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強敵出現……強敵?

『サーボ先生、具合はどうですかぁ?』


「あはは、まあ何とか……そっちは何とかなってるかな?」


『カノさんがすっかり元気になりましたので問題なさそうですぅ』


「それは良かった……じゃあしばらくは頼んだよ……ふぅ……」


 船旅も二日目、ようやく薬も効いてきて揺れにも慣れてきた。


(ああ、やっと眠れる……まさか一日中ずっとテキナさんの相手をすることになるとはなぁ……)


 シヨちゃんが復活したから助かったが、昨日までは一睡もできなかった。

 

 同時にテキナさんも一睡もしてないことになるのだが全くつかれた素振りを見せないのはすさまじいかぎりだ。


 しかしあの三人が健在になった以上は大抵の問題は解決できるはずだ。


 俺は今度こそ安堵して眠りに落ちた。


「……うぉっ!?」

 

 強烈な振動で俺はベッドから叩き落され、目を覚ました。


『サーボ先生っ!! とても大きな魔物が襲撃してきましたぁっ!!』


 同時にシヨちゃんの報告が聞こえてくる。


『今ワイバーンとテキナさんが迎撃してますけど勝てそうには……あ、勝てそうです……ああ、逃がしちゃ駄目ですよぉおっ!?』


 ころころ報告が変わる。


 流石に気になって甲板へと向かってみた。


「魔物は……あれかぁ」


 海面を見渡して、すぐにその巨体に気が付いた。


 しいて言うのなら蛇が近い、しかしただひたすら長くデカい。


 海の中から突き出した部分だけで50mはありそうだ。


 大人が十人いても囲み切れないほどの太い胴体には光を反射する白い鱗がびっしりと生えそろっている。


 そして顔周りには翼のように立派で雄々しいエラが広がり、禍々しい赤い瞳で俺たちを睨みつけている。

 

(恐ろしい……んだが、思いっきり後ずさってるのが情けない……)


「我が魔力に従い壮大なる大空よ悪しき者への天罰を齎せっ!! 天雷撃(ライトニングボルトっ!!」


 魔物に近い船上にてテキナさんが呪文を唱えると、無数の雷が魔物の全身を貫いた。


「ギュルルルルゥウウウっ!?」


 水に濡れた胴体を通じて全身が感電しているのだろう。


 物凄く苦しそうに身をよじっている。


「シャァアアアっ!!」


 更に追撃とばかりにワイバーン達が火球を頭部に集中している。


 魔物の顔面を覆い尽くすほどの爆炎が上がっている。


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


 それでも魔物は咆哮を上げると爆炎を振り払い、口内からすさまじい勢いの水流を噴射して攻撃してきた。


 即座に結界が反応して弾く。


 以前のキマイラの一撃より強そうなのだが振動こそ伝われど結界はびくともしない。


(テキナさんが維持してるだけあって凄まじい高性能だ……無敵かな?)


「我が魔力により邪悪なる者を打ち払う衝撃を発せよっ!! 炎爆撃(エクスプロージョンっ!!」


「シャァアアアっ!!」


「キュゥウウウウゥウっ!?」


 テキナさんとワイバーンは容赦せず連続攻撃を畳みかける。


 耳が痛くなりそうな爆音が発生し、海面から浮上している全身が爆炎に包まれた。


「うーん、圧倒的だなぁ」


「なんか僕魔物さんが可哀そうだよぉ……」


「最初出てきたときは力強い咆哮だったのに、今じゃ泣き声みたいですねぇ~」


 輝かしいばかりに美しかった鱗があちこち焦げて剥がれて痛々しい。


 それでも未だに抵抗しようと攻撃を仕掛けてくるが全て結界に阻まれて終わってしまう。


(しかし意外に頑丈だなぁ……全然死ぬ気配がない……)


「キュゥゥゥン……」


(あ、今の鳴き声ちょっと可愛い……)


