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ドーマ様とフェンリルとの出会い……雑魚くね?

「ああ……シーサーペントがぁ……」


「あと一歩間に合わなかったみたいだねぇ」


「まあしゃーねぇって、こればかりはどうしようもねぇからなぁ」


(仕方なくねぇよクソぉ……やっぱり海月族なんざ無視して置いていけばよかったぜ……)


 海月族の長に合わせて移動速度を落としたせいか、ちょうど目的に到着する少し前に大爆発が起こった。


 慌てて防御魔法で皆を守ったものの、どうやらその一撃でシーサーペントの方は焼き尽くされてしまったらしい。


 お陰で俺たちがたどり着いたときには、もう魔王の姿はどこにもなかったのだ。


「しかし相変わらず魔王の魔法は恐ろしい威力でしたね」


「けれどマシメ様なら防ぎきれることもわかりました……これなら希望が持てそうでございます」


「うんうんっ!! マシメ様が居てくれれば私たち絶対に魔王に勝てるよっ!!」


「まあこいつが負けたら終いなのは確かだけどなぁ……それよりこの後どうするよ?」


(知るかよ……他に魔王が居るところなんざ心当たりねぇよ……やっぱり地道にやって行かなきゃ駄目ってことかぁ?)


 この辺りにありそうな魔王の居城も全く見つからない。


 当然これではこちらから攻め込むことなど不可能だ。


 どうやら歴史の流れはそうそう変えられるものではないらしい。


(ああ、畜生……どうしたらいいんだこれ……)


 やはり普通にイキョサちゃんたちに修行をつけて、魔王と戦う力をつけさせるべきだろうか。


(でもそれじゃあ何も変わらねぇ……三弟子もあのまま……勘弁してくれよぉ……)


「まあでも魔王が去ったってことはとりあえず安全なのかなぁ……」


「けどこれじゃあらちが明かねぇなぁ……せめて魔王の居場所でもわかれば攻め込んでやんだけどなぁ」


「全くだ……何か情報が欲しいところだね」


 トラッパーの言葉に心の底から同意して頷いてみせる。


 すると海月族の長がおずおずとこちらを見上げ、口を開いた。


「あ、あの……それでしたらあちらにある大陸に居るドワーフの方々を尋ねてみてはどうでしょうか?」


「ドワーフですか……確か異種族の方々が住まうツエフ大陸に居ると聞いておりますが何故でしょうか?」


「あの方たちは科学力に優れておりまして、便利な道具を作ってくださるのです……このシーサーペントも彼らとも共同で作り上げたものなのです」


(そーいえばそんなこと言ってたなぁ……まあ出来るかわからないけど魔王の居場所がわかる物でも作ってもらえれば美味しいか?)


 この場で魔王を逃がした時点で次にどこへ行くかなど皆目見当もつかない。


 ならとりあえずの目的地としてそこを目指してもいいだろう。


「なるほど……皆、俺はそこを目指すのもありだと思うけどどうだろうか?」


 俺の言葉に皆が素直に頷く。


「マシメ様が言うなら賛成だよっ!!」


「とりあえずかじ取りはあんたに任せるよ、仮にもあたしらの師匠だしなぁ」


「そうですね、マシメ様どうかよろしくお願いします」


「私たちをよろしくお導きくださいませ」


(三弟子たちもこうなってくれれば……いや、こうなるよう頑張らねぇと……そのためにも歴史を変えてしまわないと……)


 本当なら真っ向から向き合って精神を正すべきだろうが、あいつらにそれは不可能だ。


 切り札で強引に歪めてなお、無理やり立ち直ってきたあいつらにそんな生半可な方法が通じるわけがない。


 だからこの卑怯な裏技じみた歴史改変で乗り切ることに全力を注ごうと思う。


(本格的に勇者の思考じゃなくなってきた……やっぱり俺にはこっちのほうが似合うってことか……)


 前の俺……屑で無能と自嘲していたであろう俺。


 しかし何故か今は、むしろその称号が心地よいような気さえしてきた。


(そのほうが楽だしなぁ……はぁ……何のためにやり直したのやら……)


「じゃあマシメ様、そろそろ移動する?」  


「そうですね、ぐずぐずしている間に魔王に暴れられたらシャレになりませんからねぇ」


「じゃあ私はここでお別れです……このご恩は忘れませんっ!! マシメ様の名前と共に語り継いでいきますっ!! それではっ!!」


「ちょっ!?」


 とんでもないことを言い残して海月族の長は海中へと姿を消してしまった。


(む、むしろ語り継がないでぇえええっ!! また歴史の一ページがぁああああっ!!)


