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新たなる目標

「サーボ様っ!!」


「サーボ様万歳っ!!」


「偉大なるサーボ様に敬礼っ!!」


(うるせぇ黙れって叫んでみてぇ……おっかないからやらんけど……)


 王都ツメヨを少し歩くだけであちこちから声がかかってしまう。


 恐らくはこの大陸にある他の村に行っても同じことになるだろう。


 それほど俺の噂は広まってしまっている。


 もう俺に安住の地はないのかもしれない。


(こんなに目立ちたくねぇよ……どうしてこうなった……)


「ふふ、もうサーボ先生の素晴らしさに皆が気づいてしまったようですね」


「まぁとーぜんだよねぇ、なんたってこの大陸の全ての国を救っちゃったんだもんねー」


 テキナさんとカノちゃんが俺の両腕に抱き着いたまま笑いかけてくる。

 

 再開してからずっとこうだ。


 もうどこにも行かせないとばかりに拘束を緩めてくれないのだ。


「はーい、せっかく壊れたんですから区画整理しまーすっ!! この辺りから住宅を一掃して工業地帯にしまーすっ!!」


 唯一離れているシヨちゃんは、今も城壁の上から人々に指示を飛ばしていた。

 

 よほど籠城中の統治が厳しかったのか、住民は誰一人逆らおうとせずに従っている。


(やっぱり才能あるなぁ……それでもまだまだ時間はかかりそうだけど……)


 キマイラを討伐して既に三日が経過している。


 しかし未だに瓦礫の片付けも終わっていない。


 バンニ国の時に比べれば復興速度は非常に緩やかだ。


 理由は単純に人手不足……というより能力不足というべきだろう。


 復興活動に多大なる貢献ができる勇者たちが疲れ切っていて満足に働けていないのだ。


 何せ計算するとカーマとセーヌは約一カ月ほど、カノちゃんたちですら半月近く戦い続けていたことになる。


 その中でも特にセーヌの疲労は凄まじかった。

 

 ずっと不眠不休で領内を駆けずり回つつマンティコアを倒しまくり、果てにキマイラにぼこぼこにされたのだ。


(ずっと眠り続けやがって……まあ、今回は修羅場すぎたからなぁ……)


 一番参戦時間が短い俺ですらヘロヘロになったのだ。


 いくら体力馬鹿である勇者たちでもボロボロにならないわけがない。


 カノちゃんやシヨちゃんみたいな直接戦闘していない子はともかくとして、前線に立ち続けながらも元気にしているテキナさんが異常なのだ。


 そしてそんな元気な二人がこうして俺にくっついているのだから、やはり復興事業は中々進まないのだった。


(まあ他国の支援のお陰で物資不足で困ってる人はいないし……多少遅れても問題ないだろうけどな……)


「しかしサーボ先生は素晴らしい限りですな……ミリア殿から聞きましたよ、リース国での救援活動の数々を……」


「すっごいよねぇ、僕たちがツメヨ国にしか目が入ってない中で魔王軍の兵糧攻めを見抜いて対策しちゃったんだからねぇ」


「そして避難民を救援しながらいざツメヨ国に入れば即座に領内に残る生存者であるミイア殿とヒメキ様と合流を果たし、更には親玉をあぶりだして見せた……」


「僕たちがあんなに苦労して見つけられなかったのにその日のうちにだもんなぁ……やっぱりサーボ先生には敵わないやぁ」


(あはははぁ~凄まじい誤解が広がってるぅ~、しかもこいつらだけじゃなくてこの大陸中に広がってるよぉ~……うぅ、酷いよぉ……)


 もう俺はどうすればいいのだろうか。


 はっきり言ってもはや誤解を解くのは不可能な段階に至っている。


 仮に俺の本性を露わにしたところで、功績自体は事実なのだから信じてもらえるはずがない。


「いや、皆が頑張って堪えていてくれたからこそ出来たんだ……俺一人では何にもできずやられていただろうね」


「確かに恐ろしい強敵でした、サーボ先生が正面から戦おうとしなかったことも頷けます」


「何せ勇者パーティ総がかりでようやくだもんねぇ……それもサーボ先生が隙を作ったから勝てたんだもんねぇ」


「全くその通りです、サーボ先生のような真の勇者に追いつくべく我々も精進を続けたいと思います」


 どうあっても俺を持ち上げようというのだろう。


(いっその事今からでも模擬戦と称してテキナさんと戦って負けてみせて……調子が悪いと思われるか深い訳があると思われて終わるだけだな……うぅ……)


