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ただのサーボ

次の話が上手くいかず何度も書き直しております。

次回は外伝の投下になる可能性が高いです。

楽しみにしている皆さま、誠に申し訳ございません。

「顔色が優れませんが、本当に大丈夫ですかサーボ様?」


「ええ……御心配には及びませんよイーアス様……」


 馬車の中で伝説の英雄に囲まれている俺。


 物凄く居心地が悪い。


(しかし状況はつかめた……)


 フウク様に襲われる直前に使われた魔法、あれはエルフの長が魔導の使い手として作ったものだろう。


 効果は恐らく対象者を安全な場所へ避難させる効果だったはずだ。


 しかし間近にフウク様が居たがためにこれも魔法の効果範囲に入ってしまった。


 つまり四大幹部である魔物がセットでついて来ながら俺が安全を保障される場所として、ここが選ばれたのだ。


(聖剣もってるアイさんやテキナさんより強いもんなぁイキョサ様……最もテキナさんは異空間にいるのも影響があったのかもしれんが……)


 そんなテキナさん達だが、何故か捕らえた本人であるはずのフウク様が退治されても姿を見せることはなかった。


 前の事例の通りなら術者が倒れればその場に現れるはずなのだ。


(これは……多分時間移動についてこれなかったってところかな?)


 魔力で作られた異空間とは言えあそこの時間の流れは正常だった。


 だから時間移動についてこれず、恐らくはフウク様がここに飛ばされた時点で魔力の供給を失いテキナさんたちはあの時代で解放されたのだろう。


(全部ただの推測だが今の俺には確認しようもねぇしなぁ……とりあえずそれで納得しておこう……)


 今大事なのはこの場をどう乗り越えるかだ。


「全くイーアスは心配性だねぇ、このお方はあの勇者サーボ様なんだから我々如きが気遣うなどおこがましいぐらいだぜっ!!」


「トラッパーは少しお黙りなさい……それでサーボ殿はどちらからいらしたのですか?」


「いや……その……」


(正直に言っていいもんかねぇ……未来から来ましたって……)


 そもそも信じてもらえるかどうかも分からない。


「あ、あの魔物も何だったの……ひ、久しぶりだよあんな強いの……うぅぅ……や、やっと安心できると思ったのにぃいいいっ!!」


 涙目で膝を抱えて小さくなる勇者イキョサ。


(ワンパンだったじゃねぇか……お前が何にビビるんだよ……)


「遠目で見た限りですが、あれほど影響力のある魔物は魔王を討伐して以来久しく見なかった相手でございました……」


「僕が辿りついたときにはもう退治された後だったけれど、散っていく魔力を見る限り魔王軍の一員にすら見えたのだけれどね」


「だよなぁやっぱりぃ……魔王が倒された今、残党なんざいるはずねえのになぁ……その辺りどうなんだ勇者サーボ様よぉ?」


 ふざけた様子を引っ込めて、鋭いまなざしで俺を睨みつけるトラッパー様。


 他のメンバーにしても訝し気に俺を見ている。


(あ、駄目だこれ……黙ってたらお終いだわ……)


 実力に差がありすぎる。


 この人たちの機嫌を損ねてはいけない。


「え、ええと俺はイショサ国で勇者登録をしましたサーボと申しまして……」


「イショサ国……どこだよ?」


「ディキュウ大陸の一番南にある王国で……イキョサ様とトラッパー様の生まれ故郷がある場所ですけど……?」


「……へぇ、あたしらはそんな立派な国の出身だったんだぁ……ってんなわけあるかぁあっ!!」


「ぐぅっ!?」


 トラッパー様にヘッドロックをかまされる。


「トラッパー落ち着きなさいっ!!」


「ディキュウ大陸に王国なんざ一つもねぇよぉっ!! 見ろこの田舎な風景をよぉっ!!」


(こ、ここ……ディキュウ大陸だったのかぁっ!?)


