王都まで③
今回も長い……!でも分けると少ないのでこれで投稿します。
☆
「……もうすぐか」
草木を掻き分け、その方角へ進む。
そして――
『――誰だ!』
『――あっちから来やがった!やるぞ!』
《悪党A LEVEL35》
《悪党B LEVEL35》
すぐ目の前。
どうやらあちらもこっちに来る様子だった。
見れば、ナイフを持つ者が二人。
名前からして、コイツらがこのクエストの敵だろう。
PK職の敵NPC。見た事ないタイプだな。
……でも大丈夫、心構えは出来てる。
俺は――魂斧を振りかぶった。
「――っ、らあ!」
走り、先制で斧を振り下ろす。
『ぐっ――』
……そのまま食らう悪党。
何故か一人は突っ立ったままだ。
『くっ、おい!』
『くそ――おらあ!』
起き上がった一人は、俺にナイフを構えて突っ込む。
……分かり安すぎて――逆に不安になる攻撃だった。
「――『パワースウィング』」
『がはぁ!!』
『くっ、おい!負けんなよ!』
避ける動作を最低限に、武技を彼に打ち込む。
その間ももう一人は立ち尽くしたまま。
……ああ、そうだったな。
この悪党達は――『プレイヤー』じゃないから優しいんだ。
恐らく俺が一人だから、コイツらも一人ずつ向かって来る様になっているのか。
「……これじゃ、さっきまでの方が良かったな」
『ぐへえ!!』
呟きながら、俺は悪党達に刃を振り下ろす。
モンスター達は遠慮なく同時に襲ってくるってのに、優しすぎるってもんだ。
……こんな事なら、あんなに意気込むんじゃなかった。
☆
『ぐっはああ!』
「……」
面白いぐらい叫んで吹っ飛ぶ悪党達。
魂斧には人型モンスターへのダメージ増大効果がある。
そのおかげで――かなりの勢いで彼らのHPは削れていった。
『クソッ、タダで済むと思うなよ――!ぐはぁ……』
《経験値を取得しました》
《悪党のナイフを取得しました》
「……死に際もお手本通りかよ」
どこかの映画で見た様な捨て台詞を吐いて、彼らは居なくなる。
……まあ良いか。
これでクリアなら、楽なクエストだった。
「戻るか」
エリアが待っている。
俺は、そこへ引き返していった。
☆
「……」
歩けども、俺はそのスピードをだんだんと速めていく。
……日本人は、上手く事が行き過ぎると不安になる厄介な癖があるらしい。
ただ。
今は――それ以上に、嫌な予感がしたんだ。
《――「通り行く積荷を狙う悪党達が出るらしいね」――》
蘇るロアスの言葉――『積荷を狙う悪党達』。
『積荷』――それを持っているのは、俺じゃない。エリアだ。
……まずい。
失念していた――悪党ってのは、アイツらだけじゃ無い可能性だってある。
それもこの道のそこら中に潜めているかもしれない。
むしろ、それが悪党のセオリーといっても過言ではないか。
「――くっ、何も無いならそれで良いんだが――」
過る予感。
それを掻き消す様に、俺は彼女の方へ走っていった。
☆
走って、見えた光景。
脅す様に小剣をエリアの背中に突き付けている『悪党』。
《悪党C LEVEL35》
「……あ、あ……ニシキ、さま……」
『――!?アイツらは何やってんだ!まさか……』
……嫌な予感は、当たるモノ。
思わず地面を踏み締める――この事態を招いたのは俺の失態だ。
『――っと!それ以上近付けばコイツの命は無いぜぇ?』
「ごめんなさい、ニシキさま……」
俺を見るやいなやエリアの首にナイフをかざす悪党。
涙目でこちらを見ながら謝るエリア。
……ゲームといえども、罪悪感で浸される。
『彼女を一緒に連れて行っていれば』
『荷車を俺が持って行っていれば』
