新たなフレンド
本日投稿二度目です~!
そしてレビューも頂いていたんです。五個目ですよ……本当にありがとうございます。
《デッドゾーンから退出を選択しました》
《通常フィールドに戻ります》
《王都ヴィクトリアに移動しました》
あれから、俺は通常フィールドに戻って散歩していた。
「……クラクラするな……」
亡霊との戦闘、兄との闘い、そして先程の彼女との戦闘。
あの――集中によって景色がゆっくりになっていく感覚の後は、決まってこうだ。
まあ、段々とマシにはなっているんだが。
VR酔い?もあの亡霊との戦闘以外は起こらなかったし……あるといえば、少しの倦怠感だけ。
俺の身体も大分VRに適応していっているのだろう。
「……流石に、狩りはもう止めとくか」
時間はもう日をとっくに跨いでいる。
明日も会社だし、これぐらいにしておこう――
《十六夜様からフレンド申請が届きました》
「!?」
唐突に鳴るそのアナウンス。
正直――かなり不気味だった。
この深夜に、急に届いたフレンド申請。
「誰だ……?」
思い当たる節が無い。
今日あった人物といえば、NPCのエリアと対人マップのプレイヤーだけだ。
……分からない。昨日までを遡っても全くだ。
このゲームは特定の人物にメッセージを送る時、フレンドになっておかなければならない。
俺に何か伝える為、これを申請したのか?
「……でもな……」
恐らく、
何かの意図があってこれを俺に送ったはずだ。
もしかしたら誰かと勘違いもしている可能性もある。
最悪なパターンは、王都で俺を見て冷やかしで送ったパターン。
あ、まさかハルの配信を見たファンからの苦情とか……駄目だ駄目だ、考えないようにしよう。
……まあ、受ける以外の選択肢はない。
最後の場合は即切れば良いし。
なんせこの世界はゲームだからな。便利なもんだ。
《十六夜様のフレンド申請を受諾しました》
『……あのー、誰かと間違えてないか?』
レベルは35。
フレンドリストに追加されたそのプレイヤーにそうメッセージを飛ばす。
「……反応、ないな」
それから、沈黙が続いて――返事も来ない。
けど、フレンドの解除もされない……一体何なんなんだ?
「うーん……まあ良いか」
危害を加えられた訳でもない。
とりあえず、この誰も居ない場所じゃなく露店の方まで行ってログアウトを――
「――ん?」
時間も時間。
明るいその方向へ行こうとした時――不意に、服が後ろに引っ張られる感覚。
弱々しいそれだったが……違和感ですぐに気付いて振り返る。
見れば――
「……あ、あ……ごめん、行かないで……」
か細い、消え入るような声を共に。
そこに見えたのは、プレイヤーだった。
《十六夜 暗殺者 LEVEL35》
「……」
少し、思考がフリーズする。
目の前に居たのは――紛れもなく、『あの時』死闘を繰り広げた彼女だったのだ。
フレンドになった事で、その名前も職業も明かされていた。
闇に溶ける様な黒紫の装備に、長い前髪。
紛れもない。何よりこの不思議な雰囲気が証拠だ。
そんな彼女が、俺の服の裾を掴んでいる。
……もしかして――フレンドリストに登録してから、近くにずっと居たのか?
「あー、さっきは、どうも……」
何を喋ればいいかわからず会釈する。
分からない。
彼女がなぜ俺の名前を知っているのか?
それに、どうしてフレンドに申請したのか。
一番は、今俺が彼女にどう声を掛けるべきかなんだけどさ――
「……あの、わたし、さっきの暗殺者……」
「あ、ああ知ってる。どうして俺に『これ』を?」
「……それは……」
恨まれているとか、報復とか――そういう感じの態度じゃなかった。
どちらかといえば友好的。
だからこそ、俺も彼女の目的が分からない。
「……あなたとの勝負、凄く楽しくて……あなたの闘い方も、その、好きで……」
「そ、そっか。ありがとう」
「だから――また、新しい技を覚えて、強くなったらまた闘いたくて……だ、だめかな……あ!もちろん『逆』も良いから……いつでも待ってる」
紡ぐよう、彼女はつらつらと告げる。
声の小ささから話すのは得意じゃないのは分かる、それでも俺にこうして言いに来たんだ。
無下には出来ない。
というか――ぶっちゃけ、願ったり叶ったりだった。
俺としてもギリギリの……フィールド込みの勝利で、勝ったとは思っていないし。
フレンドになった上での、堂々とした再戦の申し込み。そして逆に、俺が彼女へ挑戦しても良いと。
……こんなPK職も居るものなんだな。
「ああ。俺もさっきの勝負はフィールドの恩恵がデカかったからな。喜んで受けるよ」
「……!ほ、ほんと!?あ、ありがと……!」
小さく跳ねて喜ぶ十六夜。
長い前髪が揺れて――戦闘では見えなかった、彼女の目と目が合う。
息を飲む。
それは紫色の吸い込まれるような瞳。
先程の戦闘中の彼女とは対照的に、それは光って輝いていた。
……これがギャップってやつなんだろうな。
「あ、あ……じゃ、じゃあ、また、いつか……」
「ああ。また連絡してくれ、大体俺は空いてるから」
頬を紅く染めながら、彼女はどこかへ走っていく。
小さな身体は人混みに溶け――あっというまに見えなくなった。
☆
しばらくぼーっとして、露店の方へと歩いていく。
「……PK職のフレンドとはなあ……」
それは、思いもよらない出会いだった。
でも――存外悪くない。
『好敵手』……そう呼べる相手が出来たのだから。
何より、強くなった彼女とまた闘えるのがうれしくて仕方ない。
勝敗を抜きにしても……それはきっと面白くなるはずだ。
「……と」
きっと次も『死闘』になるだろう。
フレンドリストへ新たに追加されたその名前を見て。
その時を楽しみにしながら――俺はそのボタンを押した。
《ログアウトします》
いつもブクマ評価、感想などなどありがとうございます。ほんとうに励みになってます。
そういえば久々に他の作者様の作品を読んだのですが、前より評価が簡単に出来る様になったんですね。
ぜひよろしければお願いします(小声)





