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セーレ様とマーメイ様……と俺ぇ

「あれぇ……おかしいなぁ……この辺りにいるはずなのに……」


「よくわかりますね……目印も無いのに……」


「うん、私たちは人魚族の居場所はわかるんだ……特にマーメイは特別なんだ……だから絶対この辺りに居るはずなんだけど……」


 マーメイ様の魔力だかで居場所を探知してその場所へと戻ったセーレ様。


 しかし目の前には水平線が広がるばかりで、一向に船は愚か人魚の姿すら見えてこない。


「変だなぁ……こんなこと初めてだぞ?」


 本当に不思議そうにセーレ様が首をひねっている。


「海の底に潜っているとかそのような可能性はありませんか?」


「うーん、そうかもぉ……だけどマーメイだってセーレの居場所は分かるはずだから顔を出さないはずがないんだけどなぁ」


 確かにあのマーメイ様ならばセーレ様が近づいていると分かれば即座に姿を現して騒ぎ出しそうなものだ。


(しかも何故船から離れた?)


 当初の予定が大幅にずれてしまう。


(皆と合流さえできればシーサーペントなんざ退治したも同然なのになぁ……)


 恐らくテキナさんなら防御魔法を使えるはずだ。


 後はカノちゃんを説得して魔物の体内に侵入させてコアを破壊する予定だったのだ。


「困りましたねぇ……こうなったら他の人魚か鳥人族の方が何か知ってないか聞いてみましょう」


「おお、そうだなっ!! サーボは頭いいなぁっ!!」


(それぐらい普通に思いつくだろ……はぁ、頭悪いなぁこいつ……)


「ええとぉ、近くにいるのは……こっちだぁっ!!」


 セーレ様が移動を再開すると、少しして何故か俺たちの船が見えてきた。


 そしてその船の近くには武装した人魚族と鳥人族の群れが居て、その先にはシーサーペントが顔を出している


(うわぁ……凄まじく厄介ごとの予感がするぅ……)


「おーい皆ぁっ!? どーしたんだぁーっ!?」


 近づきながら声を上げるセーレ様に、最後尾を飛んでいた数人の鳥人族が振り返り慌てて口を開いた。


「セーレっ!? 大変なんだよ大変なんだよっ!? マーメイがマーメイが食べられちゃったぁっ!?」


「マーメイがねマーメイがね、怪我をした仲間を逃がそうとしてね逃がそうとして代わりに代わりに囮になってねそれでね……」


「え……あ……ま、マーメイィイイイイイイイっ!!」


「ちょ、ちょっとセーレ様ぁっ!?」


 最後まで聞くこともなく、セーレ様は顔を青ざめさせながら全速力でシーサーペントへと突っ込んでいく。


 途中で船の上を見ると、皆が苦々しげに魔物を睨みつけている。


 マーメイ様が飲み込まれたせいで下手に攻撃できないでいるのだろう。


(お、俺を降ろしてくれよぉおおおおっ!!)


「マーメイをだせぇっ!! マーメイを吐き出せぇっ!!」


「せ、セーレ様落ち着いてっ!? う、うわぁっ!?」


「キュルルルルゥウウウウウウっ!!」


 何も考えず魔物の元へ移動しながら騒ぎ立てるセーレ様。


 当然のように魔物はこちらを向いて、咆哮した。


「せ、セーレ様止まってっ!!」


「うわぁああんっ!! マーメイを帰せぇえええっ!!」


「さ、サーボ先生っ!? くぅ……聖なる輝きよ我らを悪しき意志より守り給え、聖祝鎧(セイント・プロテクションっ!!」


「キュルルルゥウウ……っ!?」

 

 咄嗟にテキナさんが唱えた防御魔法が俺たちにかかるのと、セーレ様がまっすぐ魔物の大口に飛び込むのは同時だった。


(い、いやぁああああああっ!!)


「マーメイ、どこぉっ!?」


「と、止まってぇえええっ!!」


 俺の悲鳴をよそにセーレ様はどんどん奥へと入っていく。


 魔物の口は閉ざされ、すぐに周囲は暗闇に包まれた。


「あうっ!? くぅっ!? ま、マーメイっ!!」


「がふぅっ!? おおぅっ!? ちょっ!? 止まっ!?」


 何度も食道の壁にぶつかりながらも必死にマーメイ様の元へ向かい続けるセーレ様。


 おかげで俺もボロボロだ。


 テキナさんが防御呪文をかけてくれていなければ多分骨が折れてたと思う。


「マーメイ……マーメイ……セーレを置いてかないでぇ……」


 必死に飛び続けていると正面に明るい空間が見えてきた。


「セーレちゃんっ!? な、何であなたまでっ!?」


 マーメイ様が俺たちに気づいて驚きの声を上げた。


 どうやら照明魔法を使っているようで、光源がマーメイ様の頭上から辺りを照らしている。


「マーメイっ!! マーーーメイっ!!」


「ま、マーメイさ……がほぐぼぉっ!?」


 胃液の海に浮かぶマーメイの胸に飛び込むセーレ様。

 

 もちろん俺も一緒に胃液にダイブだ。


(な、何で俺がこんな目にぃいいいいっ!?)