 ついに露骨に悲鳴を上げると、魔物は後ろを向いて身体を深水させながら本格的に逃げ出してしまった。


「ああ~、ここで倒しておきたいのにぃ~」


「くぅ……流石に水の中に潜られると手も足も出ません……」


「残念だなぁ……多分あれが船を遭難させてる原因なんだよねぇ?」


「恐らくそうだろうねぇ……しかし見たこともない魔物だなぁ」


「ええ、我々も何度となく船旅をしておりますがあのような魔物は見たことがありません」


 船員もまた首をひねっている。


「多分あれシーサーペントですよぉ……大昔に勇者様や魔王と争ったって言う伝説の魔物ですよぉ」


 シヨちゃんが口にしたのはおとぎ話にもなっている魔物の名前だった。


 かつて魔王が暴れまわっていた同時期に同じく海上を荒し尽くしたという危険な魔物。


 人も魔王軍もお構いなしに襲い、海に接するあらゆる都市を滅ぼし尽くしたと語られている。


 伝承によってかつての勇者か魔王どちらに討伐されたかは違いがあるが、三日三晩争い続けたことだけは共通している。


「……あれがぁ?」


 カノちゃんが物凄く納得のいかない顔をしている。


「外見上の特徴も攻撃手段も一致してるんですけどねぇ……なんか雑魚雑魚でしたねぇ」


(テキナさんが化け物過ぎるだけだと思う……もしくは頑丈そうだから三日三晩サンドバッグ状態だったとか……)


「しかし討伐できなかったことは事実だ……私はまだまだ未熟だな……」


 追い払った当の本人だけは悔しそうにしている。


「まあとにかくみんな無事だったんだから良しとしよう……またしばらくは任せるよ」


(これならゼルデン大陸までは安心してサボってられそうだ……寝ーてよっと……)


 俺は皆に声をかけると再び部屋へと戻り横になった。


(まさかあれほどの化け物すら迎撃できるとはなぁ……結界と合わせてこの船は意外といい場所かもしれないなぁ)


 かなり安全で移動ができて、おまけに三弟子に襲撃される心配もなく引きこもっていられる。


 全く持って素晴らしい、サーボ帝国の技術力は最高だ。


(まあそれはともかく、何であんな化け物が今になって現れた? 魔王軍や霧と関係はあるのか?)

 

 軽く考えてみて、すぐに思考を打ち切った。


 流石に考察材料が少なすぎる。


(もしもアレが本当にシーサーペントだとしたら当時を知ってるイーアス様に話を聞けば何かわかるかもなぁ……)


 霧が晴れて移動できるようになったら飛行部隊でもって一度聞きに行ってもいいかもしれない。


 そう思いながら俺は目を閉じた。


「……うぉっ!?」

 

 またしても強烈な振動で俺はベッドから叩き落された。


『サーボ先生っ!! またさっきの魔物が襲撃してきましたぁっ!!』


 同時にシヨちゃんの報告が聞こえてくる。


(あんだけボコボコにされたのによく戻ったなぁ……)


「そうか、じゃあ怪我しているところを重点的に狙って今度こそ退治して……」


『そ、それが傷一つないんですぅっ!! ピカピカのテカテカですぅっ!!』


(はっ!? ついさっき逃げてったばっかじゃねえかっ!?)


 慌てて甲板へと戻ると、確かに先ほど見たシーサーペントがこちらを睨みつけている。


 そしてシヨちゃんの言う通り身体には傷一つなく、白く綺麗な鱗が光を反射している。


「我が魔力により邪悪なる者を打ち払う衝撃を発せよっ!! 炎爆撃(エクスプロージョンっ!!」


「シャァアアアっ!!」


「キュゥウウウウゥウっ!?」


 またテキナさんとワイバーンによりフルボッコにされるシーサーペント。


 相変わらず向こうの攻撃は結界に阻まれてこちらに届かない。


「キュゥゥゥン……」


 そうしているうちにやっぱりボコボコにされた魔物は再度悲鳴を上げて逃げ帰って行った。


 一生懸命ワイバーンが火球を打ち出すが、海面に阻まれて攻撃は届かなくなった。


「……なんか、嫌な予感がするんだが」


「サーボ先生もですかぁ……私もですぅ……」


 俺たちの予想通り、少しするとまたしても綺麗な身体のシーサーペントは戻ってきた。


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


 格好良く咆哮して、果敢に攻撃してくる。


「キュゥゥゥン……」


 テキナさんに叩きのめされて可愛い悲鳴を上げて逃げ帰る。


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


 そしてすぐに戻ってきて攻撃を仕掛ける。


「キュゥゥゥン……」


 すぐにやられて帰っていく。


(あぁああああっ!! クソ鬱陶しいわぁああああっ!!)


 どうやらサンドバッグ説が正しかったようだ。


「これは三日三晩も争いになるわけだねぇ……」


「地味に時間を取られて進みが悪いですよぉ……」


「それどころか魔物の生み出す波で停滞させられて……このままでは立ち往生ですね……」


「こうなったらサーボ先生っ!! 二人掛かりで倒してしまいましょうっ!!」


(ふざけんなっ!! あんなんでも俺ごときが適う相手じゃねぇよっ!!)


