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ゼルデン大陸へ到着

「ふぅ、物凄い騒ぎで僕疲れちゃったよぉ……」


「あの町は海産物と海商で生計を立てていましたからねぇ~、問題を解決した私たちに感謝するのも無理ない話ですよぉ」


(本当にお祭り騒ぎみたいだったからなぁ……)


 どうやらシーサーペントは大陸の近海で漁をする小舟すら狙っていたらしい。


 だからあの町はとても困っていたようで、それを解決した俺たちへの歓迎はすさまじいことになったのだ。


 お陰で船も快く預かってもらえてありがたい限りだ。


「しかしかなり時間がたってしまいましたね……この調子では王都ハラルへの到着は夕方になりそうですね」


 新たな大陸の上を相変わらず人力車を引いて走り抜けるテキナさん。


 ワイバーンで飛んでいくことも考えたが、腐ってもドラゴンだ。


 見た目の威圧感はシャレにならないし、置いておく場所だってあるとは限らない。


 よって当面は人力車で移動することにしたのだ。

 

「流石に日が落ちてからでは王宮に立ち入る許可が出るとは思えないし……着いたら宿を探して休もうじゃないか」


「そーですねぇ、ただその前に門番さんに話を通しておいたほうが次の日スムーズにいくと思いますよぉ」


「それもそうだね、じゃあ最初に門番に会いに行ってそれから宿に……」


「なぁっ!?」


 急にテキナさんが驚愕の声を上げて空を仰いだ。


(敵襲かっ!?)


 すぐに顔を出して同じ方向を見上げるものの、視界には雲が映るばかりだ。


「どうしたんだいテキナさん?」


「あ……いえ、その……すみません恐らく見間違いです……」


「テキナさんが見間違えなど珍しいですね……」


「はぁ……しかし、恐らく……あのようなことがあるはずが……」


 テキナさんは何かに化かされたように首を傾げながらぶつぶつと呟いている。


「……カノちゃん、悪いけどしばらくテキナさんのそばで周囲を監視してくれ」


(よくわからんが用心に越したことはねぇ……大盗賊なら見間違いも見落としもしねーだろ……)


「はーい、テキナさん僕がしっかり見張っておくから安心してよ」


「あ、ああ頼んだぞカノ……」


 元運転席に向かうカノちゃんを見届け、俺は車内でくつろいでいるムートン君に寄りかかった。

 

(相変わらずフカフカだなぁ……ああ、落ち着くわぁ……)


「あっ!? み、見たかカノっ!?」


「うわっ!? な、何あれっ!?」


 今度はカノちゃんも驚愕の声を上げた。


 これは見間違いではなさそうだ。


「どれどれ……何もないけど、何を見たんだい?」


「い、いやその……何といいますか……」


「ひ、人がね……猛スピードで空を飛んで行って……」


「ほう、タシュちゃんやセーレちゃんみたいな異種族かな?」


 俺の言葉に二人は首を横に振った。


「そ、それが翼などは生えておらず……しかもタシュすら比べ物にならぬ速度で……まるで流れ星のように駆け抜けていきました」


(なんだそりゃ?)


 訳が分からない。


 最初にテキナさんが言いよどんだのも頷ける。


 しかし大盗賊のカノちゃんまで見間違いをするとは思えない。


(翼がないのに空を駆け抜ける人間……魔法か……)


「テキナさん、空を飛ぶ魔法とかそういう可能性はないかな?」


「はぁ……そのような魔法は聞いたこともございません」


「だけど翼もなく空を飛ぶなんてそれこそ魔法でもないと……新種の魔法かっ!?」


 俺はイーアス様との会話を思い出した。


(ひょっとして魔導の使い手がこの大陸にはいるのかっ!?)


