呆れたように見下ろしている。


「ほ、本当に死んじゃいますよぉおおっ!! 助けてくださいよぉおおっ!!」


「サーボ殿、叫ぶ余力があるのなら他に体力を回しなさい」


「そーだぞぉ、無駄な体力使ってっとあっさりやられちまうぞぉ~」


(だ、駄目だこいつら……こ、こうなったらイキョサ様のところまで逃げるしかねぇっ!!)


 イキョサ様なら恐らく俺が襲われている所を見れば助けに入るはずだ。


 俺は必死で魔物の攻撃を避けながらイキョサ様たちが居たところを目指す。


「はぁん……なるほどねぇ、骨の髄まで人に頼る癖がついてやがるなぁ……」


「困ったものですねぇ……」


(何とでも言えよっ!! どうせ俺は屑で無能だよっ!!)


「ブルルルルルルっ!!」


「くぅっ!! うおぉっ!? ととぉっ!?」


 何度も攻め立てる魔物の動きを必死に観察してひたすら避けることに専念する。


「サーボ殿、一言アドバイスを差し上げますが……それほど相手の動きを読めているのなら反撃するのも容易なはずですよ」


「おぅっ!? お、俺は無能だからぁっ!? ひぃっ!? 避けるのが精いっぱいなんですよぉおおっ!!」


「だから避けんのを辞めて反撃に専念すりゃぁ良いんだよ……そのほうがずっと楽だぞぉ」


「む、無理無理無理無理ぃいいいっ!! うぉおっ!?」


 魔物の攻撃を躱すためにそちらに意識が行き過ぎて足元がおろそかになった俺は、小石に躓いて体勢を崩した。


「ブルルルルルっ!!」


 すかさずそこに突っ込んでくるファングボア。


(よ、避けれねぇ……し、死ぬっ!?)


 まっすぐ正面から俺目掛けて突っ込んでくる魔物。


 防具も身に着けていない俺がこんな一撃を正面から受けたら間違いなく致命傷になる。


(し、死んで……死んでたまるかよぉおおっ!!)


 冗談じゃない。


 俺は俺の命だけはあきらめない。


 どれだけ見苦しくても最後まで足掻かないといけない。


(魔物は正面から突進してくる……まっすぐ突っ込んでくるだけだっ!!)


 動きがわかっているのなら攻撃を当てるのは簡単だ。


 俺は無我夢中で剣を腰から引き抜き、真正面に構えた。


 魔物は刃物を見ても動きを変えることはなく、そのままの勢いで俺が構えた剣に突っ込んできた。


「ぐぐぅううっ!?」


 腕に衝撃が走る。


 魔物の体重と速度が一気に負荷として襲い掛かる。


 素振りで疲れた俺の両腕が悲鳴を上げている。


 だけどここで手放せば……俺は死ぬ。


「だぁあああああっ!!」


 手の骨が折れそうなほど強く握り、身体全体で柄を支え押し込んだ。


 バキっと骨が砕ける音がして……刃がずぶりと魔物の肉へと埋まって行った。


「ぷぎぃいいいいいっ!!」


「うおっ!?」


 頭蓋骨ごと剣に刺し貫かれた魔物は、悲鳴を上げたかと思うと後ずさりながら頭を振り回しめり込んだ剣を抜こうと足掻いた。


 その衝撃に耐えきれず剣を手放してしまったが、魔物の奥深くまで刺さった剣が抜け落ちることはなかった。


「ぎぎぃ…………」


 そして不意に魔物の動きが止まったかと思うと、力無くその場に崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……た、倒した……?」


「全くこんな雑魚にこんな手こずるなよなぁ……」


「ですが倒せましたし、今回は及第点といたしましょう」


 気が付けばマーセ様とトラッパー様が魔物のそばに立っていて、てきぱきと処理をし始めていた。


「ほれ、お前の剣……ちゃんと手入れしとけよ」


「は、はぁ……はぁぁぁ……」


 剣を受け取った途端、溜まっていた疲労が湧き出してきて俺はその場に崩れ落ちそうになる。


「しっかりしろって……ほら今度こそ飯にすんぞぉ」


「……は、はい」


「次回からも食事はサーボ殿に取ってきていただきますからね……早めに慣れてくださいよ」


(じょ、冗談じゃねぇ……こいつらについて行ったら殺されちまう……)


 てっきり雑用をしているだけで食事にありつけると思っていたが大間違いだった。


 こうなったら何とか隙を見て逃げ出したい。


(だ、だけど……どうやってこいつらの目をかいくぐればいいんだっ!?)


