大僧侶と
「くぅ……こ、ここは……っ!?」
意識を取り戻した俺は周りを見渡し、呆けた様子でこちらを見つめる皆の存在に気が付いた。
カノちゃん、シヨちゃん、テキナさん、テプレ様にムートン君。
(ああ、そうだ俺は試練を受けて……失敗したのかぁ)
結局俺は何もできなかった、ただ好き勝手して逃げ出しただけだ。
これで試練はやり直しだ、新しい挑戦者を連れてこなければいけない。
(だけど大僧侶様ですらクリアできないあんな試練を誰が突破できるっていうんだっ!?)
はっきり言って無理だと思う。
だけど魔王退治のためにはやるしかないのだ。
(こうなったら人海戦術だなぁ、俺に対する誤解を利用してこの大陸中の人間を動員すれば誰か一人ぐらい行けるかもしれないしなぁ)
「皆、ごめ……」
「さ、サーボ先生ぃいいいいっ!!」
「か、カノちゃんっ!?」
「サーボ先生ぇえええええええええっ!!」
「し、シヨちゃんっ!?」
「さ、サーボ先生っ!!」
「テキナさんまでっ!?」
「サーボ様ぁあああっ!!」
「テプレ様もどうしてっ!?」
「めぇえええっ!!」
「む、ムートン君っ!?」
全員が俺に飛び掛かってくる。
当然堪えられるわけもなく、俺は床に押し倒される。
(な、何だよっ!? 俺にだけ失敗の罰ゲームでもしようってのかぁっ!?)
ずる過ぎる。
「ちょ、ちょっとみんな……確かに俺は……」
「す、すごすぎるよぉおおおおっ!! サーボ先生はやっぱり世界一すごいよぉおおおおっ!!」
「ふぇええええっ!! サーボ先生最高ですぅううううううっ!!」
「サーボ先生、私はもうこの感情を言い表すことができませぇんっ!!」
「サーボ様ぁ……いいえ、サーボ先生と呼ばせてくださいませぇええっ!! 先生こそ真の大僧侶にふさわしいお方ですぅうっ!!」
「めぇえええええええっ!!」
どいつもこいつも感動したかのような涙を流しながら俺の身体にすり寄ってくる。
(何か変だぞ、どうして失敗した俺を称えてんだ? ま、まさかっ!?)
何とか首を横に向けてみると、カノちゃんが指摘していた場所に隠し通路の入り口が開いていた。
(あ、あれで成功判定なのかよぉおおおっ!?)
訳が分からない。
何もかも踏みにじって逃げ出しただけだと言うのに。
「うぅ……僕たち、全然まだまだダメダメなんだねぇ……よくわかったよぉ……」
「えぅぅ……どうしようもない未熟者ですぅ……役立たずの足手まといですぅ……」
「くぅ……私はサーボ先生に遠く及ばぬ無能な愚か者です……お許しください……」
「はぅぅ……私は才能に溺れ驕った屑のような人間でございますぅ……お導きくださいませぇ……」
「めぇえええ……めぇえええ……」
(おいおい、これどうすればいいんだよ?)
