ハラル王国へ……偽勇者一行でぇす……
「……というわけで、まずはこの大陸ともう一つの大陸に結界を張ってから相手の拠点に攻め込もうと思うんだけど?」
「確かにサーボ様の言う通りですねぇ、今回みたいにお国を裏から乗っ取ろうとされたら中々面倒ですからねぇ」
魔物から得た情報とついでに俺の考察を話すと、シヨちゃんは素直にうなずいてくれた。
「よぉし、リーダ……シヨちゃんの許可も出たことだし早速行動しよっか?」
「うむ、リー……シヨの許可も頂いたことだし、早めに結界を敷く作業に取り掛かりましょう」
カノちゃんとテキナさんが反射的にシヨちゃんをリーダーと呼ぼうとして、俺と目が合うなりさりげなく言い直した。
(や、やっぱりこいつら……いや俺もシヨちゃんをリーダーだと思ってるから仕方ないけどさぁ……)
もう師弟関係がどうなっているのかまるで分らない。
わかるのは、誰もシヨちゃんには頭が上がらないという事実だけだ。
(おかしいなぁ……この中で一番弱いはずなんだけどなぁ……)
シヨちゃんは戦闘能力という点では恐らくアイさんにも敵わないはずだ。
なのにどうしてこれほど影響力を持っているのか……不思議でならない。
「じゃあアイさん、私たちが行ってくる間にこの国のことはお任せしましたよぉ?」
「はい、サーボ様ばんざぁい」
「うふふ、その調子ですぅ……他の皆さんもお願いしますね、すぐ戻ってきますからおイタしちゃ駄目ですよぉ?」
「ははぁっ!! シヨ様ばんざぁいっ!! サーボ様ばんざぁいっ!!」
(……ドウマ帝国の皆さんごめんなさい)
もはや完全にシヨちゃんに染め上げられた人々に、俺は内心で謝罪する。
(もうこれ……俺全て終わったら腹切って詫びなきゃだめかもしれねぇ……いやこの国だけじゃないか……)
俺が謝罪しなければいけない国リストを頭の中で考える。
イショサ国にバンニ国にリース国にツメヨ国に人魚たちが住んでる島にドウマ帝国……六回は腹を切らないといけないようだ。
(……今から考えるだけでお腹痛い……もう先に腹を切って楽になっちゃいたい……)
「うふふ、この調子なら問題はなさそうですねぇ」
問題しかないの間違いだ。
「よぉし、では早速結界を敷きに……どこへ行きましょうか?」
「まずはこの大陸にあるもう一つの王国であるハラルへ向かいましょう……一応話は通しておいたほうがいいと思いますから」
(確かにデメリットがあるわけじゃないが、ハラル王国も結界の範疇に収める以上は事情を説明しておいたほうが余計なトラブルは避けられて……こいつらと一緒に行くほうが余計なトラブルが起きりそうな気がするんだが……)
物凄く嫌な予感はするが、正論であることも事実だ。
何より俺が何か言ったところでシヨちゃんが止まるとは思えない。
(仕方ない、いざとなったら力づくで止めよう……後が怖いけど……それが師としての俺の役目だ……多分……)
悲痛な決意を固めながら、俺はアイさんだけ置いて仲間たちと人力車へ乗り込んだ。
「では行きますよっ!!」
「よろしくね、テキナさん……サーボ様ぁ、今度の国では暴走しないでね?」
「か、カノちゃん……言う相手を間違えないかい?」
人力車が走り出して一息つこうかというタイミングで、何故かカノちゃんが俺に向かって窘めるような物言いをしてくる。
「いやでも……シヨちゃんは言っても仕方ないけど、サーボ様ならまだ事前に話しておけば何とかなるかなぁって……」
そう言ってカノちゃんは、チラリと馬車の片隅でムートン君とキメラント君を呼び寄せて会談しているシヨちゃんへ視線をやってため息をついた。
(絶対何か企んでやがる……けど今は先にカノちゃんの誤解を解かないとなぁ……)
「あのねぇ、そもそも俺は一度も暴走なんかしたことないでしょ?」
「えぇ……サーボ様気付いてないのぉ? 言っとくけど王都での暴走率はサーボ様もかなりのものだからね?」
「そ、そんな馬鹿なっ!?」
(絶対勘違いしてるよこの子っ!? 俺がいつ暴走したってんだよっ!?)