 大盗賊の鋭さはカノちゃんが立証済みだ。


 ましてそれ以上の能力を持つトラッパー様の目を盗むことなどできるのだろうか。


(逃げたら殺すって明言されているしなぁ……うぅ……俺の馬鹿ぁ……)


 早速彼女たちについていく決心をした自分の判断を呪う。


 せっかく嘘偽り抜きで正直になったというのに、どうして俺はこうなるのだろうか。


「よぉし、捌けたしもってくぞぉ~」


「サーボ殿も持ってくださいね」


「は、はいぃい……な、なんか多くないですかぁ?」


 どう見ても肉の量が俺が狩った魔物の体積より多い。


「お前が倒すまで暇だったからちょっと狩ってきたんだよ」


「余りにも遅くて暇でしたしねぇ……何より朝から何も食べてませんから少し多めに用意したほうがいいと思いましたのでね」


「……そうですかぁ」


(だったら最初からお前らが狩れよ……)


「サーボ君はなぁにか文句でもあるのかなぁ~?」


「な、なにもありませぇんっ!!」


 地獄だ。


(三弟子に……あいつらに会いたいよぉ……)


 自分がいかに恵まれた境遇にいたか悟らされる。


 そして……どれだけ他の人々に頼り切っていたのかもだ。


「おかえりぃ……サーボ怪我はない?」


「ええ、何とか……死ぬかと思いましたけど……」


「大げさだなぁサーボは……たかがファングボア一匹じゃねぇか」


「なぁんだ、心配して損しちゃったぁ……」


(……駄目だ、こいつら)


 戦闘力の基準が違いすぎて、俺みたいな凡人には居心地が悪すぎる。


 やはり何としてでもこいつらから逃げきらなければならない。


(結局ここでも逃げることを考えていかなきゃいかんとはなぁ……)


 我ながら情けなさすぎる。


「ご苦労様ですサーボ様、どうぞお食べくださいませ」


「あ、ありがとうイーアス様」


 いつの間にか火が起こしてあり、焼かれた肉と野草が盛られた皿が手渡された。


 野草のほうは恐らくイキョサ様とイーアス様がとってきてくれたのだろう。


(朝から何も食ってねぇから……こんな原始的な食事がとても美味しそうだ……)


「い、いただきます……っ!!」


 早速かぶりつく。


 すさまじく美味しい。


 すきっ腹と疲れ切った身体に栄養が染み渡るようだ。


「おお、いい食いっぷりだねぇ」


「ゆっくり食べなよ……ただでさえその草はアレなのに、喉に詰まらせたら大変だからね」


(アレってなんだ……まあ今はどうでもいい……)


 イキョサ様の言葉に引っかかりを感じながらも、俺は無我夢中で食事を平らげた。


「はぁ……ごちそうさまです……」


「おうおう、野草も残さず食べて偉いなぁ……美味しかったかぁ?」


「ええ、とても……皆さんは食べないのですか?」


 皆のほうを見ると肉は減っているが、野草のほうは誰も手を付けていない。


「ああ、こりゃあ毒だからな」


「……はぁ?」


 トラッパー様がニヤニヤと笑いながら俺を見ている。


「ご安心を、死ぬ手前できっちりと回復して差し上げますから」


「……えぇ?」


 マーセ様がにこやかに微笑みながら俺を見ている。


「頑張ってねサーボ、絶対大丈夫だから」


「……なぁ?」


 イキョサ様が笑顔で励ますように俺を見ている。


「これも試練です……サーボ様なら必ず乗り越えられますよ」


「……おぅ?」


 イーアス様が慈愛の笑みを浮かべて俺を見ている。


「……ど、毒だとぉおおおっ!?」


 全員が頷く。


(ひ、人に毒を食わせておいて何笑ってんだこいつらぁあああっ!?)


