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サーボ帝国の躍進……勘弁してください

「サーボぉ……セーレ疲れたぞぉ……」


「ご苦労様です……これで何往復目ですか?」


「二十から先は数えてないぞぉ……うぅ、シヨはおっかないぞぉ……」


(よくわかるわ、その気持ち……)


「セーレさんっ!! サボってたら終わらないぞ……ですっ!! あと十往復はしないととても間に合わないのだ……ですよっ!!」


 宿屋の俺の部屋に逃げ込んできたセーレちゃんを労わっていると、窓からタシュちゃんが入って来た。


 この二人は最近セットで空輸係としてシヨちゃんにこき使われている。


(セーレちゃんあれだけドラゴニュートにビビってたくせに、今じゃ結構仲が良いんだよなぁ……)


 どうやら義姉妹という理由で打ち解けれたらしい。


 俺は全く認めてないのに酷い話だ。


「た、タシュぅ……セーレもう疲れたぁ……」


「そんなこと言ってるとまたシヨに叱られるぞ……だよっ!! セーレさんが先導してくれないと霧を抜けられないんだからっ!!」


「あうぅ……サーボぉ……マーメイぃ……助けてぇ……ぐすん……」


(仲……良いんだよな?)


 涙目のセーレちゃんを引っ張ってタシュちゃんが宿の窓から飛んでいった。


 恐らくまたディキュウ大陸と往復して物資のやり取りをするのだろう。


(どいつもこいつもご苦労様なこった……)


 窓から外を覗き込むと、急激な勢いで再興していく王都ハラルの王宮が見えた。


 チーダイ様を退治したことでひとまずこの大陸には平和が訪れた。


 だからとりあえず疲弊したドウマ帝国を立て直しつつ、ゼルデン大陸全体の治安維持を行っている。


(……はぁ……まさかこの大陸も本当にサーボ帝国に飲み込まれるなんて……悪夢だなぁ……)


 シヨちゃんはハラル王国もドウマ帝国も、復興を名目にしてサーボ帝国に飲み込んでしまったのだ。


 ドウマ帝国は生存者が少ないことで殆ど文句はなかった。


 ハラル王国は長らく続いている伝統ある国なだけに抵抗もあったが、魔王軍の脅威を説かれると渋々従うことになった。


 何よりそこに王女様であるフウリ様の意向も加われば逆らう正当性などどこにもなくなってしまった。


「さ、サーボぉ……少しいいか?」


「はい、どうしましたフウリ様?」


「あ、あのな……眠れなくて……その……」


 隣の部屋から枕を持ってきてもじもじとしているフウリ様。


「勿論構いませんよ……どうぞそちらに寝てください」


 内心ため息をつきながら、俺はベッドへと誘導して寝かしつけてやる。


(あの日からこの調子だもんなぁ……)


 父親と帰る家を同時に失ったフウリ様が受けた衝撃は相当のものだったらしい。


 飲み食いもせずにずっと廃墟と化した王宮を眺め続けては涙を流していた。


 そんな彼女を放置するわけにもいかず、俺はいつも通りリーダー扱いして持ち上げることで何とか宿への移動に同意させたのだ。


「サーボ……頭撫でて……」


「はいはい……サーボはここにいますよ」

  

「うん……」


(何だかんだ威張ってたけどまだ子供だもんなぁ……そりゃあショックだろうよ……)


 本当に大人しくなったフウリ様は、何故か俺の言うことに従順に従うようになった。


「……サーボ……私……私が素直にアイに聖剣を渡していれば父上は……」


「いいえ、魔王軍のことです……恐らくアイさんに気づかれないよう陰謀を張り巡らしたでしょうね……むしろフウリ様が持っていたからこそ魔物も予想外な出来事に対応できず……聖剣は無事で済んだのですよ……」


「そうか……そう言ってくれるのはサーボだけだ……皆多分私のことを……」


(王宮は陥落、王様は死亡……そしてその間一人娘は遊び惚けていたとなれば……まあ評判は良くないわなぁ……)


 あの場にいた兵士たちには口外しないよう念を押したが、やはり噂というものは広がってしまう。


 お陰で俺の名声は無駄に上がって、フウリ様は人々の目におびえるようになってしまった。


(本当に厄介なことしてくれたよ……)


「今は皆さん混乱しているだけです……落ち着けば自然とフウリ様の威光に従いますとも……」


「本当かぁ……信じていいのかぁ……」


「ええ、このサーボを信じてください……」


(だから早く寝てくれ……そして早く立ち直ってサーボ帝国などという馬鹿げた野望を打ち砕いてくれ……)