 俺の知るディキュウ大陸とは似ても似つかない。


「お、落ち着いてトラッパーっ!! さ、サーボさんも適当なこと言わないでぇっ!!」


「大体魔王のせいで残ってる王国だってもうハラルぐらいしかねぇじゃねえかぁああっ!! 詐欺師だってもっとまともなこと言うわぁああっ!!」


「い、痛い痛いっ!! ぎ、ギブゥウウウっ!!」


 関節技を連続でかけられる。


 物凄く痛い。


「じゃあさっさと吐けやぁああっ!! テメーは何もんで何で勇者を名乗って何を企んで……ぐぅっ!?」


「だから落ち着きなさいトラッパー、それでは言葉も発せられないでしょ……っ!?」


「殴ってんじゃねぇよてめぇええっ!!」


 頭を叩かれたトラッパー様が、今度はマーセ様に飛び掛かる。


「この愚か者っ!! いい加減にしなさいっ!!」


「うっせぇええええっ!! この男女がぁああっ!!」


「ぐぅっ!? あ、あなただって人のことを言える身体ではないでしょうっ!!」


 貧乳二人が争っている。


「ま、まだこれからだもん……大きくなるもん……」


 何故か流れ弾を受けた様子のイキョサ様が、自らのペタンコな胸を手で覆ってうつむいている。


(豊かなのはイーアス様だけ……まるで俺のメンバーだなぁ……) 


 まあそんなことはどうでもいいのだが……凄まじく騒がしい。


 伝説の英雄だけあって、ただのじゃれ合いですら馬車が壊れそうなほどだ。


「お二人ともその辺りにしてくださいませ……それよりサーボ様のお話をお伺いいたしましょう」


「はぁはぁ……覚えてろよ、テメー今度こそ絶対魔物の餌にしてやっからなぁっ!!」 


「またあのような真似をなさりましたら、その時はあなたも必ず道連れにいたしますよ」


(シーサーペントのことだろうなぁ……有言実行する辺りトラッパー様はすさまじいなぁ……)


「さ、サーボさん……それで本当のところはどうなの?」


「本当も何も……事実でして……」


「大ウソじゃねぇかっ!! 何がどう事実なんだよぉっ!?」


(ああもう……面倒くせぇ……)


 トラッパー様が今にも飛び掛からんとばかりに怪しげに指を蠢かしている。

 

 あんな痛いのはもうごめんだ。


(もう……どうにでもなれっ!!)


「信じて頂けるかわかりませんが、俺はどうやら未来から来たようでして……」


 俺はやけくそ気味に全て説明してしまうことにした。


 未来で魔王が復活したこと、四大幹部に追い詰められたこと、魔導の使い手によってこの場所に飛ばされてきたこと。


「……よくわかった」


 黙って聞いていたトラッパー様がぽつりと呟いて、そっと俺の肩に手をかけた。


「わかっていただけまし……っ!?」


「テメーが骨の髄まで大法螺吹きだってなぁああっ!!」


「ぎゃぁあああっ!!」


 またしても関節技のオンパレードだ。


 死にそうなほど痛い。


 しかも今度は誰も止めてくれない。


「おらおらっ!! どうしたどうしたぁっ!? このままくたばる気かぁっ!?」


「ねぇサーボさん、正直に話してよぉ……私これでも勇者だから悪いようにはしないよ?」


「そうですよ、あれほどの魔物に追われているのですからよほどの訳があるのはわかりますが……これでは手をお貸しすることもできませんよ?」


「全くです……もし、あなたが未来から来たというのなら証拠になりそうなものを示してもらいたいものです」


(い、痛ぇええええっ!! しょ、証拠っ!? な、なんでもいいからこの場を乗り切れる証拠ぉおっ!?)


 勇者許可証や冒険者登録書は残念だが持っていない。


 他の荷物に関しても彼女らと変わらない布の服と鋼の剣だけだ。


 これで信じてもらおうというのが確かに無理がある。


(な、何かこいつらと俺しか知らない情報……っ!?)