「大丈夫だってばぁ、ちゃんと解毒するから」


「な、何が大丈夫だっ!? 何で俺に毒を食わせるんだよっ!!」


「ですから最初に言った通りですよ……せめて最低限の能力を身に着けて頂かないと困るのですよ」


「そ、それと毒が何の関係が……ぐぅうっ!?」


「おお、症状が出てきたか……まあ死ぬほど痛いけど頑張って出来るだけ長く耐えろよ」


(ふ、ふ、ふざけ……っ!?)


 トラッパー様の言葉通り腹部を中心に激痛が全身にひろがっていく。


 頭のてっぺんからつま先まで、内側から針で突き刺されているような鋭い苦痛がする。


 かと思えば脳は血管が膨張し割れそうなまでに頭痛がする。


「がぁああああああっ!?」


 身体を抱きかかえて大地に転がりながら、必死に痛みに耐える。


(…………っ!?)


 何も考えられないほどに痛い。


 余りの激痛に目の前が真っ白になっていく。


「…………っ!!」


 喉の奥から何かがせりあがり、思いっきり中身を戻す。


 何もかも吐き出してなお止まらない。


「……ここまでですね、解毒(リフレッシュ)回復(ヒーリング)


解毒(リフレッシュ)回復(ヒーリング)


 唐突に俺の身体を温かい温もりが包み込んだと思うと、すぐに痛みが引いていく。


「がはぁ……はぁ……はぁぁ……」


 それでも精神に負ったダメージは残っている。


 いまだに痛みがぶり返してきそうな恐怖があって、俺は自らの両肩を抱いた。


「大丈夫だった?」


「な、何が大丈夫だっ!? お、お前ら殺す気かっ!?」


「お気持ちはわかりますが落ち着いてください」


「ほれ、水だ……とにかく飲んで落ち着け……」


 トラッパー様が差し出した水に手を差し出しかけてすぐに戻す。


(こ、こいつらはもう信用できねぇ……何考えてるかさっぱりだっ!!)


「警戒すんな……つっても無理か、あたしも飲むから……ほら大丈夫だろ?」


 はっきりと水を飲み干すところを見て、俺は今度こそ水を受け取った。


 喉も口の中も気持ち悪くて水で洗い流したかったのだ。


 そして飲み干した水は妙に甘ったるかったが、全身にしみ込むような充足感を与えてくれた。


「……ぷはぁ」


「よぉし飲んだな……じゃあとりあえず、お前適当な魔法唱えてみろ」


「何を言い出すかと思えば……俺は魔力がないんだよ……」


「だから荒療治してやったんだろ、まあ騙されたと思ってやってみろって」


「ええ、これでイキョサのような特異体質でなければ魔法が使えるようになっていますよ」


(何を馬鹿な……だって俺は魔力がなくて……どれだけ努力しても使えなくて……それで全てを諦め……)


 訳が分からない。


 だけど皆が真剣な目で俺を見ている。


「……どうしたの? 試してみてよ?」


「あの……ひょっとして魔法の呪文がわからないのでしょうか?」


「ああ、そっかぁ……お前使えなかったんだもんなぁ」


「では僕の真似をして……」


「……いえ、覚えていますよ」


 忘れるはずがない。


 喉がかれて血反吐を吐いて、何度も何度も涙を堪えて叫び続けたのだから。


「……聖なる力よ迷える人々の指針となれ、照光(ライト


 呪文を唱え終えると全身から何かが抜け落ちていく感触と脱力感が湧いてくる。


 そしてその疲労と引き換えに、俺の頭上に本当に小さい僅かな輝きが発生した。


(…………嘘だろ?)


