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船上にて

「うわぁっ!! すっごい豪華な船だねぇっ!!」


「我々だけが海を渡るためにこれほど立派な船を用意していただけるとは、ありがたいかぎりだ」


「うむ、喜んでいただけて何よりであるぞっ!!」


「私たちの……三国で……ううん……サーボ帝国として……最初の……事業です……」


(その名前は止めてくれプリスちゃん……と言ってももう無駄だろうなぁ……)


 バンニ国とリース国とツメヨ国が総力を結集して作り上げた船舶は、確かに俺たちだけが乗るにしては豪勢すぎる出来栄えであった。


 大きさにしても部屋の数にしても、設備も又大したものだ。


 生活設備は元より、何とリース国を覆う結界もまた設置されている。


 最も起動し続けるには魔力が必須なので、テキナさんが乗って居る間しか発動されないのだが十分すぎる。


(何より……航空部隊が在るのがありがたすぎる)


 広い甲板には動物の飼育設備もあり、そこにムートン君とワイバーン四匹が放たれている。


 これもまたタシュちゃんが義姉妹ならばと、テキナさんと装備の効果で魔力があるカノちゃんに秘奥を伝授してくれたのだ。


(もはや欠片も秘匿されていない秘奥……まあ助かるけどさぁ)


 これならば万が一船が転覆しても俺たちだけは逃げ出せそうだ。


「船員さんも私が選りすぐりましたから皆さん凄い立派な方ばかりですよー」


「うむ、立派に役目を果たしてくれるであろうぞっ!!」


(こいつらは非常時には見捨てるしかないが……文句を言わない程度に覚悟が決まっててくれるといいんだが……)


 船内を行き来している船員は皆、俺を熱い目を向けている。


 志願者の中からさらにシヨちゃんが選別したメンバーだ。


 緊急事態に陥っても最後まで反乱など起こしたりはしないだろう。


(これならまあ、遭難しても何とかなるか……)

 

 俺が考えつく程度の危機ならば対処できそうだ。


 既に冒険者登録証も発行済みだ、もう出航を渋る理由はどこにもない。


「ではサーボ先生、早速出航いたしましょうっ!!」


「船員のみんなは配置についたみたいだよーっ!!」


「じゃあプリスさん、テプレさん、ヒメキさん、後はお願いしますっ!! 伝えた指示通り立派に領土を広……イショサ国と上手くやってくださいねっ!!」


「ええ……お任せ……ください……」


「しかと心得ております、イショサ国の方々にもサーボ帝国の素晴らしさを伝えていきます」


「うむ、サーボ先生方々が頑張っている間に妾達も見事この大陸を制覇して見せようぞっ!!」


(イショサ国最大の危機……もうこの大陸は駄目だ……)


 やはり逃げ出して正解だったようだ。


「サーボ先生っ!! 霧が晴れた暁には私が連絡役としてすぐに合流するぞ……しますよっ!!」


「サーボ様……いえ、サーボ先生っ!! 連絡をお待ちしておりますっ!!」


「サーボ先生、どうかご無事でっ!! 帰ってくるときを心待ちにしておりますっ!!」


 タシュちゃんとミイアさんとミリアさんもお見送りして手を振っている。


(誰が帰るかこんな土地……今度こそうまく隠居してやるよ……)


「そうだね、じゃあ俺はそろそろ……」


「サーボ先生っ!! 行く前に頼みがあるのだが……どうか妾の口づけで旅の無事を祈らせていただきたいっ!!」


(何の関連があるんだよ……はぁ、マジでヒメキ様……ちゃんも俺の第九夫人になるつもりかよ……)


 てっきりその場のノリだと思っていたがどうやら本気らしい。


 弱っているところを慰められたことに戦場でのつり橋効果が絡んでいるのか……それともやっぱりその場のノリで盛り上がってるだけかもしれない。


 とにかく勢いよく俺の元に来て、顔を寄せてくるヒメキちゃんを……何とか押しとどめた。


「わるいけれど……これから長旅が始まるから気を引き締めたいんだ、だからキスは出来ないよ」


「何とっ!? サーボ先生にしては惰弱な発言をっ!?」


「自覚しているよ」


(本当になぁ)


 俺の反応を見て、その場にいた女性全員が呆れたようにため息をついた。


「はぁ……サーボ先生はぁ……」


「サーボ先生ぇ……」


「サーボ先生……困ったものです……」


「サーボ先生……ふふ……変わりませんね……」


「サーボ先生、いい加減覚悟をきめろ……てください……」


「サーボ先生……少しぐらい欲に溺れてもよろしいと思いますよ……」


「サーボ先生……結構初心なんですねぇ……」


「サーボ先生、やっぱり私がリードしましょうか?」


「サーボ先生っ!! ではいつになればキスを……そしてその先のことをしていただけるのですかっ!!」


(一生しねーよ……もうあきらめろよお前ら……)