「し、シーサーペントから逃げるためにトラッパー様はマーセ様を海に突き落としたっ!!」


「「「「っ!?」」」」


 とりあえず思いついたことを口にしてみたが、意外と効果的だったようであっさりと拘束は解かれた。


(やっぱり内緒だったのか……伝承にも欠片も残ってなかったもんなぁ……)


 目の前で四人が息を飲み、互いに顔を見合わせる。


「だ、誰かばらしたのかっ!?」


「い、言うわけないよ……あんな恥ずかしいことぉ……」


「くっ……あのような無様がどこから洩れたというのか……」


「さ、サーボ様……その話を一体どこで知られたのでしょうか?」


(貴方に聞いたんだよイーアス様……まあ言わないほうが良さそうだなぁ……)


「まあ未来の伝承の一部ということですよ……どうでしょう、少しは信じて頂けましたか?」


「……なるほど、信じがたい話ですが今の時点で我々しか知らないことを知っている以上は……本当の可能性はあるようですね」


 恐らく完全ではないだろうが、ある程度の信頼は勝ち取れたようだ。


「ほ、本当に未来から来たのっ!? あ、あなたが未来の勇者なんだっ!!」


「は、はい……一応その……イキョサ様の子孫にあたります」


「えぇええええっ!!」


 露骨に驚きの声を上げたかと思うと顔を真っ赤にして、俺を何度も見つめてくる。


「え、そ、その……わ、私結婚したってことっ!? だ、誰とぉっ!?」


「さ、さあ……その辺りのことは話に残っておりませんから……ただ退魔剣(マスターブレード)で魔王を退治したと……見たところ聖剣を持っていないようですがもうハラル王国にお預けられたのですか?」


「それもご存じとは……ええ、おっしゃる通り唯一残っているあの王国に守ってもらうようお願いいたしました」


 どうやら聖剣を預けたことも機密だったようで、四人の目から疑いの色が殆ど抜け落ちた。


「ね、ねえねえっ!! さ、サーボも勇者ってことはとっても強いんだよねっ!?」


「い、いえ俺はそこまででは……実力者という意味ではテキナさんという方が一番の勇者ですかねぇ」


「な、何人もいるのっ!?」


 もう隠しても仕方がない。


 俺は未来の勇者の里とそこで開かれている勇者コンテスト、そして勇者許可証などについて説明した。


「へ、へぇ……そんなのが……うぅ……私、魔法使えないから絶対優勝できないよぉ」


「え……い、イキョサ様は魔法を使えないのですかっ!?」


「う、うん……なんか外に放てないの……だからこう身体の中で循環させて……エイってやるしかないの……」


(スキルの原型かな……しかし、まさかイキョサ様が魔法が使えなかったなんてなぁ……)


 魔力がない俺よりははるかにましだが、それでも驚きだった。


「おい、あたしの後釜の大盗賊はどんな奴なんだぁ?」


「カノちゃんですか……まだ十五歳ですけどワンナ村にある罠の道を突破するほどの才能がありまして、今ではトラッパー様の装備を使い縦横無尽に活躍しておりますよ」


「あの非常用の避難所も知ってんのかよ……しかもあれを突破しただとぉ……よぉし、今度改良してやろぉっと」


(地味に試練を難しくしないでください……未来が変わっちゃうでしょうがぁ……)


「つーか、装備ってこれのことか?」


 そう言って黒づくめのローブを指し示すトラッパー様に頷いて見せる。


「ええ、とても便利に利用させてもらっています……透明になって音と匂いを遮断し移動力を強化して魔力も……」


「はぁ……いや、これにそんな効果ねーけど?」


「えぇっ!?」


「ほれ、着てみるか?」


 トラッパー様がローブを脱ぎ捨て……下からビキニ状の衣装に包まれた肢体があらわになる。


(全く膨らんでない……ぴっちりくっついてる……頂点すら目立ってねぇ……貧しすぎる……)