「シ~ヨ~っ!! 持ってきたぞーっ!! ついでに連れてきたぞ~っ!!」


「ありがとうタシュさんっ!! やっぱり空輸は便利ですねぇ……いつも通り物資を配達し終わったらまた戻ってきてください~」


「うむ、では行くぞワイバーンっ!!」


 大声が聞こえて顔を上げてみると、タシュちゃんがワイバーンを引き連れて物資の輸送を行っていた。


(タシュちゃん物凄く生き生きしてる……ここじゃあ皆からちやほやされてるもんなぁ……)


 ドラゴンを操り高速輸送で物を配りまくっているお陰で、タシュちゃんは皆からとても感謝されている。


 だから里に居る時より居心地が良いのだろう。


 今じゃ率先して誰よりも多く働いている。


「サーボ先生……お久しぶり……ですね……」


「プリスちゃん、来てたんだね……今回は色々無理させてごめんね」


「いえ……お役に立てて……光栄です……それに……お陰でタシュちゃんと……お友達になれましたから……」


 俺に頭を下げるプリスちゃん。


(本当に助かった、この子が居なかったら食料不足で俺もヤバかったわ……)


「聞いたよ、いっぱいご飯用意してくれたんだってね……本当にありがとうねっ!!」


「うむ、プリスの活躍があればこそ死者は最小限に食い留められたようだ……後方支援まことに感謝する」


「そのために私……あの国に残りましたから……サーボ先生に言われたから……やっぱり先生は凄い……です」


(いや無理に俺を持ち上げなくていいんだけど……目が本気だ……しかも相変わらず陶酔しきった目をしてるぅ……)


 後方支援役として活躍できたことで俺の指示の正しさを再確認したつもりになっているようだ。


 ただプリスちゃんを置いて行きたい一心での、その場しのぎでしかなかった発言がまたしても誤解を生んでいる。


「プリスさ~ん、挨拶はその辺にして一緒に王宮へ向かいましょうっ!!」


「シヨちゃんが呼んだの? 何をする気なんだい?」


「せっかくこの国の王様と隣国のテプレ様もいることですし、色々と協議をしようと思ったんですぅ」


「協議ねぇ……」


(イショサ国が混じってないのは地理的に遠いからか……まあどうでもいいけど……)


「出来ればサーボ先生にも出席してもらいたいんですけど……駄目ですかぁ?」


 冗談じゃない。


 これ以上政治など……真面目な仕事には関わりたくない。


「ああ、悪いけどね……ちょっと今回はもう少し休ませてもらうよ」


「わかりましたぁ……でももう一人で何処かに行ったりはしないでくださいよぉっ!!」


「ははは、そう何度も念を押さないでほしいなぁ……」


(絶対に頷いてなんかやるもんか……必ず隙を見て今度こそ逃げ出してやる……)


「安心してシヨちゃん、絶対逃がさないからっ!!」


「ああ、もう僅かにも離れたりはしないで監視しておくともっ!!」


 両腕に強くしがみつかれる。


 邪魔で仕方ない。


「お願いしますねー……じゃあ行きましょうプリスさん」


「はい……ではサーボ先生……また後で……」


 頭を下げて王宮へ向かって行く二人を見送った。


(いや本当にどうにかしないとなぁ、この状態は……)


「どうしたの、サーボ先生……おトイレ?」


「も、もちろん付き従わせて頂きますっ!! な、何でしたら……お、お手伝いも……その……」


(一人でできるモン……じゃなくて、いい加減にしてくれよぉ……)


 少し考え事をしただけでこれだ。


 本当に片時も離れてくれそうにない。


 正直辛い。


「そうじゃないよ……この後どうしようかと思っててね」


「この後……まだ日が高いからねぇ……ベッドに行くには早いよねぇ……」


「で、ですがさ、サーボ先生がお望みなのでしたら……い、いつでも覚悟はできております……い、行きましょうか?」


(色ボケ勇者ぁ……んなわけねーだろうが……)


「そうではなく、今後の予定だよ……魔王軍の脅威はこの大陸から一掃された今、当面の目的は無くなったと言える」


「そうですね、ではイーアス様のおっしゃっていた聖剣を手に入れにゼルデン大陸へと向かう準備をいたしましょうか」


(うーん、それなんだよなぁ……この俺の虚名が広まってる大陸に残るか、向こうに渡って行方をくらますか……)