「あはは、まあいずれね……それよりもそろそろ出航しよう、みな準備をしてくれっ!!」


 話をそらして船員たちに叫ぶと、皆が配置についた。


「では行きましょうっ!! ゼルデン大陸に向けて出発っ!!」


「「「「おおーっ!!」」」」


 船員の雄たけびと同時に船が動き出す。


「行ってくるよーっ!!」


「行ってきますぅっ!!」


「では行ってくるっ!!」


 三人の弟子が船の上から手を振る。


「どうか……ご無事で……っ!!」


「気を付けるのだぞ……くださいっ!!」


「ご無事をお祈りしておりますっ!!」


「頑張ってきてくださいーっ!!」


「お気をつけてーっ!!」


「皆の活躍を期待しておるぞーっ!!」


 六人の女性が離れていく船を見送って手を振っている。


「……じゃあな」


 俺は小さく呟くと軽く手を振った。


 こうして俺たちはディキュウ大陸を後にした。


「ふぅ……なんか寂しいなぁ」


「ずっとあの大陸で暮らしていましたもんねぇ……」


「それに見慣れた人々ともお別れだ……やはり辛いものだな……」


(俺はすっげぇ身軽になったけどなぁ……ああ空気が美味しぃ~……)


 しんみりしている三弟子とは対照的に、俺はようやく肩の荷が下りた気がした。


(後はこいつらさえどうにかできればなぁ……何かいい方法ねぇかなぁ……)


 最も新たな大陸に着くまではどうしようもない。

 

 行き場のない船の上で諍いを起こしても何にもならないからだ。


「皆、思うところはあるだろうが気を引き締めないと危険だよ……幾ら結界が張ってあるとはいえ何が起こるかわからないのだからね」


「そ、そうだよね……一体何で船が消息を絶っちゃうんだろうねぇ」


「やっぱり魔王軍ですかねぇ……例の霧と合わせて問題を解消しておきたいところですぅ」


「サーボ先生のおっしゃる通りです……確かに油断は禁物ですね」


 俺の言葉に皆、心機一転して目の前の問題に意識を集中し始めた。


「一応このまま進めば一週間とかからずにゼルデン大陸には到着するはずですけどぉ……」


「十中八九何かが起こるだろうねぇ……とにかく気を引き締めていこうじゃないか」


(俺は休ませてもらうけどな……真面目に働くのなんざまっぴらだ……)


「カノちゃんは監視を頼む、君なら変化を見落とすことはないだろうからね」


「わかったよ、任せてっ!!」


「シヨちゃんは船員への指示を任せるよ、大抵のことは独自で判断してくれて構わないから」


「はい、シヨにお任せですっ!!」


「テキナさんは動物の面倒を見つつ、非常時には戦闘を任せる……が基本的には結界の維持を優先してくれ」


「お任せください」


「俺は万が一の時に備えて、すれ違いを起こさないよう自室で待機しているから……じゃあ任せたよー」


 俺は適当に指示を出すと、さっさと自室へと戻ることにした。


 入り口には鍵をかけられる上に、近くの棚をスライドさせることで物理的に入りづらくする仕掛けがしてある。


 わざわざ船職人に内緒で頼み込んでおいたのだ。


(何かあれば伝声管で報告があるだろうし、これで邪魔されず安心して寝られる……ぐぅ……)


 久しぶりに怠けられることに喜びながら、俺はベッドに横になると目を閉じた。


 それが甘い考えでしかなかったのだと半日も立たずに理解することになった。


『サーボ先生、大変ですっ!! すぐに甲板へ来てくださいっ!!』


(い、いきなりかっ!?)


 テキナさんの叫びに慌てて部屋を飛び出して甲板に向かった。


「う、うぇええ……き、気持ちわるぃいい……」


「はぅぅ……目の前がぁぁ……揺れを止めてくださいぃ……」


 そして俺は船酔いして胃の中身を吐き出しているカノちゃんとシヨちゃんを目撃した。


(そりゃあそうだよなぁ……船なんか乗ったことないもんなぁ……)


 俺はさっさとベッドへ横になったから大丈夫だったが、揺れに慣れないうちから働きだした二人はもろに影響を受けたようだ。


「さ、サーボ先生……どうしましょうっ!?」


「……医務室に運んであげて……船酔いの薬もあるはずだから、飲ませて休ませてあげよう」


(久しぶりに思う……こいつら使えねぇええええっ!!)