 僅かに粘性のある液体が俺の身体に絡みつく。


 おまけに衣服も濡れて重くなっていく。


(だぁああっ!? お、溺れるぅううううっ!!)


 勇者の里に水泳設備はなかった。


 だからぶっちゃけ泳ぎ方がわからない。


 何とか両腕をばたつかせるけど限界がある。


(し、死んだ……い、いや俺は最後まであきらめ……無理ですよねぇ……)


 液体の中では言葉を発することもできない。


 両手両足を動かすのが限界だ。


 どんどん呼吸が苦しくなっていく。


 いくら防御魔法と言っても酸欠までは対処できないらしい。


(こうして人々を騙し続けた詐欺師は相応しい惨めな末路を迎えたのでした、めでたしめでたし……ってなわけあるかぁっ!!)


 必死であがいていると誰かが俺の両手を掴んだ。


「さ、サーボ様、し、しっかりしてくださいませっ!!」


「がはぁっ!? はぁはぁはぁ……」


(く、空気がうめぇえええええっ!!)


 どうやらマーメイ様が俺を水上に引き上げてくれたようだ。


 そして壁際の胃液が届いていない盛り上がっている場所まで運んでくれた。


「大丈夫かサーボっ!? どうして溺れてたんだっ!?」


(テメーのせいだろうがぁあああああっ!!)


 怒鳴り付けたいが、今この場においてこいつらの機嫌を損ねるのは悪手すぎる。


「あはは、マーメイ様を助けようと焦ってね……泳げないことを忘れていたよ……」


「すみませんサーボ様、このような場所まで助けに来ていただき感謝に堪えません」


「マーメイの為に一緒に来てくれたんだなっ!! ありがとうサーボっ!!」

 

 そう言うことにしておこう……怒鳴りたいけど。


(落ち着け俺……深呼吸して落ち着け……ああ、空気が……やっぱり不味いぃいいっ!!)


 生き物の体内だからか、或いは胃液が満ち溢れているためか物凄く気持ち悪い臭いが漂っている。


 更に色んなものを飲み込んできたらしく、溶けかけた魚やら魔物の死体もあちこちに浮かんでいる。


 俺たちも服は腐食されつつある。


 布切れを巻き付けていただけのセーレ様や貝殻をつけていただけのマーメイ様など既にすっぽんぽんだ。


 健康的な日焼けした肌に、一部だけ妙に鮮やかな桜色が目立っている。


(しかもどっちもデケェから揺れてやがる……目に毒だわ……)


 目を逸らして身体全体へと意識を向ける。


 こちらは防御魔法が保護してくれているようで、俺もセーレ様もマーメイ様も今のところ異常は発生していない。


「マーメイ様も防御魔法が掛かっているのですか?」


「ええ、飲み込まれる寸前に咄嗟に唱えたのです……しかしいつまで持つか……」


(防御呪文は制限時間付きかぁ……魔力の差があれど俺たちのもそう長く持つとは思えねぇなぁ……)


「マーメイ、サーボ、これからどーする?」


「……サーボ様、何かお考えがございますか?」


(俺を連れて脱出しろって言いたいが……セーレ様がマーメイ様を置いて行くわけないよなぁ……)


 ならば三人でコアを破壊しに行ったほうがよさそうだ。


「先ほど入手した情報によると、シーサーペントの体内には核となるコアが存在するらしいのです……それさえ破壊できれば……」


 俺はイーアス様から聞いたことをわかりやすくかみ砕いて説明した。


 おかげでセーレ様も何とか内容を飲み込めたようだ。


「じゃあ、そのコアってやつを倒せばいいんだなっ!!」


「そうですよ、よく理解しましたねー偉いでちゅねぇ~」


「ふふん、だってセーレは天才だからなっ!!」


(馬鹿にしてんだよ、気づけアホ……)


「流石サーボ様、セーレちゃんの良さがよくわかってますっ!! そうセーレちゃんは世界で一番賢くて偉くて立派で……」


「同感ですが、時間がないのでそれぐらいにして移動しましょうねぇ」


 こいつの称賛に付き合ってたら時間がいくらあっても足りやしない。


「よぉし、セーレは上空から探すぞーっ!! 痛いぃいっ!? 頭打ったぁあああっ!! マーメイ痛いよぉ……ぐすん……」


 馬鹿みたいに飛び上がったセーレ様が胃の天井に頭をぶつけた。


「ああ、大変っ!! セーレちゃんの世界で一番素敵で魅力的な頭に傷が付いたら一大事ねっ!! ほら、ナデナデしてあげるからいらっしゃいっ!!」


 馬鹿みたいに慌てたマーメイ様が必死でセーレ様の頭を撫でている。


「うわぁんっ!! マーメイ、痛いのどっかやってぇ~っ!!」


 セーレ様がマーメイ様に泣きついている。


「痛いの痛いのとんでいけ~っ!! 可愛いセーレちゃんの頭から飛んでいけ~っ!!」


 マーメイ様が一生懸命セーレ様の痛みを放り投げるふりをしている。


(……俺の頭が痛いよ)


