俺の全力
「ここからリース国ですよ……結界があります」
「ここまで誰も脱落してないよ……どうすればいい……ですか?」
「結界が消えてると思い込ませたい……タシュちゃんがワイバーンを引き連れて先に入ってくれ」
俺の言葉通りタシュちゃんがワイバーンを引き連れて先に入っていく。
次いで俺が中に入り、皆を促す。
「ここからリース国になります、テプレさんとカーマ殿は万が一に備えて最後尾からついてきてくださいね」
「皆の者、急いで中に避難するのだ……テプレ殿も早く入って結界を張る準備をしてもらいたい」
「分かっております、ですがサーボ先生の言う通り後方に警戒しなければいけません」
「では一刻も早く誘導を終えるためヒメキ様も先にお進みください」
「わ、わかっておる……くぅ、歯がゆい限りだっ!!」
(いいからさっさと正体を曝け出せ……っ!?)
俺に非難めいた視線を向けながら、ヒメキ様はあっさり結界を超えてしまった。
(こ、こいつじゃないだとっ!? じゃ、じゃあ誰がっ!?)
「ほらほら急いでくれ、俺たちは一刻も早くリース国に戻りたいんだっ!!」
「すまない皆の者……出来るだけ急いで……っ!?」
「ど、どうしたんですか皆さんっ!?」
「えっ……どうなってるのっ!?」
(おいおい……冗談だろっ!?)
ヒメキ様以外で中に入れたのはミリアさんとミイアさんだけだった。
他の人たちは入ろうとして……全員が結界に弾き飛ばされた。
「……はは、まさか結界が維持されているとはなぁ」
「ここまで誘導したのはこのためか……こうして正体を見破るために……」
「ついでにリース国も落せると思ったが……またしても貴様にしてやられたな……」
「これはこれは予想外だ……ああ、やってくれたなぁ勇者サーボォオオオオっ!!」
「貴様が……やはり貴様だけがぁあああああっ!!」
全員が擬態を解いて本当の姿を露わにしていく。
(こ、こういうことかぁあああっ!!)
一人の人間に化けているという考えからして間違いだったようだ。
(人間の集団に化けて移動を続けてやがったのかっ!!)
通りで最後の親玉が見つからないわけだ。
(一度王族に化けてバレたから警戒して今度は部下に化けてたのかっ!!)
恐らく最初にツメヨ国の軍隊と戦闘になった時にわざとヒメキ様を見逃したのだろう。
そしてそこに合流して指揮下におさまった振りをすることで疑いの目を逸らしつつ、魔物を産み落とし続けたのだ。
(俺も完全に騙されてた……見抜けたのは偶然だ……賢過ぎる……この場で倒しておかないともう次は見抜けねぇっ!!)
「タシュちゃん、テプレさん、セーヌ殿、攻撃するんだっ!!」
「わ、ワイバーンっ!!」
「な、何がどうなって……くそぉおおっ!! 聖なる意志の元に集いし力よ魔を払う光と成れ、破邪光線っ!!」
「せ、聖なる意志の元に集いし力よ魔を払う光と成れ、破邪光線っ!!」
ワイバーンの群れが放った火球と勇者と大僧侶が唱えた魔法が重なり合い、辺りを一瞬で火の海に変えた。
その威力は前に見たテキナさんの魔法に勝るとも劣らない。
(よし、勝ったっ!! ツメヨ国の危機、これにて完結っ!! よぉし、風呂入って寝よ……っ!?)
「「「「「「がぁああああああああああっ!!」」」」」」
俺の予想に反し今回の魔物はその圧倒的な威力の魔法に耐え抜いた。
さらに周りの炎を吸収しながら一つに合わさっていく。
「こ……こいつはキマイラかぁっ!?」
「か、かつて魔王城の入り口を守っていたあのキマイラっ!?」
(ぜ、全体が見渡せねぇぐらいデカい……何だよこいつはっ!?)
姿を現した魔物……いやもはや怪獣と呼ぶべきかもしれない。
尻尾まで含めた全体像はもはや計り知れない、まさしく見上げるほどの巨体だ。
前足には鋭い爪が生え、複数生えた顔からは酸性と思わしき涎が垂れ大地を汚していく。
肌は尻尾から腕に至るまで、まるで鉱石が固まったかのような鋭く逆立つ鱗が覆っている。
しかし何よりも目立った特徴は、あらゆる部位が複数の属性を帯びていると思わしい現象を発声させていることだ。
四つ伸びた尻尾は振り回すたびに火炎を上げ、氷のつぶてを放ち、竜巻を巻き起こし、大地を引き裂く。
爪も同様で、口からも火、水、風、土に該当する現象を放射している。
「さぁああああぼおおおおおっ!!」
(ひぃいいっ!! 悔しいからって俺に夢中になるなぁっ!!)