後悔。
でも――起こった事は仕方ない。
何とかしなければ。
「……エリアを、返してくれ」
「ハハハ!ダメだね――コイツは『人質』、渡すもんかよ」
「……質問を変える。何が欲しいんだ?」
「そりゃこの荷車……お、後テメエ『商人』じゃねえか!Gも寄越せ、ギャハハハ!!」
悪党は下品な大声でそう言って、笑う。
NPCといえども――この腹立たしさは凄いもんだ。
……荷車は、エリアが王都で必要なモノが詰まっている。
絶対に渡せない。
でも――この状態じゃ、俺が手出ししようものなら確実に彼女が傷付いてしまう。
「くっ……」
『ハハハハハ!俺の仲間を倒した様だがここまでだな!!おら、テメエはさっさとG袋でもよこせや!』
更にエリアに近付き、彼女の首に剣先をぶらぶらと遊ばせる。
「ニシキさま……私は、大丈夫ですから……ごめんなさい」
……どうする。
素直にGを投げるか。
でも、それじゃただの一時しのぎ――駄目だ。
渡すモノを、変えるんだ。
「……聞け。お前がもし、エリアと荷車を連れていくのなら……俺は、お前を死ぬまで追いかける」
『……ハ?お、脅しのつもりかよ!無駄だ、俺には人質が――』
……エリア、ごめん。
少しだけ嘘をつかせてくれ。
「――『だから』、どうした?お前を殺せば、残った荷車は俺のモノだ。それとお前の仲間二人は俺が殺した……お前は戦力的に大いに負けてるんだよ」
『――!!は、ふざけんなよテメエ!イカれてんのか!?』
「に、ニシキさま……?」
わざと、言葉を暴力的に。
ゆっくりと、俺は近付く。
悪党はエリアの首元に刃をぴったりとくっ付ける。
……荷車、エリア。
それ二つに――コレが釣り合うかどうか分からないが。
「――提案だ。俺を殺せ」
『……アァ?』
「俺の命の代わりとして、彼女と荷車は手放すんだ。絶対に手を出すな」
『そ、それじゃ何も――』
「――『脅威』は消える。もし俺が生きていれば、武器が無くてもお前を殺す。試してみるか?」
睨みつけ、斧の刃を彼に向けて。
「……俺が約束を破りそうになれば、直ぐにでも彼女を殺すと良い。さあ、どうする?」
殺気の圧を掛けながら、畳みかける様に問いただす。
……乗ってくれ。頼む。
『ハ、ハァ……?で、でも……そうか、そ、そうだな……それで良い!』
「――なら、好きにするといい」
これでいい。
悪党達を倒しておいたから、説得力が上がって良かったな。
ゲームだからこその選択だろう。
「に、ニシキさま――おやめ下さい!」
『チッ、お前は黙って――』
「……手を出すな、約束を破るのか?」
『ヒッ、分かってるって!』
エリアに怒鳴る彼に、武器を前に構えて言うと動きが止まった。
……俺程度の殺気に怖気づく様なら、程度は知れる。
「――それじゃ、早く俺を殺せ……エリア、王都で頑張るんだぞ」
武器を地面に投げ捨て、彼女にそう言う。
ごめん、エリア。
そんな小さな姿には――ちょっと残酷なシーンかもしれないな。
NPCといえども心が痛むが仕方ない。
俺は……そのまま、手を上げて『降伏』のポーズをする。
ここで襲っても良いが――万が一だ。
『――ハハ、こんなガキの為にご苦労なこった――!!』
「ぐっ……エリア、目は伏せててくれ」
「に、ニシキさまー!!」
『ギャハハハハ!』
「っ――」
そうして、俺は嬲られていった。
☆
《貴方は死亡しました》
そのアナウンスが流れていったのは、それから直ぐ。
……さて。
経過を眺めておこうか。
『オイオイほんとに死んだぜ!こんなガキの為に!』
「う、うっ、ニシキ、さま……本当に、死んじゃった……う、うそだ……」