 何かもう何もかも面倒になって、近くで蹲ってやった。


「ああ、痛いの飛んできたなぁ~……すごく頭が痛いやぁ~」


「ほら、聞いたセーレちゃん……痛いのはサーボ様のところに飛んで行っちゃったからもう平気よ」


「うーん、本当だっ!! 痛いの治ったぁっ!! ありがとうマーメイ、サーボっ!!」


「いいんだよぉ、人々の痛みを和らげるのも勇者の役目だからねぇ……うぅ……」


 心が痛い。


 俺は一体何をしているのだろう。


(本当に、今までで一番辛い……まだ魔王軍との戦いのほうがマシだ……)


 早く終わらせてこの二人との縁を切りたい。


「じゃあ今度こそ探索に行きましょうねぇ」


「わかったーっ!! じゃあセーレは上から周りを探すぞーっ!! 痛いっ!! 頭打ったぁ~マーメイ~っ!!」


「ああ、セーレちゃん大変っ!! ほらこっちに来て……痛いの痛いの飛んでいけーっ!! サーボ様の所へ飛んでいけーっ!!」


「うわぁ、あたまがいたいよぉ~……うぅ……本当に頭痛いよぉ……」


 もう嫌だ。


 衝動的に胃液の海に飛び込みたくなった。


 まさかこの俺が自殺衝動に駆られる日がくるとは思わなかった。


 どうやら本格的にこいつらと俺は相性が悪いらしい。


(本当にマジで全力をもって一刻も早く今回の事件を解決しないと……俺の心が持たないよぉ……)


「サーボありがとうっ!! セーレは元気になったぞっ!! よぉし、今度こそお空から……」


「セーレ様、そしてマーメイ様……時間が限られている以上効率的に探す必要があります、そのために俺の指示に従っていただきたい」


「は、はい……サーボ様のおっしゃる通りにいたしますっ!!」


「わかったぞ、セーレはサーボの言うとおりにするぞっ!!」


 やっとわかってくれたようだ。


 俺は安堵の息を吐きながら早速口を開いた。


「まずマーメイ様と離れると明かりの効果が消えてしまい、非効率ですので一緒に行動します」


「サーボ様は明かりの魔法を使えないのですか?」


「……俺は生まれつき魔力がないので……セーレ様はどうですか?」


「マーメイが暗いところに出かけちゃいけませんって言うから覚えてないぞーっ!!」


 マーメイ様がバツが悪そうにうつむいている。

 

(お、落ち着け俺……これぐらい今更だろ……落ち着け落ち着けぇ……)


「ま、まあそういうことですので共に行動します……そのためにもセーレ様は俺を乗せてマーメイ様の近くを飛行します」


「わかったぞーっ!! サーボを乗せて飛べばいいんだなーっ!!」


「ええ、俺を乗せてマーメイ様の近く……胃液の海の表面付近を飛行します、いいですね?」


「一度言えばわかるぞーっ!! だってセーレは天才だからなっ!!」


 自慢げに胸を張るセーレ様に向かいマーメイ様が小さく拍手している。


(落ち着け、俺落ち着けぇ……)


「そ、それでですねぇ……マーメイ様は胃液の中を……俺とセーレ様は胃液の上を探しながらどんどん奥へ移動していきます」


「わかりました……そしてコアを見つけたらどうしますか?」


「コアが水の中にあるならマーメイ様に、上にあるならセーレ様に攻撃してもらいます……俺は状況を判断して動きます」


 マーメイ様は一応魔法が使えるようだし、恐らくコアを壊すことぐらいははできるはずだ。


 上にある場合は何度も剣でぶっ叩けばそのうち壊れるだろう。


「わかったぞーっ!! じゃあ早速行こーっ!!」


 セーレ様は頷くと猛烈なスピードで飛んでいった……俺を置いて。


「セーレちゃん、サーボ様を忘れてるわーっ!!」


 追いかけていくマーメイ様と光源。


 そして暗闇に一人取り残された俺。


(……寝るか)

 

 何もかも馬鹿らしくなった。


 俺はやけくそ気味に胃液で満たされた場所へ横になり、静かに瞼を閉じるのだった。


(目が覚めたら何もかも終わってますように……ぐぅ……ぐぅ……うぅ……ぐすん……)


【読者の皆様にお願いがあります】


 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方、

 ぜひともブックマークやこのページの下の評価をお願いいたします。

 作者は単純なのでとても喜びます。

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