キマイラは結界外にいるセーヌ達に一切反応することなく、俺だけを見据えて前足を振り下ろした。
そんな魔物の一撃は結界とぶつかり、大地を揺るがし激しい火花を散らす。
少しずつ結界が鈍い音を立てて、ぐらつき始める。
(ど、どう見てもギリィの一撃より重いっ!! 耐えれてるだけ奇跡だっ!?)
恐らくイーアス様が維持してるだけあってテプレさんのより高性能なのだろう。
しかしこの調子ではすぐにでも破られてしまうだろう。
「うぉおおおおっ!!」
咄嗟にセーヌが飛び掛かり、結界にぶつかっている前足に切りかかる。
(キャァアアアアっ!! セーヌ様素敵ぃいい……っ!?)
だがセーヌの攻撃はキマイラの鱗に弾かれて、傷をつけることも敵わなかった。
(え……ちょっ!? 嘘だろっ!? セーヌの一撃が効かないっ!?)
「ちぃ、邪魔だっ!!」
「くっ!? ぐぉおおおおっ!!」
更に口の一つが吐き出した火炎がセーヌを直撃する。
「せ、聖なる輝きよ我らを悪しき意志より守り給え、聖祝鎧っ!!」
咄嗟にテプレ様が防御魔法を発動した。
それでも地面に着地したセーヌは、剣を大地に突き刺して身体を支えなければいけないほどのダメージを負っている。
(何やってんだセーヌぅううっ!! 勇者の実力見せろっ!! 頑張れっ!! お前なら出来るぅうううっ!!)
「わ、ワイバーンっ!! やれぇっ!!」
「シャァアアアっ!!」
(タシュちゃんナイスっ!! やれドラゴン軍団っ!! 最強と名高い龍族の力見せつけろっ!!)
結界の内部からタシュちゃんが指示を出し、ワイバーンの群れが一斉に火球を叩きつける。
「ワイバーンがこんなところに……こいつらさえ我らが元に届いていればもっと強い魔物が作り上げれたものをっ!!」
(ぜ、全然効いてねぇええええっ!! 何だよこのバケモンはっ!?)
キマイラは皮膚の表面にぶつかり爆発する火球を意にも介さず憎々し気に呟くと、尻尾の一つを結界に叩きつける。
途端に凄まじい豪風が吹き荒れ、結界をさらに傷つけていく。
「光の祝福の元に正常なる形をとりもどせ、回復っ!!」
魔物の注意が逸れた隙にテプレ様がセーヌを癒す。
「ぐぅ……すまねぇ……邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、聖輝剣っ!!」
即座に立ち直ったセーヌは今度は魔法剣でもってキマイラへと切りかかった。
(おお、流石セーヌ殿っ!! お願い負けないでぇええっ!! ここでこいつを倒せば俺たちの勝利なんだからぁああっ!!)
「ええい、うっとうしいっ!!」
「くぅぅっ……うぉおおおおおりゃぁあああああっ!!」
魔物が振るった炎の尻尾を掻い潜ったセーヌの攻撃が魔物の胴体に直撃する。
「おお、やったかっ!?」
眩い光が辺りを包み、全てを溶かしていく。
(ひゃっほぉおおおおっ!! イェエエエエイっ!! セーヌ殿バンザー……っ!?)
「がぁあああああっ!! 邪魔だぁああああっ!!」
「なぁ……がはぁああっ!!」
それすらもキマイラは強引に身体を振るい跳ね除けると、今度は前足でもってセーヌを叩きつけた。
まるで水切り遊びに使う石のように、地面にぶつかるたびに跳ね返り全身をボロボロにしながら飛んでいくセーヌ。
先ほどの防御魔法の効果が残っていなければ、恐らく大地の染みと化していただろう。
キマイラのほうは鱗に焦げ跡が付いてはいるが、自然治癒力が高いようですぐに回復しきってしまった。
(本当にありがとうございました、完敗です……やってられるかぁあああっ!!)
もう退治など不可能だ、俺は諦めた。
「タシュちゃん、俺を連れて逃げてくれないか?」
「えぇっ!? い、いいのっ!?」
驚きを隠せないタシュちゃんたち。
(いいに決まってるだろっ!! 他の奴らは勝手に死ねっ!!)
「ああ、あのキマイラは俺を目の敵にしている……俺たちが囮になるしかない」
(キマイラには翼がないっ!! 空飛んで逃げれば振り切れるっ!!)