 この大陸に居ては何処に居ても居場所はばれてしまうだろう。


 そうなると次に魔王軍が攻めてきたとき間違いなく矢面に立たされてしまう。


 ならばいっそまだ噂が広まっていないであろう別の大陸へ移住するのもありだ。


(ただ俺は何も知らねぇんだよなぁ、そのゼルデン大陸とやら……)


「二人はゼルデン大陸について何か知っていることはあるかな?」


「ううん、全然知らないよぉ~」


「私も詳しくはありませんが……確かそちらにも冒険者ギルドの支部があったと聞いてはおります」


「冒険者ギルドか……だけどこの国のギルドは壊滅状態だし、関係者が……居たねぇ」


(そういえばミイアさんは冒険者ギルドの関係者だったわ、あの人に聞いてみれば何かわかるか?)


 俺たちはミイアさんのお宅を訪ねることにした。


「どうも、こんにちわ」


「あっ!? さ、サーボ様いらっしゃいませぇっ!!」


「さ、サーボ様っ!? ど、どうしてこのようなところにっ!?」


 家に入るなり駆けつけてきたミリアさんとミイアさん。


「少し聞きたいことがあってね、ミイアさんお時間よろしいですか?」


「ええ、私でよろしければ何でも言ってくださいっ!!」


「うぅ……わ、私では駄目なんですかぁっ!?」


 何故か涙目で縋りつくように迫ってくるミリアさん。


 振り払うのも面倒なのでこのまま話すことにした。


「駄目とかではなくて……実はゼルデン大陸について聞きたいのですけど、冒険者ギルドの一員として何か情報はありませんか?」


「ええと海を挟んだ先にある大陸の一つですよね、少しは知っていますけど……もしかしてサーボ様そっちに行っちゃうんですかっ!?」


「だ、駄目ですよっ!! さ、サーボ様はこの大陸で骨を埋めるべきですよぉっ!!」


(だからさっきからどうしたミリアさん……そんな捨てられた子犬みたいな目で俺を見て……俺だけを見てる……ま、まさかっ!?)


 あえて気付かないふりをして、イーアス様より入手した情報を伝えた。


「聖剣ですか……それは聞いたことはありませんが、ハラル王国には冒険者ギルドの支部があるので多少の情報は入ってますよ」


「ほう、どのような国なのですか?」


「確かゼルデン大陸で最も歴史があり伝統を重んじる王国です……しかし今は隣国のドウマ帝国との勢力争いを繰り広げているとか」


(戦争中か……それはまあ厄介な事だなぁ……)


「何と……魔王の脅威が迫る中で人間同士争うとは愚かしい限りだ……」


「ただハラル王国には現時点においてこの世界唯一のSランク冒険者が所属しておりますので、そうそうやられることはないと思います」


「へぇ、僕たち以外にもSランクの凄い人がいるんだぁ……どんな人なの?」


「それがとても変わっている方らしくて……実力は凄まじいことは確かなのですが、何せ冒険者登録名からして……『あ』様ですから」


(実名……じゃねぇよなぁ……なんだそりゃ?)


「身元は確かなのかな? 今回のように魔物が化けて潜入していたりする可能性がないとも限らないからね」


「それは無いと思います……その方は魔王騒動が起こる前から活動してますからね」


 それなら確かに魔物が化けている可能性はなさそうだ。


「そっかぁ……でも変わってる人なんだねぇ『あ』さんは……」


「ええ、噂に聞く限りでも樽を踏んずけて空を飛んだとか、壁に向かって直進し続けたとか、鶏に喧嘩を売って負けたとか……どこまで本当かはわかりませんけど……」


(鶏に負けるSランク……一国の侵攻に対抗できる実力者とか言われてるのに……わけわからん……)


 まあそれはどうでもいいことだ……気になるけど。


「ちなみに、もう一つのドウマ帝国というのは何か情報がありますか?」


「そちらは冒険者ギルドに加盟していないらしくて……ただ、比較的新しい国で兵器の開発に力を注いでいる恐ろしい国だとは聞いております」


(魔王軍が居る昨今なら頼りがいがあるとも言えるが……戦乱真っただ中の大陸とは穏やかじゃねぇなぁ……)