 いつものフウリ様に戻ってもう一度この国もドウマ帝国も自らの領土だと宣言してもらいたいものだ。


「サーボは……どうして私なんかに従ってくれるんだ?」


「フウリ様が御立派な方だからですよ……聖剣を横取りしたとは言え人々の為にそれを使って魔物を退治して回っていたのでしょう?」


「……違う、私はただ物語の勇者にあこがれて勝手に暴れまわってただけなんだ……」


(だと思ったよ……聖剣を玩具代わりに振り回してたもんなぁ……)


「誰でも同じですよ……俺も勇者という称号のあるべき姿を想像して動いているだけ……フウリ様と何も変わりませんよ」


「だけどサーボは……たくさん人を助けてる……みんなから尊敬されている……」


「そんな俺が聖剣を守り抜いてくれたフウリ様に助けられたと思ってます……立派だと尊敬してます……それでは駄目ですか?」


「……サーボは……優しいなぁ……そんな言い方されたら……私……」


(いいから早く寝てくれ……でまかせ考えんのも面倒なんだよ……)


 もっともフウリ様に構う理由などないのだが……俺は何をしているのだろうか。


 利用価値の薄い少女のご機嫌を取るなどどうかしている。


(いや、本当はわかってる……俺は段々変わってきている……)


 人々を何度も救い、色んな奴らから尊敬と畏敬の念を向けられて……応えたいと思ってしまっている。

 

 本当は心の底で望んでいた勇者の称号。


 能力不足で絶対に手が届くはずがなく、あきらめるしかなかった現実。


 それに対して何度も魔王軍を撃退し、ついには四大幹部の一人まで討伐できた事実。


(人の能力に寄生した成果だというのに……まるで自分のことのように思い込んで……己惚れてるなぁ……)


 本当に俺は情けなく、みっともない。


 無能であると知って屑として生きるしかないと自戒して……ようやく最低限の生活が送れる程度の人間だというのに。


(本当に早く隠居したい……じゃないと……俺まで自分のことを勘違いしてしまいそうだ……)


 凄い奴らに尊敬されている俺は、きっと大した奴なのだと……思いたくなってしまう。


 俺なんかを慕ってくれている奴らが人を見る目のない馬鹿だと……思いたくない。


(はぁ……弱くなったなぁ俺は……)


 ただでさえ役立たずなのに、この上数少ない取り柄の冷酷さ寸前の冷静さまで失われたら本当に足手まといだ。


「……すぅ……くぅ……」


 気が付いたらフウリ様は眠りについていた。


 俺は起こさないようにそっと部屋を後にした。


「サーボ先生……ああ、フウリ様はこちらにいらしたのですね」


 部屋から出るとちょうどテキナさんがこちらに向かってくるところだった。


 その腰にはアイさんから譲り受けた聖剣がぶら下がっている。


 どうも俺が居ない所でアイさんと話し合った結果、テキナさんが持つことになったらしい。


(しかしテキナさんが一人で移動しているのは珍しいなぁ……まあシヨちゃんもカノちゃんも忙しいからなぁ……)


 シヨちゃんはこの大陸にサーボ帝国を築き上げるのにかかりきりだ。


 カノちゃんはハラル王国とドウマ帝国にお宝が隠されてないかの探索で忙しい。


 それに対して運搬業をタシュちゃんとセーレちゃんにとられたテキナさんは暇を持て余しているのだ。


「うん、ちょうど寝たところだから話なら違うところで……何だい?」


「実は隣の大陸からテプレがこの大陸にも結界を張るためにやってまいりまして……そのことを一応先生にも伝えておいてほしいとシヨに……」


「シヨちゃんは抜け目がないというかなんというか……本当に頼りになるなぁ……」


 確かに魔王軍の脅威を考えればこちらの大陸にも結界を敷設しておくべきだ。


「あちらの大陸は現在イーアス様が結界を維持しており、こちらはアイさんが維持することになりそうです」


「確かにアイさんの魔力ならかなり強固な結界になりそうだね」


(しかし大陸外に連れ出すのは難しくなりそうだ……まあ仕方ないな……)


 もしも俺たちが攻めに行っている間に、残った人たちが襲われたら目も当てられない。


 だからシヨちゃんの判断に文句などつけようがないのだ。


(もう当たり前のように攻め込むつもりになってるな俺……だけどまあ、ここまできたら……なぁ)


 目ぼしい敵は四大幹部のうち三体と魔王だけだ。


 そしてチーダイ様の能力を見る限り、恐らく聖剣を持ったテキナさんなら魔王以外の討伐は難しくない。


(アイさんからスキルも学んで更に強くなってるしなぁ……)


 何より魔王軍は俺を目の敵にしているはずだ。

 

 ならばいっそ退治しきってしまったほうがいい。


 俺の安全と平和のためにだ。


「なら後は魔導の使い手を探すだけだねぇ……手がかりか何かは見つかったかな?」


「シヨがこの大陸中の人々から情報を集めていますが中々……」


「そうかぁ……あっちの大陸で聞いても同じだろうねぇ」


「ええ、プリスが頑張っているようですが目ぼしい情報は……そういえば、話は変わりますがテプレ曰くイショサ国は王都と勇者の里を除いてサーボ帝国に無事加わったようですよ」


(全然無事じゃねぇえええええっ!! 何やってんだあいつらぁあああっ!?)


