『亡霊の魂斧』①
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【亡霊の魂斧】
ATK+60 属性[弱攻][人型特効][黒の変質] 必要DEX値35 STR値20
アイアンアックスを元に、鋼と黒い欠片を加工して造られた片手斧。
切断、投擲等の攻撃に用いる事が出来る。
ラロシアアイスのボスモンスターを素材としたこの武器は、並の物とは比べ物にならない強さだろう。
急所攻撃にボーナスダメージを与える。
対人型モンスターにボーナスダメージを与える。
HPが30%以下になった時、この武器を対象に[黒の変質]が発動する。
レアリティ:5
製作者:ベアー クマー
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亡霊の魂斧。ソウルアックス、と読むのだろうか。
彼から渡されたその武器は、間違いなくNPC品の強化品……等ではなかった。
大きさも少し増大し、ずっしりと感じるその感覚。
「黒いな……」
それの見た目は、ほとんどが『黒』だった。
しかし刃の部分のみ……何か赤い線のようなものがつらつらと入っている。
素材では他にも別の斧や鋼を用いていたが、亡霊の素材がまるでそれらを全て覆いつくしたかのよう。
少し?禍々しい見た目ではあるものの――よく見ればその黒は美しく、上品で見る者の目を奪う。
……何か、今までの俺の武器とは格が違うな。
属性も三個入ってるし……特に最後のこれは何だ?
「初めてだよ、こんな武器を持てるのは」
「ほっほっほ、ボクも初めての素材だったからちょっと苦戦したなあ」
「ありがとう。それでも見事完成したし、流石だな」
「ふふん、私のレシピのお陰でもあるんだから。その武器の価値、多分とんでもないわよ?」
「はは、そうだな。大事に使うよ」
この協力者達には本当に感謝だ。
……彼らが居なければ、俺は詐欺をされて素材とGを全て失っていたかもしれない。
「本当に、ありがとう」
「ほっほっほ、どういたしまして」
「……これ」
《クマー様からフレンド申請が届きました》
《ベアー様からフレンド申請が届きました》
「!いいのか?」
「ありがたく受け取りなさい。このクマー鑑定士のフレンドなんて中々受け取れないんだから!」
「ほっほっほ……」
一人は自慢げに、一人は苦笑いで。
《クマー様がフレンドに登録されました》
《ベアー様がフレンドに登録されました》
「それじゃ、ありがとう」
そう、俺は二人へ頭を下げる。
クマーは見るからに忙しそうだったから、俺が早く出て行くには越した事はない。
俺の為に時間を割いてくれたのには、本当に感謝だな。
「ええ。またね、ニシキ」
「ほっほ、じゃあ送っていくよ」
「ああ、ありがとう」
ベアーはそう言って、最初に入ってきた部屋に先導する。
俺はそれに着いて行く。
部屋を出て行く際、すでに慌ただしそうにメール?を打ち込んでいる彼女だったが……
控え目にこちらに向いて、俺に手を振っている様子が見えた。
……少し高飛車な彼女ではあるが、こういう所は憎めないな。
「ほっほっほ、ごめんね。変わった子で」
「いやいや。むしろ受けてくれてありがたいよ」
「うん、それなら良かった」
「勿論ベアーにも頭が上がらないけどな」
「ほっほ、別に良いのに……んじゃ、戻るね」
《通常フィールドに移動します》
「よし、それじゃここで」
「ああ。ありがとう」
そう言って、ベアーと別れる。
……ここまでしてくれた彼に、更に要求をするのは野暮だろうか。
「なあ、ベアー」
それでも、俺は声を掛けた。
言わないと後悔するような気がしたから。
「うん?」
「……厚かましいとは思うけどさ。また、俺以外の商人が、もし俺みたいな被害に遭ってるのを見たら……助けてくれないか」
『商人』。
オンラインが増えてきた俺のフレンドからして、商人プレイヤーは増えてきていると考えていいだろう。
新規……は少ないだろうから、復帰者だと思うが。
そしてそんな復帰者が、あんな詐欺に遭ってしまったら。
もしかしたら、俺の様に引っ掛かってしまい――最悪、そのまま引退もあり得るかもしれない。
だから、その可能性が少しでも下がるなら……今、自分は頭を下げるべきだ。
同じ商人として、俺はそのプレイヤーたちが辞めるのを見たくない。
それが俺の目の届かない所であっても。
「!ほっほ、分かったよ。任せてくれたまえ」
「本当にありがとな。ベアー」
「ほっほっほ、良いって。君の頼みなら――いつでも言ってくれるといい」
「……そこまで言わないよ。何なら俺が今日の礼をするのが先だろ?」
「そうかい?なら――また、ボクと手合わせしようよ。次はもっと強くなるからさ」
「はは、そりゃ喜んで」
「うん――それじゃあね」
「ああ」
ラロシアアイス。
彼に別れを言って、俺は人込みの中に溶け込んでいった。
詐欺に遭ったあげく、こうして他の生産職と交友関係を広げれるとは思っていなかったが……
「次は、武器の検証だな」
笑みを隠しながら、俺はラロシアアイスの戦闘エリアに赴く。
ベアーとクマーの協力で得た新たな武器。
それを今から試すのが、楽しみで仕方が無いんだ。
……ある意味、あの詐欺師には感謝……いや、ないか。
☆
『熊さん工房』。
知る人ぞ知る、変わった鍛冶師と鑑定士の工房。
そこで――その二人の熊が話していた。
「ね、世界は広いわねベアー。まさか『商人』であんなプレイヤーが居るなんて思わなかった……ちょっと噂では聞いていたけれど。『あの』亡霊を倒した生産職なんて私が会った中じゃ指折りよ?しかも欠片二十個って――まぐれじゃないわ」
ソファーに寝転がりながら、フレンドリストの彼を見て言う鑑定士。
「……そうかな。僕は案外狭いと思うよ。」
「?どういう意味――え!?まさか、ベアーの言ってたPKKプレイヤーって……」
ぼーっと天井を見上げる鍛冶師。
その様子から、彼女は察しが付いたようだった。
「ほっほ――正直、あの時は遠目だったから分からなかったけど。闘ってみて分かったよ……間違いなくあの時の商人だって」
「へえ……なら確かに、案外狭いかもしれないわね」
鍛冶師の頭の中には、『それ』が鮮明に残っている。
あの時――たまたま、あるパーティーがPK職二人に襲われている所に出くわした時。
『生産職が飛び込んでいっても無駄なだけ』。
諦め、草陰から眺めていた目線の先――颯爽と現れたのは、自分と同じ生産職だったのだ。
それも――不遇と呼ばれている『商人』が。
「……ニシキが居なかったら、ボクは今、生産しかしていないだろうね」
「ふーん?で……その事言ったの?『ずっと貴方のファンでした!』って」
「い、言える訳ないだろ!恥ずかしいし……」
「はあー?貴方ほんと、図体デカい癖に何なのよそれ!……あ、依頼溜まってるの忘れてた」
「ほっほっほ、そういえばニシキくんの武器製作の間、こっちにも色々メール来てたよ」
「ええ……こういう時に限って、何でこんな忙しいのよー!」
それは、いつも通りの光景。
また工房に、彼女の声が木霊していった。
いつも応援、ポイント頂きありがとうございます。
あと魂斧、ルビを振るか迷いましたが凄く文字が横に広くなったので止めました。ソウルアックスと読んで下さい。