「他に何か目立った情報はありませんか?」


「私が知っているのはこのくらいです……申し訳ありません」


「いえ十分参考になりましたよ……だが聖剣の情報はないのは困りものだなぁ」


(俺はいらないけど……テキナさんには必要だよなぁ)


 流石のテキナさんですら今回の魔物には手こずっていた。


 しかし魔王軍にはあれ以上の魔物が、少なくとも五体は存在する。


 炎のエンカ、水のスーイ、風のフウク、地のチーダイ……そして魔王。


 そいつらを倒すためにはやはり聖剣の力が必要になるだろう。


(魔王軍自体は退治してもらわないといけないしなぁ……俺のこと物凄く憎んでるだろうし……ああ、どうして無力で弱い俺が目を付けられないといけないんだよぉ……)


 酷い話だ。


「やはりハラル王国の方に話を聞いたほうがよいでしょうね、それも王族関係者に……」


「Sランクの冒険者ともなれば恐らくお話ぐらいは聞いてくださると思いますけど……本当に行かれるのですか?」


(どうすっかなぁ、本当に……)


「はい……それが我々勇者としての使命ですから」


「そこに魔王軍と戦える手段があるなら行かないわけにはいかないよっ!!」


 弟子二人の真剣な顔を見て、内心ため息をつく。


 恐らく残るシヨちゃんも同じことを言うだろう。


(だけどこいつら、俺がこの大陸に残るって言えば残っちまうだろうなぁ……)


 それぐらい俺のことを大事に考えている奴らだ。


 しかしそういうわけにはいかない。


(聖剣が一つしかない以上はテキナさんが使わなきゃ駄目だ……今回の件ではっきりした……)


 カーマやセーヌも確かに勇者の中でもとびぬけた実力者だが、テキナさんはその上を行く。


 今回の魔物はそんな三人をも同時に相手にして、一度は振り払えるほどの強さがあった。


 ならば一番強いテキナさんを強化していかなければ、この先対抗していけるとは思えない。


(仕方ねぇ……ここに居てもあっちの大陸でも住みづらさはそう変わらんだろうし……行くしかねぇなぁ)


「その通りだ、俺たちはツメヨ国の復興に目途が付き次第ゼルデン大陸を目指すよ」


「そ、そんなぁ……うぅ……サーボ様ぁ……」


「で、でしたらサーボ様……せめてそれまでの間は家で泊って行って……色々と恩返しもしたいですし……」


(要らねーよ……俺は王宮のフカフカベッドで自堕落に過ごすんだよ……)


「それよりもミイアさん、悪いけどギルドの設備が直ったらすぐにでも冒険者登録証の発行をお願いできるかな」


「そ、それは構いませんけど……泊るのが駄目でもせめて少しでも休んでいってくださいよぉ……」


「お願いしますぅ……どうか私たちに少しでも恩返しさせてくださいっ!!」


 二人して縋りついてくる。

 

 鬱陶しいことこの上ない。


(相変わらず一度決めたらてこでも動かねぇって感じしてやがる……)


 放っておいたらどこまでも付いて来そうだ。


「わかったよ二人とも……テキナさん、カノちゃん、俺がここに残ってる間にゼルデン大陸へ移動する手段を手配しておいてくれ」


「……逃げたりしない?」


「今更逃げたりしないよ……一緒にゼルデン大陸に行くんだろ?」


「……浮気も駄目ですよ?」


(今更何を言ってんだこいつは……第六夫人まで許可しておいて……)


「あ、安心してください……私たちは第七、第八夫人として節度あるお付き合いをいたしますよっ!!」


「ええ、ちゃんとお姉様方には配慮致しますっ!! 今回は普通におもてなしするだけですっ!!」


(うぉおおおおいっ!! とんでもない発言を勝手にしてんじゃねぇええええっ!!)

 

 いつの間にそういう話になったのだろうか。


 というか本人の許可もなく勝手に決めないでほしい。


「なら……しょうがないね」


「うむ……仕方があるまい」


(何がだよっ!? お前らわけわかんねぇよっ!?)


 何故か納得した様子を見せたカノちゃんとテキナさん


 判定基準がさっぱりわからない。


(そして何でミリアさんたちまでそんなこと言いだしたんだ?)