「ほらまず王都イショサでムートン君関連で暴れまわって王宮を陥落させたよねぇ?」
「うぐっ!? あ、あれはあいつらがわからずやだから……」
言われてみれば確かにあの国が落ちる元凶になったのは俺の行動だ。
(け、けどあれはムートン君を獣扱いするあいつらが悪いし……俺の仲間を侮辱する奴が悪いに決まってる……)
「じゃあ王都バンニは? サーボ様がお姫様の寝室に突っ込んでって連れ攫ったりして指名手配にまでなったじゃん?」
「ち、違うからぁっ!? 魔王軍の襲撃を止めに行って誤解されただけだからぁっ!!」
(しかもあれは暴走するお前から守るためにやったことじゃねぇかよぉ……カノちゃん自分を棚に上げないでぇ……
尤もバンニ国では俺がプリスちゃんを誑かすために誘拐したということになっている。
「もぉ言い訳ばっかりしてぇ……次の王都リースでもわざわざ未成年のショタっ子姿に変えたムートン君といちゃついて国民感情逆撫でして反感買って大変なことになったじゃん」
「ぐぐぅ……け、けど後半は君たちが……」
言いながらも、確かにあの件に関しては前半は……というか弟子たちが暴走するきっかけは間違いなく俺が作っている。
(ま、まさか……マジで俺がやらかしてんのかっ!?)
慌てて身の潔白を証明しようと口を開く。
「け、けどツメヨ国じゃ……いや人魚たちのいた小島でも俺は何もしてないよっ!?」
「それはどっちも王都じゃなかったでしょ?」
「っ!?」
(そ、そんな馬鹿な……お、俺も三弟子たちと同じだっていうのかぁっ!?)
「け、け、けどぉ……そ、それこそドウマ帝国では俺は何も……」
「サーボ様が最速で突っ込めって言った結果があれでしょ?」
「ち、違うってばぁっ!! そんなつもりじゃなかったのぉっ!!」
「けど途中で止めなかったよねぇ……僕があれほど注意したのに……」
確かにドウマ帝国に乗り込んでいた最中、カノちゃんだけは何とか止めようと声を上げていた。
(俺が考え込んでたから返事が間に合わなかったけど……あれ、マジで俺の責任なのこれ?)
そんなことはないと思うが、こうして改めて事実を羅列されると何やら不安になってくる。
(ひょっとして俺が一番おかしくて、弟子たちはその影響を受けておかしくなったとか……い、いやそんなはずねぇっ!!)
「と、とにかくだっ!! 俺は暴走なんかしないから、それよりシヨちゃんを……」
「私が何ですかぁ~?」
「な、なんでもないですぅっ!!」
笑顔で会話に入ってきたシヨちゃんへ即座に頭を下げる俺。
こんな不安定な精神状態でシヨちゃんに関わるのは危険すぎる。
冗談抜きで俺まで洗脳されかねない……そうなったら世界が終わる。
(いやもう終わりかけてるのかもなぁ……シヨちゃんの野望は留まるところを知らないからなぁ……)
真面目に今向かっているハラルがこの子の手に落ちたら世界征服に王手が掛かる気がする。
何せ三大大陸の内、一つは制覇してもう一つのここも半分を収めるドウマ帝国を手に入れてしまっているのだから。
(やっぱり俺よりこいつを止めるべきだよカノちゃん……一緒に見張って行こうぜっ!!)
そう言う意味を込めてさりげなくカノちゃんに目配せする……が、即座にそらしやがった。
カノちゃんがこういう微妙な機微を見落とすはずがないから、絶対にわざとだろう。
(お前さぁ……立場の弱い俺だけに苦言を呈するとかずるくねぇ?)
尤もシヨちゃんが近づいてきただけで謝罪した俺に言えたことではない。
どうやらシヨちゃんの恐怖政治は、俺たち勇者パーティにもしっかりと行き届いているようだ。
「あぁ、そろそろ王都だ……ちょっ!? て、テキナさんストップぅううっ!!」
「ど、どうしたのだカノっ!?」
「何か王都の入り口前に軍隊が勢ぞろいしてるぅっ!? しかもなんかサーボ様の名前を叫んでるぅううっ!!」
相変わらず俺たちの目には地平線しか映っていないのだが、カノちゃんが言うならそうなのだろう。
(音まで聴き取れんのかよ、ますます化け物じみて……ってかそれより何で俺の名前がっ!?)