そしてタシュと二人きりになったところで適当に甘い言葉をささやいて安全な場所まで誘導しよう。
「そ、そんな……サーボ様駄目ですっ!!」
(だから駄目じゃねえよ、いいんだよっ!!)
「サーボ様だけ犠牲になるなんて……あんまりですよっ!!」
(犠牲になるのはお前らだけだってのっ!!)
「サーボ殿……妾はどう責任をとれば……妾が犠牲になるべきでは……」
青ざめた様子で俺に語り掛けるヒメキ様。
彼女は領民を救って回っているつもりで被害を広げてしまったのだ。
恐らくは凄まじいショックを受けているのだろう。
「いいえ、ヒメキ様は立派に頑張られました……後は勇者である俺にお任せください」
(今はお前に関わってる暇はねぇんだよっ!! 近づくな疫病神めっ!!)
「サーボ先生……無理はなさらないでくださいっ!!」
いつの間にかテプレさんが結界の中に戻ってきていた。
恐らくセーヌが気を引いている間に走り抜けたのだろう。
「ちぃいいっ!! 鬱陶しい結界めぇえええっ!!」
邪魔がなくなったキマイラが猛攻を仕掛けるが結界は先ほどよりも堅牢になっていて中々壊れない。
「私が領内に戻ったことで結界の効力は増しました……しばらくは堪えられると思いますっ!!」
(しばらくしか持たないんじゃぁ意味ねーよっ!! 俺はまだまだ生きていたいんだよっ!!)
「いやこのままではいずれ破られる……その前に行こうタシュちゃんっ!!」
「は、はいサーボ先生……先生と一緒ならどこまででもお付き合いいたしますっ!!」
(よーし、言ったなっ!! この世の果てまで逃げてやろうっ!!)
タシュちゃんの背中に負ぶさり、急上昇するよう指示する。
「し、失礼するっ!!」
「ひ、ヒメキ様っ!? な、何をっ!!」
飛び上がる寸前にヒメキ様が俺に抱き着き、一緒に空へと浮かび上がる。
「や、やはりこの度の件は妾の責任だっ!! どうか妾にも手伝わせてほしいっ!!」
(手伝うどころか思いっきり邪魔してるじゃねぇかっ!! 降りて勝手にやられて来いよっ!!)
「さ、サーボ先生……どうしますかっ!!」
「さぁああぼおおおおおおおっ!!」
キマイラの攻撃が激しくなり、結界の軋みも酷くなる一方だ。
一刻も早くこの場から離れなければいけない。
もう降ろしたりしている暇はない。
「こうなった以上仕方がない、結界が壊れないうちに飛んでくれっ!!」
「は、はいっ!! しっかり捕まっててくださいっ!!」
「う、うむ……頼んだぞっ!!」
キマイラの手が届かないほどの距離まで舞い上がり、他の仲間を置き去りにそのまま結界を抜け出す。
「魔物よっ!! 妾達はこっちであるぞっ!! 追ってくるがいいっ!!」
(余計な挑発すんなよ……まあ別に飛べない以上は安全だろうけど……っ!?)
「逃がすかぁあああああああああああっ!!」
「さ、サーボ先生……つ、翼がっ!?」
(う、嘘でしょ……や、やばい……これはシャレにならんってっ!!)
キマイラが身体を震わすと背中の鱗が変質し、鈍く煌めく刃のような翼が広がった。
「に、逃げろぉおおおおおおおおおっ!!」
「は、はいぃいいっ!!」
もはや態度を取り繕う余裕もなく叫んだ。
タシュちゃんが全力で飛行移動を開始する。
「さぁああああああああああぼおおおおおおおおおおおおおっ!!」
(こっち来ないでよぉおおおおおおっ!!)
キマイラの巨体が浮かび上がる。
そして凄まじい速度で俺たちの後を追いかけ始めた。
「は、早いぞっ!? さ、サーボ先生……これじゃあ追いつかれてしまいますぅうっ!?」
タシュちゃんが悲鳴を上げる。
何とか後ろを確認すると、確かに僅かだが向こうのほうが速い。
「シャアアアアアアアアアアアアアっ!!」
「くぅううっ!!」
さらに相手は口からブレスをはいて攻撃を仕掛けてくる。
今のところは躱せているが回避に専念すればそれだけ動きが鈍くなる。
追いつかれるのが早いか攻撃を受けるのが先か、どちらにしても長くは持たない。
(少しでも速度を上げて……荷物を捨てて身を軽くするしかねぇっ!!)
