剥がれる仮面②
「……お、お前正気か――!?」
「さて。逆に問うよ……君がもし、嘘を付いていたら――その配信アカウントを削除してもらう」
「……は、ハッ、良いぜ。賭けてやるよ。おいリスナー共、見てるか!?コイツの顔面よく覚えとけよ!!」
「はは、良かった良かった。それじゃ――見せてもらおうか。その証拠を」
笑うカズキング。
対して、今だ無表情の謎の彼。
……三秒後、カズキングが動いた。
「……おら!見ろよこれを!フレンドにしっかり居るだろうが!」
そう言って、メニューのフレンド一覧を見せつける彼。
……このゲームには、メニューにある自分のインベントリやスキル詳細を他のプレイヤーに見せる事が出来る。まさか他人のフレンド欄を見るときが来るとは思わなかったけれど。
《『踊Δ』 所属ギルド『舞月』》
《『ほむら』 所属ギルド『舞月』》
確かに、そう見えた。
……これは、明らかに『繋がり』がある証拠だ。
「……」
「ハハハハハ!!おら何か言えや!早く名前見せてみろよ!」
「……証拠は、それだけかな?」
「ああ!?十分だろうが!チャット何か残っちゃいねえ、フレンドにコイツ等がいるってだけで――」
「――はは、ごめんね。分かったよ」
彼は観念した様に、彼に笑う。
「お望み通り、公開しよう。僕の名前を――『解除』」
瞬間。
ペリペリと、ペンキの塗装が剥がれていく様に。
彼の『素顔』が――現れてくる。
NPCの様な見た目だった服は、目を奪う美しい袴姿に。
装備は、腰に差された見事な『日本刀』に。
そして現れた、その名前は――――
《アラタ level58 侍 所属ギルド『舞月』》
整った顔に、美しい白髪の長めの髪。
上に表示されるそれは――決して偽物じゃない。
「よろしく、カズキングさん。ギルド舞月――『サブマスター』のアラタだ」
「…………は?」
カズは、固まっていた。
無理もない――あのトップギルドのサブマスターが、『こんなところ』に居るのだから。
「……で、話進めるね。この二人に聞いたんだけど、そんな事実は無いって」
「彼女達は、君が昨日『フレンド登録するだけで良いのでお願いします』って泣きながら言うから、渋々登録だけしたみたいだ」
「その後は、君はこの名前を使って色々とやったみたいだけど……普通そんな事実を知った時点でフレンドリストから消すんだけどね、今の為に残しておいてもらったよ。言い訳すると思ったからね」
淡々と告げる……アラタさん。
それに対してカズは何も言葉を発さない。
「――この場に、その二人を呼んでも良い。何か反論はあるかな?」
「……し、知るか……こんな、たかが『ゲーム』の、口約束で――」
ここに来て白を切るカズ。
そんな彼に――アラタさんは、顔を近づけ、目を合わせて。
「――いいから。『守ってくれるよね』?」
私が傍から見て、それで尚――
ゲームなのに――その『殺気』は、身の毛がよだつ程に恐ろしかった。
まるで、腰の刀を突き付けられたかの様なそれ。
……そしてそれに、カズは後ろに仰け反り倒れていた。
目を合わせていた彼は――傍から見ている私よりも、ずっとその恐怖は上だろうから。
「――!!?ひっ、わ、わか――分かりました!!すいませんすいませんすいません、もう配信もしないです、すいませんでした……」
「……はは、なら良かった。君にはもう用は無いんだ、行っていいよ」
「あ、そっすか、は、はいい……すいませんでした……」
まるで別人の様に謝り倒しトボトボと帰っていくカズキング。
あれだけ威勢の良かった彼は――同一人物とは考えられない程に衰弱していた。
「……さて、『本題』だ……ああ、えーっと、ハルホシミさん?配信は切ってくれるかな」
「え、は、はい!」
こちらに向き直り、彼は私にそう言った。
『は、ハルホシミ……』『え、ちょ』『ハルホシミちゃん早く切るんだ!』『俺達に構うな!』『また後で配信よろしこ』『気になるけど仕方ねえ……』『……怖すぎて誰も名前に突っ込めねえの笑う』『もうコレで良いんじゃないかな』
「ご、ごめんなさい!それじゃ後で!」
「……はは、ごめんね。ハルさん?で良いか。ちょっと『プライベート』な話だから」
「え?は、はい!」
プライベート――その言葉。
彼の視線は、ずっと黙っていた後ろのニシキ君に移る。
……そして、私はようやく気付いた。
アラタさんの顔が――隣の『彼』に、どこか似ている事を。
「久しぶりだね、『錦』。ずっと会いたかったんだ」
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