「じゃあ僕たちが戻ってくるまでここにいてよ」


「お迎えに上がりますからね」


 首を傾げる俺を置いて、二人の弟子はそう言い残して去って行った。


「さあ、どうぞ入ってくださいサーボ様……お茶でも入れさせていただきます」


「遠慮しないでくださいね……我が家だと思ってくつろいでください」


「はは……はぁ……お邪魔します……」


 家に上がり居間にある椅子へと座り、とりあえず肩の力を抜いて周りを観察した。


 余り大きいとは言えない普通の民家だ。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


 ミリアさんが出してくれたお茶を啜る。


(意外に悪くないなぁ……こうして落ち着いている時間なんかそうそうなかったし……)


 外で野宿したり、騒動に巻き込まれたり……たまに宿に泊まれば三弟子が押しかけてきて大変な毎日だ。


 こういう時間は本当に貴重だと今更ながらに気づかされる。


「ふぅ……」


「疲れてますねサーボ様」


 俺の前にミイアさんが座る。


 ミリアさんは奥に戻り、恐らくはお茶菓子の支度でもしているのだろう。


 最も俺には二人の違いなど殆ど見分けなどつかない。


 ただ結婚指輪の有無だけが二人を区別する目印になっている。


「まあ毎日騒がしいからね……ミイアさんも今回はご苦労様……大変だったろう」


「ええ……本当に……父も母も……行方不明だから……恐らく……」


 言って俯いてしまうミイアさん。


 そういえば家の中に他の家族が見受けられない。


(激しい戦闘だったしなぁ……ご愁傷様……)


「すみません……俺がもっと早くこの国に駆けつけていれば……」


「ううん、どうしようもなかったですよ……むしろサーボ様があの二組を勇者パーティの派遣を指示してくれなければ私だって……」


(いやあんたはついて行かなきゃバンニ国で安全で暮らせただろうが……)


 最も彼女たちの性格ならばいずれは駆けつけていたことは想像に容易い。


「ですから感謝してます……それにお姉ちゃんを連れてきてくれてたことも……私、お姉ちゃんがダナさんの実家に引っ越したこと知らなかったから……もしサーボ様が連れてきてくれなかったら父と母と一緒だと思い込んで……後を追っていたかもしれません……」


「そうですか、危険に巻き込んでしまったかとも思いましたが……ミイアさんの支えになれたのならよかったよ」


「ええ、本当に助かりました……それに……実は私お姉ちゃんと結婚したあのダナって人……苦手だったんですよ……だからあの人から引き離してくれたのも……酷い話だけど嬉しいんです私……」


 ちょっと心苦しそうに笑うミイアさん。


(まああんまりいい性格とは言えなかったしなぁ……何であんなのと結婚したのやら……)


「まあ、まだ指輪を外してないからね……別れるかどうかはわからないけど……」


「ふふ……お姉ちゃんはもうサーボ様にゾッコンですよ……聞きましたよ、野盗から助けたことも何もかも……」


(それぐらいしかしてねぇ……それに惚れるほどの事かと言えば……かもしれないが、お前は関係ないだろうが……)


 そう、まだミリアさんならわかる。


 しかしミイアさんが俺に惚れる理由はさっぱりわからない。


「勇者として当然のことをしたまでだよ……救える人は出来る限り救わないとね……」


「その通りです……本当に器が大きい方……私や他の勇者の方と違って大局を見て動ける……凄い立派だと思いました」


(ただ逃げ回ってただけなんだけどなぁ……上手くいかねぇ……どうして俺の小物っぷりが伝わらないんだろうか……うぅ……)


「もしもサーボ様が私のいう通りツメヨ国に向かっていたら……お姉ちゃんも多分野盗に……私は一人ぼっちになってました……」


(それは……家族思いのミイアさんには辛すぎるだろうなぁ……)


「もしもサーボ様が私たちに甘く接していたら……魔物の親玉は見つかりませんでした……」


 確かにミイアさんに甘かったセーヌなどほぼ言いなりになっていた。

 

 あの調子では下手したら魔物の手先として活動させられていたことだろう。


「サーボ様の態度に私何度も嫌な思いをしました……ちょっと憎く思ってもいました……だけど終わってみたら全部私たちの為だった……」


(全部自分の為なんだけどなぁ……はぁ……)