邪魔な荷物を探す、すぐに一番大きいお荷物を見つけた。
「ヒメキ様、お許しくださいっ!!」
「さ、サーボ殿っ!?」
「さ、サーボ先生何をっ!?」
強引にヒメキ様の手を払って突き落としてやろうとしたが、抵抗される。
(お前のせいでこうなってんだぞっ!! 責任とって死んでこいやぁあああっ!!)
「な、何を……っ!?」
「こうするしか助かる道はないのですっ!!」
必死で俺の身体にしがみつくヒメキ様を振り払おうとするが、向こうは咄嗟にタシュちゃんの身体を掴んで落ちないよう粘っている。
「あ、暴れないで……うわぁっ!?」
俺たちのもみ合いでタシュちゃんのバランスが崩れた。
「シャァアアアっ!!」
ちょうどそのタイミングで敵の攻撃が放たれた。
「くぅぅ……あっ!?」
「うぉっ!? えっ……?」
「さ、サーボ殿っ!! だ、駄目ぇえええっ!!」
何とか強引に回避したタシュちゃんだったが、俺たちの身体に掛かる負担は桁違いになった。
そしてヒメキ様を払いのけるのに躍起になっていた俺はもろにあおりを受けて……振り落とされた。
(ちょ……ど、どうしてこうなるぅううううううっ!!)
「さ、サーボ先生何でっ!?」
「サーボ殿っ!? わ、妾たちの為に囮にっ!?」
(違うからぁあああああっ!! 助けに来てよぉおおおおおおっ!!)
「さぁああああぼおおおおおおおおおおおおっ!!」
急降下する俺をめがけてキマイラが迫る。
遅れてタシュちゃんがこちらに来ようとしたが間に合わないだろう。
空中で動きが取れない俺に向かい、キマイラが全ての口を開く。
火炎と吹雪と暴風と土石をぶつけて確実に殺そうというのだろう。
流石にもうどうしようもない。
ここまで絶望的な状況は初めてだった。
諦めが心に忍び寄る。
(ああ、今度こそ終わりか……無能の俺にしては生き延びたほうか……)
世界の全てがゆっくりと進んでいく。
(どこを間違えたのかなぁ、やっぱりリース国から出るべきじゃなかったのかな……)
魔物の動きが妙にはっきりと見える。
(いや、あの三人から離れたことか……あの三人と……俺の……大事な弟子たちと……)
空を見上げる、魔物越しに見える太陽がまぶしい。
何か既視感を覚えながら、俺はもう目を閉じてしまおうとした。
『サーボ先生っ!!』
『サーボ先生っ!!』
『サーボ先生っ!!』
記憶が甦る、懐かしい声が聞こえた気がした。
(冗談じゃねぇ……諦めてたまるかっ!!)
萎えたはずの気力が湧き上がってくる。
目を見開く、絶望的な現実は何も変わっていない。
だけど俺はまだ生きている、まだ終わってなどいない。
(俺は馬鹿か……あの時を思い出せよ……最後まであきらめんなっ!!)
かつて似たような絶望的な状況で、死を待つしかなかったあの状態で俺は生き延びた。
救援が間に合ったからだ。
今回だって同じかもしれない。
一分でも一秒でも生きながらえれば……何かが変わるかもしれない。
(もう諦めるもんかよっ!! 俺は、俺の命だけは諦めねぇっ!!)
そうだ、俺は俺の命の為なら何でも踏みにじれる。
逆に命だけは最後の最後まで諦めちゃいけない。
たとえどれだけ無様で愚かしく、無駄なあがきだとしてもだ。
(この状況でできることは何だっ!! 考えろっ!! 考え続けろっ!!)
仮に一秒後に死ぬとしても、俺に諦めなど許されるはずがない。
屑で無能な俺が、膨大な取捨選択の果てに選んだのが命を繋ぐことなのだから。
才能に恵まれてない俺にサボる暇なんかない、ただ一つ選んだことを掴むためだけに俺は考え続ける。
そしてすぐに答えは出た、俺に出来ることなんか決まっている。
(でまかせっ!! 嘘っ!! 何でもいい、口にしろっ!!)
この状況で俺が出来ること、いやいつだって俺が出来ることはそれだけだ。
なら最後の瞬間までそれをしよう、仮に無駄だとしてもだ。
(何を言えばいい……時間的に口にできることは多くないっ!!)
必死に思考を巡らせる。
この状況を改善できる魔法の言葉。
そんなものが無能な俺に思い浮かぶはずがない。
なら言葉に拘るな。
発想を逆転させろ。
あらゆる偶然が俺に味方するとして、この状況で俺が助かる具体的な案はなんだ。
(そんなもん決まってる……いつだって無能な俺のピンチは俺以外の誰かが……あいつらが打開していたっ!!)