「ど、どういうことカノちゃんっ!? 何で俺の名前がっ!?」
「さ、流石に細かい内容までは聞き取れないけど……物凄く敵対的な感じだよ……何したのサーボ様ぁ?」
「俺は無実だよぉおおっ!!」
物凄く訝しい目を向けてくるカノちゃん。
(どんだけ信用ねえんだよ俺はぁっ!! これでもお前らの師匠だってのっ!! 大体俺らずっと一緒に行動してんだろうがぁっ!!)
「うーん、まあ十中八九これはチーダイ様とかの仕業でしょうねぇ……魔王軍の中でも策士な方なんでしょう?」
「ええ、魔王軍の作戦の殆どがあの方が立てていて……というより他の方が暴れることしか能のない方ばかりでして……」
「今回のドウマ帝国の乗っ取りもその方の企みのようですし……恐らくキメラントさんの裏切りを受けて魔力が戻らない可能性も想定して情報収集の手段を用意してあってぇ、それでドウマ帝国での失敗を知って慌てて予備プランとしてハラル王国のほうを動かそうとしたってところじゃないですかねぇ」
(確かに策士だっていうんなら、同じようなミスを犯さないため対策してあってもおかしく無いよなぁ……)
何だかんだでここまで魔王軍のたくらみは全て俺たちが叩き潰している。
ならばこそ失敗を念頭に置いた上で周到な作戦を練っていてもおかしくはない。
「だとしたら、我々はどうするべきなのだ……シヨよ?」
「全員叩きのめしても良いんだけど、その辺どうなの……シヨちゃん?」
「もしもその仮定が事実だとしたら既に国の軍隊を動かせる程度に中枢に入り込んでるってことだよねぇ、どうしたらいいんだろうねぇ……シヨちゃん?」
みんなして我らのリーダーへ意見を求める。
俺たちの視線を受けとめて、シヨちゃんはいつも通りの笑みを浮かべて答えた。
「私たちは勇者です、相手が何を企もうと堂々と正面から戦いましょうっ!!」
(……絶対何か企んでるわ、これ)
だけどシヨちゃんのことだ、きっと向こうの計画を見抜いて丁寧に叩き潰してくれることだろう。
何よりこれはシヨちゃんの指示だ。
仮に間違っていても俺に責任は殆どない。
(まあこいつ有能だからミスるわけねぇし、こういう時は頼りがいが……あれ、これめっちゃ楽だわっ!?)
師としてのプライドさえ投げ捨ててしまえれば、弟子たちの優秀な才能におんぶにだっこで解決してもらうのは物凄く楽だと気づく。
(俺が下手に考えて動くより、こいつらに押し付けたほうが……まるで屑の発想だなぁ……昔の俺みた……やっぱり俺って前にも同じことをして……)
「では行きますよ、サーボ様もよろしいですか?」
「あ、ああ……頼んだよテキナさん」
「お任せくださいっ!!」
俺の言葉にはっきりと頷いてテキナさんは改めて王都ハラルへ向けてまっすぐ進行し始めた。
(毎回思ってるけど今考えるべきことじゃねぇ……まずは魔王軍を退治してから……話はそれから……いや土下座巡りの旅が先か……はぁ……)
今後のことを思うと、とても気が重い。
そんな俺の気持ちをよそに、人力車はあっさりとハラル王国の軍隊が立ち並ぶ場所へとたどり着いた。
「そこの者よっ!! すぐに止まられよっ!!」
整然と並んだ弓を構える兵士たちの、一番前に立っているドレス姿の少女……いや幼女が俺たちに声をかけてくる。
「どうも、いったいこれは何の騒……っ!?」
その子の前で人力車を止めてその顔をはっきりと見て、俺はいつもの胸の高鳴りに襲われた。
(ま、またか……というかこんな小さい子供にまで……どうなってんだよこれ?)
シヨちゃんと同い年ぐらいの幼子は、ものすごく偉そうにふんぞり返りながら俺たちに妙に輝かしい剣を突き付けてきた。
「貴様らは偽勇者サーボ一行であろうっ!! このフウリ様の目はごまかせんぞっ!!」
「違いますぅ、シヨちゃんとその仲間たちですよぉ~」
「……うん……その通りだね」
(この場をごまかすための嘘……には全く見えねぇ……というか正面からぶつかるんじゃなかったのかシヨちゃんよぉ?)