 これで俺の時代にまでマシメの名前が残り、俺に伝わることがほぼ確定した。


 どうやら着実に歴史はあるべき形をとりつつあるようだ。


(く、くそっ!! どうにかして一発歴史を変えちまわねぇと……何か確実に歴史を狂わせれる方法はねぇのかっ!?)


 もちろん魔王を倒しさえすれば否が応でも歴史は書き代わるはずだ。


 だが本当に上手く行くのか、だんだん自信がなくなってきた。


(い、いや俺は絶対に諦めねぇっ!! どんなことをしてでも魔王を退治して俺の平穏な生活を取り戻してやるっ!!)


 強く決意を固めながら、俺は船を操作してツエフ大陸を目指した。


「うーん、ドワーフさんってどんな人たちだろぉ?」


「さあなぁ……とにかく友好的ならいいんだけどなぁ」


「どうでしょうねぇ、海月族の方々とは友好的なようでしたし話し合いぐらいは出来ればいいのですが……」


「きっと上手く行きますとも……そうでございますよねマシメ様?」


(うーん、よく考えてみたらムズイかもなぁ……)


 イーアスさんの能天気な希望論に、俺は軽く首を横に振って見せる。


(俺の時代のツエフ大陸は思いっきり排他的だったからなぁ……多分この時代も似たようなもんじゃねぇかなぁ?)


「余り楽観視しないほうがいいかもね、魔王が暴れている現状では色々と警戒しすぎて気が立っている可能性は十分あるからねぇ」


「そ、そっかぁ……そうだよねぇ、魔王が来るかもぉって思ったら怖くてまともな判断できなくなっちゃうもんねぇ」


 未来のことを話しても納得されないと思い、適当な理由をつけてみたがどうやら効果的だったようだ。


 皆の表情が引き締まる。


(そうそう、警戒しとかないと無数の弓矢で攻撃されて思わぬ傷を負うことになりかねないからなぁ……まあそれでも死んだりは……死ぬ?)


 船を動かしつつ、イキョサちゃんたちを改めて見直す。


 俺の時代まで名前が残っている魔王を倒した伝説の勇者たち。


(そうだ、彼女たちが魔王を退治した……誰一人犠牲にならずにだ……だから歴史が変えられないものならばそれまで彼女たちは何をしても死なないってことになるのか?)


 逆に言えば今の時点で何かしらで命を失えば歴史は変わることになる。


(……けど、流石にそれは選べねぇよ……俺は弟子が大事だってことだけは事実なんだよ……)


 幾ら未来を変えたくともそれだけは選べない。


 あの三弟子との関係を変えたいとは思っていても、完全に縁を切りたいとは思わないようにだ。


(そうだ、俺は俺を慕ってくれる子達は……弟子たちを犠牲にすることだけは出来ねぇ……)


 多分屑で無能だった俺もそこだけは一貫していたと思う。


(だから最悪は……歴史を変えられねぇと判断したらその時点で諦めてこの子たちを鍛えて三弟子のところに帰ろう……うぅ……)


 ちょっと考えただけで涙がにじみそうになった。


 こんな温かい立派な弟子を知った今、あの三弟子を目の当りにしたら本泣きしてしまいそうだ。


(し、しっかりしろ俺……とにかくまだ歴史が変えられないと決まったわけじゃない……とにかく全力で魔王を退治することに専念しよう……)


 思考を打ち切り、改めて船の操作に専念する。


「そろそろ到着してもいいころですね」


「どれどれ……ああ、確かに音が変わってきたなぁ」


 果たして波の音が気持ち僅かに代わったかと思うと、正面に大陸の形が見えてきた。


(そう言えば港ないんだよなぁこの大陸……まあ小舟だから強引に砂浜に接岸すればいけるか……)


 今回は飛行手段がないので、沖合に船を固定して上陸するわけにはいかない。


 仕方なく、海岸沿いを走らせて上陸できそうな小さな浜辺に乗り上げさせた。


「よし、では行きましょ……っ!?」


「ウォオオオオオオオオオオンっ!!」


 船から飛び降りて、大陸に足を踏み入れた途端に聞き覚えのある咆哮が聞こえてきた。


「ま、ま、マシメ様ぁっ!?」


「な、なんだこりゃぁっ!?」


(フェンリル……そう言えばこいつも魔王対策用の兵器だったな……)


 慌てて身構える俺たちの前で、フェンリルは立ち止まりこちらを睨みつけてくる。


(確かこいつは魔法で操れるはず……近くに術者が居るのか?)