だから俺は、何とか首だけでも捻って遥か下の大地に向かって……叫ぶ。
「カノちゃんっ!! シヨちゃんっ!! テキナさぁあああああああんっ!!」
「シャァアアアアアアアアアアアアっ!!」
大声で叫ぶのと魔物が攻撃を放つのは殆ど同時だった。
「サーボ先生っ!?」
「サーボ様っ!?」
「くぅ……っ!?」
咄嗟に両腕を上げて身体を守ろうとして、何かが隣を通り抜けた。
「はぁああああああああああっ!!」
「ぐ、ぐぅうううっ!?」
「て、テキナさんっ!!」
地上から飛び上がってきたテキナさんが敵の攻撃を切り払い、そのまま顔を切りつけた。
(キャァアアアアっ!! テキナさぁああああんっ!! そうでなくちゃぁああああっ!!)
「き、貴様ぁああああああっ!!」
「ちぃ、硬いっ!! ならこっちはどうだっ!!」
当たった箇所が切り裂かれ魔物の体勢も崩れたが、流石のテキナさんでも一撃で倒すことはできなかった。
しかし敵のダメージが癒えないうちにテキナさんは魔物の身体の上を走り抜けると翼の一部を切り裂いて見せた。
「ぐぉおおおおおっ!! おのれぇええええっ!!」
「サーボ先生っ!! テキナさんっ!!」
「タシュちゃんっ!! こっちだっ!!」
「すまないっ!!」
バランスを崩し落ちていく魔物から飛びのいたテキナさんと俺をタシュちゃんが回収する。
「テキナさん、よく来てくれたねっ!!」
「サーボ先生こそどこに居たのですかっ!! ずっと、ずっと探していたのですよっ!!」
テキナさんが涙すら浮かべながら片手で俺の頭を抱いた。
いつもならこんな状況でと腹立たしく思うところだが……今はその温もりがありがたかった。
「どれだけ私たちが苦しんでいたことか……もう声が聞こえた時点で自然と身体が動いておりました」
(だからあんなに早く……丁度、下のほうにいたんだろうけど……助かったな)
「そうか……すまないね、だけどお陰で助かったよ」
「それで何をして……と聞いている余裕はなさそうですね……サーボ先生、あの魔物を倒せばいいのですね?」
「ああ、察しが早くて助かる……あれが今回の親玉だっ!!」
俺の言葉に涙を振り払うと、テキナさんは強い決意を秘めた眼差しを向けながら頷いた。
「流石先生、あれほど我々が見つけられずにいた親玉を……では、このテキナ全力で退治してまいりますっ!!」
「頼んだよっ!!」
「はぁあああああああっ!!」
タシュちゃんの身体から勢いよく飛び降りたテキナさんは、落下する魔物に向かって剣を構える。
「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、聖輝剣っ!!」
テキナさんの持つ剣に光が満ちる。
セーヌのそれよりも遥かに眩い輝きに満ちた魔法剣に落下する勢いを乗せてテキナさんが全力で魔物に叩き込む。
「ぐぉおおおおおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああああっ!!」
魔物の巨体が光に飲み込まれる。
全てを消し去るような清浄な光に包まれて、全身を溶かしながら魔物は落下していく。
そして魔物の巨体が大地にぶつかる凄まじい衝撃音が聞こえてきた。
(か、勝ったぁああああああああああああっ!! 流石テキナさんだっ!!)
後を追うように降り立つと、倒れて動かないキマイラの巨体の近くでテキナさんが荒い呼吸を繰り返していた。
「はぁ……はぁ……強敵だった……」
(ほぼ瞬殺だったじゃねえか、何言ってんだこいつはっ!?)