どいつもこいつも感極まって離してくれそうにない。
「ぐ、偶然だよ……たまたま上手くいっただけさ……俺たちの間に優劣なんかないさ……」
(むしろ俺だけが劣ってるのだが……まあバレなきゃいいだろ)
「それよりも早く宝箱を開けに行こうじゃないか……時間経過で通路が閉まらないとも限らないからね」
正直もう二度とあんな試練を突破できる自信はない。
自分ですら未だに何が合格条件だったか判別できていないのだから。
「うぅ……そ、そうだよね……い、急がないと」
「わ、わかりましたぁ……サーボ先生の言う通りにしますぅ……」
「は、はい……全てはサーボ先生の思うがままに……」
「え、ええ……サーボ先生のお言葉にこの身を委ねます」
「めぇえええっ!!」
ようやく全員が離れて自由を取り戻すことができた。
(ああ、苦しかったぁ……しかしまた誤解が進むなぁ……うぅ……)
こいつらの中での俺は一体どんな存在になり果てているのか、もう想像もしたくない。
「さあ、先ほどと同じ並びで進みましょう」
テキナさんとカノちゃんを先頭に、宝箱をムートン君に引きずらせながら隠し通路を進む。
人一人がぎりぎり通れる隙間を潜り抜けた先に、またしても立方体の部屋があった。
今回は一辺が10mほどの空間で、床には無数の模様が描かれている。
そしてちょうど中央に空白があり、そこに宝箱を合わせると部屋中がほのかに輝いた。
「た、宝箱が開くよっ!?」
「っ!?」
カノちゃんの言葉通り、俺たちが見ている前で宝箱はゆっくりと開いた。
すると中から煙が立ち上がったと思うと、それが人の形を取り始めた。
『……皆さま方、あえて初めましてと言わせていただきます』
どこかテプレ様に似た雰囲気の女性の姿になった煙は、何と言葉を発し始めた。
「しゃ、しゃべった……これは一体っ!?」
「特殊な魔法で魂を包み込んで形にしているのでしょう……しかし床の模様がこの国の結界に少し似ている気もします」
『ええ、その通りですよ大僧侶テプレ……あの結界もこれと同じ原理を利用してマーセに作ってもらったものですからね』
「ま、マーセ様をご存じなんですかぁ?」
煙の女性はにこやかな笑みを浮かべたままゆっくりと頷いて見せた。
『ええ、かつての仲間でしたから……自己紹介が遅れましたね、私は当時大僧侶をしておりましたイーアスと申します』
「い、い……イーアス様っ!? あ、あのかつて魔王を退治した伝説のメンバーのお一人ですよねぇっ!?」
『魔王を退治した勇者イキョサの仲間、という意味では正しいですね……』
「……意味深な言い回しですね、何か含むところがおありなのですか?」
俺の言葉にこちらを見たイーアス様は微笑みを浮かべたままゆっくりと頷いて見せた。
『あの方は殆ど一人で魔王退治を行ってしまいましたから私など何もしていないも同然でした……ふふ、偉大なサーボ様を見ているとイキョサ様の姿を思い出してしまいます』
「え……あ、あの……なんで俺の名前を?」
「そ、そういえば私の名前もご存じでございましたね……どうしてでございましょうか?」
『ふふふ、先ほどの試練を与えたのは私ですよ……当然内容もある程度は把握しておりますしそこで出た名前は憶えているのですよ』
「「「「「「えぇええええっ!?」」」」」」
イーアス様を除く全員が同時に叫び声を上げる。
どうやらイーアス様の魂自体はこの洞窟の方に取り付いているようだ、この宝箱はそれを具現化する装置というところだろう。
(あ、アレを見られてたのかよっ!? よ、よく勇者失格の烙印押されてないな俺っ!?)
『女性の皆さま方……簡単に殿方に溺れるのはふしだらですよ、それも皆揃って同じ殿方であるサー……』
「「「「や、止めてくださいっ!!」」」」
女性陣の声が小部屋に反響した。
(お、お前ら……特に大僧侶のテプレ様よぉ、色恋沙汰如き振り切れやぁあああっ!!)
めまいがしてきた。
『それに対してやはりサーボ様の素晴らしいこと……自らが望んだ環境に溺れずに、一番嫌いな存在を切り捨てる大義名分があってなお受け入れる度量……お見事でした』
「……本気で言ってるんですか?」
『ええ、本当に素晴らしい限りで……嫌いな相手を守るために内心は大切に思っている弟子すら置いて旅立つ姿は素敵でしたわ……ぽっ』
(余計なこと言うなよ……おまけに何故頬を赤らめるっ!?)
ただ命惜しさに逃げ出しただけなのだが、どうやら思いっきり勘違いしているようだ。
(過去の大英雄様にまで誤解されちまったよ俺……)
「い、イーアス様……だ、大事に思ってる弟子って最初に弟子になった子だった?」
「い、イーアス様ぁ……サーボ先生の大事な弟子って一番若い子でしたかぁ?」
「い、イーアス様……先生が内心大切に思っている弟子とは年齢の近い女性でしたか?」
「い、イーアス様ぁ……サーボ先生の試練に大僧侶の姿は見られたのでしょうかぁ?」
『教えて差し上げてもよろしいですけど、不公平にならぬようあなた方の試練の内容もサーボ様に伝えさせていただきますよ?』
イーアス様の答えに、女性陣は顔を真っ赤に染めるとあっさりと沈黙した。
(お、お前らは何を見て何をしたんだよぉっ!? というかふざけてる場合かよっ!?)