尤も俺に逆らう気力などあるはずもなく、素直にうなずくことしかできなかった。
「とぼけるでないぞっ!! 貴様らのやり口は知っておるっ!! 大方魔王軍の脅威を口実にこの国を乗っ取るつもりなのであろうっ!?」
「……ソンナコトナイヨー」
カノちゃんが棒読み口調で視線をそらした。
「……ソンナコトシタコトナイヨー」
俺も居たたまれなくて真似をした。
(普通に正しすぎて反論できねぇ……本当にこれ魔王軍の陰謀なのかなぁ?)
自信がなくなってきた。
実はそもそも魔王は復活なんかしてなくてこのシヨちゃんの壮大な自演自作に巻き込まれてるんじゃないかという不安すら浮かんでくる。
「ほほう、ではこのフウリ様の目を見てはっきりと宣言してみるがよいっ!!」
だからフウリ様にそう言われても、どうしても目を合わせることができない。
「ええ、我々は真の勇者としてシ……サーボ様の下で活動しているのですっ!!」
代わりにテキナさんがやってくれました。
(本気で言ってんのかなぁ……言ってるんだろうなぁ……やっぱりテキナさんも真面目そうでどっか狂ってるわぁ……)
あれだけのことをしてきておいて、未だに堂々と勇者を名乗れるのはやっぱり頭のねじが飛んでいるからだろう。
「むむむ……では貴様らは何のためにこの国へ来たのだ?」
「実は魔王軍の魔物がここに攻めてくるという情報が入りましてぇ、シヨたちはそれを防ぐべくやってきたんですよぉ~」
「なぁっ!? そ、その手は食わぬと言ったであろうがっ!! 馬脚を現しおったなぁっ!?」
「し、シヨちゃんっ!?」
せっかく説得できそうだったのに、何故かシヨちゃんは向こうの言い分に簡単に乗ってしまった。
お陰でまたしても険悪ムードだ。
(な、なにを考えてんだシヨちゃ……っ!?)
「ぐおぉおおおっ!! 俺は魔王軍のキメラント様だぁっ!! がおぉおおおおっ!!」
(な、なにやってんだキメラントくぅんっ!?)
いつの間にか本性を現していたキメラント君が、俺たちのいる場所とは反対側に浮かび上がりそのまま王都へと侵入していく。
「ああぁ、間に合いませんでしたかぁっ!? あの魔物の狙いは王宮ですぅ、急いで守りに行きましょぉっ!!」
「な、ほ、本当であったのかっ!? し、しかしでは父上は何故……」
「魔王軍の魔物は人間に化けることができるんですよぉ、きっと私たちが守りに来ているという情報を掴んで混乱させるために嘘の情報を流したんですよぉっ!!」
「そ、そうなのか……し、しかし……」
「がおぉおおおっ!! 守りがお留守なこの王都は魔王軍がいただくぞぉっ!!」
フウリ様が迷っていると、思いっきり演技っぽいキメラント君の声が聞こえてきた。
(人力車内で打ち合わせてたのはこれかぁ……最初から魔王軍の脅威の宣伝に使うつもりだったんだろうなぁ……)
この状況を読んでいたのか、単純に不安にさせて事を楽に進ませるつもりだったのかは分からない。
だけどもどうしようもなく的確で有効的で……酷い作戦だった。
(またマッチポンプ……本当に俺たちってもう勇者じゃねぇよ……)
「ほらほら、悩んでる時間はありませんよっ!! 皆さんハラル王国の危機ですぅ、勇者である私たちに付いて来て下さぁいっ!!」
「は、ははぁっ!! ふ、フウリ様参りましょうっ!!」
「そ、そうですよ……このままじゃ王様も……っ」
「そ、そうであるなっ!! わ、わかったぞっ!! では勇者サーボ一行よ、フウリ様についてくるが良いっ!!」
「はぁい……うふふ……案外単純ですねぇ……この調子なら……」
怪しい笑みを浮かべるシヨちゃん。
「……いいの、サーボ様ぁ?」
「……魔王軍の脅威が迫ってるんだっ!! 細かいことを気にしてる場合じゃないっ!!」
「ははぁっ!! では参りましょうっ!!」
「うわぁ……サーボ様が諦めたぁ……はぁ……ムートンくぅん、僕ちょっと休憩したぁい」
疲れた様子で人力車の奥に入るカノちゃんをしり目に、俺はやけくそ気味にシヨちゃんの策に乗って行動するのだった。
「いけぇっ!! 俺たち勇者の実力を思い知らせるのだぁ…………はぁ……」
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