「サーボ先生っ!!」
「サーボ先生ぇっ!!」
「サーボよ、これは一体っ!?」
「「「「「「「サーボっ!?」」」」」」」
呆れている俺の耳に聞き覚えのある声が届く。
振り返ると同時に俺の身体に抱き着く二人の子供……カノちゃんとシヨちゃん。
「い、今までどこで何してたの先生っ!! ぼ、ぼくずっとずぅっと探しててぇっ!!」
「サーボ先生が居なくて心細くてぇ……わ、私何度も泣いちゃいそうだったんですよぉっ!!」
「ごめんね、他にやることがあってね……頑張ったみたいだね、偉い偉い」
二人の頭を撫でながら顔を上げると、カーマと仲間それにセーヌの仲間が信じられない物を見る目を向けていた。
さらにその奥を見通せば城壁も見えた。
どうやらちょうど王都のすぐ近くで俺は落下したらしい。
(道理でテキナさんが駆けつけてこれたわけだ……はぁ、本当に今回はぎりぎりだったわぁ……)
「皆さん、ここに来たということはマンティコアの群れは消滅したということでいいのですよね?」
「ああ、急にテキナさんが飛び上がったと思ったら先ほどの衝撃と……連動するように消え去っていったよ」
「もしかして……そのでっかい魔物が一番の親玉だったのっ!?」
「す、すごいですサーボ先生っ!! 私たちがどんなに頑張っても見つけられなかったのにこうもあっさりとっ!!」
全員から尊敬に満ちた目が向けられる。
ただ一人、ヒメキ様だけが悲痛な顔で崩れ落ちたキマイラを見つめていた。
「これも……全て妾が愚かであったがために起きた悲劇なのだな……サーボ殿、妾はどう責任を取ればよいのだ?」
(んなもん知るか……腹でも切れよ……)
こいつが移動し続けなければもっと早く解決していたはずだ。
どうしようもない戦犯だ。
腹立たしいが、だがわざわざ責めたところで何の得にもならない。
「ヒメキ様に責任はございませんよ……ただ魔王軍が狡猾であっただけのこと、気にする必要は……」
「なっ!? ま、魔物の援軍かっ!?」
「っ!?」
カーマ達が空を見上げ、臨戦態勢をとる。
(ま、まだいんのかっ!? こいつが一番の親玉じゃなかったのかよっ!?)
慌ててカーマ達の視線の先へ意識を向けて、ほっと肩の力が抜けた。
「カーマ殿、あれは俺たちの味方です……このタシュちゃんの部下のワイバーンです」
「なっ!? そ、その子は……ドラゴニュートっ!?」
「そうだ、私こそ偉大なる龍人族の次期族長のタシュであるっ!!」
今更気が付いたようで驚くカーマ達に薄い胸を張るタシュちゃん。
「でもタシュさんはここにいるのにどうやって操ってるんですかぁ?」
「いや私じゃないぞ、恐らくテプレさんだろうな……私の義姉妹になるのだから一応やり方を教えておいたのだ」
(龍人族の秘奥がぽろぽろお漏らしされている件……そりゃあギリィもこいつが即位するの嫌がるよなぁ)
内心呆れている俺の視線に気づかず、ワイバーンを出迎えるタシュちゃん。
言葉通り背中にはテプレ様とセーヌ殿、そしてミリアさんとミイアさんが乗っていた。
「皆さまご無事でございましたかっ!!」
「ヒメキ様、よかったぁっ!!」
「セーヌ殿っ!?」
「何だよ倒せたのか……はぁ、せっかく今度こそぶっ倒してやろうと思ったのによぉ……」
全員が降り立ち、俺以外のみんなが駆け寄り再開を喜ぶ。
「はは、何はともあれ解決したわけだ……後はこの国を復興させるだけかな?」
(はぁ……本当に面倒な事件だったよ)
「はーい、またまたシヨ頑張っちゃいますねぇ」
「うぅ……さ、サーボよ何とか言ってやってくれ……」
シヨちゃんの言葉に露骨に嫌そうな顔をした勇者一同を不思議そうに眺めるミリアさんとミイアさん。
俺は少し離れたところからそんな皆の様子を見回して……少しだけ笑えてきた。
「ははは、でも復興事業は……」
「うごぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「っ!?」
なごみ始めた雰囲気を断ち切る様にキマイラが起き上がった。
そして咆哮を上げると辺りから黒い霧が立ち込め、キマイラを包み込んだ。
「こ、これはっ!?」
「ま、マンティコアの死体があった場所から立ち込めてますぅっ!?」
「くっ!? こ、攻撃するんだっ!!」
「わ、ワイバーンっ!!」
「「「「「「「「「「闇を打ち払う閃光よ我が名により力と成せ、聖輝光っ!!」」」」」」」」」」
咄嗟に出した指示の元、勇者九名とワイバーン二十匹と大僧侶が一斉に攻撃を放つ。
ヴァンヴィル様を退治したとき以上の圧倒的な火力が黒い霧ごとキマイラを包み込んだ。
「がぁあああああああああああああああああっ!!」