『ハハハハハ!約束なんて守る訳ねえってのにな!!』
「……!?や、やめてください!」
『おらっ来い!テメエは荷車でも押しとけ!』
「うっ、うっ……ニシキさま……こんな事なら王都なんて――」
背中を蹴り、強引に荷車を引かせる悪党。
……これまでのPKKで、こういった奴らには慣れてる。
約束なんて守る訳が無い。当たり前の事だ。
中身に人が入っていないから――コイツはまだ『温い』。
ゲームシステムの一つ。そう考えられる。
でも。
怒りが湧かない訳じゃない。
『冷静』に、かつ『慎重に』――お前を殺してやるさ。
《黄金の蘇生術を使用します》
《256783Gを消費しました》
距離にして二メートル先。
俺は――彼が背中を向けた瞬間に、蘇生術を使用した。
《黒の変質が発動します》
荷車が動く音に紛れるよう――できる限り音を立てずに移動する。
刀に変わっていく魂斧を握り直しながら。
やがて俺は、悪党の首に刃を添わせた。
『――ぇ?』
自分が油断している事にすら、彼は気付いていないのだろう。
全く、やりやすくて助かったよ。
「――っ」
『グあッ!!ヒっ――』
そのまま足を引っかけて。
転んで地面に寝そべった所に、背後から首元へ刃を突き立てる。
……これまでの様子が嘘のように静かになったな。
「に、ニシキさま!?生きて――ニシキさまー!!」
「――エリア。ちょっと目を瞑っててくれ」
「え、は、はひ!ぁ――」
「はは、ごめんな」
悪党の首に刃を食い込せながら、近寄ってきたエリアの目元に優しく手を添える。
これから始まる光景は――子供には見せられないから。
『あ、あの……命だけは……』
「――はは、面白い事を言うな。俺の命は取ったのにか?」
『あ……か、金ならやる!』
「……『スラッシュ』」
『がああああ!!』
☆
《経験値を取得しました》
「……ふう。やっぱり弱かったな」
案の定あの二人と同レベルであり、変わったのは武器ぐらいだ。
……強さはどうあれ、厄介だったけどな。
おかげでGも減ってしまったし――が、俺の安直な行動の対価にしては安い。
「うっ、うう……ニシキさま……いぎでで良がっだぁ……」
「ははは」
後、この小さな彼女も。
泣きじゃくりながら、エリアは俺の背中にくっついて泣いていた。
この少女にも随分怖い思いをさせてしまった訳だし。
……それにしても、えらく懐かれてたんだな。
この様子がアレから数分続いている。
「……ニシキさまぁ……」
大分落ち着いたか、声と表情が和らいでいく。
そういえば……こんな泣きじゃくる彼女を見ていると、妹の事を思い出すな。
『舞』、元気にしてるだろうか。
この年の頃の彼女は……兄さんが修行で構ってやれなかったから、よく俺が構っていたんだっけ。
まあ――俺が心配する事じゃない。自分と違って武芸の才もあった。
……絶対に無いだろうが、今闘ったら三秒で死ぬ。もちろん俺が。
シルバーだったり妹だったりを思い出して、エリアはなぜか他人って気がしない……。
「……落ち着きました、はい」
「そりゃ良かった」
服で涙を拭いながら、目元を腫らして言う彼女。
……背中がえらく濡れている。本当に怖い思いをさせてしまったのだろう。
これじゃ、ロアスに怒られてしまうかもしれないな。
「行こうか、エリア。王都が待ってる」
「……!はい!」
エリアに声をかけて、俺達はまた前に進んでいく。
後は、ゴールへ向かうだけだ。
いつも応援ポイント、感想に誤字報告ありがとうございます。
おかげさまでコミカライズまで行くことが出来ました。本当に感謝です。





