ツメヨ国へ……行かせていただきますぅ
「サーボ先生、リース国内を見回りましたがとりあえず何とか食料事情は改善されたようです」
「そうかぁ……バンニ国の方は変わりはないかな?」
「はい、今のところ強い魔物も難民も入ってくる気配はないし食料もイショサ国と交易して賄えてるって言ってた……ました」
(多分魔王軍は勇者と大僧侶を退治することを優先してんだろうなぁ……俺がたまたまここに居なきゃ目論見通りいってただろうし……)
「それは良かった……けどバンニ国のほうも定期的に見回ってあげてくれ……」
「うむ……じゃなくてはい、わかりました」
(これで当面の問題は後一つ……)
俺はタシュちゃんと話しながらそっと窓の外を見てみた。
村の中を通り過ぎる人々が、俺のいる家の前を通るたびに頭を下げたり祈りを捧げたりしている。
勇者を野宿させるわけにはいかないと提供された家の中で身体を休めながら、内心ため息をつく。
(また無駄に有名になっちまったよぉ……うぅ、俺はどこに行けばいいんだぁ……)
今回の一件でこの国中に俺の名声と顔が知れ渡ってしまった。
どこに行っても同じような扱いをされるだろう。
「ところでサーボ先生、ツメヨ国にはいつ行くんですか……テプレさんも心配してたよ……ましたよ?」
「ま、まあもう少し情勢を見定めてからだねぇ」
これでこの質問は何度目だろうか、そのたびに同じ答えを返している。
しかし時間がたつにつれどんどん追及は激しくなるだろう。
(俺は行きたくねぇんだよぉ……どうにかして逃げないとタシュちゃんにツメヨ国に運ばれかねない)
しかしどうやって逃げればいいのだろうか。
タシュちゃんは地味に俺の知るあらゆる存在より移動速度だけは早いのだ。
見られている以上は追跡を振り切ることは不可能だ。
「そういえば、タシュちゃんは里に帰らなくて平気なのかい? いつまでもうろついていたら長が心配するだろう?」
(その隙に逃げるからよぉ……さっさと帰ってください……)
「安心してください、実はちょくちょく顔見せに戻ってますから……移動速度には自信があるっていったでしょ……ましたよね」
「そ、そうかぁ……じゃあ安心だねぇ……はは……」
(駄目かぁ……こうなったら配給用の食料を調達しに行く瞬間に逃げ出すしかねぇか……)
問題はそのあとどこに行くかだ。
この領内ではどこに行こうとも村人が騒ぎ立て居場所がテプレさんにバレてしまう。
そうなれば万が一この場にしがみついていても、いずれ三弟子が押しかけてくるだろう。
それでは元の木阿弥だ。
(かといって他の所は危険すぎる……もう俺一人で移動できる状態じゃない)
ツメヨ国は論外。
バンニ国はプリスちゃんに見つかりかねない上に、隣にあるツメヨ国からいつ魔物が攻めて来てもおかしくない。
イショサ国ならしばらくは安全かもしれないが、あそこには俺を全力で憎んでいるであろう勇者の里がある。
縁者が領内をうろついていないとも限らないし、さらにはカーマとセーヌが本拠地にしているはずだ。
つまりどこに行こうとも関係者の目が光っていて、危険極まりないのだ。
(いっその事、龍の里に婿入り……ああ、そういえばこいつ里では嫌われ者だったわ)
そんなやつが無能な外部の人間を婿として連れ込んだらどうなるか……間違いなく好意的には見られないだろう。
下手な魔物より強い龍人族から恨まれて生きていける自信などない。
(こうなったら違う大陸に……コネも何もない上に情報も無いのに危険すぎるなぁ)
やはり無理やりにでもこの国で住んでいるのが一番安全かもしれない。
(とにかく何にしても……今一番危険であるツメヨ国にだけは行かない、これだけは絶対条件だっ!!)
「サーボ先生、何を考えているんですかぁ?」
「色々だよ、今回の魔王軍はかなり手ごわいらしいからねぇ……」
「もしも私の力が必要なら言ってくださいね……何でもするよ……しますから」
(俺のことを忘れて今すぐどっか行け……って言っても聞かないくせに……しくしく……)
「ひひぃいんっ!!」
「おや、俺の馬がどうかしたのかな?」
急に家の外から馬の嘶きが聞こえてきた。
様子を見るために外に出てみると、ミリアさんが村人から説教を受けているところだった。
「何をしてるんだっ!! 勇者サーボ様の馬に手を出すなんてっ!!」
「うぅ……わ、わかってますけど……私はもう耐えられないんですっ!!」
「だが、偉大なるサーボ様の持ち物に……っ!!」
「皆さん、それぐらいにしてあげてください……」
「おお……サーボ様がそうおっしゃるのでしたら……」
俺の言葉を受けてミリアさんを残して村人たちは解散していった。
「ミリアさん、そんなにツメヨ国に行きたいのかな?」
「サーボ様……は、はい……私やっぱり家族を放っておけませんっ!!」
強いまなざしで俺を見つめて訴えるミリアさん。
遠くの方では旦那さんが小さくなっている。
この間の一件で決定的に夫婦の仲に亀裂が入ったようだ。
(そうなるとミリアさんとしてはどうしてもツメヨ国にいる家族に執着したくなるよなぁ……そうだっ!!)