しかし魔物はそれを耐え抜き、全ての口から咆哮と共にブレスを放射しこちらの攻撃を力ずくで振り払った。
「な、何が……っ!?」
「ど、どんどん巨大になっていくっ!?」
俺たちの見ている前でキマイラは霧を吸収しきると身体を起こした。
身体は一回り大きくなり、後ろ足で立ち上がって俺たちを睨みつけている。
「ぐぉおおおおおおおおおっ!!」
そして怒りを込めた咆哮をあげながら、まっすぐこちらへと突撃してきた。
「聖なる祈りに応え悪しき者に制約を齎し賜え、聖祈鎖っ!!」
血走った目で俺たちに迫りくる魔物を、テプレ様の魔法が縛り上げた。
しかし拘束は一秒と持たず打ち破られ、勢いが収まらないまま襲い掛かってくる。
「はぁあああああああっ!!」
「うぉおおおおおおっ!!」
「おりゃああああああっ!!」
テキナさんとカーマとセーヌという勇者の中でも頭一つとびぬけた実力者三人が正面からぶつかりに行く。
「がぁあああああああああああああああああっ!!」
「なぁっ!?」
「くぅっ!?」
「ちぃっ!?」
もはや言葉を発することもなくなったキマイラは乱暴に腕を振り回し、あっさりと三人の攻撃をも凌いでしまう。
「「「「「「我が魔力に従い雄大なる大地の威勢を示せっ!! 地衝撃!!」」」」」」
カーマとセーヌの仲間が前に進み出て大地に手をつき、呪文を唱え上げる。
キマイラの足元が一気に隆起し、無数の極太の槍が魔物に襲い掛かる。
相乗効果によりいつかのテキナさんが放ったのと同じ魔法とは思えないほどの規模と威力だ。
「がぁああああああああああああああああっ!!」
「あ、足止めにもならないのかっ!?」
それら全てが掠り傷をつけることはおろか、キマイラの動きを鈍らせることもできない。
「がぁああああああああああああああああああっ!!」
(狙いは……俺かっ!!)
呪文を放った直後で隙だらけの勇者たちを行きがけの駄賃とばかりに弾き飛ばしておきながら、追撃をくらわせようともしない。
ただひたすらに俺だけを見据え、突撃してくるキマイラ。
「サーボ先生っ!! 危ないっ!!」
「サーボ先生っ!! 逃げてぇっ!!」
「サーボ先生っ!! 避けてくださいっ!!」
「サーボ先生っ!! 駄目だっ!!」
「サーボ先生っ!! そこに居ては危険ですっ!!」
俺を慕う女性たちが悲痛な叫び声をあげる。
「サーボっ!! 逃げよっ!!」
「サーボっ!! そっから離れやがれっ!!」
カーマとセーヌも必死の形相で叫ぶ
「サーボ様っ!?」
「サーボ様ぁっ!?」
「サーボ殿っ!?」
戦い慣れしていない女性陣は俺の名前を呼ぶことしかできない。
「「「「「「サーボっ!!」」」」」」
皆の視線が俺に集中している。
(分かってるよ……全くよぉ、この状況で俺に何ができるってんだよ?)
魔物の勢いは凄まじい、逃げられるはずがない。
魔物の執念は凄まじい、逃げきれるはずがない。
魔物の能力は凄まじい、戦って勝てるはずもない。
内心呆れながらまっすぐ迫る魔物を見据える。
正直どうしようもない、打つ手がないとはこのことだ。
(けど、まあ……諦めてはやらねぇけどなっ!!)
だけど命だけは投げ捨てない、ただ頭を回転させる。
俺の元まで魔物が辿り着くまで数秒、攻撃が届くまでもう数秒。
その僅かな時間も利用して考える。
俺が生き延びる方法を……この魔物を止める方法を……この窮地を抜け出す方法を。
周りの状態を確認する。
迫りくる魔物の後ろで弾き飛ばされた勇者たちが体勢を立て直している。
上空ではドラゴン軍団がタシュちゃんの指示を待っている。
テプレ様とタシュちゃんは少し離れたところで、他の非戦闘員をカバーしている。
要するにこの状況を打破するのにいつものように皆の手は借りれない。
少なくともこの一撃だけは実力で凌ぐ必要がある。
(なら、やることは一つだけだよなぁ)
俺が唯一自慢できる力で何とかするしかない。
無能な俺の数少ない拠り所、今日まで命を繋いできた能力。
この場にいる全員から誤解される原因となった……ここにいる全員を騙し切っている……口八丁、でまかせだ。
俺は考える。
(……いや、俺なんかが何を言っても無駄だな)
理性を失いつつあるキマイラを……俺を憎み切っているこいつを止め得る一言。
そんな言葉が俺みたいな屑な奴にあるわけない。
あるとすればそれは……俺なんか比べ物にならないぐらい偉大なカリスマのある奴の言葉でなければいけない。
だからこそ俺は深呼吸すると、いつも通り真摯な態度を装いつつ重々しい口調で一か八かのでまかせを口にした。
「やれやれ、まだ気づかないのか……愚かだねぇキメラント君……我はチーダイであるぞっ!!」
(俺の言葉じゃダメでも、人間に化けた上司の言葉だと誤解すれば止まるはずだっ!!)
