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名も無き村へ……俺は自由だっ!!

「さあ、サーボ先生……今度こそツメヨ国へ人々を救済に向かいましょうっ!!」


「そうだよね……随分こっちで時間使っちゃったもんねぇ、急がないとっ!!」


「カーマさんとセーヌさんが助けに行ってるとも限りませんし……私たちが行かないと駄目ですよねぇ」


(そんなこと知るかよ……悪いが今度こそお別れだ……)


「気が焦るのはわかるけど最低限の旅支度はしておこう……ひょっとしたらツメヨ国では物を買えない可能性もあるのだからね」


 俺はイショサ国でしたように全員に役割分担するように指示した。


 シヨちゃんは情報収集、カノちゃんは生活必需品、テキナさんには武装を調達するように頼んだ。


「サーボ先生はどうなさるのですか?」


「少し考えたいことがあってね、別行動をとらせてもらうよ……準備が終わった者から人力車に集まろうね」


(まあ俺は領内の別の村に行くんだけどな……じゃあな、お前らっ!!)


 納得して解散した三弟子を見送ってから俺は一旦は人力車へと向かう。


「……めぇ……めぇ……」 


 そして人力車内で眠っていたムートン君を起こさないように手紙を書き始める。


『一足先に移動します、この手紙を読んだらすぐにツメヨ国へと向かうように……そこで俺に出会えなければカーマかセーヌと合流して共に行動するように』


 この書き方ならあいつらは俺がツメヨ国に行ったと思って、慌てて後を追いかけるはずだ。


 当然そこに俺が居ない以上は、手紙の指示に従ってカーマかセーヌのパーティに入らざるを得ない。


(しばらくは反発するかもしれないが、パーティを組んで行動してればあいつらもいずれ馴染むだろ)


 我ながら完璧な計画だった。


 これを人力車内に隠すと事前に用意しておいた馬に乗り王都リースを後にした。


 目的地は丁度ツメヨ国の反対側にある北のはずれにある小さい村だ。


 ここならまだ俺の顔は知られていないと思う。


 何よりツメヨ国までの通り道からかけ離れているから三弟子に見つかることもないだろう。


(やっと……ようやく俺は安全と自由を取り戻したぞぉおおおおっ!!)


 嬉しいことこの上ない。


 お金は十分ある。


 あとは勇者のみんなが世界を救うまで……いや救った後もずっと凡人として暮らそう。


(村が見えてきた……さぁて、一応警戒して進もう……)


 農作業をしている村人たちは馬に乗って入ってきた俺を一瞬訝し気に見た。


 しかしすぐに仕事へと戻った。


 予想通り俺の顔は知られていないようだ。


 後は眠る場所を探すだけだ。


(宿屋に泊まり続けたら金がかかるからなぁ、節約節約……)


 結界内で魔物が居ないこともあり、雨風さえ凌げれば外で寝たってかまわない。


 丁度、村のはずれにある自然が残った地帯に小さい洞穴を見つけた。


 とりあえずはここで寝泊まりして、必要な物だけ村に買いに行けばいい。


 馬を近くの木につないで、俺は早速洞穴の中で横になった。


「はぁぁ……やっと落ち着いたわぁ……」


 今度こそ勇者としての義務、いや労働から解放された。


 屑で無能な俺にふさわしい場所に辿り着けたのだ。


(もう頑張らねぇぞ……このまま自堕落に生きてやる)


 これこそが俺の望んだ生活だ。


 ただ食って寝て、命をつなぐだけの日々。


 無能であることを理解した日から、俺にはこれを目的に生きてきた。


(他には何もなかった……目指せなかったからなぁ)


 この間の試練を思い出す。


 恐らく俺は、本当はああなりたかったのだろう。


(才能の有無を努力だけで覆して皆に認めさせる……できるんならそうしたかったんだなぁ俺は)


 だけどもそれは無理な話だった。


 この俺が死に物狂いで、里の誰よりも努力したところで……あの夢のようには決してなれない。


 勇者コンテストで優勝など望むべくもないのだ。


(テキナさんに追いつけるはずがない……いや、カーマやセーヌですら遥か雲の上だ……)


 それでは意味がない。


(俺の望みは叶わない……理想の自分には絶対になれないんだよなぁ、酷い話だ)


 もっともだからこそあの試練を突破できたのだ。


 皮肉にも俺の望んだ光景は俺には届かない世界で、余りにもかけ離れ過ぎていたから受け入れることができなかった。


 他の皆の理想は何だかんだで現実でも手に入り得るもので、だからこそ否定できず失敗してしまったのだろう。


 彼女たちには才能があるから……俺にはないから……その差は歴然としているのだ。


(まあ勇者として最後の最後には役立てたみたいだし……俺にしては上出来だろぉ)


 とにかく俺はもうリタイアだ。


 無能に似合った生き方をさせてもらう。


(勇者許可証はどうするかなぁ……もう要らないんだが、破き捨てるか?)


