魔王軍の陰謀とハラル王国陥落の日……全部俺の弟子が悪いんだ……
「……皆の者そやつらを今すぐ投獄せよ」
兵士とフウリちゃんによって王座の間に通してもらった俺たちを、ハラル国の王様はとても冷たく出迎えてくれた。
「し、しかし彼らは先ほど魔王軍の脅威から我らを……」
「だからと言ってそのような犯罪者どもを受け入れる気は……いい加減に我が娘から離れよサーボよぉっ!!」
「嫌なのだっ!! サーボはフウリ様の愛人とやらなのだからこれでいいのであるっ!!」
「うんうん、それならまあ僕もギリギリ許すよ……やっとわかってくれて嬉しいねぇサーボ様ぁ?」
(全く嬉しくねぇよ、いいから離れろお前ら……)
王様に言われても俺の両腕を抱きかかえてぶら下がりながらも離れようとしないフウリ様とカノちゃん……と、ついでに俺に肩車されているシヨちゃんに俺を負ぶっているテキナさん。
色々あってこの形をとることでようやくバランスがとれたのだ……何も取れてない気もするがもう思考は放棄した。
しかしこのまま王様の不興を買ってまたしても国家規模で指名手配など受けたらシャレにならない。
(何より弟子たちが暴れかねないし……シヨちゃんが乗っ取りの口実にしかねない……どうにかして王様には落ち着いてもらおう)
そのためにもこれ以上刺激しては不味い……せめてフウリちゃんには離れてもらおう。
「ほ、ほらお父さんも怒ってることだし離れ……」
「誰がお義父さんじゃぁああああっ!? お主にそう呼ばれる筋合いなどないわぁあああっ!!」
どうやら俺は間違えたらしい……火に油を注いだかのようにまさしく烈火のごとく怒り狂っている。
(そんなわかりやすい誤解しないでよぉ……それにたかが娘を誑かされただけでそこまで怒らなくても……いや普通怒るか……)
見た目からしてフウリちゃんは王様がかなり歳を取ってからの子供で、おまけに一人娘のようだ。
そんな子がまだ幼いうちから二回り近く年の離れた男の愛人になるなどと言い出せば、誰だって冷静でなんかいられるはずがない。
(困ったなぁ、これじゃあ話がややこしくなる……そしてそうなるとシヨちゃんが間違いなく暴走しだす……そしたらこの国はお終いなんだぞ、わかってんのかお前ら?)
勇者としてこれ以上、暴君シヨの野望を看過するわけにはいかない。
何としてもここで食い止めなければという俺の崇高な志は、しかし何故か誰にも理解されないようだ。
「わ、わかってますよ……ええとと、とにかくフウリちゃん……王様の前では離れて……」
「儂の前でなくとも駄目に決まっとろうがぁああっ!! 衛兵っ!! 今すぐそ奴を叩きのめせっ!!」
「し、しかし勇者様に我々が敵うはずが……」
「そのための聖剣であろうがっ!! それならばきっと勇者といえでも傷をつけられるはずじゃっ!!」
(本気で憎まれてるよ俺……というか聖剣ってなんだ?)
「王さ……フウリちゃん、聖剣って何だい?」
「このフウリ様が持っている剣のことなのだっ!! かつて勇者イキョサから預かってずっと保管してあってこの国の宝なのだっ!!」
(そんなものがあったのか……全く知らなかったぞ……)
フウリちゃんが持つ剣は、確かに不思議な輝きを放っている。
更に魔力の流れを見てみれば、特別な魔術的効果が内在されているのがわかる。
(少し前ならこれ以上の戦力強化はしたくないって思うところだが……魔王の強さは予想以上の可能性が高いし……これがないとこの先きついかもなぁ……)
どうにかして譲り受けたいところだ。
「ずっと保管してあったのに、どうして今になって急に持ち出したんですかぁ?」
そこで俺の頭の上から口を動かしだしたシヨちゃん……どうやら攻め時と判断したようだ。
(あーあ、とうとう動き出しちゃったぁ……もう俺知ーらないっと……)
「とぼけるでないっ!! お主らが勇者の名を盾にあらゆる国を脅し支配下に置こうとしておることは知っておるっ!! 実力だけは確かだというお主らを討伐するために封印を解いたのじゃっ!!」
「うーん、それはどなたに聞いたんですかぁ?」
「ふんっ!! お主らに教えられるものかっ!!」
シヨちゃんの質問を受けながらも、情報源については口を閉ざす王様。
(十中八九魔物が化けた人間だろうけど……まさかとは思うけど王様自体が既に移り変わられてたりしてなぁ……)
念のために魔力の流れを確認してみるが、やはり人間だった。
尤も入れ替わるにしても事前に準備が必要だろうし、何より俺たちはここまで最速で突き進んできた。
だから仮に魔王軍がソレを狙っていたとしても、間に合うはずないのだ。
(けどもし魔物だったら退治して問題は解決したのに本当に残念……じゃなくてほっとするところだろうが俺ぇっ!!)