「にひひ、どうしたあたしの身体に見惚れちまったかぁ?」


「ええ、とてもとてもみりょくてきですよー」


「何で棒読みなんだよぉっ!?」


「あ、あはは……ええとこれを着て……本当にただのローブですねぇ」


 見た目こそカノちゃんが装備しているものにそっくりだが、確かに特殊効果など欠片も見受けられない。


 改めて着込んだトラッパー様がフードを被っても変化はない。


「ど、どうなっているのでしょうか……確かにトラッパー様が使っていた装備だとワンナ村の住人に聞いていたのですが……」


「知んねーよそんなこと……あたしはそんなもんに頼んなくても平気だからなぁ……」


「で、ですが後のことを考えればその機能を付けてもらわないと困りますよ……カノちゃんは身体能力は普通ですからねぇ」


「あんだよそれ、だらしねえなぁ……んなんで魔王退治できんのかおい?」


 不満そうに愚痴るトラッパー様。


「ま、まあ何とか……後は四大幹部の二人と魔王を倒せば終わりですからねぇ」


「四人も幹部が居るんだぁ……こっちだと大幹部の一人と門番ぐらいしか目ぼしい敵はいなかったのになぁ……」


「頑張っておられるのですね……と、ところでサーボ様、貴方様の時代にも大僧侶は居られるのでしょうか?」


「ええ、テプレさんという女性がそうですね……」


(色ボケしていることは言わないでおこう……というかイーアス様、ひょっとして俺がこの時代に来ること知ってたんじゃ?)


 彼女との会話を思い返すと、何か俺と話すとき懐かしそうに過去を思い出すことが多かった気がする。


「僕たちの称号はしっかりと受け継がれているようですね……魔法戦士はどのような方なのですか?」


「え……あ……あはは……その…………居ません……」


「……ま、またまた御冗談を……本当ですか?」


「は、はい……それどころかマーセ様に関しては殆ど話も残っていないほどで……」


 そういえば俺はマーセ様の生まれ故郷すらろくに知らない。


(というか勇者の逸話に魔法で魔物を退治した話もあったし……混ざっちまったのかなぁ?)


「あ、あははははははっ!! マーセぇええっ!! お、お前いらない子だったのかぁあああっ!! ぶっはははははっ!!」


「だ、黙りなさいトラッパーっ!!」


「あひゃはははははっ!! や、やべえ笑いが止まらねぇぇええ、あははははははははっ!!」


 大爆笑して馬車の床を叩いて転げまわるトラッパー様を悔しそうに睨むマーセ様。


(本当に仲悪いんだなぁこの二人……)


「や、やめなよトラッパー……マーセが泣いちゃうよぉ」


「な、泣きませんよ……このような詐欺師の言葉に一々構っていられませんからね」


「いやぁ、こいつ本物だよっ!! 間違いねぇってっ!! あはははは最高だわぁっ!!」 


「トラッパー、いい加減にしてくださいませ……それよりもサーボ様はこれからどうするおつもりですか?」


(そうなんだよなぁ……どうしたもんかなぁ……)


 イーアス様の言葉への返事に詰まる。


 簡単に言えばここに残るか元の時代に戻るかだ。


(残るのは簡単だ……逆に戻るにはまた魔導の使い手に協力してもらわねぇと無理だろうなぁ……)


 そこまでして戻る理由があるだろうか。


(わざわざ人に寿命を使わせてまでして戻らなくても……何のしがらみもないここれで暮らしていくのも一つじゃないか……)


 既に魔王が退治されたこの世界は、かなり安全なはずだ。


(弟子たちに会えないのは辛い……い、いや悪いけど……でもどうしようもないからなぁ……)


 無理して帰るよりここで生活していったほうがいい気がする。


 何せ生活費は……持っていないことに気が付いた。


(そ、そうだよ……荷物は全部船の上だったぁっ!!)


「……お金がないから帰らないとまずいです」


「さ、サーボ……勇者なのに皆から活動費貰ってないの?」


「いえ勇者制度には助けられているのですが置いてきて……この大陸には王国が無いのに勇者制度があるのですか?」


 てっきりイショサ国が始めた制度だとばかり思っていた。


「他の大陸にある国々が共同で出してくれてんだよ……まあ、魔王直々の攻撃で殆どの国は大陸と一緒に沈んじまったけどなぁ」


「なっ!?」


 トラッパー様の言葉に驚く。


(ほ、他にも大陸があって……魔王に消し飛ばされたっ!?)