 初歩の初歩、ただ辺りを照らすだけの無力な魔法。


 勇者の里では子供でも使えるし、俺の放った輝きは誰が作り出した物より遥かにか弱いだろう。


 だけど自力で使えた。


(……俺が……無能な俺が……魔法を使えた……?)


 目の前の現実が信じられない。


 マジカルアーマーで魔法を放った時とは比べ物にならない感情のうねりがある。


 今更何だという怒り、この程度できたからどうなのだという失望。


 そしてそれらを塗りつぶすほどの感動が、胸の奥からこみあげてくる。


「はは……あはは……はははははははっ!!」


 笑いながら泣いていた。


 訳も分からず、ただ嬉しさと悲しみがごちゃ混ぜになっためちゃくちゃな感情に翻弄されるままに俺は泣いた。


 そんな無様で情けない俺を、イキョサ様たちは何を言うこともなく優しく見守ってくれていた。


「馬鹿かお前、こんなちんけな魔法で感動してんじゃねぇよ」


 訂正しよう、トラッパー様は無神経にも俺の涙を鼻で笑い飛ばしながら頭を小突いてきた。


「トラッパーぁ……流石にここは空気読もうよぉ」


「うっせぇ、あたしはこういう空気が嫌いだって言ってんだろ……サーボもいい加減泣き止め、男だろうが」


 両手をぽきぽき鳴らしながらトラッパー様が迫ってきて、慌てて顔を拭う俺。


「うぐぐっ……し、しかし何故俺に魔法が使えたのでしょうか?」


「身体を限界以上まで痛めつけて疲労がたまった状態であえて毒などで異常を発生させると、体力が残ってないために他の能力を動員して自己治療を試みるのですよ」


「そうして無意識のうちに身体が死から逃れようと、無理やり世界に満ちている微量な魔力を利用して癒そうとするのです」


「んでその結果、体内により魔力をため込めるようになったり異常に対する耐性が身に着いたりすんだよ」


「要するに、パワーアップするんだ……私たちもそれを利用してここまで強くなったんだよ」


(ああ……そういえばテキナさんも似たようなことを言ってたなぁ……)


 俺の無茶ぶりに応えてテキナさんはワイバーンか何かの毒液を喰らってから、より一層強くなっていた。


 あれはそう言うことだったのだろう。


 ようやく皆が俺に厳しかった理由が分かった。


 最初に言っていた通り、本当に最低限の強さを身につけさせてくれようとしていたのだ。


「……そうでしたか、しかしならば予め教えておいてくれなかったのですか?」


「逆に聞きますが、パワーアップの為に限界まで疲労した上で毒を飲めと言われたら従いましたか?」


「……逃げてましたね」


「ははは、お前以外に素直だよなぁ」


(嘘やでまかせにはもう懲りてるだけだってぇの……はぁ……)


 全て納得して、だけど感情の上下もあり精神的な疲労が強い。


 だけどどこか充足感すら感じながら、俺はその場に横になって目を閉じた。


(俺が魔法を……何が無能だ……いくら努力しても無駄だ……勝手に諦めてただけじゃな……っ!?)


「げほぉっ!?」


「だぁれが寝ていいっていったぁっ!? おら、修行の続きだっ!!」


 無防備なお腹をぶん殴られる。


 跳ね起きたところをトラッパー様にとっ捕まる。


「もうこんな時間だ、仕方ねぇから今日は一日おめぇの修行に付き合ってやる……行くぞっ!!」


「い、いやもう疲れましたっ!! また明日頑張りますからぁっ!!」


「明日も頑張ってもらいますが、今日は今日でまだ時間がありますからね……今度はオーガ辺りを見つけて戦ってもらいましょう」


「サーボーっ!! ファイトだよーっ!!」


「サーボ様ならきっとやり遂げられます、応援しておりますよ」


「だ、誰か……カノちゃんシヨちゃんテキナさん助けてぇええええええっ!!」


 俺の悲鳴は弟子たちに届くはずもなく、無慈悲な苦境は日を跨ぐまで続いていくのだった。

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