王様が魔物に取って代わられてなかったことを喜ぶどころか、むしろ残念に思いそうになった。
どうやら俺は本格的に屑な思想になりつつあるようだ。
(しっかりしろよ俺……このパーティで倫理観を持ってるのはもう俺だけなんだぞ……俺がイカレたらお終いなんだぞ……)
「ですけどぉ、先ほど実際に魔王軍は攻めて来ましたよねぇ……もし私たちが居なかったらこの国はどうなっていたんでしょうねぇ?」
「そ、それは……」
「大体、その情報をくれた方は魔王軍の脅威について何か言ってましたかぁ?」
「い、いや……サーボという偽勇者一行がそのような誤情報を振りまいているというだけで……」
「おかしいですねぇ、今までいろんな国が……それこそお隣のドウマ帝国すら魔王軍に侵略されていたのにぃ……別大陸で活躍していたシヨたちのことを知っている方がその情報を全く知らないなんておかしな話ですねぇ~」
「う、うむぅ……」
シヨちゃんにまくし立てられて、王様は少しだけ言葉に詰まってしまう。
どうやら魔王軍は今後の活動も考えて、あえて魔王復活の事実自体を偽情報ということにしていたらしい。
この国の立場で考えてみれば、別大陸の情報などそうそう入らないし同じ大陸にあるドウマ帝国とは敵対関係だ。
だから本当の魔王軍がこの領内でだけ気を使って動きを悟られないようにすれば、確かに魔王復活の事実すら誤情報としてごまかせそうではあった。
(だけど相手のチーダイとやらも、まさかシヨちゃんが元魔王軍の魔物を暴れさせてマッチポンプ的に魔王軍の脅威を認識させに来るとは思わなかっただろうなぁ……俺だってそこまでするとは思わなかったもんなぁ……)
どうもシヨちゃんの掌の上で転がされてる気がする……俺も敵も。
「王様は知ってますかぁ、魔王軍の魔物は人間に化けることができるんですよぉ?」
「そ、そんなことがっ!?」
「本当ですよぉ、だからシヨたちとしては王様にその嘘の情報を流した方のことが気になるんですよぉ……会わせていただけないでしょうかぁ?」
「し、しかし……」
「もしもその方が本当の人間でしたらシヨたちは素直にこの国を立ち去りますぅ、ですからどうか一目会わせてくれませんかぁ?」
(あ、あれ? シヨちゃん今回は本気で魔王軍の脅威への対策だけを考えてんのか?)
まだ王様に情報を渡した奴が魔物とは限らない。
それこそ魔王軍に利用されている人間である可能性もある。
(まあそれが人間でも会ってその情報をもたらした相手を辿って行けばいずれ魔物に辿り着くだろう……後はここで結界のことだけ話して出ていけば勇者としては何も問題がない……だけど……)
まだシヨちゃんはこの国を手に入れるための活動を何一つしていない。
それなのに立ち去るというシヨちゃん。
もしかしたらようやく勇者としての使命に目覚めたのかもしれない。
そう思うと感動して涙が……全く溢れてこなかった。
(シヨちゃんに限って改心なんざあり得ねぇよ……俺の切り札で精神を叩きなおした時ですら強引に立ち直ってきたやつだぞ……何企んでんだよぉ……)
自分の弟子だというのに全く信じる気になれない。
「……本当にその者が魔物であった場合、どのように証明するのだ?」
「シヨたちは魔物の本性を暴く魔法が使えるんですよぉ、だからお任せくださぁい」
「……仕方あるまい、誰かあの者をここへ」
「ははぁっ!!」
兵士の一人が王座の間を飛び出すと、少しして一人の男を連れて戻ってきた。
「何の用でしょうか王様? 今ちょうど新技術の……お、お前らはサーボ一行っ!?」
「いいえぇ、シヨちゃんとゆかいな仲間たちですぅ……それでどうですかぁサーボ様ぁ?」
言われるまでもなく既に魔力の流れは確認済みだ。
「クロだよ、思いっきり魔物だ……」
「なっ!? わ、私のどこが魔物だと……」
「対抗呪文」
(シヨちゃんが余計なことしないうちにさっさと終わらせよう……)
何かほざいている男の言葉を無視して強引に変身魔法を解いてやった。
「こ、これは……ぐぅううっ!?」
「な、なんだこれはっ!?」
「ま、まさか本当に魔物だったのかっ!?」
「やっぱりそうでしたかぁ、どうしてこんな怪しい流れ者を受け入れたんですかぁ?」
「い、いや技術力が……隣国が戦争で使って居る兵器を我が国にもたらしてくれたから……」
(そんな理由かよ……やれやれ……)
物凄い異形の魔物が正体を現したことで、王座の間は騒然とし始めた。
「こ、こんな魔法を使えるとは、どうやら貴様らの実力を見余っておったようだ……だからこそこの場で貴様らは葬らせてもらうぞっ!!」
「どうするシヨよ? 捕まえるか、それとも一思いに倒してしまうか?」
「何だその発言はっ!? このチーダイ様を舐めるなよぉっ!!」
「あー、どうも四大幹部の人っぽいので情報収集しましょう……捕獲の方向でお願いしますテキナさん」
「任された、念のために強めに……聖なる祈りに応え悪しき者に制約を齎し賜え、『『聖祈鎖』』」
「なぁっ!?」
俺達を背寄ったままテキナさんが呪文を放つと、一瞬で縛り上げられたチーダイ様。
(い、今の魔法四重ぐらいで放ってなかったテキナさんっ!? ど、どうやってんのそれぇっ!?)