「我々が救済して回ったことを村人たちは覚えてくださっていたようで……地図に載っていない施設の方々も快くこちら側についてくださったようです」


 そういえば確かに俺たちはイショサ国の領内の村や農場を救って回っていた。


(どうしてあいつらは恩を仇で返すんだよっ!? 誰がそんなこと望んでんだっ!?)


 このままでは俺が独裁者として祭り上げられてしまう。


(はっ!? ま、まさかシヨちゃん以前自分が独裁者の座に着こうとして失敗したから……今度は俺を神輿にして世界征服の野望をはたそうとしてるんじゃないかっ!?)


 そんな気がしてならない。


「あ、あのさぁ……そんな無理に領土を広げなくても……仲良くやればいいんじゃ……」


「何をおっしゃいますか……サーボ先生の元に帰依する事こそが世界平和につながる唯一の道ですよ……逆らう愚か者には天罰を加えねば……」


(こ、この人テキナさんだよねっ!? シヨちゃんの影響受けすぎておかしくなってるぅうううっ!?)


 狂信者のように陶酔した表情でつぶやくテキナさん。


 どうやら俺の居場所はガンガン奪われて行っているようだ。


(怖いよこいつらぁああっ!? 頑張れイショサ国っ!! 負けんな勇者の里っ!!)


「あ、あはは……と、ともかくだよ……この両大陸で手がかりを掴めないようじゃもう一つの大陸に向かうのも手だと思うんだ?」


 まだサーボ帝国の……事実上のシヨ帝国の手が届かない場所へ逃げたい。


「確かにそうですが……私は正直ツエフ大陸のことは全く知らないのですが、サーボ先生は何かご存じですか?」


「いや、俺も全然……先に情報を集めてみようか?」


「はい……しかし誰に聞くべきでしょうか?」


「そうだねぇ、港町の人たちなら或いは通商とかしているかもしれないから行ってみよう」


 早速ワイバーンで移動する俺たち。


 すぐに港についた。


「おお、サーボ様っ!!」


「何か御用でしょうかサーボ様っ!!」


(この心酔しきった目……シーサーペントの件だけじゃなくて王都のことも噂になってやがるなこれは……)


 俺の姿を見かけるなり駆け寄ってくる人々に笑いかけながら、内心涙を流す。


 最も好都合ではある、このまま聞き込みをすることにした。


「実はツエフ大陸へ向かおうかと思っているのだけど、誰か何か知っている人はいないか?」


「……止めたほうがいいですよ、あそこは魔物の巣窟です」


 一人の男が進み出て語ることには、どうやら文明らしい文明が見られない未開の地のようだ。


 少なくとも人間の国は存在せず、内陸の奥に異種族の里が幾つかある程度だという。


「自然もたくさん残っていて、当然野生の動物や魔物も溢れていて……また異種族も好戦的で……とても危険なところです」

 

 どうも船で近づいたところ、無数の矢を射かけられたり魔法を打ち込まれたりしたことがあるらしい。


(マジかよ……それは厄介すぎる……)


「しかし魔法を使える存在が居るということは、魔導の使い手が居る可能性は零ではありませんね……ならば危険より可能性を取りましょうっ!!」


(何処かで聞いたようなことを言うな……俺は嫌だぞ……)


「おお、流石勇者サーボ様だ……ならばこれ以上お止めは致しません」


(諦めんの早ぇよ……はぁ……)


 抵抗しようと口を開きかけて、止めておいた。


 今更わがままを言っても仕方ない。


 それにテキナさんが結界を維持する船に乗っていれば安全だろう。


(あんまり余計に時間を食ってると……どんどん魔王も強く成るって言うしなぁ……さっさと終わらせるかぁ……)


 未来の危険回避の為に目の前の危険に突っ込む覚悟を決める。


 やはり俺らしくもない考え方だと思う。


 魔王軍との度重なる戦いが……どこか危機意識を麻痺させているのかもしれない。


(だからこそ……早く魔王軍との戦いを終わらせて、皆の前から去ろう……隠居はそれからだ……)


「じゃあテキナさん、早速皆にこのことを通達して……シヨちゃんの許可が出次第向かおうじゃないか……ツエフ大陸へ」


「はいっ!!」


「おおーっ!!」


 俺の宣言に同意する人たちを見ていると、何やら胸が疼く。


(これも全部俺を勘違いした結果だ……思いあがるなよ俺……)


 必死で自分に言い聞かせながら、俺はその光景からそっと目を逸らすのだった。

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