「サーボ先生っ!! その人とコンタクトを取るべきじゃないですかっ!?」


 既に情報を共有済みのシヨちゃんも俺と同じ考えに至ったようだ。


(もしも本当にあれが新種の魔法なら、術者は魔導の使い手に心当たりがあるはずだ……)


 大陸外の霧対策として魔導の使い手も探しておきたいところだ。


「確かに……カノちゃん、テキナさん、その人はどっちに飛んでいったんだい?」


「丁度この道に沿うようにまっすぐ飛んでいったよ」


「我々の進行方向と同じ……恐らくは王都ハラルへと向かったのではないでしょうか?」


 それは好都合だ。


「そうか……じゃあやはり当初の予定通り王都へ向かい聖剣と合わせてその人の情報収集もしていこうじゃないか」


「そうですねぇ……人である以上は都市を拠点にして行動している可能性も高いですし、きっと見つかりますよねぇ」


「分かりました……では急ぎましょうっ!!」


 さらに速度を上げるテキナさん。


 時折見慣れない魔物の姿を見たりもしたが、全て人力車に追いつくことは出来なかった。


 そのため障害などに時間を取られることもなく、夕方より少し早く王都ハラルへと到着した。


「止まれっ!! お前たちは何者だっ!?」


「初めまして、俺たちは隣の大陸からきた勇者サーボ一行です」


 王都の入り口で番兵に止められ、俺は勇者許可証と冒険者登録証を同時に提示した。


「ほぉ、隣の大陸にも勇者の称号を持つ者がいたのか……しかもSランクか……」


「おや、その言い方ですとこちらにも居られるのですね?」


「あ、ああ……そいつもSランクの冒険者なんだが……あんたらはまともでいいなぁ……はぁ……」


(俺たちをまともだと……?)


 鎧も着ずに旅人の服を着た人力車で移動する集団、しかも二人は子供だ。


 そんな俺たちをまともな勇者と称するとは、この国に居るのは一体どんな勇者なのだろうか。


(Sランクの冒険者っていうと、前に聞いた『あ』殿だろうけど……)


「あのぉ、私たち道中で空を駆け抜ける人を見かけたんですけど……心当たりはありませんかぁ?」


「……見られたのだな……それが『あ』殿という勇者でして……」


「あの方が……仲間も連れずに一人で……大した人物のようですね」


「あ、ま、まあ強さというか実力は恐らく世界一だろうが……真面目過ぎるというか冗談が通じないというか……はぁ……」


 番兵が物凄く困ったように首を振った。


(真面目過ぎる勇者とか普通は喜ぶもんじゃないのか……いやマジで何なんだ『あ』殿は?)


「その方と少しお話したいんですけど、どこに行けば会えますかぁ?」


「『あ』殿は王女フウリ様に振り回されていて会うのは難しいが、恐らく別大陸の勇者が来てると知れば向こうから会いに来るだろう」


(王女フウリ様に振り回されているねぇ……真面目なお坊ちゃんってとこなのかな?)


「それはそれは……大変そうですねぇ」


「本当になぁ……はぁ……どうしてあのような奔放な姫に育たれてしまったのか……」


 番兵が仮にも自らの雇い主の一人について呆れたような物言いをしている。


 よほどそのフウリ様とやらは我儘なのだろう。


(前のプリスちゃんみたいな感じかなぁ……うわぁ、厄介そうだぁ……)


 正直関わりたくはない。


「色々とありがとうございました、ところで俺たちは王都へ入ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、Sランクの冒険者登録証があるなら十分身元保証になる……どうぞ、お通りください」


(ランクごとに保障度が違うってのは本当みたいだなぁ……)


 ミイアさんに受けた説明では、冒険者登録証は定住できない人々の身分証明書を兼ねているとのことだった。

 

 最も最低ランクでは殆ど効力もなく、功績をあげて能力と善良さをアピールして高ランクへと移行することで信頼を得ていくシステムのようだ。


(まあ国を数回救ってるからこそのSランクだし、そりゃあ人間性も保証されるわなぁ……)


