ドウマ帝国……どうなってんだおいっ!?
「ちぃっ!?」
「ど、どうしましょうサーボ先生っ!?」
「と、とにかく高度を上げて安全を確保しようっ!!」
「は、はいっ!!」
「放てぇっ!!」
ドウマ帝国の国境を越えた瞬間に、俺たちは侵略軍とぶつかってしまった。
自動で動く砲塔に狙われ、地上から激しく射撃されている。
何発かは火球で撃ち落としたが流石に数が数なのでこのまま耐えていてもジリ貧だ。
(何より相手が人間だろうからなぁ……中々攻撃しずらいわ……)
テキナさんがワイバーンと力を合わせれば掃討はたやすいだろうが、流石に人殺しには忌避感が強いだろう。
何だかんだで悪人ですら命を奪わずに来たのだ。
それに対してあの者達は軍務として領域戦犯をした俺たちを攻撃しているだけだ。
悪人とは言いがたく、俺はともかくテキナさんには手が出しにくいはずだ。
ワイバーンの操縦から戦闘まで任せているテキナさんの精神状態には配慮しないといけない。
仕方なく高度を上げて砲弾が届かない場所までたどり着いて一息ついた俺たち。
「まさかいきなり攻撃されるとは思わなかったですね……」
「ワイバーンに乗っているとはいえ、会話の余地もなかったなぁ……」
「だけど変だよねぇ……魔王軍と通じてるんならそれこそ魔物に乗った僕たちなんか味方だと思いそうなものだけど?」
「……本当に上層部が魔物に乗っ取られていて、私たちの情報が末端まで行き届いているのかもしれませんねぇ」
確かに俺たちの情報が魔王軍から行き届いているのならワイバーンは敵だと認識してもおかしくはない。
「だけど逆に末端の人たちは魔王軍とのつながりを全く知らされてない可能性もある……一概には言えないよ」
口ではこう言ったものの、俺もまたシヨちゃんの意見に賛成だった。
魔王軍とドウマ帝国の関係が同盟程度なら間違って攻撃したらあっという間に一瞬即発の事態になる。
そうならないために魔王軍の魔物への攻撃は控えるよう指示が出ていなければおかしい。
だというのにあいつらは俺たちを見るなり即座に攻撃をしてきた。
魔王軍の魔物かどうか見分けるまでもないと言わんばかりにだ。
(やっぱり乗っ取られてんのかなぁ……さっきの奴らの中にも魔物が潜んでたんじゃないか?)
「とにかくこれから……」
「さ、サーボ先生っ!? 下から何か飛んできてるっ!?」
「なっ!?」
下を覗き込むと、確かに巨大な鎧をまとった一群が人造の羽を回転させながら浮かび上がってきている。
(す、すげえ兵器だ……とか言ってる場合じゃねぇっ!?)
速度はそこまで速くないからワイバーンなら振り切れそうだ。
「相手をしても仕方がない……いったん戻って対策を考えよう」
「そ、そうですねぇ……うぅ、やっぱりワイバーンは目立って駄目でしたかもぉ……」
「いや人力車で出会ってもし攻撃されていたら逃げきれなかったよ、無事に侵攻軍のことを知れただけでも意味があったよ」
「えへへ、ならいいんですけどぉ……」
ハラル王国へと戻りながら振り返ると、だんだん離れていく敵の兵団が見えた。
(追ってきてない?)
追いつけないとみて諦めたのか、敵の一団は国境を越えて攻めてこようとはしなかった。
(まあこれなら落ち着いて……っ!?)
そう思った瞬間、先ほど浮かんできた敵の兵団が一瞬で切り裂かれてバラバラになって落下していった。
「なっ!?」
「さ、サーボ先生っ!? あれ『あ』さんだよっ!?」
「あんな一瞬で……しかもあの兵士たち魔物ですっ!!」
(見えねーよっ!? 何でこの二人は見えるんだよっ!?)