付き合いきれない、さっさと話を進めよう。
「そ、それよりもイーアス様がわざわざこうしてコンタクトを取れるように仕掛けを残したのは何のためでしょうか?」
『勿論それは魔王が復活したときに備えてです……新たに魔王を退治に行く者に啓蒙しなければいけませんから』
「啓蒙ですか……」
『ええ、それほどに魔王は強い……恐らく私たちが戦った時よりもはるかに……』
イーアス様が語るところによると魔王とは魔力そのものが意志を持ち形になったものだというのだ。
『ある意味では魔力で形作っている今の私に似ていますが……その力は桁違いなのです』
濃縮された魔力はあらゆる物を破壊できるほどの力を持ちながら、しかも時間経過とともにどんどん強くなっていくようなのだ。
(時間経過で強くなるのは勇者の里の長老が言ってたけど……当時より強いってヤバくないか?)
『また魔力で身体が形成されている関係上、普通の攻撃では効果がありません……しかし魔法も事実上無効と言えます』
魔法で吹き飛ばすこと自体は可能らしいが、魔王を上回る魔力でなければ逆に吸収されるだけで終わってしまうそうだ。
「じゃ、じゃあそんな化け物をどうやって退治したらいいのっ!?」
『かつての勇者イキョサは特別な聖剣である退魔剣を用いて退治することに成功いたしました』
聖剣というだけあって使い手の力を何倍にも引き出し、実体のない相手にも攻撃が可能になる凄まじい剣らしい。
「そ、それはどこにあるんですかぁっ!?」
『海を渡った先にあるゼルデン大陸のハラル王国に守ってもらうようお願いしてありますが……今も残っているかはわかりません』
「しかし魔王退治に聖剣が必要である以上は、数少ない手掛かりであるそこに向かうしかありませんね」
(勝手にしてくれ、俺はここの情報をパーティごとカーマかセーヌに届けて今度こそ隠居すんだよ)
『魔王は放っておけばいずれ世界を滅ぼしてしまうでしょう……それほどに危険な存在なのです』
「わかりました、必ずやサーボ先生と共に魔王を打ち倒して見せましょうっ!!」
『ええ……サーボ様、どうぞ頑張ってくださいませ……私はここで応援しております……』
(ああ、頑張って隠居してやるよ……上手くいくよう応援しててくれよ)
「イーアス様は今しばらくはその形で留まるのですか?」
『はい、魔王が退治されるまでは……ですから何か相談があればここに立ち寄ってくださいませ』
(そんなに残っていられるのかよ……伝説の英雄の魔法はすさまじいなぁ)
「そうですね、もしも相談があれば寄ることを検討することも否めませんねぇ」
「さ、サーボ先生……もう伝説の英雄の前でふざけないでよぉ……」
『ふふふ、サーボ様でしたらエッチな相談でも受け付け致しますよ……この身体でもできることはございますし……ぽっ』
(簡単に殿方になびくのはふしだらなんじゃなかったのかお前……というか何でそんなに俺を気に入ってんだよこいつは?)