本当に理解できない……この子の才能はどうなっているのだろうか。
「ぐぅう……がはぁっ!!」
「あっ!?」
余りにも拘束が強すぎたのだろう、チーダイ様の抵抗も虚しく光の帯はその全身を締め上げて……潰してしまった。
「あぁっ!? す、すまないシヨ……四大幹部と聞いていたがまさかここまで脆いとは……」
「あ、あはは……し、仕方ないですよぉ……」
テキナさんの謝罪に久しぶりにシヨちゃんがドン引きして、引きつった笑みを浮かべた。
(拘束呪文でそのまま絞め殺すとか……多分テキナさん以外出来ねぇぞ……化け物過ぎるだろこいつ……)
はっきり言って俺もドン引きだ。
「う、うわぁ……テキナさんヤバいねぇ……」
「な、なんなのだこやつはっ!?」
俺の両腕にぶら下がっているお子様二人もドン引きしている。
「ゆ、勇者って……ここまで……」
兵士たちのヒソヒソ声も、恐怖混じりだ。
「あ……ご、ご苦労であったな……」
王様もしばらく呆気に取られていたが、何とか労いの声を発した。
「え、ええまあ……だけどぉ、やっぱりあの人は魔物さんでしたねぇ」
それを見てシヨちゃんも正気に立ち直ったようで、いつものように含みのある声を発し始めた。
「う、うむ……お主らが来てくれねばどうなっていたことか……礼を……」
「そんな魔物さんの言うことを聞いてシヨたちに兵士を差し向けた王様って何を考えてるですかぁ?」
「そ、それは……ま、誠に申し訳ないことを……」
「謝ってすむことですかぁ、シヨたちは兵士さんたちに刃を向けられてとっても怖い思いをしたんですよぉ……うぅ……」
俺の頭の上で泣き真似するシヨちゃん。
(怖い思いしてんのは兵士さん達だろ……見ろよ、俺たちに敵対しようとしてた事実を思い出して震えてるぞ……)
テキナさんの圧倒的な実力を垣間見て、そんな相手に刃を向けようとした自らの愚かな行いに今更脅えが走ったのだろう。
「で、ではどうすれば……」
「魔王軍の脅威から守るのが優先で後回しにしてましたけどぉ、普通に考えればシヨたちは無実の罪でこの国に戦いを挑まれたわけですからぁ……戦ってでも自らの身を守ろうと思うんですよぉ~」
(無、無茶苦茶言うなぁ……けど皆めちゃくちゃビクビクしてるぅ……)
「そ、それだけはっ!? す、すまぬっ!! わしが愚かであったっ!!」
テキナさんショックが残っているからだろう、王様は俺たちと敵対することに怯えて慌てて頭を下げ始めた。
「いいですけどぉ、国の王様がとる責任の取り方なんか一つしかないですよねぇ……フウリ様はどう思いますかぁ?」
「えっ!? ふ、フウリ様……いや私はその……さ、サーボ様ぁ……」
シヨちゃんに声をかけられてフウリちゃんもまた怯えて俺に強く抱き着いてくる。
「ま、待てっ!! わ、わかったわしは隠居してこの国はサーボ様にお任せするっ!! だから我が娘だけはぁっ!!」
「ちょっ!? い、いやそん……」
「何と素敵な心構えでしょうっ!! その気持ち受取りましょうっ!! サーボ様、ここまで言うんだからもう許してあげましょうねぇ~」
身体を折り曲げて、俺の首にぶら下がりながら顔を合わせ……シヨちゃんはとてもいい笑顔で微笑むのだった。
「うふふ、やりましたよぉサーボ様ぁ……尤も情報を持ってきた人が魔物じゃなくてもサーボ様の魔法で一時的に変身させちゃえばいい話ですから楽なもんでしたけどねぇ~」
(そ、そんなことまで企んでたのかよっ!! マジで一から十までマッチポンプじゃねぇかよっ!!)
改めて目の前の小娘の恐ろしさを知って、俺は膝から崩れ落ちそうになるのだった。
「さ、サーボ様? ど、どうしましたか?」
「……なんでもないよぉ……うぅ……」
だけど俺をテキナさんが背負っている状態ではそれすら許されない。
上にも下にもヤバすぎる弟子に囲まれて、俺は今更ながらに自らがおかれた立場の危うさを実感するのだった。
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