分の悪い賭けなどという言葉で表現しきれないほどの愚かで無様な発言だった。
こいつの属性は全てが絡んでいる以上はチーダイが上司とは限らないし、こんな口調なのかどうかもわからない。
マンティコアが人間に化けた魔物を見分けられなかったとはいえ、こいつも見分けられないとは言い切れない。
更に言えば俺はキマイラの正体を暴いた際に結界の中に入っているのだからそのことを思い出せれば簡単に嘘だとわかってしまう。
おまけにそもそもここまで激高している状態では、言葉などは耳に入っていないかもしれない。
失敗する要因は山のようにあり、成功する確率は零に近い。
だけどこれしかできないのだ、ならばやるだけだ。
どれだけ情けなく惨めな策だとしても、僅かにでも生き残れる可能性があるならやってやる。
それが……屑で無能な俺の全力だ。
「わ、我の名前を知ってっ!? ち、ちぃだいさまぁああああああああああっ!?」
そして俺のどうしようもないペテンは、勇者たちをも跳ね除けた強大で恐ろしく圧倒的な魔物を押さえつけた。
頭に血が上っているうえに一度は倒されかけ、心身ともにボロボロで正常な判断ができなかったのだろう。
「な、何故このようなところにぃいいいいいいっ!!」
俺の言葉を信じきって目の前にひれ伏したキマイラ。
そんな魔物に向かって俺は微笑みを浮かべたままゆっくりと口を開いた。
「嘘に決まってるだろ、馬鹿かお前?」
「っ!?」
顔を上げた魔物は俺の見下す視線に気が付き、ようやく自分が騙されたと気づいたようだ。
「さ……さあああああああああああぼぉおおおおおおおっ!!」
(そうさこれがサーボだ、よく見とけよ……冥土の土産になぁっ!!)
身体を起こし俺に襲い掛かろうとするキマイラ、だが遅すぎた。
こんな致命的な隙を偉大な称号を持つ者達が……俺と違って優秀過ぎる奴らが見逃すはずがないのだ。
「聖なる祈りに応え正しき者達に偉大なる祝福を齎し賜え、聖祈昇威っ!!」
大僧侶の魔法がこの場の皆に更なる力を与える。
「「「「「「「「「邪を払う閃光よ我が剣に宿り力と成せ、聖輝剣っ!!」」」」」」」」」
九人の選ばれし実力を持つ勇者が凄まじい勢いでキマイラに迫りながら確実にダメージを与えられる魔法剣を振りかざしている。
「サーボ先生っ!!」
龍人族であるタシュちゃんが上空から魔物を追い越し俺に迫る。
「サーボ先生っ!!」
タシュちゃんに抱えている大盗賊のカノちゃんが一瞬の交錯のうちに俺を捕らえ、この場から逃がしてくれる。
「やりましたねぇっ!!」
二人に指示を出したのは指導者の才能があるシヨちゃんだろう。
「じゃあな、バケモンっ!!」
「さぁああああああああああああぼおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
強引に繰り出した攻撃ではタシュちゃんの速度に追いつけるはずもなく、俺たちを狙った魔物の腕はあっさりと宙を舞った。
「「「「「「「「「はぁあああああああああああっ!!」」」」」」」」」
攻撃を躱され無防備となった魔物の身体に、テプレ様の魔法で威力が上がった九人もの勇者の魔法剣が同時に突き刺さった。
相乗効果により、もはや瞼を閉じていてなお視界が白く染まるほどの閃光が世界中を覆い尽くした。
そして悪しき意志のある魔物だけを溶かし蒸発させていく。
「さぁああああぼぉおおおおおおおおおおおおおおあぁあああああ…………っ!!?」
キマイラの憎しみが篭った断末魔さえ飲み込んで、浄化の光は厳かに広がっていった。
どれだけの間、輝きは持続しただろうか。
ようやく魔法剣が効果を失い世界が色を取り戻した時、そこにキマイラは影も形も残っていなかった。
「や、やった……勝ったぞぉおおおおおおおっ!!」
「今度こそ……今度こそ勝利だぁああああっ!!」
「や、やりましたよぉおおおおおっ!!」
勇者たちが勝利を実感し歓声を上げている。
「「「「「勇者様ばんざーーーーいっ!!」」」」」
気が付けば騒ぎを聞きつけた王都の人々が顔を覗かせ、俺たちの元に届くほどの大歓声を上げていた。
俺はそんな人々の声を聞きながら、ようやく安堵の溜息をついた。
(きつい戦いだったわ……もう二度としたくねぇわ……はぁ……)
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