「本当に自分が浅ましくて情けなくて……お姉ちゃんからサーボ様の話を聞くほど申し訳なくて……気が付いたら、サーボ様のことばっかり考えるようになっちゃいました……」


 ミイアさんは俺をまっすぐ見据えて、真剣な顔で呟いた。


「そして……気が付いたら……惚れちゃってました……サーボ様の活躍を知った途端これですもん……ミーハーですよねぇ……」 


(なるほど……プリスちゃんの時みたいに感情がひっくり返った反動に……恩人に対する想いが加算されて恋心になった感じかぁ)


 どうしてこうなるのか、厄介な事この上ない。


(絶対にセーヌが怒り狂うわコレ……どうしろってんだよぉ……)


「……ちなみにミイアさんは他の勇者のこと……セーヌ殿のことなどはどうお考えですか?」


「凄い強い方ですよね……だけど誰もサーボ様には敵いませんでしたね、それがどうかしましたか?」


(全く意識されてない……セーヌ殿、お気の毒に……)


 この調子ではセーヌがミイアさんを想っていることも、危険を承知で領内を探し回っていたことも伝わっていないのだろう。


(セーヌが目を覚ましてこのこと知ったらどうなるのやら……怖い怖い……)


 やはりこの大陸からさっさと逃げ出したほうが良さそうだ。


「ミイア~、お茶菓子これしかないけど……あなた食べちゃったの?」

 

「あっ!? そ、そうだこの間近くを通った子供にあげちゃって……ど、どうしよう……」


「いやいや、気にしなくていいですよ……」


「でもせっかくおもてなししたいのに……ちょ、ちょっと買い物に行ってみます」


 物資自体はタシュちゃんが頑張っているお陰で足りている。

 

 だから意外に流通はしっかりとしているため買おうと思えば買えないことはないだろう。


「無理しないでいいですからね……」


「わ、わかりました……だけど私が戻るまで帰っちゃ駄目ですよっ!!」


 バタバタと駆け出していくミイアさん。


(やっぱり人の言うこと聞かねぇ……面倒な人たちだ……)


「とりあえず、これぐらいですが……食べていてくださいね」


「ええ、いただきます」


 二枚ほど置かれているお煎餅に手を伸ばす。


 お茶と合っていて、いい感じだ。


「ふぅ……本当に落ち着きます、ありがとうございますね」


「いいえ、この程度のことしかできなくて申し訳ないぐらいですよ」


「いやいや十分ですよ…………ご両親のことお伺いしました、俺の力が及ばず申し訳ございません」


「サーボ様は悪くありませんよ……どこかで生きているかもしれませんし……何よりミイアが居ますから」


 気丈にも微笑むミリアさん。


「むしろサーボ様にはお礼を言わなければいけません……あっちの村でも、ここに来てからもずっと迷惑をかけっぱなしでしたから……」


(迷惑かぁ……確かにお前さえいなきゃあそこで隠居してられて……だけどいつかは魔物にやられてたかもなぁ……)


 あのタイミングで俺たちがツメヨ国に入らなければ、魔物を見分けることはできなかっただろう。


 そうなればいずれこの大陸は完全に魔王軍によって陥落してしまったはずだ。


 ある意味ではミリアさんこそ今回、一番評価されるべき人かもしれない。


「迷惑だなんてそんなことありませんよ、ミリアさんが俺の移動に踏ん切りをつけてくれたからこそ今があるのです……誇っていいと思いますよ」


「……足を引っ張ってばかりだった私にもそう言ってくれるんですね、嬉しいです」


「本心ですよ、この国が陥落せずに済んだのもミイアさんが無事なのも……全てミリアさんが頑張ったからですよ」 


「そんなに褒められると照れてしまいます……それにやっぱりサーボ様のお陰ですよ」


 ミリアさんは、やはりミイアさんと同じように俺をまっすぐ見つめた。


「サーボ様の指示に従ったからミイアと合流できた……サーボ様が魔物を見抜いてくれたから私たちは死なずに済んだ……サーボ様が居なかったら……私……」


(全部まごうことなく偶然の産物……って言っても絶対信じてくれないだろうなぁ……はぁ……)


「何より……野盗に襲われていた私を自分の身の危険も顧みず助けに飛び込んでくれて……人質に取られた私を気遣ってくれて……物凄く感謝しています……」


「タシュちゃんが来てくれたから何とかなっただけで……俺自身は大したことはしてませんよ」


「そんなことないですよ……その後も自分の食料を皆に配って回って……人々を救い続けて……これが本当の勇者なんだって……はっきりわかりました」


(お前が勝手に配ったんだろうがぁ……じゃあお前が勇者やれよぉ……)