どうやら『あ』殿が一瞬で接敵すると同時に敵を切り刻んでいったらしい。
しかも鎧を着ていたのが魔物だったことを、鎧が砕けて中身が露呈した瞬間にはっきり目撃したようだ。
どっちも俺みたいな凡人には全く分からない。
(すっげぇな本物の勇者と大盗賊は……そして『あ』殿も……)
「今度は下に降りて戦ってるよっ!?」
(もう降りてんのか……人間技じゃねぇ……)
「サーボ先生、あの輝きはっ!?」
言われて見ると確かに兵団が蹴散らされている中心で少女が不思議な輝きを放つ剣を掲げている。
(うわぁ……出会っちまったよぉ……)
「サーボ先生、あの剣を持った少女はフウリ様ではありませんか?」
「だろうねぇ」
こうなっては仕方がない、俺たちは二人と合流すべく近づいていくことにした。
「おほほほほっ!! 見たか我が威光をっ!! フウリ様の偉大さが伝わったか下郎らよ」
敵軍の中央で高笑いするフウリ様を見て俺はあっけにとられた。
艶やかな光沢をまとった金髪を身体の半分ほどまで伸ばし、整った顔立ちで笑うフウリ様は優雅さを感じさせる。
また細身の体にテキナさん並の胸がありながら、それを黒のドレスで覆っている様は威厳をも感じさせる。
(けどよぉ……その年齢には似合ってねぇ……)
シヨちゃんと同程度の身長で妙齢の女性が如き仕草を行うフウリ様は……どこからどう見ても十歳前後の年齢にしか見えない。
道理で我儘なわけだ。
「はい」
そんな幼女の近くに気が付けば敵をせん滅し終えた『あ』殿が跪いていた。
こちらは緑の衣装で全身を包み、顔は妙にのっぺりとしたお面で包み隠されている。
髪の毛も緑の帽子で包まれているが、金髪が隙間から漏れ出ていて身長は俺と同程度だ。
顔が見えないから何とも言えないが声から察するに恐らく年齢は二十歳に行かないぐらいでないだろうか。
(こいつ……鉄の剣と木製の盾しか持ってないだとぉ?)
それだけであのような兵器で身を固めていた一群をせん滅してしまったのだ。
恐ろしい戦闘能力と言わざるを得ない。
「ほほう、まだ生き残りがおったかっ!! この聖剣の輝きの前に本性を現すがよいわっ!!」
「っ!?」
近づくこちらに気づいたフウリ様は再度聖剣を掲げ、その輝きで俺たちを照らし出した。
「愚かであるなぁ、いくら人に擬態しようともこの剣の前では……お主ら人間か?」
「はい……初めましてフウリ様、俺たちは勇者サーボ御一行でございます」
「おお、お主らがかっ!? 苦しゅうないぞっ!!」
聖剣をしまうと笑顔で俺の元へ駆け寄ったフウリ様は握手を求めてきた。
「フウリ様と握手できることを光栄に思うがよいっ!! ほれ、『あ』もやらぬかっ!!」
「はい」
さっと近づいてきた『あ』殿もまた握手を求めてきた。
「ご丁寧にどうも……ところでいくつかお伺いしたいことがあるのですが……」
「聞くのはこちらが先じゃっ!! お主らどうやってワイバーンを飼いならしておるのだっ!?」
「……知り合いにドラゴニュートがおりまして、その方から操る秘奥……魔法を教わったのです」
「よし、それを今すぐフウリ様に教えよっ!!」
(秘奥だって言ってんだろうが……大体お前魔力あんのか?)
「申し訳ございません、これは龍人族に伝わる秘奥ですのでそう軽々しく教えるわけにはいきません」
既にあちこちにお漏らしされているが言わなければばれないだろう。
(こんなやつに教えれるかよ……)
「フウリ様に逆らうのかっ!? 逆らえば『あ』の手で葬り去るぞっ!!」
(脅しかよ……冗談じゃねぇ……こんな化け物と戦えるか……)
何とか説得してみよう。
「……勇者の力はそのような事に使うものではありませんよ」
「はい」
俺の言葉にあっさり頷く『あ』殿。
「フウリ様の言葉はその上を行くのだっ!! わかっておるなっ!!」
「はい」
フウリ様の言葉にあっさり頷く『あ』殿。
「いいえ、勇者の使命を考えれば地位や身分に縛られて行動してはいけませんよ」
「はい」
俺の言葉にあっさり頷く『あ』殿。
「いいや、フウリ様こそが世界の王であるっ!! フウリ様に従うことこそが勇者の、そして万民の使命であるっ!!」
「はい」
フウリ様の言葉にあっさり頷く『あ』殿。
(キリがねえ……そして何でも頷くなよ『あ』殿よぉ……)
物凄くやりずらい。
「はぁ……そこまでしてワイバーンを操って何をしたいのですか?」
「『あ』のやり方で共に空を飛んでも面白くないのだっ!! 普通に空の旅を楽しみたいのだっ!! ドラゴンにまたがって飛んでみたいのだっ!!」
(超我儘……前のプリスちゃんのほうがマシかもしれない……)