 少し考えて荷物にしまい込んだ。

 

 万が一お金が尽きたり、盗まれたりしたときのことを思えばこれは生命線だ。


(お金がない状態で勇者の称号すらなかったら、俺には普通の生活すらおぼつかねぇからな)


 懐にしまった金貨と銀貨を取り出して数えてみる。


 今後、こうして暮らしていくうえでどの程度節約していくか計算しようと思ったのだ。


(どうせ時間は有り余ってるしなぁ……)


 大雑把に計算したところ、一日当たり使えるのは微々たる額だ。


 これ自体は仕方がない、問題は……馬の餌代だ。


 移動の為に購入したが、よくよく考えれば俺一人生きていくので限界なお金しかないのだ。


 今はその辺の草をハミハミしているが、いずれ近場の草など食いつくす。


(もう要らねぇし、村に売っぱらうか……)

 

 格安で食料辺りと交換すれば誰かが引き取るだろう。


 しかし今はまだ駄目だ。


 テキナさんたちがこの領内を出るまでは見つからないよう警戒に警戒を重ねるべきなのだ。


(この辺の草を食いつくしてから村に売りに行こう……それまでは寝てよう)


 俺はゆっくりと目を閉じた。


 昼寝などするのはいつ以来だろう、懐かしく心地よく……罪悪感がした。


 この間の試練で感じたのと同じ感覚だ。


 まだどこか影響が残っているようだ。


(まあ気にしねーけど……お休み……ぐぅ……)


 無理やり寝込んだ。


 そうやって自堕落に過ごして数日が過ぎた。


 俺は馬に乗って村の中心へと向かっていた。


(こんなにも時間が過ぎるのが遅く感じるとは……里にいたときは平気だったのになぁ)


 ずっと魔王軍との戦闘で波乱万丈な時間を過ごしてきたためだろう。


 どうしてもこうしてゆったりと過ごすと暇で仕方がなかった。


 いずれはまた慣れていくだろうが、今は退屈で我慢できなくなってしまった。


 だから変化を求めて馬を処理しにいくことにしたのだ。


 この程度の売買でも少しは退屈しのぎになりそうだ。


(ついでに公衆浴場で身体を流していくか……凄い臭そうだしなぁ)


 野宿を続けた俺の身体は既に汚れ切っていた。


 事実村に入るなり、人々がじろじろと汚いものを見る目を向けてくる。


(懐かしいなぁ、里でよく浴びてた視線だ……最近感謝とか尊敬とかの眼差しばっかりだったからなぁ……)


 しかしこの調子では交渉も難しそうだ。


 その辺に馬をつないでおいて、先に風呂へ行くことにしよう。


「いらっしゃいませ」


「っ!?」


 番台に座る少女を見たとき、俺は取り乱してしまった。


 見覚えのある笑顔、魅力的な顔つきにスタイルの良い身体。


 看板娘にふさわしい外見をした彼女はミイアさんそっくりだったのだ。


 丁度他に客がいないこともあり、彼女はニコニコと俺だけを見つめてくる。


(な、何でこんなところに……というか何故俺に気づかないんだっ!?)


 顔も身体も汚れているからだろうか……いや流石にここまで見つめられれば気づかれないはずがない。


「ど、どうも……」


「ゆっくりしていってくださいね」


 とりあえず平静を装いお金を払って奥へと進んだ。


 やはり何の言及もないところを見るとミイアさんではないようだ。


(縁者ってところか……でもあの子は確かツメヨ国の出身だったはずだ……何故リース国にいる?)


 分からないことを考えても仕方がない。


 俺は思考を切り替え、素直にお風呂を堪能することにした。


 ほかに客が居ないのでついでに普段着も洗ってしまう。


(ああ、やっぱり気持ちいいなぁ……定期的に入りにこよう……)


 久しぶりに入るお風呂は心地よく、出てくる頃には全身蕩けそうで何もかもどうでもよくなっていた。


「お湯の心地はいかがでしたかぁ?」


「ああ、よかったよ」


 番台の少女はやはり他にお客がいないため暇なようで、出てきて別の服に着替えた俺に話しかけてきた。


 死角になりそうなところで洗濯物を干しておく。


(適当に話に付き合って少しでも乾かそう……)