「凄い素敵でした……サーボ様を知って……もっと早く出会いたかったって……心の底から思いました……本当に、好きです……愛しています……」


(やっぱりかぁ……だけどそんな素振り見えなかったけどなぁ……)


「だけど私、人妻だから……既婚者だからそんな想い抱いちゃ駄目だって言い聞かせて……そう思ってたらサーボ様、たくさんの女性に愛されてて……それを見たら我慢できなくなっちゃいました」


(常識で必死で抑え込んでた想いが俺の周りに居る常識はずれな連中を見て弾けたのか……うぅ……)


 どうして常識を投げ捨てるのか、それを捨てるなんてとんでもないことだと気づいてほしい。

 

「ダナさんは……どうするのですか?」


「元々、お義母さまと交流があって……その関係で付き合ってただけで……ずっとどこか冷めてましたけど今回の件でもうとても一緒にはいられないと思いました……別れます」


(まあ昼間っから飲んだくれて……挙句野盗に襲われてるところを見捨てたんだから仕方ねぇよなぁ……)


「ですからサーボ様……あなたの手でこの指輪……抜き取ってくれないでしょうか?」


 真剣なまなざしで俺を見つめるミリアさん。


(断ったら……いや、この姉妹は断っても聞かないだろうなぁ……)

 

 どうせ別の大陸に移住するのだ。


 もう適当にこの場をごまかしてしまってもいいだろう。


 俺はそっと手を伸ばすと、ミリアさんの薬指から指輪を抜き取った。


「これでよろしいでしょうか?」


「ええ……ふふ、これで私はもうサーボ様の物です……」


(いや勝手に押し付けないでください……はぁ……)


「サーボ先生……」


「おやカノちゃんにテキナさん、早かったですね……どうしました?」


「それが……どうも厄介なことになっているようでして……」


 困ったような顔で戻ってきた二人に話を聞くと、どうもゼルデン大陸への移動手段が存在しないというのだ。


「少し前まではたまーに船で通商してたみたいなんだけど……最近連絡が付かなくなっちゃってるみたい」


「こちらから送った船も向こうから出港した船も途中で行方をくらませてしまい、どうにもならない状態なのだそうです」


(おいおい……まさかまた魔王軍かぁ……)


「なら仕方ない、タシュちゃんに頼んで運んでもらおうじゃないか」


「そっか、タシュちゃんにお願いすれば飛んでいけちゃうのかぁ」


(本当に便利だよあいつ……空を飛べるのはすさまじいアドバンテージだなぁ)


「では早速タシュの元へ行き頼んでみましょう」


「それもそうだね、ミイアさんが戻り次第タシュちゃんを探しに行こうか」


「さ、サーボ様もう行っちゃうんですかっ!?」


 俺が言うのと同時にミイアさんが戻ってきた。


 どうやらテキナさんたちが家に入るところを見つけて慌てて駆けつけてきたようだ。


「悪いけどやることがあるからね……またいずれ……」


(会いに来ません、さようなら)


「そ、そんなぁ……じゃ、じゃあせめて……キスしてくれませんかっ!?」


「サーボ様……どうかお別れの前に誓いの口づけをお願いします」


(だから俺は……それだけは駄目なんだよ)


 俺の数少ない意地……プライドだ。


「すみません、ミイアさんやミリアさんとこのような形で口づけを交わすのは心苦しい限りですのでまた今度ということで」


「……意外に不甲斐ないんですね」


「……意外に小心者なんですか」


「自覚しているよ」


(本当になぁ)


「サーボ先生はさぁ、こういうことにも度胸付けようよぉ……」


「全くです、普段の勇敢さはどこへ行ってしまうのですか?」


(んなもん最初からねーんだよ……)


「その調子だと皆さんも同じ扱いなんですね……ちょっと安心しました」


「サーボ様、私一応経験ありますし……リードしてもいいですよ?」


「サーボ先生、いい加減覚悟決めようね?」


「サーボ先生、皆あなたの決意を待っているのですよ?」


「あはは……まあ考えておきますよ」


(覚悟も決意も固まってるよ……俺は絶対女には手を付けねーってなぁっ!!)


 内心叫びあげながら、俺は表面上だけはにこやかに微笑み続けるのだった。

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