「でしたら俺たちが操って空を飛ばせて差し上げますから、それで勘弁してください……フウリ様とて馬車に乗る時に馬を操ったりはしないでしょう?」
「確かに操縦などフウリ様の仕事ではないなっ!! よし、それで許してやろうっ!!」
(はぁ……これはまた大変だ……)
何とか説得は出来た。
「早速飛ぶがよいっ!! 後の話は空を飛びながらにするのだっ!!」
言い切って勝手にワイバーンのせなかに乗ってしまうフウリ様。
仕方なくその一匹をフウリ様と『あ』殿に渡して、俺たちは残る三匹に乗って飛び上がった。
「おおーっ!! 凄い凄いっ!! 周りの風景がよく見えるぞっ!! 『あ』もこのぐらいの速度で飛ばんかっ!!」
「はい」
「……ところで聞きたいことがあるのですが今度こそよろしいでしょうか?」
「その前に王都ドウマへ向かうのだっ!! この大陸から魔王軍を一掃するぞっ!!」
仕切られてしまった。
(絶対にごめんなんだが……逆らったら『あ』殿が飛んできかねない……)
何より一応戦力的には整っている。
そして魔王軍が脅威なのも事実だ。
(仕方ねぇ……倒しに行くかぁ……)
「分かりました……テキナさん王都ドウマへと向かおう……会話は道中にするということで……」
「了解です」
ワイバーンが移動を開始する。
背中ではしゃぐフウリ様は、完全に子供にしか見えなかった。
(こいつのご機嫌を取りながら魔王軍退治かぁ……面倒なことになりそうだ……)
ため息が漏れそうになるが、万が一聞かれでもしたらそれこそ厄介だ。
何とか飲み込んでから俺は今度こそ色々と聞いていくことにした。
「今度こそ御伺いしたいのですが……フウリ様が持っている剣はかつてイキョサ様が使った聖剣で間違いないでしょうか?」
「うむっ!! フウリ様にこそふさわしい輝きだっ!! 似合っているだろうっ!!」
嬉しそうに弄ぶフウリ様、渡せと言っても渡さないだろう。
(最悪は力づくで奪うしか……テキナさん子供相手にやる気になってくれるかなぁ……)
まあそれは後で考えよう。
「とてもお似合いです……ところで先ほど聖剣の輝きで魔物の擬態を解けるようなことをおっしゃっておりましたが?」
「そうだっ!! 聖剣に魔力を流すと刃が輝いて、照らされた魔物はあらゆる特殊効果を失うのだっ!!」
(それはすさまじい性能だな……)
魔物退治には必須と言える能力だった。
(これさえあれば魔王軍とも戦いやすく……俺は何を考えてるんだっ!?)
またしても魔王軍との戦いを想定していた自分に衝撃を受ける。
最近の俺はおかしい。
屑であり冷酷さ一歩手前の冷静さを持っているはずの俺はどこへ行った。
「どうしたっ!? フウリ様の余りの素晴らしさに声も出ないかっ!?」
「……そうですね、実に素晴らしいですね」
「そうだろうそうだろうっ!! やっぱり勇者サーボはわかっているなぁ、こいつとは偉い違いだっ!!」
「はい」
声をかけられるたびに機械的に『はい』という『あ』殿。
自分の意志というものはないのだろうか。
「なるほどね、僕たちがあんなに見分けるのに苦労したのに道理であっさりと魔王軍を撃退できるわけだよ」
「しかし、ドウマ帝国の侵略兵が皆魔物であったとは……やはり本国は乗っ取られているのではないでしょうか?」
(その可能性が高いな……)
俺たちの大陸も、そしてハラル王国も一歩間違えればそうなっていただろう。
その前に魔物を見抜ける聖剣を『あ』殿へ渡そうとした王様は見事な采配だったと言える。
(よくぞまあ魔王軍が攻めてくる前に気づいて……どうやって気づいた?)
「フウリ様……魔王軍の脅威はいつどうやって知りましたか?」
「ついさっきだぞっ!! お前らがドウマ帝国と魔王軍のつながりを指摘するまで全く気付かなかったぞっ!!」
「いえそちらではなく……ハラル王国内にも魔王軍は攻めてきていたのですよね、そちらはどうやって気づかれましたか?」
「それも父上だぞっ!! 魔王軍の動きが見えたから『あ』に聖剣を渡そうって代々伝わってきた封印を解く決意をしたんだぞっ!!」
自慢げに胸を張るフウリ様だが、俺にはそれが気になって仕方がない。
仮にも代々受け継がれてきた封印を解くのはかなりの決断だったはずだ。
確かに魔王軍の動きでも見えなければそのような判断は下せないだろう。
(だけど……魔王軍の動きが見えた……どうやってだ?)
勇者の里に居た俺たちが魔王軍の動きに気づけたのは、たまたま魔王軍の影響を受けたワイバーンを調査することができたからだ。
イショサ国等で魔王軍が暴れていることに気づけたのは村が襲われてからだ。
(なのに何の被害も受けていないハラル王国がどうやって気づいた?)
シーサーペントの件を誤解したのだろうか?