「と、とにかく次現れたら海面ごと氷漬けにしてしまおう……そうすれば逃げられることもない」


「分かりました……早速現れましたよっ!!」


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


 テキナさんの言う通りシーサーペントが姿を現した。


「自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風(ブリザード・ストームっ!!」


(よ、よりにもよってその魔法かよぉ……うぅ、嫌な思い出がぁあ……)


 前に巻き込まれたことを思い出して身構えるが、今回はしっかりと狙いを定めていたようで魔物を中心に吹雪が渦巻いた。


「キュゥウウ…………っ!?」


 凄まじい冷気が魔物の巨体はおろか周囲の海面までをも凍り付かせていく。


 魔法が収まるころには魔物の周辺は分厚い氷が広がっていた。


(降りても平気そうだが……また凍り付いたら怖いし止めとこう……)


「さてサーボ先生、どうしましょうか?」


「この状態で砕いちゃえば流石にやっつけられるんじゃないかなぁ?」


「無視して先に進むのも手ですけどぉ……放っておいても良いことないですし倒しときませんかぁ?」


「シヨちゃんの言う通りだね……ほっといて他の犠牲者が出ても困るし倒しておこう」


(これで霧も晴れてくれればいいんだが……どうもこいつが霧を生み出しているとは思えないんだよなぁ……)


 周りを見ても未だに件の霧は発生していない。


 この魔物から発するところも見ていない。


 恐らく他に原因はありそうだ。


(まあどっちにしても面倒ごとが一つ片付くだろうし……後のことは後で考えよう……)


「わかりました……はぁああああっ!!」


 テキナさんが船から飛び掛かり、氷漬けになった魔物へ力強い一撃を放つ。


 シーサーペントはあっさりとバラバラに砕けて、破片ごと海へと落下していった。


「ふぅ……これで一安心ですね」


「そうだねぇ……じゃあ今度こそ先を急ごうじゃないか」


「ははっ!! 出航しますっ!!」


 船員が走り周り、弟子たちも元の配置に戻った。


 俺も部屋に戻ろうとして、ふとあることに気が付いた。


「そういえばシーサーペントは魔王軍じゃないんだよなぁ……ムートン君に対話を試みてもらえばよかったかなぁ?」


「ああ、それもそぉですねぇ……でもタシュさんが居ないとやっぱり会話は難しいですよぉ」


「めぇええ……」


 俺とシヨちゃんの言葉にムートン君も困ったように首を振っていた。


 やはり難しいと言いたいのかもしれない。


「まあどちらにしても済んだことですし、考えても仕方ありませんね」


 活躍したワイバーンに餌を与えているテキナさんに頷いて見せる。


 確かにもう終わったことだ。


 これ以上悩んでも仕方がない。


「じゃあ俺も又部屋に戻るからまた後のことは……っ!?」


「えぇっ!?」

 

「なぁっ!?」


「う、嘘でしょぉっ!?」


「キュルルルルルゥウウウっ!!」

 

 海面が膨れ上がったかと思うと、五体満足なシーサーペントが姿を現しこちらを睨みつけた。


(ふ、不死身かよっ!?)


 まさかバラバラに砕かれてなお蘇ってくるとは予想外だった。


「サーボ先生っ!? どうしますかっ!?」


「もう今はどうしようもないっ!! とりあえず氷漬けにしてこの場を立ち去ろうっ!!」


(付き合いきれねーよっ!! 何だこいつはっ!?)


「は、はい……自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風(ブリザード・ストームっ!!」


「キュゥウウ…………っ!?」


 先ほどと同じようにカチコチに凍り付いたシーサーペント。


「よ、よし……逃げろぉおおっ!!」


「は、はいっ!!」


「テキナさん、軽い風魔法で帆を仰いで加速させてみてくださいっ!!」


「わ、わかった……は、破壊しない程度の魔法……な、何があったか……」


 戦闘能力ばかりのテキナさんはその手の応用は苦手なようだった。


 結局、シヨちゃんが後方に向かって爆発呪文を放つことを提案して事なきを得るのであった。


「ふぅ……何とか距離をとることができたなぁ」


「まさかあんなに厄介な敵だなんて思わなかったよ……」


「雑魚雑魚なんかじゃなかったですねぇ……でもあのまま放置しておくのも危険ですし……何とかしないとぉ」


「その通りだ……何か良い手はないものだろうか?」


 どうにか逃げ切ることに成功して、安堵のため息をつきながら皆で相談を始める。


(アレが居る限りは大陸間の移動が面倒で仕方がない……まあ俺はどうでもいいんだけどさぁ……)


