気付き②
前回から続き修行?回です。
そして、また日間VRの方で九位になっておりました……!本当にありがとうございます。感想も頂いて、嬉しい限りです。
☆
ラロシアアイス、最深部。
今、俺の目の前には――『氷雪の亡霊』がいる。
通算これで、100回目。
そして――俺はその内の99回を死んでいた。
足りないモノが分かった所で、それをすぐに実行できるとは限らない。
この二、三日、会社から帰ってはココへと通っている。サラリーマンの辛い所だな。
「……ふう」
体力が三割になり、オーラを纏って両手に武器を持つ亡霊。
この状態まで持って行くのに死ぬ事9回。
ここから死ぬ事10回。
『刀』の形態に近付けるまで30回。
そこから50回。そして今に至る。
しっかり回数を記録しているのは、どこで俺が詰まったか確認していたからだ。
投擲、武技、通常攻撃――全てを左腕のみで。
当然ながら切り札の黄金の一撃、蘇生術、高速戦闘スキルも使用禁止。
……結果、こうして死にまくっているんだが。
「そんな、簡単に行くとは思っていないさ」
『――』
亡霊が、静かに俺の方へ向いた。
二つの手に持った刀を持って。
……残念ながら、俺は吸収も理解も遅いんだ。
こうして何度も挑戦した所で、未だに一度も亡霊に勝てていない。
でも――少しずつ、少しずつだが、身体がこの世界に染み込んでいっている。
「……行くか」
息を深く吸い込む。
俺に足りないモノ。
それは――『没入感』だ。
ゲームとリアルを繋ぐそれ。
殴られても痛くない。脚を斬られても余裕で歩ける。
そんな当たり前の事は、ゲームだから。
でも。
リアルなら、どうなる?
そう考えるんだ。もっと恐れるんだ――目の前の相手に。
もっと、この世界に没入しろ。
あの時――最初にPKKに成功した時、右腕を初めて失った時の様な、張り詰めるような緊迫感を。
非現実のこのゲームを、現実の感覚に近付けていくんだ。
「――らあ!」
目の前、亡霊に向けて俺は斧を左で投擲する。
左腕を動かせなければ殺される、そう思い込み死んでいった。
そして――大分この手は『馴染んだ』。
狙い通り。
目標地点に真っ直ぐに。
『――!』
反応し防御態勢を取る亡霊。
しかし、それは亡霊に到達――する直前に、『地面』に突き刺さった。
「――『スラッシュ』!!」
走って近付いていた俺は、落ちた斧を拾って武技を。
もう一本の刀で防御に入る亡霊へそれを振り下ろす。
『――ッ!!』
武技の位置を調整し、何とか亡霊の数センチの隙……『弱点』に攻撃を入れられた。
コイツの弱点は、身体のあちこちに存在する紅く光る点。
ここに攻撃が当てられれば、大きく怯みこちら側のかなりのチャンスとなる。
「――『ヘビースウィング』!!」
溜まらず怯んだ亡霊に向けて、更に追い打ちでその武技を。
『弱攻』のアイアンアックスの一撃。
馴染む左に任せて、もう一度紅い弱点目がけて振り下ろす。
『――!!……』
危なげながらも、左のそれは無事亡霊の弱点に到達。
凄まじい勢いで減る亡霊のHPバー。
やがて、それはゼロになった。
《経験値を取得しました》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
《亡霊の魂の欠片を取得しました》
《片手斧スキルのレベルが上がりました》
《投擲術スキルのレベルが上がりました》
「……百回目、何とか倒せたか」
光の塵になっていく亡霊を見ながら、俺は息と共にそう吐く。
長かった……でも、まだまだ遠い。
もっと余裕で。もっと短く。やっと掴めてきた所なんだ。
そしてこの繰り返して来た亡霊の戦闘は――全く飽きる事などなかった。
少しずつ『左』が自分のモノになっていく……そんな感覚が、俺にはとても嬉しく感じたから。
おかげでこの三日間、料理も手付かずになってしまったが。
「……もう一回、行こうかな」
ステータスをDEXに振って、俺はまたボスフィールド前に戻る。
亡霊を倒せた所が、スタートラインだ。
更に一度、二度、三度――十を超えるかもしれない。
『左腕を使いこなせるようになる』。
この目標の為に、亡霊は勿論の事、色々なモンスターとの戦闘も経てきた。
しかし結局――そのヒントはリアルの中にあったんだな。
そしてまた一番の特効薬は、強者との戦闘だろうから……
と、いう訳で――今日もRLに浸るとしよう。
次からは主人公の武器の話になっていきます。
いつまでもアイアンアックスってのも良いんですけどね。