ふと思いついた。
「分かったよ……ミリアさんの家族を思う気持ちは痛いほどわかる、俺が連れて行こうじゃないか」
「えぇっ!? い、いいのですかサーボ様っ!!」
「ああ、これほど強い気持ちを抱えていては止めても勝手に行ってしまうだろう……俺は死地に向かうものを見捨てられないよ」
俺は重々しく頷きながら、タシュちゃんのほうを向いた。
「俺はツメヨ国に向かう、タシュちゃんはこのことをテプレさんに伝えつつ食料運搬を続けてくれ」
「は、はい……わかった……りました」
「大事な仕事だ、頼んだよ……そして余裕が出来たら君もツメヨ国に来て、俺かもしくはテキナさんたちを見つけて合流するように」
「必ず駆けつけますっ!! サーボ先生の元にっ!!」
(無理でーすっ!! だって俺はそこに行かないモーンっ!!)
これでテプレさんとタシュちゃん、そして恐らくプリスちゃんも俺がツメヨ国に向かったと思うはずだ。
その上で俺が途中でミリアさんと別れて行方不明になれば、皆戦死したと思うはずだ。
もしも俺が死んだと信じなくても、探索する場所はツメヨ国に限定されるはずだ。
(その間俺は廃墟になった元カーフ村辺りに潜んで暮らせばいい……)
何だかんだで食料はまだ残っている。
一年近く人里離れて暮らしていれば見た目も汚れきり変貌して誰も気付かなくなるはずだ。
そうすればもう俺が勇者として危険なことをする必要は無くなる。
今度こそ完全に隠居できるはずだった。
「善は急げだ……早速行こう、ミリアさんっ!!」
「は、はいっ!! お願いしますサーボ様っ!!」
「サーボ先生、ミリア殿……御無事をお祈りしておりますっ!!」
ミリアさんと一緒に馬にまたがった俺はタシュちゃんを首尾よく置き去りにして村を後にした。
(よーし、後は人気がないところについたところで理由をつけてこいつを降ろして走り去るだけだっ!!)
ミリアさんでは馬の足に追いつけるはずもない。
我ながら今度こそ完璧な計画だ。
(魔王軍のほうも勇者パーティにドラゴン軍団も加われば流石に片付くだろ……)
もう憂いは何もない。
後はミリアさんと別れるだけだ。
村からある程度離れたところで俺はついに馬の足を止めた。
「サーボ様……どうなさいましたかっ!?」
(お前を捨ててくんだよ……さて、どう説得したものか……)
理由など何でもいい。
「少し馬の様子が変に感じてね……悪いけども降りて足回りの様子を見てくれないかな?」
「……っ」
「どうしました、ミリアさ……っ!?」
背後に乗っていたミリアさんがどこからか短刀を抜き取り、刃を俺の首筋に当ててきた。
(な、何だよおいっ!? こ、こいつ何考えてんだっ!?)
「サーボ様、あなた様の考えていることは分かっております……」
「っ!?」
(お、俺がミリアさんを置いて逃げるつもりなのに気づかれたのかっ!?)
一体どうして気づかれたのかまるで分らない。
ただ分かるのは俺の命が危険であるということだけだ。
「す、すみませんっ!! お許しください、決して悪意があったわけではないのですっ!!」
(あ、謝るしかないっ!! 何もかも差し出して命だけは助けてもらおうっ!!)
「では……このままツメヨ国に進んでいただけますね」
「も、もちろんですよっ!! 進ませていただきますっ!!」
(まさか刃物を持ってたなんてっ!! 後ろに乗せたのが間違いだったぁっ!!)
もう逆らうこともできない。
俺は言われるがままにツメヨ国に向かって馬を走らせる。
「……ありがとうございますサーボ様、そしてあなた様の好意を踏みにじってしまい申し訳ございません」
(な、何のことだっ!? 訳が分からんが下手に刺激できねぇっ!!)
「お、お気になさらずに……俺の方こそミリア様に失礼な真似をしようとして申し訳ない限りです」
「うぅ……そのようにおっしゃらないでくださいませ、全てはサーボ様の思いやりだと分かってはいるんです……」
振り返れないからわからないが、ミリアさんは何やら涙を流している気がする。
(泣きたいのはこっちのほうだってのぉおっ!! 何なんだよお前はぁあああっ!!)
「ですがどうしても私もツメヨ国に行きたいのです……私の身を案じて置いて行こうとしたサーボ様の気持ちは嬉しいですけど……」
(おいおいおい、そ、そういうことかぁああああっ!!)
どうやら俺がミリアさんの身を気遣って、安全なこの地に置き去りにして一人でツメヨ国に乗り込もうとしたのだと勘違いしたようだ。
壮絶な誤解だが、勇者である俺に刃物を突き付けるまでに追い詰められているミリアさんだ。
下手なことをすれば間違いなく刺されることは目に見えている。
(こ、これじゃあ行くしかねぇじゃねえかよぉおおおっ!!)
もはや止まることはできない。
俺は俺の命を守るために、死地へと飛び込む羽目になった。
(も、もういやだぁ……何で俺はこんな目にばっかりあうのよぉおおおおおおおっ!!)
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