 問答無用で襲い掛かってこない所を見ると交渉の余地はありそうだ。


 どうやら俺の時代よりはまだ排他的ではないらしい。


「す、すみませぇんっ!! こ、この大陸に異種族の方は立ち入り禁止なのぉっ!!」


 想像通りフェンリルの奥に広がる森の中から、一人のドワーフ族の女の子が姿を現しこちらに近づいてきた。


(……ああ、この胸の高鳴り……けどこの子は一体?)


 現代のワーフ様にもそっくりな……もっと言えばアイさんにも似ている気がする。


 その子が慌てた様子で、俺たちに手振り身振りで必死に帰る様アピールしている。


「あ、あのっ!? 私たちドワーフの人におねがいがあってきたんだけどぉっ!!」


「この魔物は何なんだぁ? あんたらと関係があんだろ?」


「ご、ごめんなさいっ!! お答えするわけにはいかないのっ!! お願いだからすぐ帰って……」


「何をしているのだドーマよっ!? 早くフェンリルでそやつを蹴散らしてしまえっ!!」


 申し訳なさそうに頭を下げるドーマ様、その後ろからもう一人のドワーフがやってきた。


「ただでさえエルフとの縄張り争いが忙しい時期にフェンリルをこんなことに関わらせておく時間はないのだっ!!」


「で、でも魔王が居る間は協定が……」


「そんなもの嘘っぱちに決まっておろうがっ!! このフェンリルさえあればこの大陸の覇権は我らドワーフの物なのだぞっ!!」


「だ、駄目ですよっ!? せ、せっかく仲良くなれるかもしれないのにそんなこと……」


(エルフと抗争してんのか? 俺の時代じゃぁ物凄く仲良しそうだったのになぁ……)


 しかし敢えて首を突っ込む気にはなれなかった。


(これこそ下手に俺が介入して、歴史が変わったらことだからなぁ……放っておけばエルフとドワーフは仲良くなるはずだしな……)


「……取り込み中すみません、俺たちは魔王退治をするために旅をしておりまして……そのための情報さえ手に入れば今すぐにでも立ち去るつもりなのですが……」


 だから端的にこちらの要求を告げて、早めに用事を済ませて立ち去ることにした。


「ほ、ほら長……こう言ってますしせめて話だけでも……」


「ええい、もうよいわっ!! フェンリルよ、そやつらを始末せよっ!!」


「ウォオオオオオオオオオオンっ!!」


(うわぁ……結局こうなるのかよ……どうしたもんかなぁ……)


 この場でフェンリルを倒してしまえば歴史は変わるかもしれないが、エルフとドワーフの仲を考えれば出来れば干渉したくはない。


 しかしかといってフェンリルは手を抜いて勝てる相手ではない。


(魔法無効にできるんだもんなぁこいつ……隙を見て時間停止から消滅魔法で止めを刺すしかねぇなぁ……)


「ま、マシメ様ぁっ!?」


「仕方ない、とりあえず身を守るんだっ!!」


「ウォオオオオオオオオオオンっ!!」


 俺が指示を出すと同時にフェンリルが襲い掛かってくる。


 まずは前に立っていた俺とイキョサちゃんとトラッパーさんが標的になった。


「わ、わわわぁっ!?」


「ちぃっ!? いきなりこんな強敵……あっぶねぇっ!?」


(……なんか、遅くないか? それに迫力もあんまり感じないぞ?)


 振り下ろされた前足を、大げさに避けるイキョサちゃんとトラッパーさん。


 しかし俺はどこかフェンリルの動きに違和感を感じていた。


「とにかく動きを止めてみましょう……自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風(ブリザード・ストーム)


「わ、私も協力いたします……自然の息吹よ我が名のもとに万物に静寂をもたらせ、豪雪暴風(ブリザード・ストーム)


 後衛に居た二人が咄嗟に同じ魔法を紡ぎ、相乗効果で強化された吹雪を放つ。


(いやそいつ魔法無効にできるから……あれ?)