「それは良かったです、実は今日は私が沸かしたんですよ……あの人は今日もサボってて……はぁ……」


 少し落ち込みを見せる少女の左手には結婚指輪がなされている。


(なるほどなぁ、ミイアさんの縁者がここに嫁いできたってわけかぁ……)


 なんとなく事情を察するが、わざわざ口に出したりはしない。


 絶対に厄介ごとにつながりそうだからだ。


「あはは、よくわからないけど大変そうだねぇ……まあ頑張ってください」


「はい、ありがとうございます……お客様は旅の人ですか?」


「まあそんなところだねぇ……」


「そうですかぁ……それじゃあひょっとして冒険者ギルドに登録とかしてたりしませんか?」


 首を横に振ってやる。


 登録中ではあるがまだ登録証を受け取ってないからだ。


「へぇ、旅人さんにしては珍しいですねぇ……実は私の妹がそこで働いてまして、何でしたら紹介してあげましょうか?」


「いや、好きで旅をしているわけじゃないし……そろそろ一所に落ち着きたいんだ、しばらくこの辺りに留まるつもりさ」


(ようやっと落ち着けたのに、余計なことしないでくれぇ)


「あらら、実はお客さんって何処かから追い出されちゃったんですかぁ?」


 ある意味正解である意味で大間違いだ。


(勇者の里からは追い出されたようなもんだ……勇者パーティはむしろ俺が追い出したようなもんだ……)


「はは、余り詮索しないでほしいなぁ……俺みたいなのには色々あるんだよ……」


「そうですね、すみません……私ってどうも距離感を保つのが苦手で……良く叱られてるんですよ……とほほ……」


 感情の変化が激しい。


 見ていて飽きない。


(これだけ誰にも気兼ねなく話しかけて明るい女性だ……おまけに美人とくれば人妻とはいえこの村では人気者だろうなぁ)


 まあ俺にはどうでもいい。


「あはは、まあ人によってはぐいぐい来られるのが嫌な人もいるからねぇ……客商売なら気を付けたほうがいいかもしれないなぁ」


(男の中には誤解して迫ってくる輩も居そうだしなぁ……)


「うぅ……そうですね、気を付けますぅ……そういえばお名前を伺ってませんでしたね、私はミリアといいますっ!!」


「おいおい、気を付けるって言った傍からぐいぐい来てるじゃないかぁ……俺はマシメだよ」


 念には念を入れて偽名を使っておこう。


「ああ、またやってしまいましたぁ……ごめんなさぁいマシメさぁん……」


「気にしてませんよ……おや、新しいお客様みたいですよ?」


「ああ、いらっしゃ……ってダナっ!! やっと戻ってきたのぉ、ほら番台変わって……」


 粗暴そうな見た目の男が入ってきた。


 ミリアさんの反応からして旦那か何かだろう。


「ああん、昼間っから風呂屋なんかやってても無駄だろう……客だってあんなのしか居ねぇじゃねえか」


「貴方が止めちゃったから朝風呂とか入ってた人は困ってるのよ……お義母さんを見習って頑張りましょうよ」


「お陰で殆ど金も残さないで死んじまったじゃねえか……いいから無駄なことしてねぇでいちゃつこうぜぇ」


「も、もう……お客さんの前で止めてっ!!」


 何やら揉めている。


 厄介ごとはごめんだ。


「どうやら俺はお邪魔のようですね、ではそろそろ失礼しますよ」


「おお、さっさと帰れ帰れ」

 

「ダナっ!! もう、ごめんなさいマシメさん……また来てくださいねぇ」


「こいつは俺の女だからな、変な期待するじゃねえぞ……というか他の奴が来る夕方しか来るなよ、薪代がもったいねぇから」


(俺はお前の女になんか興味ねぇよ……美人な嫁さん貰って付け上がってんなぁこいつ)


 恐らく村人からその手の視線を浴びて優越感にでも浸っているのか、或いは危機感を抱いているのかもしれない。


 どちらにしても俺には関係ない。


「そうですね、出来るだけ夕方に来ることにしますよ……そうだ、馬を処分したいのですが買い取ってくれそうな所はありますか?」


「ああ、んなもんこの村には必要ねぇよ……早く帰れよ」


「もうダナったらっ!! でも、確かにこの村じゃ畜産はしてないし……定期的に来る王都からの行商人ぐらいかなぁ?」


 どうやら村の出荷物と引き換えに色々と交換に来るらしい。


 ちょうど近く来るらしいのでまたその時に寄るとしよう。


 俺は頭を下げると自分の住処に引き返すことにするのだった。

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