「では通らせていただきます」


 俺たちは人力車とムートン君をいつも通り馬車宿に置いて、早速王都ハラルへと足を踏み入れた。


「うわぁ、凄い沢山武器屋さんがあるねぇ」


「防具も豊富だし……ほほう、修行場もあちらこちらに見受けられるな」


「仮にも戦争中だし、そう言うことに力を入れているのかもしれないねぇ」


「ちぃ、これでは後釜の勇者印ブランドが参入しずらい……どうにか内部に太いパイプを作って強引に……」


 シヨちゃんが何かぶつぶつ言っているが怖いから触れないでおこう。


 周りを見回しながら王宮へ向かう俺たち。


(意外と元の大陸と違いが少ないなぁ……これならこっちで隠居するのも悪くないかもしれないなぁ……)


 物価は多少高いが世界共通である通貨も当然使うことができる。


 もう少しだけお金を稼げばここで暮らしていけそうだった。


(こっちに来る前にイショサ国で活動費の追加を貰ってくればよかったなぁ……)


 後の祭りだ。


 己の愚かさを嘆きながら、俺は見えてきた王宮の門番へと近づいて行った。


「初めまして、俺たちは隣の大陸で勇者をしていたサーボ一行です……王様に面会の許可を頂きたいのですが……」


 勇者許可証と冒険者登録証を提示する。


「Sランク……『あ』殿以外にもいるとは……もう夕方なので今日は難しいでしょうが明日には許可が出ていると思います」


「ではまた明日こちらにお伺いしましょう……ところで貴方様は聖剣について何か知っていることはございませんか?」


 一応尋ねてみると門番は首を横に振った……脂汗をかきながら。


「な、な、な、何のことでございましょうですかぁっ!?」


「……あの勇者として魔王退治に必要な聖剣なのですが?」


「い、い、い、いやぁそんなものののの知らないぞだぞぉっ!!」


(怪しすぎる……何なんだよ一体?)


「と、とにかく明日また来なさいっ!! いいね私は忙しいのだ明日だよ君ぃっ!!」


 早口で言い捨てると門番は慌てて詰め所へと戻って行った。


「サーボ先生……怪しすぎませんかぁ?」


「ああ……カノちゃん悪いけど後つけて情報仕入れてきて、それで人力車のところで合流しよう」


「はぁい」


 カノちゃんが透明化して兵士の後を追いかけていく。


「テキナさんは宿をとってきてくれ……俺とシヨちゃんは二人で別口で情報収集するよ」


(さっきの兵士の態度も気になるし、何より新しい大陸だからな……情報を集めておくに越したことはないだろ……)


 どうせカノちゃんが戻ってくるまで時間がある。


 ならその間もできるだけやれることをやっておいたほうがいい。


「はい……では終わり次第人力車で待っておりますっ!!」


 頷いて駆け出していくテキナさん。


「じゃあ行きましょうかサーボ先生」


 シヨちゃんが離れないとばかりに俺の手を掴んで歩き出した。


 そして王都の住人に片っ端から話を聞いていく。


 流石に別の大陸ということで勇者許可証は効果が薄かったが、冒険者登録書のほうが効果を発揮した。


 お陰で問題なく聞き取りは進んでいった。


 そうして得た情報を総合すると、二つほど面白いことが分かった。


 一つはフウリ様が不思議な剣を使って自ら魔王軍を退治をして回っているということ。


 そしてもう一つは、勇者『あ』は代わりとばかりにもっぱらドウマ帝国の侵略者を撃退しているということだった。


「まさかぁ……この国まで魔王軍が来てるなんて思わなかったですねぇ」


(本当になぁ……はぁ……どうしてこうなるのやら……)


 この大陸に来てまで魔王軍に悩まされることになるとは思わなかった。


 一足早く人力車に戻った俺とシヨちゃんは互いにため息をついた。


「しかも王女フウリ様がそれを退治している……誰も見たこともない輝きを放つ剣でだ……」


「十中八九聖剣ですよねぇ……玩具代わりに振り回しているのでしょうかぁ?」


(そりゃあ門番が言いよどむわけだよ……勇者の武器を王女が玩具にしてんだからなぁ……)