案外大僧侶というだけあり、献身的で世話好きでダメ男が好みなのかもしれない。
「そ、そのような時間はございませんっ!! も、もしそのような問題があれば我々が見事に解決して見せますっ!!」
(勝手なこと言うなよテキナさんよぉ……俺はそういうのは必要ないんだよ……)
『冗談ですよ冗談……半分は……ぽっ』
全然冗談に聞こえない。
「そ、それはともかく……イーアス様、もしよろしければ私に修行をつけなおしていただけないでしょうか?」
大僧侶のテプレ様の要求にイーアス様は頷いて見せる。
『そうですね、魔王と戦う上で大僧侶としての力も必要になるかもしれませんし……ここに来ればいつでも修行をして差し上げましょう』
「あ、ありがとうございますっ!! 必ずやサーボ先生のお力になれるよう一から鍛えなおさせていただきますっ!!」
(俺じゃなくて勇者の力になれるようにだろ……こいつら本当に色ボケしてやがるなぁ)
「でもぉ、いきなりお国のトップが姿を消したら大変ですから一度は一緒に戻りましょうねぇ」
「それもそうですね……では、イーアス様時間ができ次第お尋ねいたしますのでお願いします」
『ええ、次からはあなた方は女神像に触るだけで隠し通路が開くようにしておきます……一応試練のほうもいつでも挑めるようにしておきますね』
イーアス様の言葉に女性陣及びムートン君が露骨に嫌そうな顔をした。
(俺も二度とやりたくねぇからなぁ……)
「と、とにかく今回はこれにて失礼いたしますっ!!」
『はい、勇者サーボ様御一行の旅路に幸多からんことを……』
イーアス様の祈りを背中に受けながら、俺たちは逃げるように洞窟を後にした。
「ふぅ、何か僕もの凄く疲れたよぉ……もうしばらく宝箱開けたくないなぁ」
「そうだねぇ……とりあえず王都リースに帰ろうじゃないか」
「はい、サーボ先生」
俺たちは早速人力車で王都リースに戻ると、王座の間までテプレ様を送り届けた。
「サーボ先生、ここまで色々とありがとうございました……結局私は何のお役にも立てませんでしたね……」
(いやぁ本当に、大盗賊と違ってびっくりするぐらい役に立たなかったわお前……ここまではだけど)
「いえいえ、この国に張っている結界だけでも十分素晴らしいものですよ」
近いうちここに移住する気満々な俺にとってはこれだけでお釣りがくるぐらいの功績だ。
「サーボ先生はいつだってお優しいのですね……私、大僧侶でありながらそのようなサーボ様に一人の女性として好意を抱いてしまいました」
(は、ははは……何となくそんな予感はしたけど……お前もかよぉおおおおっ!!)
元々この国を救済したことで崇拝対象として好意的には見られていた。
それが先ほどの洞窟の試練を受けたことで欲望と結びつき恋心へと変質したのだろう。
「……しかし俺には不思議と女性との縁が多く、五番目の妾を自称する方までいるぐらいなのですよ」
嫌だけどあえてそう言ってアピールしてみる。
(大僧侶なんていう潔癖症がありそうな女なら、妾なんて持っている男は嫌だろっ!?)
おまけにここから俺の恋人に立候補すれば六番目の妾扱いだ。
こんなのを受け入れるほど能天気な女がそうそういるわけがない。
「で、では……私は六番目の妾ということになりますね……が、頑張りたいと思います」
(いたよ、ここに……受け入れるなよぉおおおっ!!)
しかし冷静に考えれば試練で欲望に負けた程度の女だった。
潔癖症を求めた俺が馬鹿だったようだ。
「うん、それなら僕も許すよ」
「ああ、魔王を退治した後は共にサーボ先生を悦ばせようぞ」
「ええとぉ、この地図の……バンニ国のプリス様が四人目で、こっちの龍の里にいる子が五番目ですから覚えておいてくださいねぇ」
(お、お前らも勝手に受けいれるな……解説もしないでよシヨちゃん……)
「か、畏まりました……そ、それで一時のお別れの前に……さ、サーボ先生の恋人のあかしとしてキスをしていただけないでしょうか?」
(止めてくれよ……そしていつの間に恋人になったのよぉ……)
「申し訳ございませんが大僧侶でありリース国の女王であるテプレ様の唇を奪う勇気は俺にはございません」
「……気弱ですね」
「自覚しているよ」
(本当になぁ)
「もぉ、本当にサーボ先生は駄目駄目だなぁ……絶対に手を付けさせるぞぉ」
「むぅ、サーボ先生ったらぁ……女の人に免疫をつけましょうねぇ」
「はぁ、サーボ先生は流石に潔癖すぎる……少しは女性の身体に興味を持ってください」
「ははは……困ったなぁ、本当に」
(嫌に決まってるだろうがっ!! 俺はお前ら捨てて今度こそ隠居してやるんだぁっ!!)
「ではせめて私を女王としてではなく仲間として呼んでくださいませ……皆さまもお願いいたします」
「わかったよ、テプレさん……じゃあまた……」
(会いたくない)
「修行頑張ってね、テプレさん」
「じゃあまた会いましょうね、テプレさん」
「いずれ協力して魔王と戦おう、テプレよ」
「ええ……カノちゃんもシヨちゃんもテキナさんも……サーボ先生も頑張ってくださいま……くださいねっ!!」
王座の間で子供のように手を振るテプレ様に頭を下げて、俺たちはリース国の王宮を後にしたのだった。
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