「クゥウウンっ!?」 


 修行前とは言え歴史に名前を残す英雄二人の魔法は確かな威力でもって、フェンリルの身体を凍り付かせていく。


 流石に完全に固まったりはしないが、それでもかなり動きが鈍くなり悲鳴も上げている。


(どうして無効化しないんだ? これじゃあただの雑魚だぞ?)


 ちらりとドワーフのほうを見ると、長の方は露骨に焦った様子を見せている。


(切り札として温存してるわけじゃないのか……しかしじゃあどうしてこんなに弱いんだ?)


「し、しっかりせんかフェンリルっ!!」


「く、クゥウウウン……」


「おら、今がチャンスだ……行ってこぉいっ!!」


「や、やめてトラッパァ……うわぁあああんっ!?」


 俺が悩んでいる間にも、フェンリルの動きが鈍くなった事を見たトラッパーさんがイキョサちゃんを抱え上げて……思いっきりフェンリルに向けてぶん投げた。


「グルル……ウォオオオンっ!?」


「ひぃっ!? ま、マシメ様助けてぇえええっ!!」


 フェンリルに睨みつけられて俺に助けを求めるイキョサちゃん。


「ちょ、ちょっとトラッパーさんっ!? 何をやってるのっ!?」


「いや、隙作ればあんたがどうにかすっかなぁと思って……ほら囮が頑張ってる隙にどーにかしてやってくれマシメ様ぁ」 


「あ、あのねぇ……まあいいけど……」


 確かにこちらに注目が集まっていない以上、そしてフェンリルが魔法無効化ができないのならば幾らでもやりようがある。


 だから俺は魔法を紡ごうとして、ふとイキョサちゃんの体内の魔力が妙に循環していることに気が付いた。


(まるでスキルを使う時みたいだ……これはひょっとして……)


「わ、わぁあああああんっ!!」


「ウォオオオオ……っ!?」


 やけくそ気味にイキョサちゃんが拳を握り、恐らく無意識のうちに魔力を集中させたうえで思いっきりフェンリルをぶん殴った。


 その瞬間、世界が震えた。


 フェンリルは一瞬で叩き潰され、何かが爆発したような振動が暴力的な勢いで辺りに襲い掛かる。


 浜辺の砂はおろか俺たちが乗ってきた船も海も何もかもが吹き飛んでいく。


「な、なんだなんだこれぇっ!?」


「こ、これは一体何がっ!?」


「あぁっ!?」


「う、うわわぁっ!?」


「な、なにが起きておるのだっ!?」


(ま、マジかよこの威力っ!? 魔力を使ってるけどこれテキナさんの素の全力パンチよりは威力高いぞっ!?)


 俺たちは咄嗟にしゃがみんこんでなお、吹き飛ばされそうなほどだ。


 この目の前で起きている現象の全てが少女の拳に込められた圧倒的な力によるものだ。


(さ、流石は伝説の勇者……潜在能力はシャレにならねぇ……)


 全てが終わると、その場にはどうしようもない静寂が訪れた。


「うぅ……こ、怖かったよぉおおおおっ!!」


 その中でただ一人号泣しているイキョサちゃん。


(怖いのはお前だよ……まあこれでも三弟子よりはましなのかなぁ……)


 それでも三弟子を想えばこの衝撃も大したことはないと思えてしまう。


 どうやら化け物を見続けてきてこの手の非常識な光景に少しは耐性が付いているようだ。


「ば、馬鹿な……ふぇ、フェンリルが一撃だとぉ……」


「あ、あうあうぅ……」


「……どうでしょう、少し俺たちの話に付き合う気になりましたか?」 


 だから俺は皆が固まっている中、驚愕しているドワーフたちに近づくとにこやかに語りかけてやることができた。


「あ、ああ……」


「う、うんうんうんっ!!」


 即座に壊れた玩具のように首をカクカクと縦に振る二人に、俺もまた満足げに頷き返してあげるのだった。


(うーん、これなら交渉も上手く行きそうだなぁ……やっぱりシヨちゃんがやってたみたいに暴力を提示するのは強いなぁ……はぁ……)

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