 国の恥どころの話ではない。


「まあその辺りの裏取りはカノちゃんがしてくれてるだろう……それよりも魔王軍とドウマ帝国の侵攻なのだけど……」


「サーボ先生も気づきましたかぁ……どう見てもタイミングが合いすぎですよねぇ」


 そう言ってシヨちゃんはこの大陸の地図を広げた。


 大雑把に言えばこの大陸は横長の長方形じみた形状をしている。


 ハラル王国とドウマ帝国の国境はその丁度中央当たりに存在していて、互いの領土は正方形に近い形になっている。


 またどちらの国も領土の中心に首都があり、その周りに村々が点在している。


 シヨちゃんが魔王軍の侵攻した村と日付、さらにドウマ帝国の侵攻した村と日付を地図に次々と書き込む。


「やっぱり最近になってから、同日に王都を中心に対角となる村を攻めていますよねぇ」


 一度や二度ならともかく、六回も続いているとなると流石に偶然で片づけるには出来過ぎている。


(つまりドウマ帝国は……魔王軍と同盟関係、或いは今までのように支配者が既に魔物に取って代わられている可能性がある……)


 物凄く厄介な話だ。


 俺とシヨちゃんは顔を見合わせ、もう一度ため息をついた。


(どうしたもんかなぁこれ……)


「ただいまぁ……どうしたの二人とも?」


「そのような暗い顔をして……何かありましたか?」


 そこにちょうどカノちゃんとテキナさんが戻ってきた。


 二人に同じことを伝えてやると、やはり同じようにため息をついた。


「はぁ……本当に魔王軍は手ごわいというか危険というか……困った奴らだよねぇ」


「しかしこうなると一刻も早くドウマ帝国へ向かい、魔王軍の脅威を打ち払う必要がありそうですね」


(ふざけんな……そんな危険な真似できるかよ……)


「だけど俺たちには魔物と人を見分ける手段がない……それではどうしようもないじゃないか?」


「えぇ? サーボ先生ならあっさり見抜けるでしょ?」


(はぁっ!? 何ほざいてんだテメェはっ!?)


「それもそうですねぇ……今までだってサーボ先生はあっさり魔物を見抜いちゃいましたもんねぇ」


「確かに……サーボ先生が居れば簡単に見分けることが可能ですね」


 当たり前のように平然と言い切ったカノちゃんに残る二人も即座に同意した。


「い、いやそう上手く行くとは……そ、それに一応王様との会談も望んでるわけだし今すぐ行くわけにはいかないよ」


 とりあえず時間を稼ごう。


「それもそうですねぇ……ところでカノさん、門番さんたち聖剣のこと何か言ってましたか?」


「それなんだけど……どうもこの国のお姫様が聖剣を持ち出しちゃってるみたいなんだぁ」


(やっぱりかぁ……)


「本当は勇者『あ』さんに渡すはずだったみたいだけど……寄こせって言われてあっさり渡しちゃったんだって」


「それはそれは……勇者にしては少しばかり弱気すぎるきがしますねぇ」


「それが弱気というか……『あ』さんって誰に何を言われても、はいとしか答えないんだって……」


(なんだそりゃぁ?)


 意志薄弱とかいうレベルじゃない。


「それで王女フウリ様に沢山無茶ぶりされて……だけどその圧倒的な実力で全てこなしてて……だから曲がりなりにもこの国は平和なんだっていってたよ」


(うわぁ……実力だけあるくせに人の言いなりになって動く生き物とか……危険極まりねぇ……)


 道理で番兵が困ったような顔をしていたわけだ。


 しかしその話は民間人達はしていなかった。


 彼らはただ素晴らしい勇者だと『あ』殿をたたえるばかりだった。


(変な奴に従われても困るから聖剣と合わせて秘密にでもしてんのかなぁ……)


 どうやら面倒な話になってきた。


 これならあちらの大陸に居てサーボ帝国の主をしていたほうが……いやそれよりはましかもしれない。


「……まあとにかく、後は明日直接王様にあってからだねぇ」


「わかりました」


 かなり不安になりながらも、俺たちは今日のところは休もうと宿へと向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と面白い。 勇者=実力のある変人の図式まであと一歩 [気になる点] ゼル○○デン○○の元ネタの勇者って 「はい」すら言え無い(強制)のイメージが強いなぁー 名前が「あ」なのもあってド○…
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