「『あ』殿、あなたはシーサーペントを退治しに行きましたか?」
「いいえ」
「シーサーペントの件は港町で聞いたぞっ!! 私が気づいて居れば退治しに行かん訳がないだろうっ!!」
「……船に被害が出ていたのに気づかなかったのですか?」
「ああっ!! 私が海外に出ないよう興味をひくようなことは言うなと言われていたらしいっ!! 困った父上だっ!!」
(仮にも勇者『あ』殿と一緒にいるフウリ様に教えない……一人娘の身を案じてと考えれば妥当だが……)
あのシーサーペントと霧がある限り、勇者の里の人間は誰もこの大陸には干渉できない。
その状態を維持するためにあえて退治させに行かなかったと考えるのは……俺の考え過ぎだろうか。
「聖剣の封印を解いたのは……いつでございますか?」
「あれはたしか……」
俺の質問に返ってきた日付は……キマイラを退治した翌日だった。
(魔王軍は負け方をある程度共有している……キマイラに俺たちが苦戦したことを知って……聖剣さえ奪えば勝てると判断すれば先回りして壊しに来る可能性はあるな……)
そしてその予兆が何かしらの形で王様が感じ取ったとすれば、慌てて聖剣の封印を解いたのも頷ける
(だとすると魔王軍はとんだ失態を犯したことになるが……本当にそれは失態なのか?)
聖剣の封印が解けたことは間違いなく魔王軍にとってマイナスな出来事のはずだ。
だけど俺にはどうしても魔王軍がそのような迂闊なミスを犯すとは思えないのだ。
これが最初期ならばともかく、今は派閥争いをする余裕もないほど追い詰められている。
その状態で動きを察知されるような迂闊な真似をするだろうか。
「サーボ先生、何を考えているのですか?」
俺の前に座りワイバーンを操縦しているテキナさんが訝し気な声を上げた。
「いや……少しね……」
「何かあれば相談していただきたい……我々でも役に立てることがあると思います」
(確かにこいつらの意見を聞くのもありだが……まだ煮詰まってないんだよなぁ……)
細かい疑惑や疑問はあるが、未だに形になってはいない。
現段階では単純に俺が魔王軍の影におびえすぎていると考えたほうが自然だ。
「ありがたいけど、タダの推測だからね……もう少し形になってから話すよ」
「そうですか……ですがいつでも相談に乗ります、必要な時は何でも遠慮なくいってください」
(勿論そうさせてもらうけどな……それよりも今はドウマ帝国だな……)
頭を振って思考を切り替える。
先のことより目先のこと、それが俺だ。
「そう言えば、フウリ様たちは魔導の使い手に心当たりはございますか?」
ドウマ帝国へ乗り込んだ一番の理由について尋ねる。
(ぶっちゃけ四大幹部さえ倒せば、その下の魔物は全滅するだろうし……後回しでもいいんだよなぁここは)
重要度は海洋の霧を何とかすることにある。
「何のことだ?」
「いいえ」
しかし返ってきた返事は予想外の言葉だった。
「王様に聞いておられないのですか?」
「そんなことは聞いておらんぞっ!! そもそも父上は未だにフウリ様を怒ってるからなっ!! 王宮にも入れず門番からドウマ帝国にお前らが向かったと聞いたんだぞっ!!」
「えっ!? ぼ、僕たち別にドウマ帝国に向かうなんて言ってないよっ!?」
「いや確かに聞いたぞっ!! 王様が漏らしているのを聞いたと門番が行っておったぞっ!! なあ『あ』よっ!?」
「はい」
(ちょっと待て……どうなってるこれはっ!?)
俺たちは一言もドウマ帝国に向かうなど言っていない。
(そりゃあ確かに魔導の使い手を探すためにドウマ帝国に行く必要があるとは思って……っ!?)
何故俺はドウマ帝国に魔導の使い手の情報があると思ったのか……王様にそう言われたからだ。
(誘導されている……罠かっ!?)
事実、ドウマ帝国の領土に入るなり俺たちは侵略軍の攻撃を受けた。
まるで来ることが分かっていて待ち構えていたかのようにだ。
「テキナさん、いったん戻ろうっ!!」
「ど、どうしましたかっ!?」
「これ自体が罠の可能性があるっ!! 俺たちはドウマ帝国に誘導され……っ!?」
引き返そうとした瞬間、俺たちを物凄い暴風が襲った。
まるで竜巻のど真ん中に突撃したかのような衝撃だった。
「うわぁっ!?」
「っ!?」
「さ、サーボ先生っ!? 『あ』殿っ!?」
座席ではなく後ろに座っていて手綱を握れなかった俺と『あ』殿は吹き飛ばされた。
そして妙に身体に張り付く風に包み込まれる感触を最後に、俺は気を失った。
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