「おやおや、その辺りのことは伝わっていないのですか」


 そう言ってマーセ様が地図を見せてくれた。


 すると確かに俺の時代にある三つの大陸の間に見覚えのない陸地が描かれており、それらにバッテンが書き込まれている。


「恐ろしい攻撃でした……お陰で、先ほどトラッパーが申しました通り残っている王国はハラルのみです」


「最もディキュウ大陸は数十年前から貧乏人が少しずつ移住してる程度だから元々国なんざ存在しなかったけどなぁ……魔王軍の攻撃こそ免れたけど、それ以前になぁんもねぇところだ」


「お陰で私たちが修行する時間があったんだけどね……じゃなかったら強くなる前に魔王軍の魔物に殺されて……うぅぅ……」


(なんか眩暈がしてくる……とんでもねぇなぁ魔王様よぉ……)


 情報量も多いが、それ以上に魔王の脅威が危険すぎる。

 

 何より俺の時代に復活した魔王はこれ以上に強くなっているのだ。


(あれ……ヤバくない?)


 やっぱり帰らないほうがいいかもしれない。


「と、とにかく俺は今のままでは生活もおぼつきません……皆さまさえよろしければしばしの間、同行させていただけないでしょうか?」


「却下」


 即座に断られた。


「な、何故でしょうか?」


「お前が居ても余計な出費になるだけだ……あたしらは四人でじゅーぶんやってけんだよ」


 身もふたもないが正論過ぎる。

 

 確かに彼女らに俺を養う理由などない。


「と、トラッパー……一応私の孫の孫の孫の……とにかく孫なんだからさぁ……」


「血が離れすぎててもう別人みてぇなもんだろうが……大体こいつ男なんだぞ、女しかいねぇこのパーティに混ぜるのは色々と不味いだろうが……」


 さっきからトラッパー様が正しすぎて言い返すこともできない。


「……ですが未来から来たということが事実であれば、サーボ様には他に頼れる御方もいないのでしょう?」


「ほっとけばいーんだよ、仮にも勇者なんだろお前? ここならいくらでも魔物退治の仕事はあるんだよ」


「……実は俺には生まれつき魔力がないのです……剣の才能も乏しく……その辺の魔物にも苦戦するでしょうね」


「……ではどうしてそのようなサーボ殿が勇者として活動しているのですか?」


 マーセ様の言葉に、他の皆も俺へと視線を向けてくる。


 既視感があった。


 よく弟子たちがこうして俺へ注目することがあった。


 だけどあの時と違うのは、まだここでは勘違いが積みあがっていないということだ。


(どうする……またでまかせでごまかすか……それとも……)


 誤解と勘違いを積み上げて、俺は何度も後悔したのではなかったか。


 そんな愚行をここでも繰り返すつもりなのだろうか。


(覚悟……決めるか……)


 俺は深く深呼吸を繰り返すと、初めて自らの本性を暴露することにした。


「全て勘違いから……いや、俺の詐欺から始まったことです」


 懺悔するように、俺は勇者の里から出発する経緯を告白した。


 才能が無いと知り全てを諦めたこと、無能と蔑まれながらそれを受け入れたこと、そして里で居場所を作るために弟子を取ったこと。


 表面上だけを取り繕って、自分のことだけを考えて行動して……気が付いたら後戻りできないまでに実績を積み上げてしまっていたこと。


 そして皆から受けた誤解を解けないまま……なし崩しに今まで勇者として振る舞う羽目になったこと。


「……おまえ、どうしようもねぇアホだなぁ」


 話し終えた俺に、トラッパー様が心底呆れたような声を出した。


「自覚しているよ」


(本当になぁ)