 テキナさんが無事なのは流石だ、やっぱり人間じゃない。

 

「せ、先生……ぼ、僕まだやれ……うぇぇ……」


(大盗賊が酔っぱらうなよぉ……もっと激しい動きしてきてんだろぉ……)


「うぅ……私もまだぁ……うぇぇ……」


(お前は本当に体力ねぇなぁ……戦闘員じゃねぇから仕方ないけどよぉ……)


「いいから休んで少しでも早く体調を直してきなさい……テキナさん、急いで連れて行って……」


「はい、わかりました……カノ、シヨ、ほら行こうではないか……」


 愚図る二人を連れてテキナさんが船内へと入って行った。


「サーボ様、このまま進んでもよろしいでしょうか?」


「構わないよ、止まっても揺れが大して変わるわけじゃないし……船旅にも慣れてもらわないと困るからねぇ」


 シヨちゃんに代わって指示を出しつつ、マストにある見張り台に上って監視を始める。


(はぁ……どうして俺が真面目に働かなきゃいかんのだ……)


 テキナさんが戻ってきたらさっさと変わってもらおうと思いながら、俺は水平線を眺め続けた。


 そしてその考えも甘いのだとすぐに悟らされた。


「うぇ……き、気持ちわるぃぃ……」

 

(ま、マストの上って……こんなに揺れるのかよぉ……)


 高いところだけあって特に揺れが激しく、気が付いたら俺も船酔いしていた。


「サーボ先生、二人はやっと寝付いて……どうなされました?」


「テキナさんタッチ……監視は任せたよ……」


「え、あ、は、はい……」


 口を開く余裕もなく、最低限の指示だけ出してふら付きながらマストを降りる。


「うぇ……医務室ぅ……」


 そのまま揺れに翻弄されながらも、何とか胃の中身を零さずに医務室へと向かい船酔いの薬を飲んだ。


 そして医務室のベッドはカノちゃんとシヨちゃんで埋まっていたため、自分の部屋へと戻り横たわった。


(俺も使えねぇ……ひょっとしてこれ不味いんじゃないか?)


 こんな状態で敵に襲われたら大変だ。


『さ、サーボ先生っ!! 敵襲ですっ!!』


(あはは……流石魔王軍、抜け目ねぇわぁ……)


 最もこの襲撃は流石に偶然だろう。


「テキナさん、結界を超えて……うぇ……来そうなら教えて……超えてこな……うげぇ……いなら中からワイバーンと協力して撃退……うぅ……してくれ」


『わ、わかりましたっ!!』


 それっきり連絡が無くなった。


 恐らくは何とかなったのだろう。


(そ、それぐらい自主的に判断して……ああ、テキナさんは戦闘以外できないって思い込んでるから……)


 そういえばテキナさんは大抵の行動をする際に俺かシヨちゃんの指示を仰いでいる。


 おまけに結構頻繁に自分が判断するより俺が判断したほうが確実だと何度も言っていた。


(自分の考えがない……というより自信がないんだろうなぁ……)


 勇者の里でもコンテスト優勝後は道を探しかねていた様子だった。


 また一つ、意外なテキナさんの弱点を見つけた気がする。


(前に語ってた戦うこと以外できないって言うコンプレックスは案外大きいのかもしれないなぁ……)


 すこし気遣ってあげたほうがいいのかもしれない。


 最も今は俺の身のほうを気遣ってもらいたいものだ。


『サーボ先生っ!! 右舷に漂流物が流れておりますっ!!』


「価値がありそうなら回収、なさそうなら放置で……うぇ……」


『か、価値とはどのような……ちなみに流木の一種だと思われますが……』


「いらないよ……放置してかまわな……」


『サーボ先生っ!! 正面より暗雲が流れてまいりましたっ!! 天候が激変するかもしれませんっ!!』


「それは船員さ……ぐぅ……んに聞いて対処……うぐっ……してくれぇ……」


 一々テキナさんが報告を入れてくる。


 今まではカノちゃんとシヨちゃんが処理してくれていたのだろうか。


 あるいは近くに俺が居たからわざわざ報告する必要がなかったのかもしれない。


 とにかく細かいことを全て伝えてくるテキナさんに俺は吐き気を堪えながら指示を出し続けるのだった。


『サーボ先生っ!! 虹が出ております……何かの兆候でしょうかっ!!』


(ガキかあんたはぁあああっ!! いいから休ませてくれよぉおおおっ!!)


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