 別の大陸に移住する気満々の俺はともかく、聖剣をもって移動する必要があるこいつらの為にも何とかしておきたい。


「過去には討伐されている以上はどうにかする方法はあるんでしょうけどぉ……」


「それにしてもなぜ今頃になって甦ったのか……魔王軍との関連があるのでしょうか?」

 

「流石に判断材料が少なすぎてねぇ……一度戻ってイーアス様に当時の話を聞くのも手だとは思うけど……」


「あ、そっかぁ……イーアス様なら何か知ってそうだもんねぇ」


(ただ問題は移動手段だよ……霧さえなければワイバーンで飛んでいくんだけどなぁ……)


 流石に船で往復するには距離がありすぎる。


「霧のことも含めて先に色々と聞いておくべきだったかもしれませんねぇ……」


「ああ、俺も気づくべきだった……すまないね皆」


 事前の情報収集や後方支援は俺たちの役割だ。


(という雰囲気を醸し出すことで、俺の戦わない理由付け&戦いしかできないと思い込んでるテキナさんを軽くフォローしてみよう……)


「いや、そんなことないよっ!! 今気づいただけでも凄いと思うよっ!!」


「ああ、私などイーアス様のことすら浮かばなかった……先ほどの魔法と言い先日の指示だしの件と言い……私は無力なものだ……」


 目論見が外れて逆にテキナさんは落ち込んでしまった。


「そんなことないとも、テキナさんは結界を維持しながら今も敵を撃退してくれたじゃありませんか……魔力のない俺たちにはできない芸当ですよ……」


(面倒くせぇけどこいつのコンディションだけは完璧にしとかないと戦闘が恐ろしすぎる……)


 何せ唯一と言っていい純粋戦闘員なのだ。


 テキナさんの体調管理だけは完璧にしておく必要がある。


「そのように言っていただけると幸いです……そういえばサーボ先生は魔力を持たないのですよね?」


「……ああ、生まれつきね」


 余り突っ込まれたくない所だ。


 魔力がないと判明した時が初めて挫折を味わった瞬間なのだから。


(思い出したくもねぇ……いや、まあ今はそんなことどうでもいいんだけど……)


「ともかくだ、前にもいったと思うけど人は適材適所……どんな才能の持ち主でも一人で全てをこなすことはできないよ」


「だから絆でつながった仲間を頼るんだよねっ!!」


「そうですよぉっ!! 私だって戦いじゃぁずっと足手まといなんですからこういう時ぐらい役立ちたいんですよぉっ!!」


「そうだな……そうでしたね……ふふ、ありがとう皆……私が一人で頑張る必要はないのだな……」


 ようやく笑顔を取り戻したテキナさん。


 こっちはこれでいいだろう。


「そう言うことだよ、さて話を戻すけどあの魔物についてだが情報が足りなすぎる……一旦置いておいて次の大陸で情報収集するのもありだと思う」


「そうですねぇ、あっちにある冒険者ギルドを通じて誰かにイーアス様へ話を聞きに行ってもらうこともできますからねぇ……」


「そっかぁ、テプレさんもいるから試練を受けなくても聞きに行けるんだったね」


「魔物を放置していくことは心苦しいですが……しばらくは船の通行もないでしょうし、放置するのもありですね」


 結局、シーサーペントは放置する方向で話はまとまった。


 改めて俺たちはゼルデン大陸に向け「キュルルルルルゥウウウっ!!」


 振り返れば、白い鱗のシーサーペントがこんにちわ。


(うっぜぇえええええええっ!!)


「も、もう自由を取り戻したのかっ!?」


「あんなに距離を取ったのにもう追いついてくるなんてぇっ!?」


「ああもぉ……本当に厄介な奴ですぅううっ!!」


 鬱陶しくてたまらない。


 だんだん腹が立ってきた。


(テメェ……流石の俺もキレたぞ……お前だけは絶対に退治してやるからなぁあああっ!!)


 俺はこの魔物だけは全力で退治しようと覚悟を決めるのだった。


「キュルルルルルゥウウウっ!!」


「うるせぇえええっ!!」

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