 屑で無能で愚かな俺、ずっとわかっていたことだ。


「……しかし、勇者の里とやらがそのような歪んだ実力主義構造になっているとは……」


「だけどある意味正しいだろ……あたしらだって実力が無きゃとっくに魔物に殺されてるぞ」


「それはその通りですけれども……」


「さ、サーボさんは……勇者辞めたいの?」


 ご先祖様が純粋な瞳で俺を見つめて尋ねてきた。


「……辞めたいです、俺には重すぎます」


 嘘もごまかしもやめて正直に答える。


(勇者にはなりたい……だけど俺には勇者の称号は重すぎるんだ……)


 屑で無能な俺が、勇者を名乗るなど……誰よりも勇者という称号にあこがれている俺自身が許せない。


「そっかぁ……おんなじだ、流石私の子孫だねぇ」


「え……イキョサ様も?」


「うん、だって怖いもん……責任も重いしさぁ……だけど、それでも私に助けを求める人が居るから……辞めれないんだぁ」


 恥ずかしそうに笑うイキョサ様。


「そうなんですよ、イキョサはこの通り臆病なのですが……魔物に襲われたり困っている人を見ると誰よりも先に駆け出して行ってしまうのですよ」


「……立派ですね、俺とは違いすぎます」


 身の危険を目の前にすれば、何もかも踏みにじって逃げ出そうとする俺とは……違いすぎる。


「そんなことないと思うよ……だってサーボさんはさぁ、その弟子さんたちの期待を裏切れないから……その人たちに必要とされてたから辞めれなかったんじゃないの?」


(……違うんだよ、ただ逃げきれなかっただけなんだ)


 綺麗な目を向けるイキョサをまっすぐ見ることが出来なくて、俺は目を逸らした。


「俺は何度もあの子たちを置いて逃げようとしましたから……やはりイキョサ様とは違いますよ」


「それはその子たちのことを想ってのことじゃなくて? 自分なんかに付いて来てもらうのが悪いと思って突き放そうとしたんじゃないの?」


 全く無いとは思わない、だけどやっぱり俺は自分のことだけを考えていた気がする。


「いや俺は……」


「あぁもう、うじうじ鬱陶しいわっ!!」


「と、トラッパーぁ……今良い話してるんだからさぁ……」


「うっせぇなっ!! あたしはこういう雰囲気が嫌いなんだよっ!! そしてお前みたいな奴も大嫌いだっ!!」


 俺の首根っこを掴み上げて怒鳴りつけるトラッパー様。


「と、トラッ……っ!?」


「あの乱暴は……っ!?」


 何か言おうとしたイキョサ様とイーアス様をマーセ様が押しとどめた。


 そしてトラッパー様は俺のおでこに頭突きをかまして……ニタリと嗤った。 


「だから……嫌がらせにお前が辞めたがってる勇者業に無理やり付き合わせてやる、雑用係としてなぁ」


「痛ぅ……つまり、同行していいということですか?」


「はん、覚悟しろよ……めちゃくちゃこき使ってやるからなぁ」


「……やれやれ、素直じゃありませんねぇ」


「何がだよ、あたしはただ嫌いな奴に嫌がらせしてやりたいだけだぞ?」


 トラッパー様はマーセ様と顔を向き合って鼻で笑い合った。


「もう、そう言うことなら言ってよぉ……びっくりしちゃったぁ……」


「まあそう言うことですので、しばしの間よろしくお願いいたしますサーボ様」


「逃げようとしたらぶっ殺すからなぁ~、まあせいぜいがんばって働けよ……自分のことしか考えてないサーボ様よぉ」


「元の時代に戻るにしても、ここに残るにしても……当面の安全が確保されるまでは共に行動することにしましょうサーボ殿」


 どうやらそう言うことになったらしい。


(……ありがたいことだ)


 どうせ俺一人では生きていけないのだ。


 その事実はここでも変わらない。


 なら今まで通り彼女たちの力に寄生させてもらおう。


 ただ……偽りだけはなしだ。


「ではお言葉に甘えさせていただきます……改めて自己紹介します、屑で無能のサーボです……しばらくの間よろしくお願いします」

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 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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 作者は単純なのでとても喜びます。

 

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